
契約結婚 ―魅惑と欺瞞― 3巻
highlight_author
S. S. Sahoo
highlight_reads
🔥105M
highlight_chapters
5
ザビエルは重要な仕事の取引のためにグレイデンとそのアドバイザー・ミッキーとバーにいた。ザビエルのプレゼンに明らかに興味を示し、上手くいくかのように見えたとき、グレイデンが妻ジェシカから連絡をもらい、ジェシカが町でアンジェラが男性と一緒にいるのを見かけたことを知り、ザビエルに話す。アンジェラから仕事の邪魔をされたことに怒り、上手くいきかけていた商談もそこそこにその場を去るザビエル。そんな中、アンジェラは過去にストーカーをされていたレモールからの連絡に怯え、精神が不安定になっていっていた。
近すぎて、遠すぎる
ザビエル
携帯電話の画面をにらんでいると、また怒りがこみ上げてきた。
妻が問題を起こした。
また。
マジで使えない。
俺は携帯をポケットに押し込み、冷静になろうとした。大事な商談なんだ。落ち着いて臨まなければ。
クソ嫁のことは後回しだ。
俺は金融街にある古風なバー、ハッチバックにいた。好みの店ではなかったが、ビジネスに明け暮れる男たちの憩いの場で、グレイデンのオススメということで、ここに来た。
妻たちとのディナーの後、俺は取引の成立を確信していた。グレイデンは今夜のハッピーアワーに誘ってきたし、俺は今朝起きたときよりもずっと幸せな気分で家に帰れるような気がした。
ディナーのおかげで上機嫌だったのは確かだ。しかし仕事で勝つことほど気分が良くなることはなかったし、これは俺にとってこれまでで最大の勝利になるに違いなかった。
午後7時近く、店内はスーツよりもヒューゴ・ボスやアルマーニのほうが多いほど、華やかに賑わっていた。20代から60代の男たちが、ウイスキーやビールを手に、交流を広げていた。
全体には3人の女性がいて、そのうち2人はバーテンダーのようだ。よく知らなければウェスト・ヴィレッジのゲイ・バーだと思っただろうが、ここにいる男たちは皆、よく知っていた。
もちろん、あからさまに同性愛を嫌悪しているわけではなかった。彼らは女性が好きだった。ただ、男らしく飲んで話せる場所が必要だったのだ。
「おお、いたいた。ナイト!」振り返ると、グレイデンがもう一人の男を連れて俺のところへ向かってきていた。俺は握手をしようと立ち上がった。
「やあ。」俺は微笑みながらグレイデンに尋ねた。俺は第一印象を大切にしていたが、その後のフォローも同じくらい重要だと知っていた。俺と寝たことのある女に聞いてみてほしい。俺はアフターフォローが得意だった。
「会えて嬉しいよ」グレイデンは俺の背中を叩きながら答えた。「来てくれてありがとう。彼はミッキー。頼りになる男だ。俺のアドバイザーとでも言おうか」
「やあ、ミッキー」と俺は彼の手を握った。
そうこなくっちゃ。グレイデンはビジネス・アドバイザーを連れてきた。興味津々なのは間違いない。父の顔を見るのが待ちきれなかった。
「何を飲む?」そう言いながら俺はバーテンダーに手を振った。彼女はカンザス出身の女子大生という感じの、可愛らしい子だ。
ミッキーが「グレンフィディックを」と言い、
「じゃあ私も」とグレイデンも言った。
「グレンフィディックを3杯、ストレートでお願いします」と俺はバーテンダーに言った。俺が店員に「お願いします」と言うのは、狙っているタイプの子に対してだけだ。そしてこの女の子は、えくぼと南部なまりが魅力的で、絶対に家に連れて帰りたいと思った。
「ドリンクは持っていくから、席を探しておいてくれないか」俺が男たちにそう言うと、2人はうなずき、空いている席を探して歩いていった。
「お待たせしました」とバーテンダーが俺に飲み物を渡した。俺は名刺を渡した。「ナイトさん、ツケ払いにしますか?」彼女は無邪気に目を瞬かせた。
「もちろん。長居することになりそうだし」俺は、飲み物以上に君に興味があるという視線を投げかけた。
「嬉しい」彼女はそう答え、クスクスと笑った。
俺はミッキーとグレイデンがテーブルを確保した場所にドリンクを持って戻った。とても混んでいた。席に着くと、グレイデンがまた俺の背中を叩いた。
「ありがとう、ザビエル」
「いいえ、ボス」と俺は言った。
「では、本題に入ろう。ミッキーが君のプレゼンを聞きたがっている」
俺はミッキーを見た。無害そう見える。カーリーヘアは少し白髪が目立ち、目尻のしわは深かったが、スーツはイタリア製で、腕時計はロレックスの限定品だった。
過去にも、いい選択をしたんだろう。
「オーケー、ミッキー。取引はこうだ。グレイデンのホテルは明らかに価値の高い物件だ。立地条件だけで、同じ界隈の他のホテルの2倍以上の収益が見込める。偉そうな発言が許されるのであれば、素晴らしい業績だ」
