
契約結婚 ―魅惑と欺瞞― 5巻
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S. S. Sahoo
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5
ついていけない
アンジェラ
一緒に行くんじゃないの?
アンジェラ
パーティーでしょ?
アンジェラ
ザビエル
アンジェラ
もしもし?
アンジェラ
私がホテルのスイートルームに戻ったとき、そこには誰もいなかった。私は寝室で一人で身支度をした。
パリに友達がいることも仕事があることも知っていたが、到着した途端、私をほったらかしにされるとは思わなかった。
おいおい、アンジェラ。ザビエル・ナイトはそういう人間でしょう。私は自分に言い聞かせた。
ドレスを着た鏡の中の自分を見つめた。シャワーを浴びた後でも、私はこの布を纏うに値するとは思えなかった。
私は目を閉じ、今日ドレスを試着して、鏡に映った自分を初めて見たときのことを思い出そうとした。巨大な試着室で、の洒落た女性が息をのむほど、ぴったりだったのだ。
自分はこのドレスにふさわしい、そう思えてきた。
私は髪を肩の前に流し、柔らかなウェーブをドレスのネックラインすぐ下まで垂らした。マスカラを数回塗り、リップバームで唇を保湿した。
機内から乾燥していた唇が潤った。それから時計を見た。
ザビエルが部屋に戻ってくるのを待っている時間がなくなっていた。パーティー会場はすぐ下のダンスホールにあったが、私は決断を迫られていた。
ザビエルが戻ってくるのを待って、ブラッドに遅刻を咎められるか、時間通りに下に行って、ザビエルに待たなかったことを咎められるか。
夫婦というものは、愛し合っていなかったとしても、パーティーには一緒に出席するものだと、私でさえ知っていた。
私は考えた。結婚して以来、ザビエルには毎日のように怒鳴られている。もちろんそれに耐えるのは面白くなく、涙を流すことも多かったが、ブラッドにがっかりされることのほうが私はもっと辛い。
ブラッドはいつも私に優しく、信頼してくれているらしい。それは失いたくなかった。ブラッドには私のことを、娘として誇りに思っていてほしかった。
私はバッグを手に取り、結婚指輪をはめ直し、午後7時26分にスイートルームを出た。エレベーターで、ダンスホールがある3階に降りた。
ドアが開くとすぐに、スーツを着てイヤホンをした男性が私に向かって手を振り、右側のドアを通るように示してくれた。振り返ると、エレベーターの前にイヤホンをつけたスーツ姿の男性が3人立っているのが見えた。
このパーティー、何やらすごそうだ。
「マドモアゼル?」私のエレベーターを担当した男性が待ちきれずに言った。その手はずっと後ろのドアを指差していた。
「すみません」私はあの女性からもらった10センチのヒールを履いて、できるだけ早く歩いた。足はすでにつった感じだったが、なんとか入口までたどり着き、ドアを押し開けた。
中はまるで王室の結婚式のようだった。ダンスホールは巨大で、地平線のように果てが見えなかった。自分がどこにいるのか考えれば考えるほど、この場所で迷い込んでしまいそうだ。
金色のシャンデリア、金色のテーブルの装飾品、金色の宝石。どこを見ても金色に輝いている。
私のすぐ左手には金の絨毯が敷かれ、想像を絶するほど美しい衣装を身にまとった美しい人たちが、その絨毯を歩く順番を待っていた。
カーペットの前にはカメラマンが列をなし、闘牛士に向かって突進する雄牛のように、攻撃的にカメラを光らせていた。
また別のイヤホンをした男性に手招きされ、その群れの中に入っていった。私は必死に周囲を見回した。カメラマンたちの視線とレンズを向けられるのが怖かった。
そこで、彼を見つけた。
まっすぐ目の前で、ガリガリの女性たちと話している。彼は大げさにジェスチャーをしながら、生き生きとしていた。少し離れた場所からでも、満面の笑みなのが分かった。信じられない。
この男は私抜きで会場に来ていたのだ。
