Feeling the Burn ―ハンナの欲情― 1巻 - 表紙

Feeling the Burn ―ハンナの欲情― 1巻

El Koslo

ドラゴンの住処へ

ハンナ

「来たわよ! 来たわ!」ロッカーにバッグを入れようとしている時、スタジオへ入るドアに続く短い廊下の向こう側から、叫び声が聞こえた。

神様、ありがとう!

「何をしているのよ、パーク? 私1人でトレーニングを受ける所だったじゃないのよ!」廊下を走ってくるパーカーに、私はヤジを飛ばした。

「ハンナと一緒にクラスに参加するのなら、これを書いてくれないかな。」いつも履いているテニスシューズを脱ごうとしていると、タイがパーカーの後ろから来て言った。

「はいはい。。。わかったわよ。。。」パーカーはタイの方へ振り向きながら言い放った。「あら。。。あの、おはようございます。」

最高だ。パーカーはセクシーな男性とイチャつくだろうから、私のことを詮索しなくなるわ。

「早くしてよ。急がないと殺すわよ。」タイの後ろをついていくパーカーに向かって文句を言ったが、彼はタイのお尻を掴む真似をしながらふざけて眉毛を上下させた。

「変態!」靴の紐を結ぼうとかがみ込むと、パーカーは私の悪態に歯を見せてニヤけた。さっきのベンチに座って結べばいいのだが、さっさと終わらせたかった。

「来るの?」スーパーモデルのようなトレーナーのマルがスタジオのドアから顔を出し、靴紐を縛り終え立ち上がった私に腕時計を指で叩きながら見せた。

頭に血が上がり、少しふらついた。マルは呆れた表情で、ドアの向こうへ消えていった。

「オッケー。。。オッケー。準備はできたわ。さあ、行こう。」

パーカーはつま先で軽く飛び跳ねながら私に近づき、唖然としている私の前で腕を胸の前でクロスさせてから、踵を臀部まで上げて体を伸ばしていた。

「あんたなんか大嫌い。」

「帰ってもいいのよ。」

「そんなことしたら、本当に殺してやるわ。どこに住んでいるのか知っているんだから。」

パーカーは私の横のロッカーにバッグを入れると、ウォーターボトルを手にした。

「ボトルを持っていくのよ。」

「ちっ。忘れるところだったわ。」パーカーは、バッグのサイドポケットからウォーターボトルを取り出し、しっかり蓋が閉まっているかを確認している私を見つめていた。私の手が震えている事に気がついているのだろう。

「落ち着いて、ハン。あなたなら出来るわよ。自分のペースでやればいいから。」

「言うのは簡単よ。あんたのペースならすぐに私に追いつくわ。」

「ウォーキングマシンの上を歩くのよ。誰もあなたに追いつかないわよ。」私の落ち着きがない様子を楽しんでいるのが、彼のユーモアから感じとれる。

ヤなやつ。

「自惚れ屋!」

「私の可愛いお尻は、このショーツを履くと素敵に見えるでしょ?ありがと、ハン。」

ドア越しに誰かがマイクを通して話しているのが聞こえ、タイが受付あたりの壁をじっと見ている。「クラスが始まるから、スタジオに入って。」

「ハン、行きなさいよ。」パーカーは私をドアの方へ押しやりながらそう言った。

「だめ。出来ないわ。」鼓動が耳まで鳴り響く。

「行くのよ。行かないのなら、この廊下に置き去りにするから。あんたが僕に励まして欲しいって言うから僕をここへ連れてきたんでしょ?ほら、励ましているじゃない。」パーカーは、私の腕を掴むと小言を言った。「動きなさい、ダニエル!」

身震いをして頷くと、私はドアノブに手をかけた。

「やっと来たわね。。。」マロリーはそう呟くと、ヘッドセットのマイクのスイッチを入れた。「ステーション5と6よ。そこへ行って。」

「あの。。。何をすればいいのかしら?」

マロリーは、不機嫌そうな目線を私に向けた。

「スタートボタンを押せばいいわ。ウォーカーは3.5から4.5の間よ。」そう言うと、パーカーの方を向いた。「ランナーは、6.5かそれ以上よ。」

「2人とも、自分に合うペースを見つけて。TRXトレーニングのグループが終わったら指示を出すわ。」

そして、私たち2人に静かにしているようにとの動作をすると、10人ほどが待っている鏡の壁の方へ向かった。

「さあ、やりましょう。」パーカーはパチンと手を叩き、私の手を掴んでランニングマシンの方へ引っ張っていった。それぞれのマシンには番号がつけてあり、私は5番、パーカーは6番の上に乗る。

