
Trapping Quincy 運命に逆らうクインシーと王子の出会い 1巻
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Nicole Riddley
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8
マイ・ゴールデン・ゴッド
クインシー・セント・マーティン
私は鍵開けが得意だ。
9歳になってからずっと、毎週鍵付きの部屋に閉じ込められているのだから、得意になるのは当然だろう。でも今日の鍵は私を悩ませている。単にこの屋根裏部屋の耐え難い蒸し暑さのせいかもしれないけど……。
なかなか開かない鍵に苛立ちながら、私は眉間の汗を拭った。
——最後に食べたのはいつだっけ?
あり合わせのもので作った道具を床に放って、鍵を開けることを諦めた私は、疲れに果てて夢の中を彷徨い始めた。
——走っていた。脚が動く限り全速力で……。カリフォルニアの熱い太陽の下で、息も絶え絶えになりながら。
——次の角を曲がりさえすれば……。
——私は急停止した。目の前にフェンスが立ちはだかっている。閉じ込められた。
——振り向くとそこに『彼』がいた。
——彼は濃い色のデザイナージーンズの前ポケットに親指だけを突っ込んでいる。ブルーグレーのヘンリーシャツが彼の大きな肩と胸を覆っていた。
——金色の髪が太陽に輝いている。マイ・ゴールデン・ゴッド(私の黄金神)……おっと、私のじゃないか。
——彼は顔を上げる。まるで私に挑むかのように……。
——近くで見ると、その顔は息をのむほどに美しい。
——肌はきめ細やかで非の打ち所がない。目鼻立ちは整い、すべてがまるで御影石を削り出して造った彫刻のようだ。太い金色のまつげの先が太陽に照らされてキラキラと輝いている。
——その目はまるで早春の新緑のように明るく鮮やかな緑色だ。
誰かがドアを叩いてる
——やめて。もう少し眠らせて。ここまで来たことなんてなかったんだから……。
——二人の間の空気は焼け付くようだ。彼は私に支配者然足る激しい視線を向けている。たとえ命がかかっていたとしても、私は彼から目を逸らすことなんてできない。
「クインシー 、起きなさい!」
——うーん、お願い、あと五分だけ……。
——彼が身を乗り出して私に迫ってくる。彼の赤い唇が私の唇に近づく。
パシャ
氷のような水をかけられ、私は眠りからたたき起こされた。
私はあわてて起き上がり、そこに誰がいるのか見回す。
マイ・ゴールデン・ゴッド(私の黄金神)はもういない。カリフォルニアの陽光の下に立ってもいなかった。私がいるのは湿気の満ちたウェストバージニア。目の前には私の憎き宿敵であり、至高の拷問者の小生意気な顔があった。そう、ジョエルだ。
寝ている私の頭にバケツの水をかけるのがこの日の最高の瞬間であるかのように、彼女は私を見てにやにや笑っている。
「なんで床で寝てるの?」
いつもの鼻にかかった声で彼女は私に言った。
「知らない」
私は目をこすりながら言い返した。
「私への嫌がらせ以外に何か趣味を見つけたらどう?大学の願書に書けるようなこととか?」
この言葉はジョエルの琴線に触れたようだ。彼女は顔をこわばらせた。
「昨日卵を焦がしたでしょ、セント・マーチン。その罰を受ける時が来ただけよ」
そう言って彼女は興奮気味に笑った。
彼女が何を言っているのかを思い出すのに少し時間がかかる。あー、そうだ。昨日の晩、卵を焦がしたんだった。だから屋根裏部屋に閉じ込められて、今は床でずぶ濡れなんだ。
私は料理ができない。悪かったね。『群れの家』に越してきて以来、この家の奴はみんな私を料理人にしようとしている。
私はやつらに言ったんだ。冗談抜きでそれは悲劇のレシピだって。私が厨房に足を踏み入れるたびに、誰かが火を噴くか、涙を流すことになる。それはたいてい私だ。
でも私は人狼の中で生きている人間だから、彼らの言うことは何でも聞かなければならない。
私は呻いて立ち上がる。できる限り意地悪ジョエルを無視しながら……。
彼女はお下げ髪をバカみたいに揺らしながら、部屋から出て行った。そう、彼女は文字通りおさげ髪なのだ。これ以上イメージ通りな女がいるだろうか?