私の前にいたイヤホンの男は、私がザビエルを見ていることに気づいたようだった。
「マダム・ナイト、ご主人をお呼びしましょうか?写真を撮りますよ」男は強いフランス訛りでそう尋ねてきた。
「ええと……それは……いいですね」私は周りから注目され、頬が赤くなるのを感じながら言った。男はザビエルを連れてくるために急いで立ち去り、私は、ザビエルから言われるであろう激しい言葉を覚悟して待った。
我慢だ。自分に言い聞かせた。たった一晩だけだ。ブラッドのためだ。
男がザビエルに声をかけ、私を指さしているのが見えた。彼らが私に向かって歩いてきたのを見て、私は目をそらし、そのはずみで、私はある中年男性と目が合った。ダブルブレストのスーツの下に黒いタートルネックを着た、背が低くがっしりした男だ。
私は身の毛がよだつのを感じた。理由ははっきりとは分からないが、おそらく、この男性の私を見つめる視線があまりに強かったからだろう。
振り返ると、ちょうどザビエルが私のところまで歩いてきた。
「やあ、ハニー」彼は周りに聞こえるように大きな声で言い、私の両頬にキスをした。「きれいだ」
「ありがとう」と私は言った。ただの外面だけのショーだと分かっていても、その言葉は、私の自信を与えてくれる。カーペットを歩く順番が近づいてきた頃、誘導係の女性がザビエルに名を呼んで挨拶した。
「おかえりなさい、ザビエル様」女は私を完全に無視して言った。2、3言葉を交わすと、女はザビエルをカーペットの中央に向かわせた。ザビエルは私を振り返り、期待を込めて手を差し出した。
夫の手を取ってこれほど嬉しかったことはない。ザビエルはカメラ目線で、得意の表情をつくった。あごを引き、口角を少し上げて、目を少し細めて。
ザビエルがどうしているのか一瞬確認して、私は精一杯の笑顔をつくろうとした。楽しんでいるように見せたいが、やりすぎもよくない。私は口を閉じたまま笑うことにした。
一生のように感じるほど長い時間が過ぎた後、ザビエルが私をカーペットから引っ張った。私が口を開く前に、年配の夫婦が私たちを呼び止め、私たち2人にキスをした。
「ザビエル! 彼女、すてきね!」その女性は見定めるように私を見て、叫んだ。
「ありがとう」私は言った。注目されすぎて、呼吸もままならない。
「よくやったよ、息子よ」と言って男はザビエルの肩を叩いた。
「トライすることが大切だからな、グラント。そうだろう?」ザビエルはそう言うと、夫婦は笑った。
「私たちのテーブルにいると思ったんだけど」女性が尋ねた。
「俺もそう思っていたんだけど、お父さんが直前に変更したんだ。子どもたち全員を子どもたちのテーブルに座らせたかったらしくて」
「それなら、ザビエル、私と1曲踊りましょう」
「3曲踊ろう」ザビエルはウインクして答えた。絶好調のようだ。
「テーブルに行こう」ザビエルは私に言い、ラウンドテーブルが並ぶ会場へ行った。
自分たちのテーブルに近づくと、さっきザビエルと話していた女の子たちがたくさん座っていて、私は手に汗をかいた。彼女たちはモデルのようで、チェーンスモークを吸い、ピラティスに通い、セレブとデートするようなタイプの女性たちだった。
この人たちなら、ゴールドのカーペットの上でザビエルの隣に立っても場違いではないだろう。
私たちがテーブルに着くと、彼女たちは一斉に振り返った。ザビエルは私を紹介してくれた。
「お嬢さん方。こちらはアンジェラ。僕の妻だ」ザビエルは言った。
女性たちはザビエルから私に視線を移した。息が止まりそうだった。彼女たちが私を隅々まで見終わるのを待った。そして、私たちから一番近い席の女性が拍手を始めた。
ゆっくりと。そして他の女性たちもみんな拍手に加わった。
裾が床まで届く長さのドレスを着て、アップスタイルの髪を結った4人全員が拍手をしてくれた。私は状況に追いつけていなかった。
彼女たちは私を認めてくれているのだろうか? それとも私をからかっているのだろうか?
フランスの挨拶にはこういう奇妙な習慣があるのだろうか?
