
ギデオン 人狼のハーフですがライカンと運命の恋人です 9巻
ベインハロウへ帰る
ギデオン
超自然に関する数日間の激しい議論を経て、サミットはいよいよ閉幕に近づいている。
だが、困ったことに、あのプレイボーイ実業家、アリスター・ペンブロークに絡まれてしまった。いつものごとく宮殿に取り入ろうとしているのだろう。
「それで、アーチャー卿、あの素敵なお連れ様はどうしてますか?」長すぎる上に俺の好みではない講演の途中で、アリスター・ペンブロークが尋ねてくる。
アリスター・ペンブロークは、私たちの世界と取引をする数少ない人間だ。彼は超自然者たちを前にしても動じず、恐れない態度で、その関係から随分と利益を得ている。
我々の存在を証明することができる、ごくわずかな人間の1人だ。
「お連れ様とは?」
「ヘレン・アリストファネスのことですか?」
「ああ、私は自分の『エラスタイ』を見つけたんです。それは、ヘレンではありませんでした」と付け加える。
まさに遠回しの表現だな
「ほう、それは実に興味深いですね。おめでとうございます」と彼は言う。ライカンや人狼の特性に触れると、彼の目に興味が宿るのが見て取れる。
「ありがとうございます」
「それで、ヘレンさんのことですが・・・」
何を言い出すのか、予測がつかない。彼の目はそわそわと動き、言葉を探して少し沈黙する。
「実は、最近ヘレンさんからの連絡が途絶えてしまって・・・」と言葉を続ける。
もちろん知っていることだ。だが、微笑みながら頷く。
「前に、彼女と会う約束をしていたんです。彼女が私の持っているジュエリーを買いたがっていたものですから。アーチャー卿、もし彼女にお会いすることがあれば、私が心配していた旨を伝えていただけると、非常にありがたいのですが」
「大変申し訳ありませんが、もう連絡を取り合っていないのです」と俺は答える。
この会話、何かがおかしい。アリスターがなぜヘレンのことをこれほどまでに知っているのか。そして、彼が彼女のことをこれだけ詳しく知っているなら、なぜ彼女が死んだことを知らないのだろうか?
ヘレンが自らジュエリーを買うなんて考えられない。俺が見た彼女の宝石は、遺産として手に入れたものや、プレゼントされたものばかりだった。ほとんどは俺からのものだが、昔の取り巻きからのものもいくつか見かけたことがある。
不快になってきたので、失礼してその場を去ることにした。
この男は好奇心だけではなく、やけに狼へのこだわりが強すぎる。ライカンと接するほど彼はその魅力に取りつかれている。
彼が超自然の存在に夢中になっているのと、王宮に接触を試み続けているのを見て、俺は彼を警戒してきた。
だが、超自然の世界に関与して、これだけの地位を築き上げた彼の実力を認めざるを得ない。何か興味を持ったことがあると、彼の名前がどこかで浮上してくる。
アリスター・ペンブロークはまだ役に立つかもしれない。
***
宮殿に戻る準備をしながらアリスター・ペンブロークとの奇妙な会話について考えている。彼はなぜあんなに詳しくヘレンについて聞いてきたのだろう。
レイラにぼんやりと尋ねる。「俺のトラウザーはクリーニングから戻ってきたかな?」
彼女がくすくすと笑う。
「ええ、あなたの『トラウザー』はいつものクローゼットの中にあるわよ」
「俺の故郷では、パンツは下着のことだ!」
お互いの文化の違いをからかい合うことに飽きることはない。
レイラのベッドの上にはスーツケースに詰める服が積み上げられている。
「みんなに久しぶりに会えるの、すごく楽しみ! クインシーにも長いこと会えてないもん。ライカンとしての新しい生活について早く伝えたいわ!」
