
Broken Queen ―捨てられた狼女は運命を覆す― 8巻
Author
Danni D
Reads
🔥29.5M
Chapters
6
アレックスと幸せな日々を過ごしていたアリエルの元に突然現れたのは、自分を群れから追放したかつての運命の相手・ゼイヴィアだった。驚きや怒りの感情が出てくるアリエルだが、それよりもすっかり見た目が変わってしまったゼイヴィアの姿に困惑する。過去の無礼への謝罪と共に、ハンターに連れ去られた息子を助けて欲しいと懇願するゼイヴィア。もちろん嫌だったが、その息子は自分の妹の子でもある―つまり甥であり自分の家族であり、見捨てることは出来なかった。助けることを決意し、アレックスに話し彼女の強い気持ちを尊重する。そしてかつて自分を追放した群れ・クレセント・ムーン・パックへ向かうが…
対象年齢:18歳以上
予期せぬ訪問者
アリエル
かつての運命の伴侶が私の部屋にいた。
いったい、
どういう、
ことなの。
私を拒絶した人。
伴侶としての絆を断ち切った人。
私を追放した人。
私の顔など二度と見たくないと言った人。
そう、その元運命の伴侶。
その彼が私に助けを求めたの?
これは夢?
月の女神が何か悪ふざけでもしているんだろうか。
ゼイヴィアは私の人生から永遠にいなくなったと思っていたのに、今、彼は私の目の前にいて、私のベッドに座っている。
「えっと…何を……言ったらいいかわからない」それは本当だ。
まったく言葉が出てこなかった。
「戸惑うのもわかる」ゼイヴィアはためらいがちに口を開き、立ち上がって私に歩み寄る。「おまえは何も言わなくていい……ただ俺の話を聞いてほしいんだ」
ゼイヴィアの話を聞いてあげるべきかはわからなかったけど、彼の目に打ちひしがれたような色があったので、聞かずにはいられなかった。
ゼイヴィアは最高のクズ男かもしれないけど、実を言うと、彼が何を言うのか気になった。
「話して」私は腕を組んで言った。
(これでいいんだよね)
「まず、その……いろいろとすまなかった」彼は床を見つめて言った。
「それって、私を拒否して群れから放り出したことを言ってるの?」ゼイヴィアが認めるべきことを万が一忘れていたらいけないので、あえてそう尋ねた。
「ああ」ゼイヴィアはそう答えたかと思うと、ふいに私の目を見た。心から謝っているように見える。「あのとき……あのときはどうしようもない状況だったんだ。2年ぶりにおまえを見て、おまえが運命の伴侶だと気づいて……」
ゼイヴィアの声は次第に小さくなって消え、彼の視線はまた床に落ちた。
「うまく対処できなかった」彼はぼそりと言った。
(簡単に言うんだね)
「今更どうしてここに来たの?」私は気を許さないまま訊いた。「私の助けが必要だって言ったけど。許しじゃなくて」
そんな謝罪で私が許すと思われるのは困るけど、かといって今のところゼイヴィアから欲しいものは何もない。
私はアレックスと一緒にいるし、ゼイヴィアは私の妹と一緒にいるのだ。
ゼイヴィアがここにいることを妹がどう思っているかは誰にもわからない。
「おまえの助けが本当に必要なんだ」ゼイヴィアは繰り返した。彼の口調が突然暗くなる。「ハンター絡みなんだ」
心臓が止まりそうになった。
やつらは私を地獄に落とした。やつらが絡んでいることになんか巻き込まれたくない。
「ゼイヴィア、やつらに監禁されていたときにされたことを思い出したくないの。それに、本当のことを言うと、私とあなたの間にあったこともね。あなたがなぜここに来たのかわからないけど――」
「アリエル、やつらは俺の息子を連れ去ったんだ――俺の唯一の跡継ぎを……」
背骨を震えが駆け上がり、私の中の狼がクンクン鳴き始めた。
「そんな……」
「あの子はおまえの甥で……おまえはハンターたちのことを誰よりも知っている」ゼイヴィアの声が緊張する。「お願いだ、息子を取り戻すのに手を貸してくれ」
甥に会ったことすらないのに……。
生まれ育った群れに戻ることを禁じられているのに。
でも、甥が危険にさらされていると聞いたら……。
知らないふりをすることなんかできない。
私はすぐに戦士モードに入った。
「わかったわ、何があったのかすべて話して」私は強い口調で言う。「細かいことまですべて」
「やつらは夜息子を連れ去った……護衛を何人か殺して」ゼイヴィアはうめくように言った。
「ハンターたちだと確信しているのはどうして?」私は尋ねた。
ゼイヴィアは袖をまくり上げて、生々しいやけど痕を見せた。銀で焼かれた痕だ。
「やつらは銀の狩猟用ナイフを持っていた。これで済んで幸運だった。だが、俺は……俺はやつらを止められなかった」
ゼイヴィアが今どんな気持ちか。私には想像することすらできない……。
ナタリアの気持ちも。
こんなこと、最悪の敵の身に起こってほしいと願ったりしなかった。最悪の敵とは、要するにゼイヴィアとナタリアだ。
