
メイソン アルマーニを着た悪魔 9巻
highlight_author
Zainab Sambo
highlight_reads
🔥75.6M
highlight_chapters
4
メイソンとの関係が深まるごとに、彼への気持ちが大きくなっていることに戸惑うローレン。好きと認めることでいつか離れないといけなくなる契約が怖くなり、どうしたらいいのかわからないまま、彼が仕事でいない数日をお酒でごまかすローレンのもとに、親友であるベスとアテナがやってくる。2人に話を聞いてもらいようやく気持ちを素直に認めたローレンは、彼と再会したときの振る舞いにドギマギする。そんな中、メイソンは自分の新しいビジネスパートナーを紹介しようとするが、その人はローレンが嫌でもよく知る人物だった…
対象年齢:18歳以上
第38章
ローレン
私は部屋に1人でいるふりをしようとしていた。
でもそうじゃなかった。
私の向かいの机にはメイソンが座っていて、仕事に没頭していた。
私は彼のソファであぐらをかき、全神経を注いで読むべき書類を膝の上に抱えていた。
私は何度も彼を見上げ、彼を分析した。時々、強烈な、しかしまったく感情のない視線が返ってきた。
私は緊張してすぐに下を向き、こんな書庫に来るんじゃなかった、彼が自分の書斎で仕事をしていればよかったのにと思った。
1時間もここにいながら、誰も何も言わず、私はまだ目を通すべき書類の1単語も消化できていなかった。
私がメイソンを見ているように、メイソンも私を見ているのではないかと思うと、メイソンと同じ部屋で集中するのは不可能だった。緊張のあまり、顔を上げてそれを確かめることもできなかった。
彼はすでに2度私に目を向けたし、3度目は彼から言葉をかけられるだろう。
彼を見なくても、彼の存在が私を支配し、感性にまで不思議と働きかけているのを感じた。そしてわずかな物音に私は驚き、鼓動が速くなった。
この拷問に終止符を打つためなら、私は何をしてもいい。
そして、彼に理由を問いつめられることなく、立ち上がってその場を去ることはできなかったし、彼にばれることなく、ただそこに立って嘘をつくこともできなかった。
もうひとつ、彼も私がいると集中できないのだろうか?いや、たとえ私が裸でそこに座っていても、彼には何も起こらないだろう。
彼の声が私の頭を切り裂き、耳に心地よく響いた。「君の上司は、君が仕事よりぼうっとしながら過ごす時間の方が長いことを知っているのか?」
「彼女は私が今まで働いてきた中で最高の上司なの」と私は答えながら恥ずかしさが多少顔に出た。うまくごまかしたので彼には見えなかったはずだ。
私は正直に話したが、その言葉は彼を苛立たせることにもなった。
「そう思っているのなら、彼女はいい上司ではないね。」彼は椅子にもたれかかったまま、指が唇の下を軽くかすめ、もう片方の手はテーブルの上でペンをくるくると動かしていた。
彼の声からはわからなかったが、彼の目からはわかった。その目は私を笑っているようで、私が自分の感情に押し流されるのを待つようだった。
メイソンは静かに続けた。頭を少し下に傾け、ペンを強く睨んだ。
「部下に自分が給料をもらっていることを忘れるほどだらけさせるような上司は、いい上司とは言えない。しかし、部下が上司を恐れていれば、自分の考えに耽っている時間はないだろ。」
「部下に目の前の仕事以外のことを考えさせない。それこそが素晴らしい上司だ。」
私と目が合うと、彼の口元には軽い薄笑いがあった。
「私があなたのことを最高の上司だとは思っていないから、そんなことを言うんでしょう。」私は彼の言葉のばかばかしさに首を振りながら、笑いながら言い返した。
私は、彼が私にとって最高かつ最悪であることには触れなかった。
最悪なところは、彼が常に最悪のやり方で私を貶めようとしていたから。
そして最高なところは、私が幸せであることの本当の意味を知ることができたから。いつも自分を笑顔にしたり、笑わせたりしてくれるその人がいることで、朝目覚めて、その日1日が楽しみで仕方がなかったからだ。
