Trapping Quincy 運命に逆らうクインシーと王子の出会い 11 巻 - 表紙

Trapping Quincy 運命に逆らうクインシーと王子の出会い 11 巻

Nicole Riddley

勝利のダンスはない

クインシー・セント・マーティン

暖炉の中で薪と火種がパチパチと弾け、火花が散る。暖炉の火がベッドとその周辺を暖かく照らす。

部屋の残りの部分は闇に包まれている。

私の頬は彼の胸に寄せられている。私の耳は彼の心臓の近くに押し付けられている。彼は仰向けに寝ていて、片腕を私の腰に回し、もう一方の腕で目を覆っている。私は彼がまだ起きているのを知っている。

私は彼の温かい肌に私の名前をなぞり、何度も何度もそれを繰り返した。胸が痛くてたまらないのに、それを必死にこらえていると、眠りにつくことは不可能だ。わがままを言って、明日は戦わないでくれと頼みたいが、そんなことはできないとわかっている。今日の夕方、王室の顧問全員が彼に会いに来て、同じことを頼んだ。

「戦わないでください」最も年長の顧問であるステパノフ卿は言った。

「私生児に王位継承権はありません。母親と王がエラスタイとはいえ、彼らは契りを交わしていません。あなたは王妃の息子であり、後継者に指名されています。あなたが正当な後継者なのです。これが法的に定められていることです」

「これはもはや法の問題ではないんだ」と私の番いは答えた。「彼はごろつきと冷酷な犯罪者で作られた軍隊を使って北部の群れを壊滅させようとしている。私が彼と戦うことを拒否すれば、何百もの命が失われるんだ。父上が軍隊を派遣したのは知っているが、北部には何百もの群れがある。どの群れを襲うつもりなのかわからないし、すべてを警備する人手もない。昨夜のように、罪のない人々の血がこれ以上流されるのはごめんだ」

彼らの顔には、驚きと尊敬と誇りが交錯した。

「あなたは偉大な王になられるでしょう、殿下」ステパノフ卿は他の顧問たちとともに彼に頭を下げた。

私は彼をこれほど誇りに思ったことはなかった。それでも、今こうして彼と一緒に横になっていると、これが最後だったらどうしよう、と考えずにはいられない。もし……。

彼の胸の上下が変化するのを感じた。そして彼の手が私の手を覆い、私の指が彼の素肌に触れるのを止めた。

「君の中の嵐を感じる」と彼は言う。

私はそれをうまく隠したと思っていた。「ごめんなさい」

「いや、傷つけてしまってすまない」私の髪に指を通す彼のタッチは優しい。

「今夜、兄がいることを知ったのに、明日の朝には殺さなければならないなんておかしな話だな」彼の声は低く穏やかだけど、私は彼のために傷ついている。

「あいつは自分の意思を明らかにした。そして俺にとってもあいつにとっても不幸なことに、そのうちの一つが君なんだ。ライカンは一度何かを思いついたら、それを手に入れるか、誰かに止められるまでやめない」

