The Millennium Wolves ミレニアム・ウルフ 1巻 - 表紙

The Millennium Wolves ミレニアム・ウルフ 1巻

Sapir Englard

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Chapter
15
Age Rating
18+

Summary

世界中で愛されているベストセラーロマンス小説「The Millennium Wolves」の日本語訳がいよいよリリース。

シエナは秘密を抱えた19歳のオオカミ女。それは、群れの中で唯一の処女ということ。彼女は野性的本能に負けることなく、今シーズンのヘイズ―16歳以上のすべてのオオカミ人間が性欲に溺れ、誰もが狂ったようにセックスをする季節―を乗り切ろうと決心していた。しかし、パック(群れ)のトップであるアルファのエイデンと出会ったとき、彼女は自分をコントロール出来なくなってしまう。

対象年齢:18歳以上

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5 Chapters

川辺のアルファ

シエナ

誰も彼もがセックスに興じていた。

体を震わせ、手や脚を揺らし、あえぎ声を漏らしながら。

私は息を切らしながら森の中を走った。お前も加われ、と、私を呼んでいるかのような肉欲の幻影から逃れるために。

しかし、奥へ行けば行くほど、森は暗くなると同時に、活気づいてきた。

恋人同士のように揺れている木もあれば、まるで捕食動物のように、ごつごつした根を張って、細長い枝を伸ばしている木もある。そんな木々が私に迫り、追いかけてくる。

暗闇の中、私は何かに追われていた。人間ではない何かに。

周囲で発せられていたのは、もはやあえぎ声ではなく叫び声だった。

いたるところで行われているグロテスクな性の饗宴は、暴力と化していた。血にまみれ、命さえ脅かさんばかりに。

私は今にも闇に捕らわれそうだった。

セックスに絞め殺されそうだった。

ヘビのような木の根に足が引っかかるのを感じた瞬間、私はつまずき、森の中心にぽっかりと空いた穴に落ちた。しかしそれは穴ではなかった。

口だった。とがった歯と黒い舌が、唇をなめながら、私を丸ごと飲み込もうとしている。

叫ぼうとしたが、声が出ない。

私は落ちていった。

さらに奥へ。

深みへと。

狂気に満ちた暴力と肉欲に溺れるまで……

***

ふと我に返った。いったい何を描いていたんだっけ?

スケッチブックを片手に川辺に座っていた私は自分の作品に目を落とした。そこにあったのは、何とも不穏な、そして「性の営み」の光景だった。

これが意味することはただ1つ、「ヘイズ」がやってくるということだ。

しかし、ヘイズのことや自分の絵の意味を深く考えるより早く、近くでくすくす笑う声が聞こえてきた。振り向くと、女の子たちが彼を取り囲んでいる。

エイデン・ノーウッドだ。

ここで彼を見たのは初めてだった。少なくとも私が絵を描いたり、気持ちを整理したりするために来るこの川辺では。そもそもこの辺りでオオカミ人間がたむろすることはない。

なぜだろう? 私にはわからない。

野性的なオオカミ人間には似つかわしくない穏やかな場所だからかもしれない。あるいは内なる炎を燃やすオオカミ人間には似つかわしくない水場であるせいなのかもしれない。それとも、私が自分の場所としてしか考えたことがない場所だからなのかもしれない。

ここは、私が群れ(パック)の一員でいなくていい秘密の場所。19歳の赤毛の独学アーティスト、シエナ・マーサーになれる場所。そう、ここならば、一見するかぎりは普通の女の子でいられる。

パックのアルファであるエイデンは、彼の後をついてくる大勢の女の子たちを無視して、水辺に向かって歩いて行く。放っておいてほしいという様子の彼を見て、私の好奇心がくすぐられた。彼を描いてみたくなったのだ。

もちろん、アルファを描くのは危険だとわかっていたが、その気持ちを抑えることはできなかった。

私は彼の輪郭を描き始めた。身長は約2メートル、乱れた漆黒の髪、振り向くたびに色が変わるような金緑色の瞳を持つエイデンは、まさにそそられる男だ。

ちょうどその瞳を描き始めた時、彼が顔をこちらに向けて、においを嗅いだ。

思わず、走らせていたペンを止めた。もし今、彼が私を見たら、もし私が描いているものを見たら......

