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The Millennium Wolves ミレニアム・ウルフ アルファの野望5

より強く結ばれて

森で思いっきりシエナと駆け回った後、俺は彼女とこれまで以上につながっていると感じた。多くの行き違いや困難を経て、ようやく光が見えてきたのだ。
しかし、一緒に心を通わせる体験をしたとしても、どういうわけか、俺たちの間には乗り越えられない壁があるように感じられた。前進はしているものの、それ以上のスピードでゴールテープが遠ざかっていくような感覚だった。
その原因のひとつは、俺がまだシエナに全ての真実を話していなかったからだとわかっていたが、彼女も同様である。
シエナと心を通わせた今、彼女が心の奥深くに何か秘めていることがあるのは手に取るように分かる。だが、彼女がそれを打ち明けてくれるかどうかは、俺には分からなかった。秘密があった。
俺と心を通わせていなかったとしても、俺を心から信頼してほしかった。
シエナが俺を運命のパートナーだと確信したら、俺たちは永遠に結ばれることになるが、その前にお互いを信頼する必要があった。
ここ数日、俺は仕事に没頭し、シエナが秘密を抱えているという事実から気を紛らわせようとしていた。彼女が俺の元に来てくれると願っていたが、実際はさらに引きこもるばかりだった。彼
どうしたら、俺を信頼してくれるんだ?
「アルファのラファエル・フェルナンデスからお電話です」秘書のエミリアがインターホン越しに言った。
「奴め...今度は一体何が狙いだ?」
あいつとの最後の会話がフラッシュバックする。ラファエルは『下手なことするんじゃねぇぞ』と言っていた。このタイミングでの電話は、何か気に食わないことがあるに違いない...。
「つないでくれ」俺は歯をグッと食いしばった。
しばらくすると、スペイン語訛りの低い声で 「ブエナス・タルデス、エイデン」と聞こえてきた。
俺は目を閉じ、椅子にもたれかかった。「またお話できて光栄です、アルファ・フェルナンデス」
人狼界の食物連鎖の頂点に立つ男はこの地球上にただ1人。ミレニアムのアルファ、ラファエル・フェルナンデスだ。
最強、最速にして、最も狡猾なアルファとして知られており、誰であろうと彼には直接物事を伝えるのが暗黙の了解だ。
そういう意味では、俺たちは皆、彼の群れの一員ともいえ、いわば『ミレニアム・ウルフズ』であった。実際の話、彼はそのような肩書きを持つ狼の精鋭部隊さえ備えていた。
「そんなに堅苦しくする必要はない」「いい知らせがあって電話をしたんだ」
彼が次に発する言葉に身構え、胃が締め付けられる思いだ。
「お前の群れが今年、クリスマスパーティー開くにあたって、主賓として出席することにした」何とも偉そうな口調でそう言った
主賓だと?ふざけやがって。
「そうですか」俺は平静を保とうと心がけた。「それは実に...驚きですね。ですが、皆喜ぶことでしょう。すぐに正式な招待状を送ります」
「ああ、助かるよ、グラシアス」「まあ、お前の群れにとっても、俺が来ることでいい緊張感が生まれるだろう」
携帯を拳でギュッと強く握りしめると、ヒビが入る音がした。
もちろん、彼の参加表明には下心がある。きっと俺がアルファとしての役割を果たせてないと思っているのだろう。そして、同じアルファでも格が違うことを対外的に示そうという魂胆だ。
「もうひとつあるぞ、エイデン」少し唸りながら彼はそう言った。「シエナに会うのを楽しみにしているよ。お前も彼女にすっかりゾッコンのようだな。きっと結婚相手として申し分ないんだろうな」
ラファエルの口からシエナの名前を聞いた瞬間、俺はその場に倒れそうになった。
彼が電話を切ると、俺は何かを真っ二つにしたい衝動に駆られた。しかし、荒ぶる気持ちを落ち着かせ、すぐに携帯でジョシュに電話した。
