
His Lost Queen 失われた女王 2巻
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Annie Whipple
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3
第5章
グレイソン
「アルファ、本当にすまない」と、イライジャが続けた。「できる限りベルの匂いを追い続けたんだけど、バス停で消えてしまった」
「くそっ」とカイル。「ってことは、ベルの居場所はどこでもアリってことだな」
地平線に目をやると、アザゼル一族が急接近していた。血を欲しがる何百ものヴァンパイアの軍団だ。
俺の心は引き裂かれそうだった。群れを率いて一緒に戦って、彼らを守りたいと思う自分がいる一方で、パートナーを探しに行きたい自分がいて、そっちのほうが大部分を占めていた。
ベルが側にいない俺は俺ではなかった。
「なあ、アルファ、俺にどうしてほしい?」と、イライジャが聞いてきた。
選択の余地がないことはわかっていた。俺は不機嫌な低い声で、「配置につけ。ヴァンパイアがやってくる」と、イライジャに指示した。
俺たちは、こちらからアザゼルの軍隊に近づくことをせず、その代わりに、連中が近づいてくるのを待った。
凶暴そうなアザゼル軍は血に飢えた様子で、歯をむき出してうなり声をあげながら、こっちに向かって疾走しているのだが、その動きはスローモーションのように見えた。
俺たちを威嚇しているつもりなのだろうが、その様子は乱雑で、訓練されていない軍隊にしか見えなかった。軍隊の統率に長けた弟と違い、アザゼルは軍隊を率いる術を知らなかったのだ。
俺の群れはカシミールのヴァンパイア軍とともに平原に立ち、体を強張らせながら、もうすぐ始まる戦闘に備えていた。
俺はオオカミの姿で群れの先頭に立ち、カイルが横を固めた。俺の背後では低いうなり声が一斉に鳴り響いていた。
俺のオオカミは誰よりも激怒していた。彼は復讐を欲していた。骨を折り、血を流し、肉を引き裂く復讐を。
オオカミとしての本能が、自分の怒りやパートナーへの憂慮をすべてアザゼルに向けるように告げ、夜明けまで生かしておかないと決断していた。
俺のヴァンパイアも戦闘準備万端で表面に出ていた。2つの種族が同時に出ている俺の目は、間違いなくどす黒い赤になっていたはずだ。
自分の中に両者が共存している状態にも、それによって発揮できる新たな強さにも、まだ慣れていなかった。
俺はここにいるオオカミの中で圧倒的に大きかった。大きさを比較できるのはカイルだけだが、それでもその体格は俺よりもかなり小さかった。
新しく獲得したスキルに自信があり、アザゼルとの一対一の戦いになれば難なく勝てると考えていた。
ただし、アザゼルの臆病さは有名で、今でさえ、軍隊を率いるリーダーのくせに先頭に立っていない。
予想通り、アザゼルは軍の後ろに隠れていた。だからといって、あいつを探さないわけがない。空中にやつの匂いが漂っている。うん、近くにいる。
夜が明けるまでには俺の手はやつの血で真っ赤になっているはずだ。そう確信していた。
アザゼルの軍勢はすぐそこまで迫っており、やつらの血と汗の匂いで窒息しそうなほどだった。ここで俺の群れは前に進み始めた。待ちの時間は終わった。
そして戦いが始まった。
すべてがあっという間だった。オオカミとヴァンパイアは激しくぶつかり合い、この平原から離れた場所でもぶつかり合う音が鳴り響くと思うほどの激しさだった。
あっという間に兵士が倒れ始めた。
俺はヴァンパイアをひとりずつ簡単に、効率よく倒していった。首筋を一噛みしただけで、噛みちぎられた頭部が地面に転がった。
俺たちを殺して大混乱を引き起こすためだけに作られ、アゼザルと俺の間に立ちはだかるこのクリーチャーに一切の慈悲を与えなかった。
軍勢の後ろにいるアザゼルを見つけ、やつが引き起こした破壊と大混乱を俯瞰するために、俺は激しく戦う兵士たちの間を通り抜けた。
このときの俺は怒りと復讐心に取り憑かれたひとりの男で、アザゼル一族の滅亡などはどうでもよかった。
すると、背後で遠吠えが聞こえ、その意味をすぐに理解した。カイルが俺の注意を引こうとしていたのだ。どんなに集中していても、この遠吠えだけは聞き逃さない。
カイルの居場所を確認しようと後ろを見た途端、ヴァンパイアが俺の首筋に牙を突き立てた。俺はうなり声をあげ、そいつを投げ飛ばすと、違うヴァンパイが足に噛み付いてきた。
いとも簡単に蹴り飛ばすと、怒りはさらに激化したが、このとき俺は群衆から離れてしまい、周りに誰もいなかった。
遠くでカイルがまた吠えた。俺の目は戦場の真ん中で戦っている彼を捉えた。
俺がカイルの居場所を見つけたのを察知したかのように、すぐに心の中にカイルの声が入ってきた。「俺に見えているものがあんたにも見えるか?」
俺は周囲を見回し、戦っている連中をよく見ながら「何を?」と聞いた。
カイルは頭を動かして群れの土地を指して、「何かが邪魔してて、アザゼル一族が俺たちのテリトリーに入れなくなっている」と言った。
カイルの背後に目をやると、突然、何のことか理解した。最初ははっきりと見えなかったのだが、かすかに光る巨大なドームが群れの土地を覆っているようだった。
数匹のオオカミとヴァンパイアがドームの一方に立ち、もう一方にいるヴァンパイアに向かってうなっていた。俺は顔をしかめながら目を細めた。
あの連中は戦わないで、保護フィールドの後ろに隠れていたのだろうか?