しかし、ほっとしたことに、彼はまた水面に視線を戻し、再び暗い表情でもの思いふけり始めた。女達に囲まれているのに、アルファは1人でいるかのようだった。だから私は彼だけを描いた。

私はいつも遠くから彼を見ていた。こんなに近づいたことはなかった。でも今は、彼の上腕二頭筋の膨らみや、オオカミ人間になる前の背骨の湾曲さえも、シャツの上からはっきりと見える。

きっと素早く変身できるのに違いないと、私は想像した。前かがみになり、猛獣のように目を凝らす彼の姿は、すでに半ばオオカミ人間に変身しているかのように見える。

確かに見た目は人間だが、それ以上にオオカミだった。

彼の美しさに、ヘイズが間近に迫っていることを思い出させられた。ヘイズとは、16歳以上のすべてのオオカミ人間が性欲に溺れ、誰もが、文字どおりすべてのオオカミ人間が、狂ったようにセックスをする季節をいう。

年に一度か二度、パックの全員が予測できないような肉体的な欲望にかられるのだ。

特定のパートナーを持たない者は、その時だけのパートナーを見つけて、心ゆくまで肉欲に溺れる。

言い換えれば、16歳以上で処女の者はパックにはいないということだ。

エイデンを見つめながら、私は思った。彼の周囲に渦巻いているうわさは本当なのだろうか。

彼が取り巻きの女の子たちなど目もくれず、こんな川岸で彼ぶらぶらしているのはそのためなのだろうか。

エイデンには、最後に女性をベッドに誘ってから数か月間、誰からも距離を置いているといううわさもある。

なぜだろう? 秘密のパートナーがいるとか? いいえ、それなら、パックのゴシップ好きな女たちがとうに彼女のことを嗅ぎつけているはず。

パートナーでなければ何? ヘイズがやって来た時にパートナーがいなかったら、パックが愛するアルファはどうなるのだろう?

「関係ないでしょ」と、自分に言い聞かせる。エイデンが誰と肉欲に溺れようが、私には関係ないことだ。

彼は私より10歳年上で、他のオオカミ人間と同じように、同年代の相手にしか興味がなかった。

アメリカで2番目に大きなパックのアルファであるエイデン・ノーウッドにとって、私は存在しないも同然だ。高校時代の恋心はさておき、私はその方がいいと思った。

親友のミシェルは、何としても私にセックスフレンドを見つけようとしていた。彼女はとっくに相手を見つけていたが、16歳になる前の相手のいないオオカミ人間にはよくあることだった。

自分の兄の3人の友達と私を組ませようとしていたミシェルは、なぜ私が3人全員を却下したのか、理解できなかったようだ。3人ともまともなオオカミ男で、私のこともセックスを楽しむにはいい相手になりそうだと率直に話したようだったから。

「まったくもう」 ミシェルの声が聞こえるようだった。

「どうしていつもそんなに選り好みするの?」という声が。

実のところ私には秘密があった。

私は19歳にして、パックの中で唯一の処女だった。私は3度、ヘイズの季節を経験したが、決して肉欲に負けたことはなかった。

わかっている。「感情」や「初体験」にこだわるなど、オオカミらしくない。

でも、私は私の気持ちを大切にしたいのだ。上品ぶっているわけではない。私たちの社会では、そんなものはいから。ただ、普通の女子とは違い、本当のパートナーを見つけるまで妥協したくないのだ。

私は絶対に彼を見つける。

そして彼のために処女を守る。

彼が誰であろうと。

アルファのスケッチに夢中になっていた私がふと顔を上げると、驚いたことに、彼はそこにいなかった。

「悪くないね 」横で低い声が聞こえた。「でも、目はまだまだだな」

私は驚いて振り返った。すぐ隣に立って、私のスケッチを見下ろしていたのは......