彼は突然、私の背中を覆うように手を動かし、両腕で私を独占的で保護的に包み込んだ。

「あいつは決して君を手に入れることはできない。俺以外の誰も君に触れることはできない。絶対に」

私は彼の胸に手を置き、顔を上げて彼を見た。彼の目は炎の輝きで緑というより金色に輝いている。

「私はあなただけのもの。永遠にね」私は彼に約束してから、彼の胸に頭を預けた。

私たちは長い間このまま黙っていたが、彼が静かに言った。

「俺はずっと、王になるべきじゃなかったと密かに思ってたんだ。俺の両親はお互いのエラスタイじゃない。俺は王に値しない生まれだからなりたくなかったんだ」

彼がこんな風に考えているなんて、普段の生意気で傲慢な態度からは想像もつかないことだ。誰一人として、群れのメンバーでさえ、彼のこんな一面を見たことがないだろう。

私たちは思っていた以上に共通点があるみたいだ。

カスピアンは私に心を開いている。私も彼に同じことをする時が来た。何一つ隠さずに。

「私はいつも、自分が存在してはいけないような気がしてた」私は彼に言った。「私は私生児で、父親が誰かも知らない。母親の番いでもない、ただの通りすがりの男が父親」

これは私がいつも心に抱えている秘密だ。存在することへの罪悪感。

意味がないのはわかってるけど、小さな子どもはそういう変な考えを持つものだ。

愚かなことだけど、その思いは今でも捨てられない。私のナナは、私がこんな風に思っていることを知らなかった。「私の存在はただの間違いだから」

彼が起き上がろうとして、筋肉が波打つのを感じてる。それで私も起き上がった。「そんなこと言わないで」カスピアンが慌てて言う「俺を見て」

彼は私のあごを持ち上げようとする。彼は傷ついているように見える。彼の緑の目は強烈だ。

「二度とそんなことを思わないで。君は間違いなんかじゃない。君は俺のものになる運命だった。君は俺のために存在するんだ」

「それなら、両親がお互いのエラスタイじゃないから王位継承権がないなんて思わないで」と私は彼に言う。

「私はあなたこそ王になるにふさわしい人だと思う。あなたは強いし、臣民を大切に思っている。エーミリウスは違う。彼はエラスタイの絆から生まれたかもしれないけど、すべての善を破壊し、これからも破壊し続けると思うわ。彼は欲しいものを手に入れるために、罪のない人々の命を犠牲にする人だから」

エーミリウスが王になったら何をしでかすか、想像するだけでぞっとする。

「私や群れを守るためなら、王位も富も命も投げ出すのを知ってるわ。事実、明日、あなたは罪のない人狼の群れのために戦う。あなたには王になるための十分以上の価値があるわ」

私は彼の顔の両脇に手を置いた。「私の愛する人、あなたはとてもとても価値があるの」

***

夜が明けると同時に私たちは起きた。一緒にシャワーを浴びて、お互いを優しく洗い合う。

石鹸のついた私の手は彼の筋肉の隆起を滑り、私の涙はシャワーのお湯で跡形もなく洗い流された。

カスピアンが黒い戦闘服に着替えるのを手伝うためにやって来たフランソワは、ひときわ険しい顔をしている。彼が着たのは兵士たちが戦闘時に身につける戦闘服だ。

動くときに伸びる素材が使われていて、動きを妨げることは一切ない。カスピアンはとてもハンサムに見える。着終わると、彼は私の手に手を伸ばす。彼の目が私を見定めた後、私を彼の側に引き寄せた。

私はスクエアネックのシンプルな淡いラベンダー色のドレスを着ている。短いキャップスリーブで、ウエストはエンパイアライン。柔らかくて透け感のある素材が足首まで流れている。髪はフレンチ三つ編みで、サイドに寄せて白いリボンで結んでいる。

顔はすっぴん。甘さとあどけなさ、まさに私が今日望んでいる姿だ。

「俺の可愛いらしい天使」彼は言う。

「それか冷酷な小悪魔ね」と私は言い返す。

彼は微笑む。「俺の恐るべき小さな宿敵は、ミルクと蜂蜜で覆われているって感じかな」彼は私の手を唇に近づけ、その背中にキスをする。

「それって素敵」

私たちが寝室から出ると、群れの仲間たちがすでに待っていた。ジェネシスでさえ、今朝は警戒して険しい表情をしている。

コンスタンティンもラザルスもダリウスも、戦闘服に身を包んでいる。あらゆる可能性に備えているのだろう。私たち8人が長い廊下を通って闘技場に向かう間、絶えず声がかかる。

セレステの父親を含むボイヤー数人が昨夜殺されたという知らせを使者が持ってきた。エーミリウスとカーチャが関係しているのは間違いない。

地域の群れから20人ほどのアルファが謁見を求めてきた。

彼らは心からの忠誠を誓い、先日の夜、自分たちの群れを救ってくれたこと、そして食料と防寒具を提供してくれたことに感謝の意を表した。

フランソワは白い毛皮の縁取りが厚いクリーム色のマントを私の肩にかけ、私たちは闘技場に足を踏み入れた。

闘技場はコロッセオのような巨大な建物で、15階建ての円形の石造りの観客席がある。最上部には立ち見席も設けられている。

頭上には青い空が広がり、太陽が照りつけている。でも気温は低い。空気中に自分の息が見える。

国王、王妃をはじめとする王族たちは、闘技場から数段上がったところに設けられている特別観覧席にいる。そこが今、私たちがいる場所だ。

すでに埋め尽くされているアリーナを見渡すと、私の胃は弾け、締め付けられる。私の手は彼の手を死ぬほど握りしめている。気分が悪い。離したくない。まだ準備ができていない。

二人の衛兵が彼の脇で待っている。私は目を上げ、必死に彼の目を探したが、彼はすでに私を見ていた。

彼の鮮やかな緑色の目は強烈で、いつも私の心の奥深くを、私の魂の底まで見ている。彼の腕の中に身を投げ出して、永遠に彼を抱きしめたかったけど、なんとかその衝動を堪えた。

