
契約結婚 ―魅惑と欺瞞― 7巻
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S. S. Sahoo
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4
間違った足取り
アンジェラ
腰を振る。汗が滴る。手を握る。
今はダンスレッスンの最中で、私は人生でこれほど他の人に近づいたことはなかった。ましてや……相手はザビエルだ。
「そこで、ターン!」
私の背中に手を当てると、ザビエルは突然私を回し、息が止まるかと思った。バランスを崩し、ふらついてしまい、こんなに不器用なのはこの空間で自分だけだとさえ思った。
他の人はみな、プロのダンサーかと思うほど軽やかで、優雅で、うんざりした。私だけだった。
幸い、ザビエルがリードしてくれた。そうでなければ、今頃私たちは床に倒れ込んでいただろう。
「いいわね! さあ、もっと近づいて」
私たちのダンスインストラクターのキキは、ブロンドの髪が美しい細身の美女で、露出度の高いレオタードを着てザビエルの首に手を当てた。
「もっと近づいて、ナイトさん」キキは甘えた声で言った。
首筋の毛が逆立つのを感じた。私の中の動物的本能が火花を散らした。純粋な嫌悪感と猛毒のような憎しみ沸き上がり、一瞬、我を忘れるところだった。
いや……憎しみって? 私は何も憎んでなんかいない! 一体何が起こったの?
「ナイトさん、上手ね」ザビエルが私を次のステップに導いたとき、キキは言った。「パートナーさえ良ければ、どれほどだったか分からないわ」
ああ、この女をつまずかせて、このガリガリの尻を床につかせてやりたい! …えっ、これが独占欲という感情なのかしら? まさか私、もしかして、やきもちを焼いていると言うの…?
いやいやそれはありえない。数日前にエミリーとこの結婚を終わらせられるかもしれないと話をしたばかりだ。
なのにその私が嫉妬をしている?
ただのホルモンバランスのせいだろう、そうじゃなければ、ザビエルの手が私に触れ、人形のように回転させられていることの副作用かもしれない。
まるで私は、ザビエルが望むままにできるモノのようだった。
ある意味では、その通りだった。少なくとも紙上では、私はザビエルの妻なのだから。
「俺がリードする」ザビエルは小声で言った。
その声から、怒っている様子は感じられず、むしろ何か楽しそうだった。私は混乱して眉をひそめたが、不安な気分はダンスにも表れてしまったようだ。
「ナイト夫人、もっと優雅に…」とキキはため息をつきながら言った。「考えすぎないで、呼吸に集中して……」
言うは易し、行うは難しだ。
一組のペアが私たちのそばをスッと通り過ぎ、その完璧に息の合った、流れるような美しい動きに私は目を奪われ足元を見るのを忘れてしまい――。バタン!
「アンジェラ!」
私はダンスフロアのど真ん中で尻もちをついた。周りの息を呑む声が聞こえた。キキが手を差し伸べてきたが、わざとらしく心配そうな表情をつくる前、クスリと笑ったのを私は見逃さなかった。
「あーあ、かわいそうに」とキキは感情をこめずにそう言った。
「俺がやる」ザビエルはそう言うやいなや、膝をついて私に手を差し伸べた。「おいで、大丈夫だから」
その柔らかな声に驚いた。私はこんなにもダンスに向いていないのに、苛立つこともしないなんて。
これが数日前に私に怒鳴っていたあのザビエルと同じ人? 信じられない。
私たちは立ち上がり、私は深呼吸をしてザビエルを見た。まるで初めて彼をちゃんと見るようだった。筋肉が汗で濡れて膨らんでいる。締まったあごに、いたずらっぽく光る黒い瞳。
今までザビエルをそんな風に見たことはなかったが、彼は確かに、セクシーだった。
よだれがでるほど。
この世に二人といない。
この美しい男性が私の夫だなんて……。
アンジェラ! 惚ける自分を戒めた。しっかり、こいつはあのザビエルよ。
ザビエルに見惚れているのは私だけではないようだ。部屋を見回すと、多くの女たちが口を開いて彼を見つめていた。
最悪だったのはキキだ。キキはザビエルの手を取った。
「こうよ、ナイト夫人」キキは冷たく言った。「見せてあげるわ」
キキが別インストラクターに目で合図すると、曲が再開され、突然ザビエルとキキが部屋の中をくるくると回り始めた。キキはザビエルをしっかりと掴んだまま。
私は気づいてしまった、キキの手の動きに。ザビエルの背中から、さらに下へ行き、そして……
ちょっと…。あの女、彼のお尻を握った?
奇妙な怒りが再び内から燃え上がるのを感じた。ダンスフロアに踏み込んで、ザビエルをあの女から引き剥がしたい衝動に駆られたが、何とか自分を抑えた。
いやいや、思い出して。ザビエルは嫌な奴よ。私は離婚しようと思っていたところじゃない!
しかし、ザビエルとキキは踊っているものの、二人の目は決して合うことがなかった。ザビエルの目は私だけを見ていたから。他の女を抱きながら、彼は私を見つめていた。
それに気づいた私は顔が赤くなり、振動の鼓動が速くなるのを感じた。
今まで、誰かにこんな風に見つめられたことはなかった。
ましてや、ザビエルからは。
ザビエル
俺たちは汗だくのまま家に帰り、すぐに別れて互いにシャワーに向かった。マルコが運転している間、俺たちの間に会話はなかったが、レッスンで踊った音楽を流してもらった。
アンジェラの唇が微笑みを浮かんだのを見て、俺は内心喜んだ。楽しんでいたんだ! やっぱり!
