Yes, Mr. Knight 彼に覚醒された本当の私 1巻 - 表紙

Yes, Mr. Knight 彼に覚醒された本当の私 1巻

Natalie Roche

エレベーター

ジェイミー

イーサンとのランチを終え、私はKnight&Sonに向かって冷たい風が吹く通りを歩いた。

12月にもなると流石に寒さが厳しくなる。私は頭からつま先までしっかり着込んだ。

私は携帯電話越しに母と通話した。いつものごとく母は私にデートのお膳立てをしてくる。

こういうことをされるのは本当に嫌だったが、母は私が30代になる前に結婚させるんだという使命感に燃えていた。

「どうかな......見たこともない男性とデートなんてあまり気が進まないわ。好みのタイプじゃなかったどうしよう?」

正直言って私は母に背中を押してほしかった。

「ライアンはあなた好みのイケメンよ。それにあなたとの顔合わせにすごく前向きなの。」

母は少しイライラした様子で言った。

オフィスのドアに近づくと、メイソン・ナイトの姿がちらっと見えた。彼はジェンとは別の金髪の女性を抱き寄せて、その手は黒のミニタイトスカート越しにお尻をもんでいた。

彼女はメイソンの耳元で何か囁いているようだがメイソンの表情から察するに何か卑猥なことでも言っているのだろう。

ー本当に淫乱を絵に描いたようなやつだー

メイソンはドアを開ける私を一瞥すると再び金髪の女に視線を戻した。

女性社員の半数と関係を持っているからか、彼は他の社員を前にしても相変わらずだ。

「ジェイミー、ジェイミー聞いてる?」

「ごめんお母さん、何て?」

私は下に行くエレベーターのボタンを押し続けた。いつもの慌ただしさとは打って変わって、受付は静かだった。

「だからライアンに会ってほしいの。そういうわけで一回デートしてくれる?彼の写真を送るわ。」

こうなったらもう誰も母を止められない。

エレベーターのボタンを押しながら、私はため息をついた。

「わかった。デートに行くわ。でもお願い、お母さん、もしこの人が変な人だったらこの話はなしね。」

そう言う私の横でクスクスと笑う声が聞こえた。まさかと思い声のするほうに視線をやった。

そのまさかだ。

メイソン・ナイトの筋肉質な体躯が私のすぐ隣にあった。私の会話を盗み聞きしたのだろう。

「もう行くよ、ママ。また後でね。」

私は母の会話をさえぎるように電話を切ると、携帯電話をバッグに戻した。気まずい沈黙の中、しきりにエレベーターの扉を見つめる。隣にメイソンがいるこの状況からはやく脱したい、ただそれだけだった。

