
Broken Queen ―捨てられた狼女は運命を覆す― 3巻
Author
Danni D
Reads
🔥29.5M
Chapters
3
医師に命を救われたアリエルは、自分の血液中には大量の銀があり生きていること自体が奇跡だということを知る。また、秘密を抱え苦しむが、父からのアドバイスもありアレックスを信じてみようかと考え出す。そんなとき、ドムからアレックスと一緒に映画に行かないかと誘われる。
恋に落ちる
アリエル
君は死んでいてもおかしくない。
私は医師を見つめ、完全に言葉を失った。つまり、私は生きている死体だと言われたのだ。どう答えていいかわからない。
「よく……よくわかりません」私はようやく言葉を発した。
「血液検査の結果、あなたの血液中には前例のないレベルの銀が検出されました。
医師としての私のキャリアのなかで、君の体内にある銀のほんの一部でも、耐えられた狼人間を見たことがありません」
(なんてこと。あの銀の弾丸だ!)
脚の傷が治ったとき、弾丸がまだ私の中にあったことを忘れていた。それは何日も私の中にあった。
「正直なところ、一番不思議なのはそれではないんです」医師は医学的奇跡でも見るかのような目で私を見た。「どういうわけか、あなたの体は銀に対抗して、中和しているんです。
あなたの血液は銀を吸収し、除去しています。この数日間、あなたが自分の体をどう感じていたのか、私には想像もつきません」
奇妙な悪寒。疲労感。変身できなかったこと。
それは私の体が抵抗していたからに違いない。
「科学的にはまったく理解できません」医師は首を振りながら言った。「この状況を唯一言い表せる言葉は……奇跡です」
突然、みぞおちの辺りがゾッとした。
実験台に縛りつけられ、注射針を刺され、薬を大量に注入された記憶が脳裏をよぎる。
この医師に私の力のことは話せない。もうモルモットにはなりたくない。
(このことは誰にも言わず、秘密にしておこう)
「実は試薬が汚染されていたなんてことは? もう一度検査したほうがいいかもしれませんよ」私は、彼の主張がバカバカしいとでも言いたげに振舞った。
「私が生きていることはありえないって、ご自分で言ったじゃないですか」
「そうなんです。私も同じことを考えていました」彼は顎を撫でた。「検査室で何かが混入したのかもしれない。もう一度検査しても本当に構いませんか?」
もう本来の自分に戻れたように感じるんだから、きっと銀は完全に消えてしまったはずだ。これは、私が正常であることを彼に納得させる唯一のチャンスだ。
「もちろんです」私は無理に笑顔を作って答えた。
***
数時間後、私は完璧な健康証明書をもらって退院した。
血液中に銀の痕跡がなかったので、医師は最初の検査が汚染されていたと結論づけるしかなかった。
医師は、市場での私の状態を、ならず者に襲われたストレスによるものだと診断して、抗不安薬をくれた。正直、それは服用すると思う。
でも、もう少しで私の秘密がバレそうだった……。
みんなが真実を知ったらどうなるかと思うと恐ろしい。
もう二度とモルモットにされたくない。
誰も信用できない。本当に?
アレックスのことを考える。彼はどれだけ支えてくれただろうか。彼ならどう反応するだろう……。
ほかのすべてのことを理解してくれたように、理解してくれるだろうか。
それとも、私を奇人扱いするだろうか?
こういうときこそ、パパと話したい。私はスマホを取り出し、切望するアドバイスをくれることを期待して、パパにメッセージを打ち始めた。
アリエル
ねえ、パパ
アリエル
会いたいよ
パパ
パパもだ、かわいい戦士
パパ
本当にすごく!
パパ
君がここにいないと寂しい
パパ
そこには慣れた?
アリエル
正直言って、つらい
アリエル
でも、スティーヴとルイーザはすばらしい人たちだよ
パパ
そうだね、毎日電話して近況を聞いてるんだ
アリエル
パパ!