「クインシーなら、きっと君の写真はすでに見てるよ。彼女がSNSの投稿を見落とすことなんてあり得ないから」
「ねえ、吸血鬼の政治家を人懐っこく見せる仕事は、面白かったけど、やっぱ終わってよかったわ」
まったくだ
サミットが終わって、ほんとホッとしてる。もうクタクタだ。
レイラが私の思考を感じ取ったのか、考え込むような表情で、「サミットって、いつもこんなにきついの?」と聞いてきた。
普段はため息なんてつかないけれど、この質問には思わず出てしまう。「今回のサミットは、最近のものと比べてかなり緊迫していたよ」
でも、好奇心旺盛な彼女を納得させるには、これだけじゃ足りないようだ。
「どうして?」と、レイラがさらに詮索してきた。
答えにくい質問だ。どんな風に伝えるべきか一瞬戸惑った。
「危険なクロスやハイブリッドに立ち向かったのは、実はもうずいぶん前のことだ。だが、他者を変形させる能力を持つ生物は、いずれその誘惑に直面するだろう」
この返答に満足して、安心して荷造りが進められることを願いつつ、音楽をかけるためにステレオのリモコンを取りに行く。
しかし、レイラの声が俺の動きを止める。
「どんなハイブリッドが存在していたの?」
「かつて、カナダの森には吸血鬼とオオカミが交配した『バンプウルフ』という生き物の集落が広がっていたと言われている。人間のハンターたちが魔女の協力を得て、これらの生き物をほとんど駆除したんだ」
「その魔女たちはどうなったの?」とレイラがさらに興味津々に問う。
「悲しいことに、ハンターたちがハイブリッドがいなくなった後、魔女たちも不要だと思って殺してしまったんだ」
レイラの目には涙があふれた。「そんなの悲しすぎる」と声を震わせて言う。
「そうなんだ。魔女たちの数は劇的に減り、まだ元の数を取り戻していない。今になっても『魔女狩り』という言葉が色褪せずに残るのは、そのせいだよ」
人間に狩られるという経験の恐ろしさを、想像するだけで身震いがして、無意識に首を横に振る。
「今は、何が変わったの?」レイラは、理解し始めていることを示しつつ尋ねる。
ステレオのリモコンをそっと置く。この美しくも好奇心旺盛なエラスタイは、簡単に話を終わらせてくれそうもない。俺はベッドの隣のウィングバックチェアに座り、ゆったりと足を組む。
「この一帯はここ100年ほど、比較的穏やかな状況が続いている。人間たちの目を逃れながら、お互いが平和に共存できるように定められた慣習をおおむね尊重している。
「けれど、何かが変わったというの?」レイラが尋ねながら席につく。
俺が話の要点にたどり着くのが遅いことに苛立ちを隠せていない様子だ。だが、レイラとはこれまで政治の話題には踏み込んだことがなく、まだそういう話を彼女とすることに抵抗がある。
仕事を通じて絆を深められることをうれしく思い微笑みかけつつも、彼女の中に残る人間らしさが、全てを完全に理解するには早いのではないかと懸念する。
「最近の報告によると、危険なハイブリッドの数が急激に増加していて、単独の事件では説明できないほどだ。どうやらどこかの誰かが意図的に操っているようなんだ」
「種族間の信頼が揺らぎ始め、緊張した交渉が行われている。こんなに疑心暗鬼になっているのは、本当に久しぶりのことだ」
レイラは物思いに耽っている。彼女の頭の中で歯車が回転しているのが見えるようだ。
「でも、戦争をしているわけじゃないのよね? 今はただ種族間に緊張と不信感があるだけでしょ?」レイラは眉をひそめて首を傾げる。
その問いに、思わずドキリとする。まるで、俺たちのことを話しているみたいだ・・・
もしかして、俺たちの状況を言っているのだろうか?