階下に降りると、いとこのジョーデンがすでに台所にいた。
「なんで濡れてるの?」
「変わったアラームを手に入れてね。ジョエルって言うんだ」
「あー、なるほど……」とジョーデンが言う。「今日の彼女は特に機嫌悪いからね」
「なんで?」
「知らないの?」
***
今日という日の重要性は私の頭からすっかり抜け落ちていた。不合格になることを心配して、そのことを考えないようにしていた。
大学の合格通知は今日届く……というより、私が屋根裏部屋でうざったい鍵を開けようとしている間に、今朝早く届いていたのだ。
ジョエルは太陽が燦々と輝くカリフォルニアの大学に行くことを何よりも望んでいた。どうやらその夢は、山のように積み上がった不合格通知によって阻まれたようだ。多分、入学審査会は彼女のひどい性格を察知したのだろう。
私も密かにカリフォルニアの学校を受験していたが、そのことは誰にも、特にジョエルには一度も言わなかった。
私も庭の雑用を済ませた後、こっそり郵便受けに私の分を取りに行かないといけない。
蒸し暑い裏庭で腐葉土を満載した手押し車を引いて、庭師たちが来年の収穫物を植えるのを手伝う。あー、夢の中の陽光が恋しい。マイ・ゴールデン・ゴッド(私の黄金神)の目を見つめて……。
私は馬鹿か!
私は頭を振って、役に立たない考えを消し去った。
人狼の力があればよかったのに。そうすればこの手押し車を引きずって群れの土地中を回るのもずっと速くなるだろう。でも残念ながら、私はただの人間だ。
どうして私のような人間が、人狼の群れと一緒に群れの家に住めるのかって?
まあ、話せば長くなるんだけど、簡単に言うと、私の母親が人狼だからだ。反抗期の頃、街で酔っ払って一夜を過ごした。人間と遊びすぎたんだ。ビビディ・ボビディ・ブー!9ヶ月後、ジャジャーン、私の誕生だ!
どうして私が人間なのかって?半分オオカミ人間じゃないのかって?
まあ、厳密にはそうなんだけど、私は人間みたいな臭いがするし、オオカミに変身するための内なるオオカミを持っていないんだ。他のやつらと違って、私は13歳か15歳のときに、夢の中で自分の人狼名をささやかれて、数日後に変身することを知らされなかった。
だから私は人間だと思われている。
誰が人狼になりたいと思う?
醜くて毛むくじゃらで……、でもちょっとかわいくて、それでいて獰猛そうな動物で、自由に走り回って……、両親から誇りに思われて、すごくいい扱いを受けることができるオオカミ男なんかになりたいなんて誰が思う?
まあ、私は違うけどね。明らかにね!
ということは、数日後に18歳になったとき、私は番(つが)いを見つけることはできないということだ。
いいことだ!独占欲が強く、束縛が強く……、それでいて何があろうとも保護的で愛情深い相手を誰が欲しがる?