「追跡しようとしなかったの?」私は尋ねた。同情のあまり、ゼイヴィアの隣に座る。
「しようとしたが、痕跡を見失った」ゼイヴィアは答えた。「おまえのほうがやつらに詳しいだろう。もしかして痕跡を拾えたりしないか?」
「でも、そのためには私は……」
「群れに戻ることになる」ゼイヴィアが私の考えを言葉にした。
私は驚いた。ゼイヴィアは追放を撤回しようというのか。
「そもそもおまえを追放すべきじゃなかった」ゼイヴィアは言って、私の肩に手を置いた。「頼む……息子を探すのを手伝ってくれ」
感情が理性と闘うのを、私はどうにか抑えようとする。
バラバラに引き裂かれそうだ。
私の中の狼はウロウロしていて、助けにならない。
わかってる! わかってるから! 私の中の狼に向かって叫ぶ。
ゼイヴィアを助けなくちゃいけないけど……。
嫌な思い出がたくさんある場所に、どうすれば戻れるというのか。
1つ確かなことは……。
アレックスに話さなくちゃいけないということだ。
アレックス
「アレックス、私が言っているのはね、あなたは自分の将来について考えなくてはいけないってことだけなのよ」母は非難がましい口調で言って、コーヒーを1口飲んだ。
母は朝食の間中、ずっと口うるさく、俺に身を固めろとくどくど繰り返している。
もう失敗から学んでいてもいいはずなのに。
「母さん、はっきり言うけど、何をそんなに急ぐんだよ。今俺は幸せなんだ。お見合いパーティとか、そんなものは必要ない」俺はイライラしながら答えた。
(この前のお見合いパーティがどんな悲惨な結末になったのか、本気で忘れたのか?)
「じっくり時間をかけて決めたんだ」俺はきっぱりと言った。「この話はもうこれで終わりだ」
母は落ち着きなく爪を噛み始めた。何か言いたげに見えたが、考え直すことにしたようだ。
母は何も言わず窓の外を見た。その目には悲しみがはっきりと浮かんでいる。
(くそっ、そんなにきつい言い方だったか?)
俺は父を見ると、父は震える手でコーヒーマグを持ち上げた。
父は俺と母が話している間、おかしなほど静かだった。
「父さんはどう思ってるんだ?」父が味方になってくれたらいいのに、と思いながら尋ねた。父さんは王の責務のほとんどを俺に引き渡したが、それでも俺に言わせれば父さんはまだ王だ。
父さんの考えは俺にとって重要だ。
父さんは1つ深呼吸をしてゆっくりと言う。「わしが……わしが思うに、母さんはおまえにとって一番いいことを望んでいるだけなのだよ。それはわしも同じだ」
「じゃあ、こういうことか? 2人とも俺が時間を無駄にしてるって? そう思ってるのか?」俺は身構えながら言った。
母さんは煮え切らない様子で俺を見た。「アリエルはまた泊まっていったの? 今朝、急いで出ていくのを見たわ」
思った通りだ。
母さんが俺の結婚にこだわっている理由。
「母さんは彼女がふさわしくないって思って……」俺は低く唸るように言った。「くそっ……アリエルの話だって気づくべきだった」
「口の利き方に気をつけなさい」父さんは威厳のある口調で言おうとしたが、その声は弱々しく疲れていた。
(最近の父さんはどうしたんだ?)
「アレックス、ねえ、それは誤解よ」母さんは両手を上げて言う。「私が言おうとしてたのは……」
「彼女は俺にふさわしくないってことだろ? ただの平民の群れの戦士で、王にふさわしくないって?」俺ははらわたが煮えくり返った。
「いいえ……私が言おうとしてたのは」腕を組んだ母さんは、少し腹を立てているように見えた。「次は彼女を朝食に招待しなさいってことよ」
「え、あ、ああ……」俺は恥ずかしくなった。
最近少し不安を感じていた。新しい関係が必ずしも気持ち的に一番楽ではなくて、そのことを母さんに感づかれていたのかもしれない……。
(もしかしたら、俺がそのことに気を取られすぎていたのかも)
母さんはテーブルの反対側から手を伸ばして、俺の手に重ねた。
「あのねアレックス、あなたが幸せで嬉しいのよ。正直に言って……アリエルは自分がふさわしいことを十分に証明したわ」母さんは心からの笑みを見せた。「また会いたいと思っているの。アリエルにひどい態度を取ってきたことはわかっているわ。でも、いつ来てくれても歓迎するつもりだと彼女に伝えてほしいのよ」
母の努力を嬉しく思って、俺は頷いた。
「オリヴィアは良い娘だ」ふいに父さんが口を開き、俺を見た。「申し分のない伴侶になるだろう」
「ちょっと、アリエルよ……」母さんが不安そうな面持ちで訂正した。「名前はアリエルよ、あなた」
「ああ、そうだ、アリエルだ」父さんはぼんやりとした口調で言った。「そうだとも。度忘れしただけだ」
心配になって母さんを見たが、母さんは目を逸らした。
父さんが、亡くなった伴侶の名前でアリエルを呼ぶのを聞いて落ち着かない気持ちになったが、俺が不安なのはそのせいではない。