ウォーカーに対する彼女の意地が悪く皮肉っぽいコメントを気にもせず、スピードを3.5に設定し歩き始めた。パーカーは、6にして軽くジョギングを始めた。殴り飛ばしてやりたかったが、パーカーを殴ろうとでもすれば、私はランニングマシンから転げ落ちることになるだろう。

「あの変なものは何なの?」私たちの上の壁に、小さい四角に区切られ、名前と番号が表示されている画面のあるテレビが埋め込まれている。

「統計数をトラッキングするためよ。」パーカーは画面上に小分けにされたボックスを見ると、心拍計を軽く叩いた。

「なんだって? みんなに見せるために?」

「お嬢さん、落ち着きなさいよ。誰もあなたの名前を知らないわ。みんな、自分の数字を見ているの。あなたのじゃないわよ。」

「なんてこと。マルが私の統計を見れるって事じゃない。」私は焦っていた。

「あのトレーナーの事?」

マルが何かのプランクを床の上でやっている方を見つめ、頷いた。

そんなことはないわ。絶対。

「彼女のニックネーム、マルって言うの? あの、ディズニーの妖精の少女、マレフィセントみたいな?」

パーカーの得意そうなにやけ顔を見ながら、思わずふんと鼻を鳴らしてしまった。「マロニーからきてると思うわ。でも、マレフィセントって名前の方が彼女には合っているかも。」

「そうよね。あんなセクシーな女性には、あのビッチな顔つきは強烈よね。」彼女がデモンストレーションを終えるのを見ながら、パーカーの口は不快そうなへの字になっていた。

確かに、あの素晴らしい体型を見て、トレーナーになった理由はわかるが、あの態度は人を惹きつけるものではない。「顔だけではないってわかる気がするわ。」

「まあ。。。そうね。多分ね。」と言い、パーカーはウォーターボトルの水をがぶ飲みした。

歩き続けていると運動することを拒むようにふくらはぎの筋肉が張り出し、まだ歩き始めたばかりなのにこのトレーニングに打ち負かされるような気がしてきた。

「あんたが彼女の事をそう言っているって知られない方がいいわよ。あんたがくだらない奴だからって、私まで彼女のターゲットになる必要はないからね。」

「何ですって。。。だったら、ドラゴンって呼ぶわ。」口から炎を吐き出す真似をするパーカーを見て、私は笑った。

上を見上げると、自分のスクリーンの小さなボックスが緑に変わった。緑に変わるのはいい事だと願いたい。

『緑でいいのよ。。。そうでしょ?』

「どうしてあなたのは青なの?」私は彼の名前が書かれたボックスを指した。

「え? 何?」とスクリーンを見上げ、「ああ。。。多分、僕の心拍の方が遅いからじゃないかな。」

「どうして私だけが緑なのよ?」

「ただのウォームアップよ。すぐに変わるわ。」安心感のある笑顔が無表情に変わった。

わかった。。。次はどの色に変わればいいの?

自分が必要以上にあの小さな画面を見ていることに気づいて怖気付いた。

誰もあの画面を気にしているような素振りを見せていない。恐らく、リラックスして自分のことに集中するべきなんだ。

「ランニングマシンの人。次はインターバルをするわ。スリープッシュとワンオールアウトよ。間に休憩を入れる時は指示を出すわ。」マロリーがヘッドセットから指示を出した。

「ランナーはフラットなまま。ウォーカーは6パーセント傾斜を上げて。」

もう! スピードを上げないといけない。

「30秒続けるわ。3。。。2。。。1。。。」マロニーは有無を言わせない口調で、ランニングマシン後ろを行き来していた。

大丈夫。。。集中して。出来るわ。

私はランニングマシンのスピードを5に設定し、軽いジョギングをした。私のスクリーンはすぐにオレンジに変わったが、パーカーのスクリーンを見て驚いた。彼の色はまだ緑のままだ。

それに、スピードを9に上げた。まじかよ?