緊張して震えた笑い声が出る。平常の冷静さを欠いているが、なんとか説得力のある返答を絞り出す。早くこの話題をやめて欲しい。
「ヴァンパイア・セイレーンが信用できないからといって、簡単に排除してしまう訳にはいかない。ヴァンパイア・セイレーンが本質的に悪ではないからだ」
「セイレーンの誘惑する力と、ヴァンパイアの食欲が1つになると、獲物を手に入れるのが驚くほど容易になる」
「さらに、セイレーンの性質は、ただ獲物を変えるのではなく、死に至るまで餌を喰い尽くす傾向にある」
レイラは説明に納得したらしく、深い考えにふけり問いかける表情から、怪訝そうな表情に変わる。何かをふと悟ったかのように。
「ルイを心配して、あのクラブへ行ったわけが良く分かったわ!」
「そうなんだ」共感してくれたことにほっとしながら頷く。レイラも、この脅威を、自分とほぼ同じくらい深刻に捉えている。彼女の真剣な眼差しが、そのすべてを物語っている。
心の中でほほ笑む。彼女はライカンとして成長している。透明な吸血鬼の写真撮影だけでなく、もっと深い話を彼女とできることが嬉しい。
「かつて人間に目を付けられ、多数が犠牲になった壊滅的な戦争を経て、異なる超自然的存在たちの間には、長く親交が築かれてきたんだ」
話を紡ぎながら、今は自分が会話の主導権を握っていることを実感する。
レイラは荷造りを再開するが、彼女が耳を傾けているのがわかる。「この世界には、超自然的存在より人間の方がはるかに多い。 もし人間がこの新たな脅威に気づいたら、どうなると思う?」
首をかしげて、じっくりと言葉を選ぶ。「カスピアン王子は、この問題にできるだけ早く対処するために全力を尽くしたいと考えているようだ。人間たちに気づかれるリスクはあまりにも大きいから」
「それで・・・ あなたの意見はどうなの?」とレイラが問いかける。
慎重な言葉を選びつつ「冷静な外交行動を取るべきだという俺の勘には反している。力による早急な介入が予期せぬ悪影響を及ぼす可能性を危惧している」と心の内を明かす。
レイラは返答せず、ただ次の言葉を待っているような眼差しを向けている。
「もし王家が不道徳な道を歩むことになれば、俺の忠誠心が試されるかもしれない。今は王の支持を得て慎重な立場にある。だが、これからの議論が厳しいものになることは間違いない」
レイラは「うーん」と言うだけで荷造りを続ける。深く思いを巡らせているようだ。
数着のスーツをバッグに収めながら、これまでの長い間、どれだけさまざまなファッションを纏ってきたかを思い出す。
トレンドのすべてを取り入れてきたわけではないが、周囲に溶け込むことには常に努めてきた。そのために、仕立てのいいスーツは欠かせないアイテムだ。
ルイは逆に、特定の時代から選び抜かれた装いを好む。
あいつは、俺が王室で働き始めた頃の服を今でも持っている。
初めての会議を懐かしく思い出す。うわべでは落ち着いて見せようと必死だったが、内心では心臓がバクバクだった。
宮殿は俺を迎え入れ、重要な仕事を任せてくれた。自分自身を証明したいという熱意が人一倍だったので、そのチャンスを与えてもらえたのだ。
ルイの父親は、名を馳せる外交官で、まるで自分の息子のように俺を大事にしてくれた。カスピアン王子の父が初めて王位に就いたとき、俺が宮殿で仕事をするきっかけを作ってくれたのも彼だった。
ルイが外交官の道を歩まないことを示した時、家の後を継ぐのは自然と俺の役目になった。
あれほど真面目な男(ひと)から、どうやったらあんなに陽気な息子が生まれたのかは、誰にも分からない。
レイラが下着姿で部屋を駆け回りながら、引き出しを空にし、デザイナーズのスーツケースをパッキングしている姿を見ながら、俺は微笑む。彼女の溢れる自信に心から誇りを感じる。彼女はまるで王室の一員かのように自然に溶け込んでいる。
彼女が王室で生まれ育ったわけではないとは、誰が見ても信じられないだろう。宮殿の仲間といる時も、俺といる時も、家族といる時も、誰といても、彼女はいつも自然体だ。俺もそんな風に無理なく社交的でいられたらいいのに。
レイラ
「準備はできてるけど、出発は何時?」ギデオンに尋ねる
彼は、懐中時計をパチンと開く。
「あと1時間だ。まだここで済ませないといけないことがあるから、ルイの様子を見てきてくれないか?」
「分かったわ、ルイの用意が終わってたら、コーヒーに誘ってみるね」
「いいね」
ギデオンは、パリッとしたシャツをゆっくりたたみながら考え込んでいる。彼が何を考えているのかは分からないし、自分から尋ねたくはない。
番(つが)いに隠し事はないと思ってたのに!