パパ
親バカでごめんよ
パパ
だが、かわいい娘が無事でいるか確かめたいんだ
アリエル
アドバイスが欲しいんだけど……
パパ
言ってごらん。パパは全身👂👂👂😂。
アリエル
うわぁ、パパ……
アリエル
私がいなくなってから、ジョークがひどくなってるのは間違いないね
アリエル
実は、最近親しくなってきた人がいるんだ……
アリエル
友達みたいな感じなんだけど
アリエル
彼に正直に話せなかったの
アリエル
彼を信じていいのかわからない
パパ
誰かと本当の友情を築けるとは思わないな……
パパ
もし、おまえが相手に正直でないならね
パパ
信じない理由はあった?
アリエル
ううん、今のところは
パパ
とりあえず信じてみるっていうのは?
パパ
いずれにせよ、君は正しいことをするってパパは知ってるよ
アリエル
ありがとう、パパ
パパ
近いうちに会えるといいな🌻🌻🌻
アレックスにチャンスを与えるべき? このとんでもない状況を切り抜ける手助けをしてくれる人が、ここにいてくれたらいいのに……。
私の信用問題はどうしようもないところに来ている。アレックスの私を見る目が変わったら? そんなの耐えられない
(でも、秘密を持ったまま、どうやって彼と親しくなれるっていうの? 私たちの間にはいつも壁があることになるのに)
携帯が突然ブーッと鳴って、ドムからメッセージが届いた。
ドム
ヘイ、ルーニー・マクムーニー
ドム
何してる?
アリエル
あなたって本当にニックネームをつけるのが下手ね……
アリエル
退院した
アリエル
完璧な健康証明書つき
ドム
俺とアレックスで考えてたんだ
ドム
昨日あんなことがあったしさ
ドム
映画でも観てのんびりしない?
ドム
どう?
アリエル
本当にアレックスが私を誘ってるの?
ドム
ああ
ドム
俺に君を誘えってさりげなくない言い方をしてた
ドム
だから、つまり……
ドム
🍑を宮殿に持っておいで
***
宮殿の映画館は信じられないほどすごい。もちろん、宮殿には専用の映画館がある。
座り心地のいいソファが巨大なスクリーンに向かって並び、サラウンド・サウンドのスピーカーが映画に完全に没入させてくれる。文字通り感動体験だ。
でも、アクション満載の映画の興奮は、ソファに座っている私とアレックスの距離が少しずつ縮まるドキドキには敵わない。
映画が始まったとき、彼は私に隣に座るように言ったが、どういうわけか、ストーリーが進むにつれて、アレックスが私に近づいてきた。
今では肩が当たっていて、ポップコーンを食べようとするアレックスの腕が私の腕に軽く触れるたびに、鳥肌が立った。
「映画、楽しんでるかい?」アレックスは私の耳元で囁いた。「ちょっと安っぽいけど、ドムが『ウルフ・ウォリアーズ:第3王国の英雄たち』をどうしても観たいって言ってさ」
「私は大丈夫」私はクスクス笑いたいのをこらえて言った。「ちょっとやりすぎなところもあるけど、一緒にいて楽しいし」
アレックスの腕が私の首の後ろに触れ、背筋が痺れるように震えた。
「君が大丈夫か確かめたかったんだ……はぐれ者どもとあんなことがあったから」彼は言って、静かな声で続ける。
「無力だと感じたのはわかるが、君は自分を過小評価していると思う。もし戦いになったら、俺は君に間違いなくそばにいてほしいと思うよ」
「それが“王国のための戦い”だとしても?」私は冗談めかして尋ねた。巨大なスクリーンでは、何十匹ものスーパーパワーを持つ狼人間たちが戦いを繰り広げている。
「特にあの戦いでは」彼は笑いながら言った。
「シーッ!」ドムはパッとこちらを見て、唇に指を当てた。彼は完全に映画に没頭している。「ここが最高にいいところなんだ!」