「ハンナ。初日にジョギングをする必要はないわ。」マロリーが私のマシンの横に立っている。すでに息切れし始めていたが、声のする方を見た。

「次よ。歩いて。でも、傾斜を上げて。同じ心拍数が出るわ。初日から自分を痛めつけることはないのよ。」

嫌な気分になっていいのかどうかわからなかった。彼女が時間が来たと言った時に画面をを見みたが、私のボックスは赤とオレンジを行ったり来たりしていた。最初のトレーニングだ。彼女が言った通り、ゆっくりと始めた方がいいのかもしれない。

「ランニングマシンの人。いくわよ。プッシュ2よ。ウォーカー、傾斜を7に上げて。」と指示を出した。「きついと思うけど、全力は出し切らないで。3。。。2。。。1。。。」

傾斜を上げるボタンを押すと、すぐに歩いている強度が変わるのが感じられた。まるで、丘を登っているような感じだ。

私の足は歩くことを拒否しているが、ジョギングをしていた時よりも楽になった。彼女が時間を伝える指示を出すと、パーカーは早足のスピードまで速度を下げて、私を見た。

「ハン、調子はどう?」

「いい。。。と思う。ゆっくりよ。」がっかりした気分になり、溜め息をついた。

「ハン。上手くやっているわ。マルは意地悪をしようとしたわけではないのよ。自分を追い込みすぎると怪我をしやすくなるのよ。」

「わかってるけど、とても嫌なの。」涙が溢れそうになったのを、我慢して堪えて飲み込んだ。

『私は出来る。出来るようになるわ。』

多少の恥は、自分をケアするための価値がある。プライドを捨て、ただ歩き続けた。

「みんな、最後のプッシュよ。今の状態を維持するか、前回よりも強度を上げるのよ。さあ、いくわよ!」私たちの後ろの通路を走りながら、彼女は大きな音で手を叩いた。「3。。。2。。。1。。。」

「ベイビー。あんたなら出来るわ。」そう私を励まし、パーカーはスピードを上げる。

ランニングマシンの正面にある鏡を見ると、玉のような汗が額に吹き出している。太ももの裏側が焼けるように熱くなっているのを感じた。このトレーニングは、私にとって決して楽しいものではない。

「終わりまであと90秒。その後は、最初のスピードに戻して。スローダウンするわよ。3。。。2。。。1。。。」

傾斜を戻し、スクリーンを見上げた。赤ではない。それに、まだ。。。死にそうでは無い。

「深呼吸をして、心拍を下げて。最初のオールアウトをしているのよ。」

「わかったわよ。。。」私の素っ気ない口調は、パーカーを笑わせた。

「大丈夫だって、ハン。自分の調子に合わせればいいわ。」

「このトレーニングは、とても不快だわ。」

「あら。。。それは大変ね。ごちゃごちゃ言わないの。ピーナッツバターカップさん。」

「それがこうなった原因よ。わかってるわ。」笑いながら転げ落ちないように慎重に、パーカーに向け中指を立てた。

「とにかく。。。僕が力になるからさ。」

「話せるエネルギーがあるのなら、強度を上げられる余裕があるのね。次のセットを始めるわよ!3。。。2。。。1。。。」マロリーがそう言うと、彼女と鏡越しに目が合った。

鏡に映っている自分の姿に集中し、流れに乗りゆっくりと不快なカロリー消費に向き合うことにした。

全てのステップは私をゴールに導いてくれる。どれほどあのヘッドセットを付けた小さなドラゴンを斬殺したくても、ゴールに意識を集中し続けるだけ。

「マシンの人。。。終わりよ。マシンから降りて。」

「私も降りないといけない?」息を切らし、微かに震える足でランニングマシンを降りた。

「そうよ。さあ、行きましょう。」

私はパーカーに連れられて鏡のついた壁の方へ行くと、マルがTRXストラップを使ってブリッジをし、容易に立ち上がるのを見て怖気づいてしまった。

彼女の動きを見ているだけで、身体が痛む。

「この動きはパーフェクトなフォームでやらなくてもいいわ。ブリッジの16レップを全て出来ないようだったら、アップライトロウをしてもいいわよ。」

「何の説明をしたのかわかったフリをするわ。」苦笑しているパーカーや他の人たちはレップをこなさないといけないが、マルが間接的に私のことを言ったことで、私はそう言い放ち、笑った。