「君がただのアシスタントであったことを思えば、私は自分が一番であろうと、君にとっての一番であろうとどうでもいい。君の仕事に対する意見も、最高の上司が誰かということも、私には何の価値もない。」
私は彼に、私たちの間に立ちはだかるとても大事なことを思い出させようとした。彼にそれが要るわけではないとは思うけど。「でも今、私はあなたの妻なのよ。」
彼の眉が鋭くつり上がった。「君は私にそれを言いたくてしょうがないんだな。私の妻になってよっぽど大きな達成感があるのか、ローレン?」
私は微笑まざるを得なかった。彼の地位やお金に一度も関心を持ったことがなかったからだ。
「その答えはわかってるでしょ、メイソン? あなたの妻になりたがる女がどれだけいるか、あなたがどれだけ権力を持ち、金持ちか、私によく言ってるじゃない。」
「あなたじゃない、私がそれを達成したかのように言うのが好きなのは。」
笑顔は続かなかった。
「でも、不満はないんだろ?」
メイソンの声に何か言いたげな響きがあるのが気に障った。
もちろん、私に不満はないし、不満を言う権利もない。なぜなら私は父を助けているし、父もそれを知っていたからだ。
私の喉が締め付けられたが、冷静さは失わなかった。「そうやっていつも私に不満がない理由を思い知らせてくれるのね。」また私のニヤニヤ笑いが戻り、さらに大きく、明るくなり、よりわざとらしくなった。
彼の声は急に深くなった。「私たち2人ともその理由をわかってるはずだからだろ。」
「楽しいおしゃべりだったわね。」私は立ち上がり、手に持っていた書類をまとめ、彼に怒鳴りたくなる前に書庫を出ようとした。
しかし、鋭い痛みに私はびくっとして手を引っ込めた。恐ろしいことに私の手の平から血が出ていた。
チクチクと痛み始めたので私はうずくまったが、メイソンは私が彼の動きを確認する前に私のそばにいた。
「どうしたんだ?」
「画鋲で手を切ったの。」私は画鋲を書類の下に入れていたのを忘れていた。
彼が私の顔を見ていたので、私は何でもないと受け流し、彼に小さく微笑みかけたが、痛みは本格的だった。
小さな切り傷は大きな切り傷よりも痛い。
「血が出てるんじゃないか?」それは質問というより断定だった。
「大丈夫よ。」
「血が出てるじゃないか。」
「メイソン、大したことないから。」でも彼は私から離れ、机のまわりをゴソゴソして引き出しを開け閉めしていた。「何を探してるの?」
「救急箱。」
「小さな切り傷よ。」
「それで?」彼は引き出しの中で気になるものを見つけて持ってきた。「何時間も泣き言を聞いてられないからな。見せてごらん。」
彼の口調はいつもより少しだけやわらかく、私はその心配そうな声に驚いた。
私の怪我を心配してくれたのは父だけだった。彼は私の傷すべてを手当てし、良くなるようにキスしてくれた。そして今、メイソンがそれをしようとしていた。彼は私を元気にしたかったのだ。
問題は、より上手なキスをしてくれるかどうかだ。
「ローレン。」
私は彼を見上げ、彼の真剣なまなざしを受け、心臓がほんの少し高鳴るのを感じた。
「手を貸して、ローレン。私に任せろ。」
彼の言葉は私の息を止め、めまいを起こさせた。私はその瞬間、硬直している自分に嫌気がし、彼の声が不確かなものであることを願った。でも彼は本気だった。
彼の目には悪戯っぽい瞬きはなく、私を見つめ、私が彼を信頼するのをじっと待っていた。
信頼―
私は彼を信頼した。
私は返事として小さく頷き、彼が救急箱の中を探し回っている最中、ただ彼を見つめていた。
消毒ウェットティッシュの包み紙が破れる音がはっきりと聞こえ、彼の熱い息が私の顔にかかるのを感じた。とても近かった。
「大丈夫か?」
私はあきれた。「小っちゃな傷よ、メイソン。涙も出ないわ。まじめな話、私は大人なんだから。」
彼は笑った。「それがわかっただけでも嬉しいよ。」
そして彼は私の手を握り、彼の冷たさが私の温かさに触れた。彼の軽く叩いたところが少し痛んだが、そっと触れた彼の手は優しかった。