ドムがポップコーンを投げてきたので、アレックスと私はソファに沈み込んだ。私はもうアレックスの隣に座っておらず、ほとんど彼の膝に乗りそうになっていた。
私は彼の肩に頭を預け、彼の腕が私の腰に回された。
「とにかく、君が無事でよかった」彼は優しく言い、私の脇腹を軽く撫でた。
「何か必要なことがあったら、君が経験したことについて話すだけでも、俺は君のためにここにいるよって言っておきたかったんだ」
私はアレックスの温かい体に寄りかかり、目を閉じて微笑んだ。
(もしかしたら、アレックスは信じてもいい人なのかもしれない)
アレックス
アリエルはリラックスした表情をしていて、呼吸も穏やかで、俺にもたれかかって眠っている。
こんな彼女を見るのは嬉しい。彼女はいつも緊張していて、たくさんの重荷を背負っているが、今は……安らかな表情だ。
(なんてこった、無防備になるともっとかわいいな)
そう思った瞬間、胃がムカムカしてきた。彼女に近づきすぎている。
客観的にかわいいと思っているだけだと自分に言い聞かせる。
だが、それ以上だとわかっている……。
俺は彼女に恋をしている、と思う。
オリヴィアのことが頭をよぎる。つらすぎて思い出したくないのに、思い出さずにはいられない。
オリヴィアはよくこんなふうに、まさにこの部屋で、俺の隣で眠り込んだ。
登場人物が間抜けな決断をすると、画面に向かって怒鳴った。
クレジットが終わるまで座っていて、スクリーンが黒くなると拍手をした。
そして今、オリヴィアとの思い出が色あせ始めている……。
(それはダメだ)
アリエルを支えていた腕を唐突に引き抜くと、彼女は目を覚ました。
「わあ、やだ、私寝ちゃってた?」彼女は眠そうな声を出す。
「ああ、そして君はクレジットの後のシーンも見逃した」ドムはイライラして答えた。
「もうこんな時間だなんて。帰らなくちゃ」アリエルは立ち上がって伸びをした。
彼女は期待に満ちた美しい目で俺を見下ろした。俺は目を逸らすしかなかった。彼女にもっと与えられたらと思うが、俺には無理だ。
今は何もあげられない。
「ん、じゃあ、またね」そう言った彼女の声には失望がかすかに滲んでいた。「明日から訓練が始まるから、朝早くに起きなくちゃいけないし」
「幸運を祈るよ、アリエル。君は群れの戦士たちの強力な一員になるだろう」俺はひどく堅苦しい口調で言った。
「じゃあね、アリ! 訓練が終わったら連絡するから、ピザでも食べに行こうか?」ドムが声をかけ、彼女は手を振った。
「うん、行こう、ドム」アリエルが部屋を出て行き、俺は罪悪感に襲われる。
(どうして普通の気持ちになれないんだろう?)
ドムは意味ありげに俺に向かって片眉を上げた。「それで……おまえたち2人は……親密そうだった」
「ドム……今はダメだ。そんな気分じゃない」
「なんだよ。俺はただ……相性がよさそうに見えたって言ってるだけだ。デートにでも誘えよ」
(くそっ。この件にはドムに首を突っ込んでほしくない)
「アリエルのために無駄にする時間などない」俺は怒りを込めて唸るように言った。「かわいそうだと思ったから誘っただけだ。わかったな?」
ふと、アリエルがドアのところに立っているのに気づいた。彼女は目に涙を浮かべている。
(しまった)
「私……私、スマホを忘れて」そう言った彼女の声は震えていた。
彼女はさっと私の横を通り過ぎてスマホを掴むと、ドアに向かって走り出した。その直前、彼女が傷ついた表情をしているのが見えた。
「アリエル、待ってくれ!」彼女を呼んだが、止まらなかった。彼女を責めることはできない。
しくじった。大失敗だ。