ジョシュが応答するや否や、「ミレニアムのアルファ、フェルナンデスがクリスマスパーティーに参加する。組織委員会に伝えて、必要な手配をしてくれ」と伝えた。
「おお...それは...いいことだよな?」ジョシュは少し驚いた様子だった。
「ああ、クソみてぇに最高だ」「とにかく気をつけるように。そして、何事にも俺に確認を入れてくれ。ラファエル・フェルナンデスが関わっている以上、どんな不手際も許されないぞ」
クリスマスパーティーにミレニアムアルファ をゲストに迎えることは、本来であれば名誉なことであった。
だが、彼が他の群れの土地を脅かし、自らの強大な権力を見せつけるために来るとなれば、話は全く別だった。
今夜はシエナとの関係を修復するため、早く帰るつもりだった。ここ数日の俺たちの会話は、「おはよう」と「おやすみ」だけだった。
でも今は、遅くまで残って、ラファエルの準備に万全を期さなければならない。クリスマスパーティーまであと2週間しかないのだ。
帰りが遅れるとシエナにメールしようとしたとき、彼女からメールが来ていた。
家に帰ったら何やらサプライズがあるらしい。くそぉ...すべてほったらかして彼女のところに戻りたかったが、それはできなかった。
そこで、新しいVIPゲストが、俺の人生を生き地獄に陥れようとしていると説明しようとしたが、今週、俺が仕事を言い訳に使ったのはそれが始めてではなかった。
彼女は、これをあまり快く思わないだろう。
渋々、携帯をテーブルの上に置いた。「くそ...」
俺だってこんなことはしたくない。この3日間、彼女とはほとんど会っていなかった。まるで群れの本部で暮らしているような気分だった。
だが、俺にはもっと大きな問題がある。ラファエルは事情を知りすぎていたし、俺の一挙手一投足を監視するというのはどうやら脅しではなかった。しかし問題は...
誰が内通者なのかということだ。
誰かが彼に情報を与えているのは明らかだ。俺の近くにいる人物だ。パーティーが終わるまでは五感を研ぎ澄まし、万一に備えなければならなかった。
ジョシュによると、1時間前に俺が命じた警備の増強は確認が取れ、パーティー会場及び本部周辺でも、当日までの数日間は警備が10倍に強化される。
これは必要な予防措置だった。ミレニアムアルファのような世界最強の男になるということは、それだけ多くの敵を集めるということだ。防げるものは防いでおきたい。
先日の侵入者事件で、我々のシステムに欠陥があることは明らかだったため、用心に用心を重ねなければ。
しかし、ラファエルからのベールに包まれた脅迫を考えると、実際に俺が守ろうとしているのは俺自身だった。
その夜、夕食をとりにキッチンに行くと、群れのメンバーから何やらジロジロと見られた。俺が被害妄想にでも陥ったために、警備を強化したと思っているのだろう。
みんなは俺が力を失っていると思っていた。まだ独り身ということで、孤独が限界に達したんだろうと。
それは全部知っていて、ただでさえ落ち込んだ気持ちに拍車がかかるだけだった。だが、みんなは俺に逆らったり、敬意を欠いているわけではなかった。もしそうであれば、受け入れがたいことだ。
そうではなく、純粋に俺のことを心配してくれていたのだ。彼らは自分たちのアルファのために最善を尽くしたいと思っていたが、どう助ければいいのか分からなかったのだ。
すべてはパートナーを見つけることで解決する。みんなからの視線も、ささやき声も...もし俺がすでにパートナーを迎えていれば、それらはすべて黙殺されていただろう。
だが、彼らが俺のことを心配したのは正しかったのかもしれない。今の俺は、一瞬たりともシエナのことが頭から離れない。
群れのことや、クリスマスパーティー、そしてミレニアムアルファが来ることに集中しなければならないのに、俺はシエナからのメールのことを心配していたのか?