レッスンが始まり、アンジェラと手を組んだ瞬間、俺の頭の中で何かが……パチッとはまった気がしたんだ。怒りや混乱が、あの一瞬だけは……完全に消え去っていた。
その代わりに、そこにあったのはただひたすらに魅力的な身体だった。脳が理解するより前に、俺はアンジェラを感じ、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
今からどうやって自分を慰めようか考えながら、シャワーを浴びようとバスルームに足を踏み入れた。服を脱ぎ、すぐにでも始めようとしたその時、静かな叫び声が聞こえた。
「ナイトさん!」
俺は固まった。家政婦のルシールが、バスルームの掃除をしていたのだ。ちくしょう。
「ああ、ルシール」俺は大きくなったムスコを隠しながら、顔を赤くしていった。「気づかなかったよ」
「すみません、ナイトさん。掃除中です!」
見ての通りだった。くそっ。どうする? 俺は汗臭かった。すぐにでもシャワーが使いたかったのに。
そのとき、ある考えをふと思いついた。
「出て行きましょうか、ナイトさ……」
「大丈夫だ、ルシール」と俺は言った。「この家にはもう1つシャワーがあるだろ」
^***^
ノックもせずにアンジェラのバスルームに乗り込んでみた。だってここは俺の家だ。そして、女は風呂が長いんだ。あいつより先にシャワーに入ってしまえば……。
ちょっ…。
これは…。
なんて美しい…。
小さな悲鳴をあげて、アンジェラは身体を覆った。シャツを脱ぎ、黒い下着だけを着て立っていた。
あまりにも、美しかった。
「ザビエル!」アンジェラは声を詰まらせた。「えっ……何してるの?」
アンジェラは胸を隠していたが、その手の下に何となく見える曲線は、完璧なものだった。
一瞬、俺は後ろを向いて、見ないでやった方がいいのだろうか、とも考えた。多分、このままじゃセクハラか何かになるだろう、いやでも待てよ。
自分の妻を見ることの何が問題なんだ?
俺がショートパンツを脱ぎ、ブリーフを下ろすと、アンジェラは顔を真っ赤にしてすぐに背を向けた。
「ごめんね、ハニー」俺は微笑みながら言った。「俺のシャワーは掃除中で。でも急いで仕事に行かなきゃいけないんだ、気にしないでくれていいから」
俺はアンジェラに向かって一歩近づくと、さっと視線を落としたアンジェラは、本当の男を知らないようだった。
今までは、ね。
アンジェラ
信じられない光景を目の前にしていた。素っ裸のザビエルが、近づいてくる。私を試そうとしているの? 恐怖を感じ思わず後ずさりしたが、予想に反し、ザビエルは私の横を通り過ぎて、バスルームに入った。
私は必死に胸を抑えた。何も見られたくなかった、でも私は見てしまった……うわ…。
何も考えられなかった。
何も言葉が出てこなかった。
私は視線を逸らすことができず、見つめ続けた。だって……。
いや、ムリムリ、私はこんなの求めてないのに! 今すぐここから逃げ出したいと思うのに、足はレンガに縛られたかのようだった。凍りついてしまったようだ。
ザビエルがシャワーに入り、お湯を出した。水がその身体にかかる。そして彼の……アソコが……。
もうっ、ストップ!
「あのっ、ごめんなさい」と、私は思わず言った。「私、ちょっと……」
「わざとドアを開けっぱなしにしてるんだけど、アンジェラ」ザビエルはにっこりと言った。「一緒にどう? 君も汗かいただろう」
確かに私もシャワーを浴びたかったが、今ここで、ザビエルと……あれと……シャワーを浴びるなんて、ありえなかった。
ザビエルの大胆さが信じられなかった。でもたしかに、彼の女性経験の多さを考えると、理解はできた。
あの女の子たちの、喘ぎ、快楽で目を見開く姿を思い出し、私は、自分がその中の1人になるという幻想が突然湧いてきた。
違う。絶対にいや。
私はザビエル・ナイトと寝るつもりなんてない。
私が立ち去ろうとしたとき、ザビエルが向きを変え、私に背中を向けた。あの長い傷が目に入った。
あの島でザビエルが話してくれたものだ。でも私は今でも知らない。どういう状況で、どのようにしてその傷を負ったのか。
ザビエルが私に語ろうとしない限り、私も彼への好意を認めるつもりはなかった。たとえ私の身体はそうではなくても。
浴室を出て行こうと後ろを向いたとき、ザビエルが声をかけてきた。
「俺の可愛い妻は、本当に恥ずかしがり屋だ!」
ううっ。恥ずかしすぎる。バスルームを出ても、彼の姿が網膜に焼き付いていた。
ザビエルの裸を見たことは、私がこれまで経験したことのない感覚だった。鼓動が速くなり、肌がほてり、自分の内部がかつてなく熱くなるのを感じた。
私の身体は自分の意識とは裏腹に反応しており、次の機会を期待せずにはいられなかった。
また、夫の裸を見ることはできるのだろうか…?