彼が顔を上げたとき、突然、あまりにリアルに感じた。彼の目はいつもと違って、より黒ずんで見えた。
「できた」包帯を巻いた彼の指は驚くほど温かく、私は頬の内側を噛んだ。「大丈夫か?」
彼の表情は張り詰めていた。メイソンのことだからいつも張り詰めていたが、今回は違う意味で張り詰めていた。私がうなずくと、彼は私の手を離し、自分のデスクに戻った。
私は顔をしかめて見つめたまま、なぜ彼のこんな一面が出てきたのか、なぜ父が何度もしてくれたのと同じように私の面倒を見てくれたのか、不思議に思った。
彼のこの親切な行為が、なぜ私の人生に疑問符をつけるのか、不思議でならなかった。
彼は私を混乱させた。
彼は私に、自分についても、彼についても、すべて疑問を生じさせた。
***
私はお酒に慣れていなかった。
でも、気が向いたときにバーボンをグラス2杯、あるいは床に座ってベスと、そしてアテナと知り合ってからはアテナを交えてゲームをしながらウォッカを3ショットで飲み干したりすることなどはあった。
ほとんどの人が仕事に出かけているか、起きたばかりの時間帯に私が酒を飲んでいるのは危険信号だった。
一体何人が安物のウイスキーのボトルをテーブルに置き、窓の外を見つめながら、アルコールが効いてくるまでの時間を計っているのだろう。
確かに、何日経ったかは数えていない。
ここに座って心ゆくまで酒を飲む目的は、何も考えないようにするためだった。この数日間、私を苦しめていた嫌な記憶をとにかく思い出したくなかった。
そしてようやくわかった。
なんとなく。
1人では必要な答えは得られないという結論に達したのだ。悲しいウイスキーのグラスも、あまり役には立たなかった。
安いウイスキーを買った結果がこれだ。
「パーティーに招待してくれないの?」声のする方に首を振ると、ベスとアテナが私の後ろに立っていた。
「どう、大丈夫?」
そう尋ねたのはアテナで、椅子を押し出して座っていた。ベスはちょうどアテナの椅子の肘に手をかけていて、バスローブを着て、髪は濡れ、目は輝いていた。
「どう見える?」私はグラスを大きく飲み干し、噛みついた。ベスは笑い、アテナは顔をしかめた。
アテナは何が起こっているのか気づいていなかったと思うし、ベスが彼女にすべてを話したのかもしれない。私は驚かなかった。
「そうそう、言い忘れたけど、彼女はキレやすいの。今、彼女と一緒に暮らすのはちょっと大変で、こんなことを言うなんて思ってもみなかったけど、お願いだから出てって。」
「どうしたの? メールでは何も言ってなかったじゃない。」
私は足を組み替え、2人を振り向いた。
「酷い状態だと思う?」口に出したら疑問形になってしまった。
ベスもアテナも心配しているようには見えなかったし、私も2人がそんなに驚くとは思わなかった。
「あら大変。」
アテナの目はベスへ、そして私へと移り、息を吐いた。「何? どういう意味?」
しかし、私は唇を固く閉ざしたままだった。自分がまだそれを受け入れる、あるいは、それを信じるのに必死だったことを考えると、それを口にするのはとても難しいことに突然気づいたのだ。
アテナがベスを見ると、ベスは椅子の肘にもたれてため息をついた。「私たちが話していたことよ。確信してるって話してたじゃない?」 ベスは少し熱意を込めて言った。
「あなたは私に200ポンド借りがあるわよ。私は2カ月から5カ月くらいで何か起こるって言ったでしょ。」
私は目をぱちくりし、信じられない思いで尋ねた。「まさかあなたたち私に賭けてるの? そんなの知らなかったわよ」
ベスとアテナは、私とメイソンの関係性を賭けて、私が思っている以上に話していたのだ。2人の顔を殴りたくなった。
ベスが私の顔を見て、私はまっすぐ見返すと、彼女の目には笑いが浮かんでいた。「もし賭けてなかったら、私たちは友達じゃないでしょ?」
本当に、本当に、この混乱な状況に巻き込まれたとき、唯一望まなかったのは、ベスが言うことが合ってることになってしまうことだった。彼女はずっとこれを望んでいたし、アテナもそうだ。
そんなに簡単なことだと思ったのだろうか?