俺の中で狼としての本能が唸り声を上げた。「もういい」俺はアルファだ。ああだこうだ考えるのはアルファらしくない。
ジョシュが書類に目を通している役員室の前を通り過ぎた。法的な手続きと署名を済ませるはずだったが、ジェレミーが遅れていた。
「ジョシュ、書類のことは忘れろ。それよりも今から会議だ。話し合わなければならないことがいくつかある」
ジョシュは俺を見てうなずくと、部屋にあった放送器具に向かい、すぐさまボタンを押した。「役員会議室へ。至急役員会議室へ。これはアルファの命令だ」
アルファの命令か。良い響きだな。
***
俺は群れのメンバーが座っている役員室のテーブルに飛び乗った。そして、1人1人の目を見てゆっくりと歩きながら、アルファとしての地位をあえて見せつけた。
「みんな、聞いてくれ」
「状況が変わった。ミレニアムアルファがやってくる。となれば、この群れの結束が必要だ。どんな脅威も侵入できないほどの強力な結束だ。わかったか?」
俺は周囲を見回し、全員が厳粛な面持ちでうなずき返すのを確認した。
「この群れは常に、俺が全神経を集中させて監視している。だが、俺の決断を信用できないものがいれば、もれなく全員がトラブルに巻き込まれることになる」
「俺のリーダーシップが服従に値しないと感じるものがいれば...」俺はドアを指差した。「出口はすぐそこだ」
1人1人の顔を確認しながら息をついた。誰も微動だにしていない。そこで俺は続けた。
「もし一枚岩になれなければ、俺たちは脆い。もし俺たちが脆ければ、この前の侵入者事件のようなことがまた起こるだろう。だが、そんなの選択肢にはない。分かったか?」
「今回はあのミレニアムアルファだ」「彼を守れなければ、俺たちの群れは終わったも同然」
俺はジョシュの席まで歩み寄り、しゃがむように身を低くした。
そして目を見て問いかけた。「ジョシュ、我ベータよ。お前はこの俺に全てを捧げる覚悟があるのか。問答無用で、俺の出す命令に従うことができるか」
彼は部屋を見回し、表情を変えないようにしたが、それが俺の癇に障った。
「何を見てるんだ?俺はここにいるぞ」
彼は驚いた様子だった。「はい、アルファ」ようやく俺と目を合わせた。「あなたを群れのリーダーとして心から信頼しております。そして忠誠を尽くします」
「疑うことなく」
「疑うことなく」
「他はどうだ?」再び立ち上がり、テーブルを見回しながら聞いた。
「はい、アルファ!」全員が叫んだ。
「この大陸で、最も強い群れはどこだ!」俺はテーブルを踏みつけながら叫んだ。
「イースト・コースト!」彼らも呼応するように、テーブルを踏みつけながら叫んだ。
「もっと腹から叫べ!」
「イースト・コースト!」
彼らはまるで戦士のように吠え、ここ数ヶ月感じていなかったプライドがグッと高まるのを感じた。ここは俺たちの家だ。そして命をかけて、守り抜くんだ。
すると突然、俺の携帯が鳴り始め、アドレナリンを放出したまま、携帯を取り出した。
シエナからだった。『本物のアルファは、自分の女を放っておかないわ』
畜生...。すっかりやる気に満ち溢れ、群れの士気も高まり、戦いに挑む覚悟ができたというのに。ここでまた彼女が、俺のアルファとしての、そして男としての面目を潰そうとしている。
俺ならそんなことはしない。
「ジョシュ、ベータとして、お前をパーティーの警備責任者に任命する。やってくれるか?」
「も...もちろんです、アルファ」
俺がみんなの前でジョシュを問いただした後だったため、自分でも予想外だったんだろう。
「侵入者が確認されたとき、お前は率先して行動し、ロックダウンはお前のアイデアだった。称賛に値する行動だ」俺はうなずきながらそう褒めてあげた。兵士たちの誇りを保つためだ。
「上手くやってみせます」
「きっと上手くいくさ」
そして他の仲間にも最後にうなずき、俺は胸を張って役員室から出て行った。これからまったく別のタイプの戦いが始まるのだ。
トラブル続きで、誰もが俺の前に立ちはだかってくるような感覚だった。
ラファエル、ジョシュ、群れ、評議会、そして俺のパートナーまで...。
だが、群れのものたちには誰がボスなのか分からせ、まとめあげた。
そして今こそ、シエナにアルファの真の意味を教えるときだった。
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