「母親がデートのセッティングか。変わってるな。デートの相手くらい自分で見つけられないのか?」

ナイト氏は私の方に顔を向け、答えを待っていた。

私は黙り込んでしまった。この男はデリカシーという言葉を知らないのか。

「お見合いなの。母親の機嫌をとるだけ。私の交際について干渉されないためにもね。」

「うそつけ。そうでもされなきゃ出会いなんてないんだろ。」

彼は笑ってそう言い返した。

「あまりデート経験がなさそうだからいいことを教えてやる。少し露出の多い服を着て、あまりしゃべらないようにすること。男は結局、外見にしか興味がないんだ。」

実にメイソンらしいアドバイスだ。

エレベーターの扉が開いた。中には誰も乗っていなかった。それどころかエレベーターを待つ人も私たち2人以外にいなかった。

48階まで私とメイソンの2人きりだ。

なんたってこんな時に限って。

「乗らないのか?」メイソンが扉を押さえていた。「まだエレベーターを待ちたいのなら無理にとは言わんが。」

「いいえ、ありがとうございます。」

また次のエレベーターを待つより、2、3分彼と狭い空間にいるほうがまだましだ。

私はエレベーターに乗り、彼の隣に立った。メイソンが48階のボタンを押し、私たちは上に向かった。

「ヘンダーソンさんとのミーティングを今週中に設定しておいてくれ。」

壁を軽く叩きながら言った。

「場所はブラッドフォードで頼む。あまり遅くならないように。」

「はい、ミスターナイト。」憎たらしい相手でも職場なので礼儀は怠らない。

急に大きな揺れが起き、エレベーターが止まった。あまりに突然のことで私は狼狽した。

ドアは開かなかった。他の階に止まったのではないことは明らかだった。

ーまさかー

「ちくしょう、」何度も何度もボタンを押しながら、ナイト氏はため息をついた。「なんてこった。」

私もため息をついた。「閉じ込められたみたい。」

彼は目を丸くした。「勘弁してくれ。こともあろうにこのエレベーターが止まるなんて。2時から会議室でミーティングがあるってのに。」

彼は高そうな腕時計に目を落とし、苛立ち混じりにため息をついた。

ーあと8分。それまでにここを出られない限り、メイソンは会議に間に合わないー

ほんの2,3分でさえ2人きりになりたくないのに、この状況はそれより長く続きそうだ。

その時、エレベーターの緊急インターホンが鳴った。

「警備部のアダムです。今お乗りのエレベーターに故障があると通報がありました。お二人ともそのままお待ちください、今救助が向かっています。」

メイソンはスピーカーのボタンを押し、

強めの口調で「どのくらいかかりそうなんだ?」と尋ねた。

「所要時間は45分から1時間くらいだと思いますが、なるべく早く対応できるよう善処します。落ち着いてその場でお待ちください。」

落ち着いて、か。

メイソンと閉じ込められていない身のアダムからしたらそう言うのは簡単だ。

ミスターナイトは動揺気味にこちらを向いた。

「立ち往生だな、ジェイミー。」

私はメイソンを真似ておどけたふりの一つでもしてやりたい気分だったが、とてもできなかった。

「そうみたいですね。」

ーはやくエレベーターが動き出さないものか。まだ閉じ込められるのなら他の誰かの方がましだ。ー

***

それから45分後、私たちは灼熱地獄と化したエレベーターの中にまだ閉じ込められていた。

暑さに耐え切れず、服は脱ぎ捨てられ、アウターだけになった。

暑さの限界まで、私は多めに上着を羽織った。

メイソンの前で汗はかきたくなかった。

私は彼と顔を合わせないように体を横を向け、壁に寄りかかって休んでいた。

無言で向かい合った時の気まずさを想像すると、そうせずにはいられなかった。

「眼鏡をかけてるのは初めて見るな。」

メイソンは私がかけている黒いフレームの眼鏡を指差した。暇なときの読書用にかけているものだ。

「見せないようにしているんです。そもそも読書用ですし。」

そう言い放つと、私は手元の恋愛モノの本に目を落とした。あくまで読むふりだ。

「眼鏡が嫌なのか?」そう言って彼は私の近くにしゃがみ込む。彼から放たれる香りが私のパーソナルスペースを満たしてゆく。

どういうわけか。この男を嫌えば嫌うほどに彼の香りはとても心地よく感じられるのだ。

私はまたページから顔を上げ、肩をすくめてみせた。

「まあ、確かに魅力的とは言えませんよね。」

ー私と会話したいのだろうか?ー

「何を読んでる?」

彼は私の返事を待たずに私の手から本を取り上げ、表紙を見た。

「ロマンスか。別に意外でもないな。」

私は眉をひそめた。

「ロマンスは結構人気だと思いますよ」

ーこの男はいちいち何か言わないと気が済まないのだろうか。-

ミスターナイトは小ばかにしたように笑った。

「いい加減目を覚ませ。現実はおとぎ話じゃないんだ。」

彼は私に本を返した。

「めでたしめでたしでおわるラストなんてないんだ。」

私は視線を上げ、メイソンの黒い目を至近距離でじっと見つめ返した。

「それはあなたの意見でしょう。あなたはあなたの意見があるし、私は私の意見があるただそれだけのことです。」

エレベーターが突然揺れ、動き出した。

48階が近づくにつれ自由も近づいていく気がした。

「持ち物を忘れないよう」私がそう言うと彼はどけた。

私たちは二人とも上着をつかみ、扉が開くのを待った。

犬猿の仲の男とエレベーターに閉じ込められる、さながら見慣れた恋愛小説のシチュエーションだ。

ーカルメンに話したら大笑いされそうだ。ー

ちょうど私たちの階に着いたとき、ミスター・ナイトが私の方に顔を向けた。

「眼鏡のことだが君は誤解している。魅力がないわけじゃない。」

扉が開くと、彼は戸惑う私を残してエレベーターを出て行った。

***

メイソンとエレベーターとひと悶着あった後、私は仕事に没頭した。

スクリーンから目を離すと6時を過ぎていた。帰り始めている人もいた。

私もそろそろ行かないと。

荷物を片付け、机の上を整理していると、メイソンのオフィスからかすかに会話が聞こえてきた。

ジェンと話しているらしい。

「メイソン、私はあなたの望むことならなんでもするわ。」

「一度だけ。そういったはずだ。」彼の言葉は冷たかった。「それでいいといったのはきみだろ。」

「私はただ...」

「自分なら私を変えられる。そう思ってたんだろう。みんなそうだ。私はこういう人間だ。誰にも変えられない。」

「分かったわ。でももし気が変わったら私のところへきて。」

そう言い残してジェンは悲痛な表情を浮かべてオフィスを出ていった。

私は彼女に少し同情した。でも、彼女も承知の上だったはずだ。

そのとき、机の上で携帯電話が振動した。

手に取ると、母からのメールだった。

メールを開くと、画面にはとてもイケメンな男性の写真が添付されていた。

ーお母さん、仕事早すぎない?ー

確かに母の言う通りだった。ライアンは私好みのコワモテ系で、正直タイプだった。

「お見合いの相手か?」背後からメイソンの声がした。

振り返ると、彼は肩越しに私の携帯を覗いていた。

「だったら何ですか?」

「君がこの男と並んで歩く姿が想像できないな。」メイソンは馬鹿にしたように言う。

「あなたのご心配には及びません。」私は苛立ちをあらわに私物をバッグにまとめた。「もう帰宅してよろしいですか?」

「ああ構わん。また明日。」

彼はズボンのポケットに手を入れ、オフィスへ戻っていった。きっと今晩も別の女性と寝るのだろう。

ーすんなり帰してくれるとは意外だった。ー

先週の鬼上司っぷりからするとどういう風の吹き回しだ。

昼間のエレベーターの件で打ち解けたとでも思っているのか。

ーつくづくおめでたい男だ。ー

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