エイデンだった。

なんてことだろう。

エイデン・ノーウッド、その人だったのだ。

私が息をつく間もなく、彼は顔を上げ、目が合った。私は自分が直接目を合わせていることに気づいて体をこわばらせ、すぐに目をそらした。

まともなオオカミ人間なら、絶対にアルファの目を見ようとはしない。

その行為が意味することは2つしかないからだ。1つは、アルファへの挑戦、つまり死を望むこと。もう1つは、アルファへの性的欲求。

どちらも望まない私の唯一の選択肢は、手遅れになる前に目をそらし、彼が私の視線の意味を誤解しないように祈ることだった。

「お許しください」私は念のため、静かに言った。「驚いてしまったものですから」

「申し訳ない。驚かせるつもりはなかった」

この声。実に丁寧な言葉を発しながらも、その声には威圧感がこもっていた。今この瞬間にも、むき出しの人間の形をした歯で、喉を引き裂かれてしまうかもしれない。

「大丈夫。かみつきはしない。たいていは」

彼は、手を伸ばせばその波打つ筋肉と金色の肌に触れることができそうなほどすぐ近くにいる。私は目を上げ、ちらりと彼を盗み見た。

えらが張っていて一見、粗野だがハンサムな顔。オオカミ男らしい太い眉毛は触るとゴワゴワしていそうだ。

少し曲がった鼻は過去のいさかいの名残なのだろうが、それでセクシーさが損なわれることもなかった。

アルファは私を試すかのように一歩近づいた。恐怖で体中の毛が逆立つのを感じた。それとも欲望のせい?

「次に描くときは、もっと近づけ」とエイデンは言った。

「ええ...…わかった」と私は早口で答えた。

そしてエイデン・ノーウッドは、現れた時と同じように素早く立ち去った。川辺にひとり残され、私はため息をついた。全身の筋肉から力が抜けるのを感じた。

アルファがパックの本部であるパックハウスから出ることはあまりない。私達が彼を見かけるのは集会場や舞踏会といった公的な場がほとんどだった。

今起きている事はかなり稀なことなのだ。

エイデンを慕いここまで追いかけてきたのに、完全に無視されている女たちの嫉妬のまなざしを見ると、すぐに手に負えない状況に陥るのは目に見えている。

彼が別の女と、特に私のような若くて平凡なオオカミ女と触れ合おうものなら、発情した女たちはたちまちそのにおいを嗅ぎつけ、彼を少しでも味わおうとパックハウスの壁を破壊しかねない。

そんな事態は、アルファにとってひどいストレスを与えることになる。ストレスをためればアルファはパックのアルファとしてのリーダーシップをとれなくなり、ひいてはパックそのものが機能しなくなってしまう。言っていることはわかるはず。

そんなことは誰も望んでいない。

残されたわずかな光を頼りに、私は絵を描き終えることにした。気持ちをすっきりさせるために。静かに、自分自身と川の存在だけを感じながら。

しかし私の脳裏に浮かぶのはエイデン・ノーウッドの瞳だけだ。

確かに彼の言うとおり、私が描いた彼の瞳は「まだまだ」だった。私ならもっと上手に描けるはず。

彼にもっと近づくことができれば。でもいつになれば、彼にこんなに近づけるというのか?

そのときの私は、まだ何も知らなかった。数時間後にヘイズが始まろうとしていたことを。

自分が肉欲に溺れる野獣になろうとしていたことを。そして、イーストコーストのパックのアルファであるエイデン・ノーウッドが、私の性の目覚めにおいて非常に重要な役割を果たすことになることを......。

私は遠吠えせずにはいられなかった。

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