私は彼の手を握りしめる。胸が痛み、呼吸は浅く速い。

彼は親指で私のまつげの下をぬぐった。一粒の涙がこぼれていたから。

「すぐに戻ってくるよ。約束する」と彼はささやき、私を引き寄せてキスをする。

このキスは必死で切迫している。希望と絶望に満ちている。約束に満ちていながら、別れのように感じられる。

そして彼は振り返らずに歩き出す。背が高く、威厳があり、堂々としている。コンスタンティンとラザルスとダリウスの3人が彼の後に続く。

アレクサンドロス王は席に座って威厳を保っている。ソフィア王妃はいつものようによそよそしく冷たい。

一人息子を失う可能性に、彼女の中で動揺が渦巻いているとしても、それを感じ取ることはできないだろう。

セリーナとジェネシスが私の冷たい手をそれぞれ握り、慰めてくれているのを感じる。

私たちの椅子の後ろには衛兵が立っている。おそらく、試合中にアリーナに飛び込もうとしたら、私たちを拘束するように命じられているのだろう。

ペニーの悲鳴が聞こえたので目をやると、エーミリウスが衛兵を引き連れて地上を歩いているのが見えた。彼はにやにやしながら、上から下まで私をなめるように見ている。

好きなだけ見ればいい、クソ野郎、どうせおまえにできるのはそれだけだから

彼の背骨を引きちぎって、ニヤけた笑みをその顔から消し去りたいくらいだ。

私の視線は、カーチャが衛兵に囲まれて座っているところに注がれる。彼女は黒いロングドレスを着ている。彼女の色白の髪は朝日を浴びて輝いている。

私にはまだこのことが理解できない。自分のエラスタイに別の番いがいて、彼女を王妃としてエラスタイが世界を支配しているのに、自分はエラスタイの秘密の愛人として生きなければならない……。なんと魂が砕かれるほどつらく苦しい生涯だろう。

でも彼らの行為によって失われたすべての命を思うと、彼女に同情する気持ちも消え失せてしまう。先日私が見た光景は、彼らが長年にわたって行ってきたことのほんの一部に過ぎない。

でも、もし私が彼女のような目に遭っていたら、同じようになっていただろうか?

場内にアナウンスがされたとき、私の思考はまだそんなことをグルグルと思い巡らしていた。雪に覆われた闘技場の真ん中に、力強い二人の人影が現れる。エーミリアスと私の番い、カスピアンだ。

身長は同じだが、体格は違う。二人とも筋肉隆々だが、カスピアンの方が細身だ。

「大丈夫よ。彼の戦いは何度も見てきた。彼は大丈夫よ」セリーナは何度も何度も、まるで私を慰めながら、自分自身を安心させるようにささやく。

開始の合図が出される前に、エーミリウスが突撃した。彼は唸りながら空中でライカンに変身し、カスピアンめがけて突進する。カスピアンは屈んでエーミリウスの攻撃を避けるのに成功した。一拍もしないうちにカスピアンも完全なライカンになり、反撃の準備をしている。

この速さで変身するにはかなりの訓練が必要だ。

そのあと起こったのは、私が肘掛けを握りしめ、心臓が喉から出てくるような思いで見た、激しい殺傷力の高い攻撃の連続だった。観客のどよめきがぼんやりと聞こえる。

両者とも血まみれで、どちらが勝っているのかわからない。まだ20分も経っていないのに、両者の戦闘服はすでにボロボロだ。

二人とも、悪夢のモンスターが現実になったような、威嚇的で凶暴な顔つきをしている。きらめく魂のない黒い目が悪意を持って互いを見つめている。鋭い歯と犬歯が伸び、うなり声を上げながら、噛みつき、爪を立て、攻撃し合っている。

慈悲はない。

エーミリウスは強く、戦車のような体格をしている。カスピアンはサイズでは負けているけど、敏捷性と巧みな攻撃で補っている。狡猾でつかみどころがない。

隙を見つけると非常に攻撃的で凶暴だ。

アリーナに積もった雪には血と黒い土が飛び散っている。

私の番いが倒れたとき、闘技場に飛び込もうとする私の肩に手が置かれ、その場に留め去られるのを2度ほど感じた。

今度もまた、エーミリアスに強く地面に叩きつけられた。致命的な鋭い爪がカスピアンの脇腹に食い込む。傷口から深紅の血が噴き出す。

私の視界の色が変わる中、私は立ち上がろうとする。爪が研ぎ澄まされ、石の肘掛けに食い込んでいる。カスピアンが一瞬の動きでエーミリアスの足を振り払い、背後からまたがる。彼がエーミリウスの太い首をへし折ると、群衆がどよめいた。