しかし、リーダー格の女が嘲笑うように言った。「美しい人ね」誉め言葉を言われたはずなのに。ザビエルも冗談だと思っているのか、にやりと笑って、椅子を引いて座るだけだった。
私も何か言おうかとザビエルを見たが、私の視線を感じたザビエルは、ただ私を見て「さあ、座って」と言った。私は彼の隣の椅子を引いて、座った。
女性たちは再びおしゃべりを始めた。ザビエルに一番近い女性がザビエルを会話に引き込み、私はまたもや蚊帳の外になった。ウェイターが私の後ろに来て、フランス語で何か言ったが、聞き取れなかった。
私はこれ以上注目されたくなかったので、ウェイターに対してとりあえず頷いた。ウェイターは同じ言葉を繰り返したので、私は口を開いたが、何も出てこなかった。
「彼女にはグリージョを」ザビエルの隣にいた女がウェイターに声をかけた。
私は屈辱を感じ、英語を話すように頼んでおけばよかった。英語は誰もが話せるはずだ。ウェイターはうなずき、2本のボトルが入っている氷の入ったバケツに向かい、1本持ってきて私のグラスに注いだ。
私はドキドキしながら一口飲んだ。
「ねえ、奥さん」テーブルの向こうからリーダーの女が大声で言った。「この人ったら、女の子に酔いが回ってきたころ、元気になるのよ」彼女はウインクしてザビエルを見た。
何度目か分からないが、また頬がカッと熱くなった。この女はザビエルとの関係をほのめかしているの……?
「やめろよ、ダーラ」ザビエルは椅子にもたれかかり、足を組みながら答えた。
「どうして? こんな私が好きなんでしょ?」彼女はまたウインクした。女性たちは皆笑った。この女も他の人たちも信じられない。私はここに座っていて、隣にいるのは私の夫なのに。
「失礼します」と私は静かに言い、椅子を押してテーブルを離れた。私には逃げ場が必要だった。
壁際にバーがあり、ほとんど人はいなかった。スパークリングウォーターを注文すると、バーテンダーがすぐに持ってきてくれたが、お礼を言う前に肩に手を置かれた。
「美しい女性には相応しくない飲み物だな」強いフランス訛りでそう言ったのは、さっきのタートルネックの男だった。
私はまだ肩の上に置かれている男の手を見た。
「これで大丈夫」私はそう言って飲み物を掴み、立ち去ろうとしたが、男は私の手を握りしめた。
「一緒に一杯、どうかな? 」
「また今度」私は男の手を払った。失礼なことは言いたくなかったが、この男にはなぜだか私の警戒心が働いた。私はグラスを手に、ダンスホールを歩き回り、各所に目を通した。
テーブルに戻ると、パンとバターのバスケットが置かれていた。私は席に着いたが、ザビエルは女性たちとずっと話し続けていた。
お話、楽しんで。私はパンを食べるわ。私はバスケットに手を伸ばした。
焼きたてのパンを皿に取り、バターを塗ると、その香りの良さに夢中で、私は周りの会話が止まっていることに気づかなかった。
パンを一口で口に入れ、噛みしめた。おいしい。すると、ザビエルに一番近い女性が言った。「パン食べてるわよ」
うんざりした。私はパンを飲み込み、蔑んだ目で私をじろじろ見てくる女性たちを見返した。私以外誰も食べていなかった。ザビエルでさえ。
「あなたの奥さん、」リーダー格の女が、ザビエルに向かって言った。「太っちゃうんじゃないの」
「太ってるほうが、みすぼらしくなくてマシかも」と、もう一人が同意した。
「でもみすぼらしくても、泥棒猫よりはよくない?」
耳鳴りがした。顔に血が上った。みんなが私のことを話していたの。
私に聞こえるように、いけしゃあしゃあと。悪口はどんどんヒートアップしていったが、ザビエルはただ座って、にやにや笑っているだけだった。
夫というのは、妻をかばい、守り、危険な目に遭わないようにしてくれる存在だと思っていた。
しかしその代わりに、私の夫は冷えたワインを一口飲んでは、パンを食べない女たちと一緒に笑っていただけだった。