「怖がっているのはわかっているわ。でも、あなたはここにいるのよ。だからここにいる時間を有効に使いましょうよ。簡単ではないけど、あなたなら出来るわ。」

マルは私のストラップの用意をすると、素早く他の人へ移動していったので、私は少しずつ後ろ向きに体を下ろした。

腕がもう震えてる。しかし、自分を奮い立たせてレップごとに起き上がる。レップ6を終え、これ以上続けられなくなった。腕が痛み、息が切れる。あのスクリーンの小さな四角がオレンジに変わった。

「ハン、深呼吸して。アップライトローに変えて動き続けて。」パーカーがTRXのハンドルを軽く握り直しながら、隣のステーションから囁いた。

「明日は、腕を動かせそうにないわ。」

「まあ。。。乗り越えないとね。さ、続けて。」と私を励ますし、「大丈夫よ。出来るわ。」と言った。

特別サイズの女の子用パンティのようなパンツを上げると、両足を整え、最後の10レップを終えて悪魔のようなTRXストラップから手を離すと腕を振った。

「よくやったわ、ハンナ。」私のステーションを通り過ぎながら、マロリーが言った。

「あ。。。ありがとう。」息が切れる。マルはそんなに手強い相手ではないのかも。

「ウェイトグループの人。ローイングマシンへ移動して。」

ああ。。。さっきの考えを撤回するわ。

次の十分は記憶がほとんどない。足が痛み、胸が苦しく、腕は震えている。。。でも。。。そんなに悪くない。

「ほら。。。できたでしょ。そんなに悪くなかったでしょ?」床に座り、ストレッチをしている時パーカーが言った。

「そうね。」

「やり終えたじゃない。」と、拳を前へ出し私とフィストバンプをした。「大切なのはそれよ。終えること。」

「立ち上がれないかも。。。」

「そんなにドラマチックにならないでよ。」呆れた表情でパーカーが言うので、私は口を尖らせながら続けた。

「嘘じゃないわ。本当に立ち上がれないと思う。」

パーカーはかがみ込んで私を立ち上がらせてくれた。そして、嫌々彼の後につき、荷物を取りにスタジオのドアへ向かった。息が上がったままだった。

「君ならできるって言ったよね。」壁にもたれかかり、ハイタッチの手を上げてタイが自信に満ちた笑顔で言った。

「そうね。。。まさしくその通り。」

「その言い方は、皮肉っぽいな。」とタイは愚痴をこぼした。

そして、ハイタッチをして彼を通り過ぎ、ロッカールームへ向かった。

***

「何か食べて帰るか、そのまま帰る?」パーカーとスタジオを後にするとき、彼が聞いた。空腹だが、食欲がない。

「座っていたいわ。きっと、1度座ったら今日はもう立ち上がれない。」

「寝る前に、もう1本水を飲んでおくのよ。」パーカーが教えてくれた。「飲まないと、後で後悔することになるわ。」

「はい。お父さん。」

「僕がそう言わなかった、なんて言わないでよ。知ったかぶりさん。もし、何かあったらメールしてね。」

「家に着いたら、きっと寝落ちするわ。でも、連絡する。」

パーカーは、指にぶら下げている鍵をぐるりと回すと、ドアへ向かった。彼の後ろに着いて歩いていた私は、ウォーターボトルを忘れたことに気がついた。

ボトルは、置き忘れたロッカーの側の床の上にそのまま置いてあり、かがみ込んで手にしようとしたら、思わず唸り声が出た。

「Jどうした?次のクラスに出るのか?」タイがフロントドアから入ってきた人の名前を呼んだ。

誰なのか見えていなかったが、受付カウンターを通り過ぎるときに彼を見かけた瞬間、私の吐息は彼をとらえた。

濃いブルーの帽子を顔が隠れるほど深く被っており、彼だと見分けるのが難しかったが、私は、それが昨日と同じ男性だとすぐにわかった。ついていない。。。

「また、金曜日。」タイが受付を通り過ぎる私に手を振ると、Jは目の前を通り過ぎる私を不思議そうな顔つきでみた。

「ちょっと待って。。。」彼はドアを開けようとしている私を呼び止めた。躊躇したが、彼の声に振り向いた。

『この異常なほどかっこいい男性が、私に何の用があるの?』

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