彼がしようとしていることへの悲しみと自責の念が、私たちの絆を貫く。彼はほんの少しためらいを見せた。

見ている誰もがそれに気づいているとは思えない。

その時、視界の隅で、カーチャが私の番いに向かって、客席から飛びかかろうとするのが見えた。

ソフィア王妃が立ち上がる。でも彼女が息子を守ろうと動き出す前に、私は体を起こし、力を振り絞ってアリーナに飛び込んだ。

一瞬でカーチャの上に跨がる。彼女が驚いている。

私が彼女の頭を両手でつかみ、骨の折れる嫌な音を聞くのではなく、感じるまでひねったとき、カーチャはまだ呆然とした表情を浮かべていた。群衆がどよめき、私は顔を上げた。あっという間のことだった。私はまだ完全なライカンの状態ではない。

私は彼女の背中に膝を置いたが、彼女の頭を体から引き離す前に、観客の野蛮な歓声の中を、リングのすぐ外側の地面から大きな苦悶の叫び声が突き抜けた。

アレクサンドロス王が立ち上がった。数歩よろめき、膝をついて頭を低く下げる。彼は自分のエラスタイのために慈悲を求め、彼女の命を助けてくれるよう私に懇願しているのだ。

私はためらった。周囲を見回し、私の番いの目を探した。彼は血まみれで傷ついている。彼の強い視線はすでに私の顔に向けられていた。私は彼にどうすべきか尋ねている。でも彼は何も答えてくれない。絆からくる感情もない。でも彼の冷たく計算高い目からは、裏切るような感情はない。

突然、私は悟った。彼は私に決めてほしいんだ。私次第なんだ。

私はひざまずく王に視線を戻す。すべてのライカンと人狼の王が私の前にひざまずき、私の慈悲を求めている。

私のライカンは殺しを求めている。私の仲間を滅ぼそうとしたカーチャの命を奪うことを欲している。私は彼女の貪欲と恨みに、無実の犠牲者のために、正義を求めている。残忍に奪われたすべての尊い命、彼女のせいで失われた命。彼女は慈悲を惜しまなかった。彼らの慈悲の叫びは聞き入れられなかった。

でもライカンと人狼の王は 私の前にひざまずいて、彼のエラスタイの命乞いをしている。私はカーチャの命以上のものを奪うかもしれない。彼のエラスタイを殺すことは、彼をも殺すことになるかもしれない。アレクサンドロス王は私の番いの父親だ。カスピアンに苦痛を与えたくない。私は歯を食いしばり、しぶしぶカティアの頭を離した。彼女は前のめりになり、地面に横たわる。息を吐き、巨大な肩が安堵の表情で垂れ下がる。

私は数歩下がってカスピアンを見る。彼の表情はまだ無表情だ。私は群れの仲間を探そうとアリーナを見渡す。でもソフィア王妃に目が留まった。

アレクサンドロス王を見つめる彼女の美しい顔には、苦みと憎しみに近いものがあった。これから何が起こるのかわかっていたのに、私はためらった。王妃が闘技場に飛び込む。

彼女の足がカーチャの背中にぴったりと置かれ、両腕が頭を包み込む。あっという間にカーチャの体が引き裂かれ、背骨が引きちぎられる。

ソフィア王妃の美しいエメラルド色のドレスは、カーチャの血で染まっている。唇に笑みを浮かべながら、彼女はカーチャの頭をトロフィーのように持ち上げ、地面に投げつける。

それは転がり、アレクサンドロス王の足元で止まった。

アリーナ全体が静寂に包まれた。

彼女はこの瞬間を長い間待っていたんだ。後腐れなくライバルを殺すこと。それこそが彼女のしたことだ。カスピアンが立ち上がると、衛兵はすぐに護衛しようとする。でも彼の脇を固めたのは私たちの仲間たちだった。

カスピアンはただそこに立っていた。引き裂かれ、血まみれで、でも真っ直ぐに立って、堂々としている。彼の目は私を見ている。私を観察している。見極めている。私はゆっくりと彼に近づく。手が届くほどの距離まで近づくと、彼が手を差し伸べで私を引き寄せた。

彼の大きな暖かい手が私の氷のような指を包み込み、凍えるように冷たい体に暖かさをもたらす。私たちは一緒に血まみれのアリーナから出て行った。

観衆はどよめいたが、大事なのはそばにいる私の番いと、私たちのすぐ後ろに続く私の群れの仲間だけだ。

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