父さんは普段より顔色が悪く、言葉はゆっくりでぎこちなかった。
何が起こっているのかわからないが……。
(どこか悪いんだろうか)
***
朝食後、部屋に戻ると、アリエルが俺を待っていたので驚いた。
その驚きは、彼女が予期せぬ訪問者について話すのを聞いて、怒りに変わった。
俺は何も考えられず、怒りに任せて部屋を歩き回った。いつでも変身して何かを引き裂ける。
「のこのこやって来るなんて、どれだけ図太い神経をしてるんだ」俺は唸るように言う。「あいつが君にしたことを思えば、俺は――」
アリエルは落ち着かせるように俺の胸に手を置いた。「アレックス、彼がああしてくれて、私はよかったと思ってる。彼が私との絆を断ち切ったことで、私はもっとずっと強い絆を結ぶことができた……あなたと」
アリエルの言う通りだ。
それでも、あのクソ野郎がアリエルの部屋に現れたと思うだけで、はらわたが煮えくり返る。
「君があいつと一緒に行くなんてとんでもない!」俺は大声で言った。「あいつは君に、またハンターたちの照準に入ってくれと言ってるんだぞ!」
「アレックス、私の家族なの」アリエルは強い口調で言う。「手をこまねいて見ているなんてできない!」
「だが、アリエル、君がどんな目に遭ったか。ハンターたちに囚われている間に君が耐えたこと……」俺は親指で彼女の頬をそっと撫でた。「どうするんだ、もし……」
「再発したら?」少し傷ついたような口調で彼女は言った。
アリエルも同じことを考えていたのだと、目を見ればわかる。
「群れ最高の追跡者を全員送ろう。くそっ、俺が行く!」彼女を思いとどまらせようとして言った。「君があいつと一緒に行くなんて考えるのも嫌だ」
「私じゃなくちゃダメなの」アリエルはどうしようもないと言いたげな表情だ。
「なぜだ?」俺はイライラしながら訊く。「君がハンターに連れ去られたから? 許可できない――」
「私の家族なの」彼女は言う。「仲がいいか悪いかは関係なく」
「くそっ……」俺は小声で悪態をついた。
彼女の言う通りだとわかっている。彼女の義務なのだ。
アリエルが両腕を俺に回し、俺は額を彼女の額にコツンと当てる。「君を行かせたくない」俺はボソッと言った。
「ほんの2、3日だよ」アリエルは俺の胸に頭を預けた。
彼らのことなんて忘れてしまえと言いたかった。けれど、アリエルが彼女の母と妹との関係を修復できたら、それは彼女にとって何物にも代えがたいことだとわかっていた。
俺はため息をついて、彼女の髪を軽く撫でる。「行かないよう君を説得するなんて無理だよな?」
「ハンターたちを止めなくちゃ。私の治癒能力が役に立つなら……」
「それなら、できることはなんでもしなければな」俺は彼女に頷いて見せた。「わかった。気に入らないけど、わかったよ」
俺はしぶしぶアリエルから腕をほどいた。「とにかく気をつけて……。君を手放せないくらい愛してる」
「私も愛してる」アリエルは俺から離れながらも、俺を見つめていた。
アリエルが部屋を出ていき、落胆に襲われる。
彼女は俺の運命の伴侶ではないかもしれないが、俺にとってかけがえのない人だ。
まだチャンスがあるのなら、アリエルが家族を助けなければならないことはわかっている。
それでも、たくさんの苦痛が蘇ってくることになるだろう。
そのときは、絶対に彼女のそばにいよう。
アリエル
クレセント・ムーン・パックまでの道のりは、耐えがたいほど居心地が悪かった。
ゼイヴィアはほとんど口を利かなかったし、私もそうだった。
元運命の伴侶同士ならそれも当然だろう。
でも、ゼイヴィアにとっては私に話しかけないことが一番いいのかもしれない。自分の人生から文字通り追放した相手に、言えることなんて何もないだろうから。
慣れ親しんだ通りを車で走っていると、胸が痛くなった。
私はここで育ったんだ。
最高の思い出のいくつかはここでできた。
(でも、最悪の思い出も……)
ノスタルジーを頭から追い出そうとする。
ここには思い出にふけるためじゃなく、力を貸すために来たんだ。
ゼイヴィアは湖畔の大邸宅に車を横づけた。もう夜で、淡い月の光が湖面でキラキラと輝いている。
「アルファが先祖代々受け継いできた家で、俺もここで育った。俺の前は父がアルファだった」ゼイヴィアは初めて口を開いた。その口調には深い悲しみがこもっている。「俺の次は俺の息子がアルファになっていただろう……」
「あなたの次はあなたの息子がアルファになる」私はゼイヴィアを励ますように肩に手を置いた。
彼の顔に少しの間浮かんだ柔らかな笑みは、車の外で甲高い叫び声が聞こえた瞬間、消えた。
「冗談じゃないわ!」
顔を上げたら、ナタリアが野生の狼のように、怒り狂って突進してきた。
(はぁ、最悪……)
私の帰郷はまたもや歓迎されないみたいだ。