番いなんていらない!欲しくない。いらない。必要ない。
私の母親は、私を産んで1カ月かそこらで番いに出会った。母親は私を、少し前に番いを亡くして一人で暮らしていた私の祖母、ナナに預けた。だから、ナナが私を育ててくれた。私を愛してくれたのは彼女だけだった。ナナが亡くなる3カ月前まで、私はナナと一緒に暮らしていた。
不要な涙で目がウルウルするのを感じ、それが消えるまで歯を食いしばる。
ナナは私のすべてだった。彼女のためなら何でもした。
私は東海岸に残ってウェストバージニア大学に進学することさえ考えている。彼女の最後の願いは、私が「家族」の近くにいることだったからだ。
「人間、ペースを上げろ!」
私が遅れをとると、庭師の中で最も意地悪な男が叫んだ。
***
私がやっと仕事を終えたとき、リビングではテレビがついていた。
母親はソファーの真ん中に座っている。ジョンは彼女に腕を回している。異母妹のケイトリン・ローズは反対側に座り、彼女の肩に頭を乗せている。母親の指がケイトリン・ローズの柔らかい茶色の髪を優しく弄んでいる。絵に描いたような完璧な家族だ。私がリビングを横切ろうとソファーの後ろをこっそり歩くと、3組の目が同時に私に注がれた。
耳のいい人狼たちめ!
——今日も弱い人間を働かせている間、一日中自分は何もしなかったの?いつもと同じように?
私がやつらを見つめると、やつらもすぐに見つめ返す。私は足を少し動かして、右から左へと体重を移動させる。
「えーっと、お昼用に卵を買ってくるよ」と私はつぶやいた。誰も何も言わない。
「あー、うん」と私は付け加え、3組の目が変わらず私を見つめる中、気まずそうに家を出た。
時々思うんだ、自分の居場所があるってどんな感じなんだろうって。存在が認識されているだけでなく、本当に必要とされていると感じるってどんなだろうって。そう、ケイトリン・ローズのように。
それでも、そのことをくよくよ考えたりはしない。私は結構いい人生を送っている。私に言わせれば、本当にラッキーよ。
誰にも会わずにキッチンにたどり着いた。辺りを見回すと、シンクの近くの床に大きなプラスチックの容器に入った焦げた卵を見つけた。
私は唸った。卵を100パックも買うお金がありながら、私が誤って焦がしてしまった卵を私に食べさせようとしているのだ。いいねー。
私は容器をキッチンカウンターの上に持ち上げ、蓋を取った。ひどい臭いが漂ってくる。容器の中の黒い物質を冷静に見つめる。お腹が鳴るが、これを食べるのは煤を食べるのと同じだ。
「ねぇ、見てよ!卵を食べようとしてるわよ!」玄関からジョエルが叫ぶ。
「写真を撮りましょ!」彼女のビッチクローン、いや、親友のケリーも加わった。
「いや、ビデオよ!ビデオ!」と別の女の子が叫ぶ。
彼らの後ろには8人ほどのティーンエイジャーのグループが立っている。彼らの顔はみんな興奮に満ちている。私が黒焦げの卵を食べるのを見たがっているのだ。ジョルデンと親友のトレイを除いては。
「さあ、早く食べて!」ジョエルが叫ぶ。彼女はiPhoneを構えている。
「すげー!写真を投稿したらみんなに見てもらえるな」と、グループのもう一人のバカ、ダンが言う。
私はジョーデンとトレイを見た。ジョーデンは口を一文字に結んで歯を食いしばり、トレイは私を見ないようにしている。
私が黒く潰れた卵をすくうと、彼女たちはさらに声を大きくした。目が興奮で輝いているのが見える。バカな人狼たちだ!この『群れの家』は娯楽不足のようだ。ネットフリックスでも契約すればいいのに。ナナはそうしてた。
私はジョエルの大きな額に焦点を合わせていた。そしてニヤリと笑った。
——ベチャッッッ!大命中!!!