たまに彼が黙っていても我慢すべきだ。いつも彼の気を引こうとして、何を考え、どう感じているかを知りたがる自分が、少し執着しすぎなのかと思うことがある。
面倒な女だと思われたくない。彼の仕事は重要で、今回のサミットは彼にとってストレスが多いものだった。
セレナにギデオンにとってこれが普通なのかと聞いてみたいくらいだ。何年もギデオンと一緒に働いてきた彼女なら分かっているだろう。
今回の仕事中にあらゆる噂話を耳にした。政治についてこれほど多くを知ることになるとは、思ってもみなかった。
群れの中で暮らしていた頃、そこには常に政治が渦巻いていた。でも、それは今回とは異なる。尊敬と地位を巡って、互いに同盟を組み、仲間内で小競り合いを演じていたのだ。
そんな政治にはうんざりしていた
おそらく、ここでの政治も、スケールが遥かに大きいだけで、根っこはさほど変わらないかもしれないけど。
スーツ姿で傲然とした顔をした生物たちが握手を交わし、お互いに威嚇しあっていないかのように一生懸命努力している写真を撮った。
「ルイ、荷造りは終わった?」
ルイはソファに座って新聞の社会面をめくっている。
「うん、あとどれぐらいあるの?」彼は上品なデザイナーズ眼鏡しに私を見る。
私は時計を確認する。
「あと1時間よ。外でコーヒータイムはどう?」
「実はダブルエスプレッソが飲みたいと思ってたんだ。レイラ、どうして分かったんだい?」
ルイは先ほど着ていたセーターを手に取り、首に巻き付ける。白いショートパンツとポロシャツを着た彼は典型的な『プレッピー』そのものだ。
エレベーターで降り、角のカフェに向かって歩く。
「君の麗しい『おばあさま』は元気かい?」
「ルイ、あなたが祖母に手を出す前に、ここを出発できて本当に安心だわ」
「それは残念だな! また家族から離れるのは、寂しくないのかい?」
「まあ、よく会いたくはなるけど、自立した大人としての人生を送っているように感じられるのは素敵だわ」
「なるほど。いつか僕も大人になった気分を味わう日が来るかもしれないな」とルイが冗談を言う。そのままでいいと思ってるくせに。
「家を出た時は、まさか人生がこんな風になるなんて想像もしてなかった。隣町で勉強するだけのつもりだったし、最高でもロサンゼルスに移住して写真家になれたらいいなって思ってた。雑誌社で働くのも悪くないと思ってたのに」
カフェに着いて、ドリンクを頼んでから、窓際から少し離れた席に座った。
「セイレーンより、セレブを撮りたかったのかい? どっちも似たようなものだと思うけど」
「家族から遠く離れて、宮殿の人たちと生活を送ることになるなんて夢にもおもってなかった」と私は続ける。
「まあ、彼らは君の第2の家族さ」とルイが私を励ます。「その繋がりは血の絆と同じくらい、あるいはそれ以上に強いかもしれないよ」
「うん、みんなにまた会えるのがとても楽しみよ。単純に、1つの群れから別の群れへと移っただけだと思うようにしてるの」
「君は人狼のもとに生まれたライカンだ、群れを求めるのは生まれつきの性(さが)だ」と彼は笑いながら言う。
彼の言う通りだ。私にはいつも仲間がいた。清掃の仕事をしていたときも、サラやジェスがいた。大学の友達やルームメイトもいたんだ。
ルイはコーヒーを飲みながら、旅行雑誌のページをパラパラとめくる。
サラとずっと連絡をとっていないことを考えると、罪悪感がわき上がる。滞在中に彼女に会いに行くべきだった。でも、写真撮影の仕事で手一杯だったんだ。
彼女は私の人生で関わっている数人しかいない人間のうちの1人だ。ライカンになると、ほとんどの時間を他のライカンと共に過ごすことになる。
だけど、時々、人間だった頃が恋しくなる。
ルイとは、沈黙を無理に言葉で埋めなくてもいい。そんな心地よい静けさを共有している。
サラにメッセージを送ることに決めた。ブレスレットを売ったお金でなんとかやっていけているか、ただ確認したいだけだ。
レイラ
ハーイ
レイラ
久しぶりね
レイラ
元気?
サラ
レイラ!
サラ
元気だよ❤️❤️❤️
サラ
勉強はほぼ終わって、論文に取り組んでるの
サラ
チャーリーは学校よ
サラ
お母さんは仕事をやめて体調が良くなったわ
レイラ
❤️それは良かった!
サラ
近々こっちに戻ってくるの?
レイラ
実は今出発するの! 😢
レイラ
会いに行けなくてごめんね。報道写真の仕事をしてたの
サラ
それは素敵じゃない!
サラ
おめでとう!
レイラ
ロシアに戻るの
レイラ
どのくらい向こうにいるかわからないわ
レイラ
今度はぜったい会いに来るね
サラ
待ちきれないわ!
サラ
安全な旅を
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