2人は笑いをこぼした。
「しかし、手放すにしても時と場所が重要だ。そして私が思うに、」俺はグレイデンを見て言った。「あなたは今手放したい。でも、失敗はしたくない」
「そこで私からの提案だ。これは成功が成功を呼ぶリブランディングのチャンスであり、あなたがいままで費やした年月が、認められ、名誉となるチャンスだ。ナイト・ホテルはあなたの足跡は常に残される。必ずお約束します」
俺は男から男へと視線を移し、2人の反応を見た。うまくいったと思うが、2人ともじっくりと情報を消化していた。沈黙に焦りを感じ始めて、俺が口を開きそうになったそのとき、グレイデンが手を叩いた。 ひとつ、そしてもうひとつ、そして三度とたたいた。
1回、そして2回。そして3回。
「素晴らしい」彼は言った。
俺はミッキーを見て、考えを聞き出したかったが、その目は引き続き暗く、深く考え込んでいるようだった。
「スケジュールはどうなるんだ?」
「外観の工事を6週間以内に開始したい」俺は答えた。「まずはロビー、スパ、フィットネスセンター。そして3月までに新しい屋上レストランをオープンさせる。ダウンタウンの利点を求めるビジネス層をターゲットにしているから、最大限ミッドタウンとの差別化を図る」
ミッキーは俺の言葉を頷きながら聞いていた。決まった、と思った。俺はこう続けた。
「マンダリン・オリエンタルとNoMoを掛け合わすのはどうかと思っている。確立された5つ星ホテルの風格はそのままに、フレッシュさも演出したいんだ」俺が話を続けていると、グレイデンが手を挙げて口を挟んだ。
「ちょっと待て」彼は携帯を見つめていた。「割り込んでしまってすまない、しかし……なんて狭い世界だ……」そうつぶやいて、俺を見た。「今日、私の妻が誰に出くわしたと思う?」
「誰って?」声に焦りが聞こえないことを祈りながら、俺は尋ねた。
「君の奥さんだよ! ジェシカは、彼女がラ・スールという帽子屋で……男と……買い物をしているのを見たと言っている」
彼の口ぶりは穏やかだったが、「男」と言ったときの口調の変化は明らかだった。妻と俺の関係や、その男が誰なのかを、疑い批判しているようだった。
俺はさっきジェシカが送ってきたメッセージを思い出した。
くそ、最悪だ。
彼が俺を信頼できるかどうか、二の足を踏ませるわけにはいかない。
ここで疑念を抱かせるわけにはいかない。
親しみやすく、分かりやすく、信頼に足る人間でなければいけないのだ。
「世界は狭い!」俺は思わず叫び、グレイデンの肩を叩いた。「あそこの帽子、好きなんだよ」グレイデンは口角を上げて丁寧な笑みを浮かべて俺を見たが、その目はさっきまでとは違っていた。明らかにこちらを疑っている。
くそっ。怒りが、ゆったりとした川を下るいかだのように、血管を流れていた。俺は怒り、ウイスキーを飲み干した。妻が外で俺に恥をかかせ、仕事の邪魔をしてきた。許せない。
俺は、妻がプライベートで誰と一緒にいようが、他人の目がないときにはどうでもよかった。俺は俺のしたいことをし、妻は妻のしたいことをすればいい。
でも人前では?
俺たちは愛と忠誠を絵に描いたような関係だった。俺たちは毎日、そんな結婚生活を送っていた。それなのにあの女はそんなに愚かなことを。
俺はすぐにここを出て、あいつをぶん殴りたかった。どれほどバカなことをしたのかを知らしめたかった。俺以外の男と、二度と人前で一緒にいるんじゃないと。
いや、それだけじゃだめだ。公私を問わず、その男とは二度と会わせないようにしよう。それがあいつにできるせめてものことだった。派手な帽子にブラックカードを使い、街中をふらついていた、あいつに。
ミッキーをちらりとみて、この夜の話し合いは終わったことを理解した。俺が去ったら、2人は妻を手懐けられないような男と一緒に働けるかどうか、話し合うのだろう。
妻が何をしているのか把握していない、もしくは気にしていないような男と。
はあ、今すぐその話をさせてやろう。俺は携帯を開き、メールでも読むふりをして言った。
「お二人とも。一晩中ここで話していたいのはやまやまだが、仕事でトラブルだ。すまないが、ここで失礼させてくれ」俺がそう言うと、2人とも立ち上がり、うなずいた。
「また連絡する」とグレイデンは言ったが、その声からさっきまでの仲間意識は消えていた。
「ああ、よろしく。おやすみ」と俺は言った。
俺は怒りに満ちていて、ツケ払いのことも、えくぼのある南部なまりのバーテンダーのこともすっかり忘れて、急いで店を出て行った。
マルコが迎えに来るのを待っている間そのことを思い出し、さらに怒りが血流に流れてくるのを感じた。
あの女は俺の仕事を台無しにした。
あの女は俺の性生活の邪魔までした。
あの女は自分の立場をわきまえてなさすぎる。