「7カ月にまで延ばすべきじゃなかったなー。」アテナはベスを見つめながら言った。「でも、言わせてもらうと、そこまですぐ揺れる軟弱者とは知らなかったんだもん。」
「軟弱って言ったでしょ。というか、彼を見て軟弱にならない人はいないわよ。ほら、彼のことを考えただけで、私の足がガクガクしてきちゃった。」
「2人とも、もういい?」私は眉をひそめて訊ねたが、2人は私を無視して内輪話で盛り上がるようにくすくす笑った。
「でも、何を意味してるかわかる?」
「もうヤったかってこと?」
「その通りよ。もっと楽な人を好きになることはできなかったのかしらね?」」
少なくとも、私を笑わせるには十分だった。メイソンと誓い合ったときから、私はそう自分に言い聞かせていた。もっと楽な人と結婚できなかったのだろうか?
そうすれば頭痛の種から解放され、とても楽になるはずなのに、でもあいにく私の結婚相手は無理だった。
素晴らしい人でも、彼が大きな頭痛の種であることは間違いなかった。
「このどこが楽しいの?」ベスは曖昧なジェスチャーをしながら答えた。「待って、実はちょっと面白いのよ。本人にとってではなく、私たちにとってね。どんなドラマが繰り広げられるか想像してみて。これは最高の映画になる。」
私は2人を睨みつけ、「ちょっと、ここに当事者の私がいるんだけど!」と叫んだ。私が部屋にいない素ぶりをやめさせるためだ。
まるで私が自分の問題を解決するために2人を呼んだというより、2人がそれをネタに楽しみたかったかのようにしている。2人を責めることはできなかった。2人のどちらかが私の立場だったら、私も大笑いしていただろう。
「おっとそうだったわ!」 アテナは笑いながら叫び、私がウイスキーに溺れる前にウイスキーのボトルを取ろうと腕を前に振り出した。
彼女は私の手の届かないところにボトルを置き、私は彼女を睨みつけたが、彼女はベスを見つめていた。
「残念なのは」とアテナは言った。「すべての展開を見れないのよね。断片的な話を聞くだけで。」
「まあでも少なくとも結末は知れるわよ」とベスは言った。
「賭けてみる?」
「いいじゃない!」
「500ポンドくらい?」アテナは提案した。
ベスは唸った。「アテナ、私はあなたほど金持ちじゃないの。300にして。」
「いいわ。ローリーに聞かれない安全な場所で賭けについて話し合うの。親友だから、ローリーはあなたを勝たせてくれるかもしれない。」
「2人とも、もういい? 賭けはしない、いいね? っていうかメイソンが好きだなんて一言も言ってないわよ!」
それ以上何も言わせなかった。2人は私を見て、そしてお互いを見た。
私は、2人が眉をひそめ、口を素早く動かしながら、明らかに深い、言葉を発しない会話をしているのを見て見ぬふりをするつもりはなかった。正直、失礼だった!
いつから2人はお互いの心が読めるようになったのか?
ついにベスが口を開いた。「ええと、私たちは特に名前出してないから。あなたのことじゃないからね。アテナのご近所さんの話よね?」とアテナに聞いたが、彼女の視線は私に向けられていた。
アテナはうなずいた。「そうそう、そうね。ジェイミーとカレンは別格ね。ごめん、さっき何言ってたの?」
私の顔はみるみる曇り、歯ぎしりした。
「あなたたち、大っ嫌い」と言って私はテーブルから滑り落ち、リビングルームに歩いて行き、ソファに倒れ込み枕に突っ伏して大声で叫んだ。
胸の重さが和らいで頭を上げると、彼女たちは私に頭が2つ生えたかのように見つめていた。
私の声は低くなった。「笑えないわよ、あと数秒で2人の顔にバットを振り下ろすから。」ベスは笑い声を上げ、ただ両手を上げたアテナを見やった。
「じゃあ私たちに何て言ってほしいの? ベスから聞いたわ、あなたがずっと部屋に閉じこもって、メイソンがいないことにウジウジしながら、彼が好きなことを否定し続けているって。バレバレなのに。」
「どうしてはっきり言わないの?」
ベスは大げさに両手を宙に上げた。「その通りよ!」
私は飲み物を見つめながら、暑すぎるようにも寒すぎるようにも感じ、顔が真っ赤になり、そして奇妙なことに焦っていた。私はただ立ち上がってその場を去りたい気持ちがあった。
私は額をグラスにぶつけるまで顔を伏せた。
「もう遅すぎると思わない? 彼が好きなんでしょ、ローレン。正直に言いなさいよ。」









