すると、アザゼルのヴァンパイアのひとり、17か18くらいの青年が、戦う気満々で走ってきたが、例の半透明なドームにぶつかって弾き飛ばされた。
青年は苦痛の声を上げながら数秒間転げ回り、感電したように痙攣しながら激痛に抗っていたが、やがて動きが止まった。
そして、死んだ。
「あれは何なんだ?」とカイルに聞いた。
群れの周りには部外者を遠ざけるための保護フィールドがあったが、今出現しているフィールドはそれとは大違いだった。本来の保護フィールドは迷惑な客を殺すものではなく、足止めするだけなのだ。
さらに数人のヴァンパイアが、向こう側にいる数人の敵を攻撃するために、フィールドに向かって突進したが、さっきのヴァンパイヤと同じ運命を辿った。
彼らの叫び声は誰よりも大きく、保護フィールドに触れた途端、あまりの激しさに俺の耳の中でも鳴り響くほどだった。そして突然、俺は状況を理解した。
向こう側に立っている群れのメンバーは隠れていたわけでも、臆病なわけでもない。このフィールドを害虫を誘い込む捕虫器に見立てて、アザゼル一族を致命的なフォースフィールドに誘い込んで殺していたのだ。
群れの仲間は徐々に保護フィールド周辺で起きていることに気付き始め、動き出した。このかすかに光るドームに彼らは簡単に入って行ける。ある者は足を引きずりながら入っていき、またあるものは反対側へと移動した。
アザゼルの一族はすぐには追いつけなかった。新参ヴァンパイアたちは若く、訓練されておらず、血に飢えていた。
彼らは戦うことに必死で、オオカミであれ、ヴァンパイアであれ、皮膚に牙を突き刺すためなら手段を選ばなかった。仲間で攻撃しあっている者もいた。
アザゼルは、こいつらのこの血の欲望を有利に使うつもりだった。俺の軍隊を潰せるだけ獰猛でありさえすれば、殺す相手が誰であっても関係なかったのだ。
ところが、俺の軍隊がどんどん安全なフォースフィールドに避難すると、アザゼルの軍は仲間同士で戦い始めた。
彼らはフォースフィールドに突撃しながら、互いに殺し合い、喉を切り裂き合った。アザゼルの軍隊が長く持たないことは明らかだった。
俺が何も言わなくても、カイルはすべきことを理解していた。フォースフィールドに入れと群れのメンバーに叫んでいる彼の声が、俺の頭の中で鳴り響いた。
すぐさまカシミールも気づき、自分の軍隊にフォースフィールドの後ろに行くように叫び始めた。
この時点で俺たちの勝ちは決まっていたが、俺はまだ望むものを手に入れていなかった。
俺は木立の方に目をやり、アザゼルの気配を探った。やつが木の間の物陰に隠れているのはわかっていたし、そこから出てくる気がないことも承知していた。
アザゼルの敗北は目の前に迫っていた。打てる手立てはなかった。刻一刻とやつの軍勢は縮んでいたし、アザゼルはそれに気付いていた。そして、自らの敗北を防ぐ術がないこともわかっていた。
パニックに陥ったアザゼルは物陰にうずくまった。
アザゼルがどんな状況下なんて、俺にはどうでもよかった。やつを見つけ出して、追い詰めて、自分がしたことの報いを受けさせるつもりだった。
「アルファ、今、なにをしている?」と、カイルが頭の中で話しかけてきた。
俺はうなり声を上げて木立に突進した。アザゼルがそこにいるのはわかっていた。近くにアザゼルの気配を感じ、恐怖の匂いを嗅ぎ取った。
俺のオオカミが主導権を握ると血の欲望が最高潮に達し、本能がパートナーの復讐をしろと告げていた。
俺は「あのクソ野郎を見つけて、ズタズタに切り裂いてやる!」と、声に出して言っていた。