部屋は静まり返った。
ジョエルの額の真ん中には、大きな卵の塊がある。少し灰色と黄色がかったドロドロの黒い液体が、彼女の顔からゆっくりと流れ落ちていく。そしてそれはベチャっと音を立て、黒いドロドロした液体を飛び散らせながら、床に落ちる。
彼女の仲間たちがあわてて飛び退く。
「なんてことを、くそ人間の売女!!!ただじゃ済まさないわよ!」ジョエルが叫ぶ。
突然彼女が突っ込んでくる。彼女の両拳は両脇で固く握られている。ヘーゼルの瞳が一瞬輝き、暗くなる。
「おい、お前らここで何してるんだ!」元アルファーのマドックスさんが怒鳴った。
彼女たちは足を止め、すぐに頭を下げて服従を示す。年老いたマドックスさんはもはや私たちのボスではないが、それでもボスとしての威厳に溢れている。
「何があった?」マドックスさんが再び問いかける。
彼は実際かなりの高齢だ。それでも未だに見た目は強そうだ。
「ここから出て行け。かわいそうな女の子に手を出すな」
怒鳴り声が壁伝いに反響する。
ただ、ジョエルが仲間と小走りに去って行く前に見せた私を睨みつける眼は、これで終わりではないことを私に告げていた。
ジョーデンは私に一瞬だけ心配そうな顔を向けて、ドアの隙間から姿を消した。
「クインシー、大丈夫か?」マドックス氏が心配そうに私を見る。
「ええと……、ええ。ええ、大丈夫です……。ありがとうございます」
彼が私に近づいてきたのに気づく。近すぎる。私が後ずさりする前に、手が私の背中に置かれた。
彼の目、そう、彼が私を見る目には、ゾッとする何かがある。
「かわいそうに」
彼の手が私の背中をさする。肌がゾクゾクする。
「大丈夫。本当に大丈夫」
私は欲望に満ちた手から逃れようと一歩前に出る。でも彼は私の体に自分の体を押し付けるように踏み込んできた。ああ、ファック!じゃなくて、くそっ!
私は強引に彼を押し戻しながら離れた。私は高位の人狼に無礼なことをした罰を受けることなんてもうどうでもいい。
「もう行かなくちゃ」
私は彼との距離が取れたことに安堵しながら、言い訳をした。
「やらないといけないことがたくさんあるの」
幸い、彼は私を解放してくれた。
私の人生は最高だ。ハリー・ファック・ポッターみたいでしょ。彼の黄金神(ゴールデン・ゴッド)が助けに来てくれるまで、マグルに汚物のように扱われるのと同じように……。
ハリー・ポッターの世界ではそうなんでしょ?
***
予想通り、私宛ての手紙がポストに入っていた。
私はそれを見もせず、封筒をシャツの下に挟み、急いで自分の寝室に駆け込んだ。ちゃんとドアを閉めるのを確認して。
差出人が「○○大学」となっていることに気づき、私は落ち込んだ。さっきも言ったように、ナナは私をウェストバージニア大学に行かせたがっていた。それ以外の大学に行っても彼女の遺志を叶えることはできないでしょ?
ゴミ箱の前に立ったとき、その手紙を捨てようとする私を止めるものがあった。裏返すと、返送先の住所に目が留まった。カリフォルニアだ。
胸が高鳴る。私はその手紙を開き、貪るように読んだ。
——拝啓 セント・マーチン様
——秋のクラスへの入学が許可されたことをお知らせします。陽光降り注ぐカリフォルニアでお会いできるのが待ち遠しいです……。
印刷された文字に目を落とす私の手の中で紙が震えていた。
さまざまな感情が一度に私の体にあふれてくる。
最後の大学。ナナと何度も何度も言い争って受験を許可してもらった学校だ。
誰にも言わずに受験した。だってカリフォルニアが私の居場所だと何かが告げていたから。
そして私は合格した。私はベッドによろめきながら戻り、指を震わせた。
——カリフォルニアには行けないよね?
マイ・ゴールデン・ゴッド(私の黄金の神)の屈託のない笑顔が脳裏に浮かんだ。彼はたぶん存在しないんだろう。私の悲しく孤独な想像の産物でしかないんだ。
それでも、彼が実在するかどうか確かめる機会を逃すわけにはいかない。
私の夢は予知夢だったのだろうか?それで私は超能力者になったのだろうか?
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