
The Lycan's Queen 孤独な王の運命の相手は傷心したての私でした2
Author
L. S. Patel
Reads
🔥52.5M
Chapters
4
アーリヤとライカンの王アドニスの絆は、戸惑いながらも自分の感情と向き合う2人の中でどんどん深まっていく。アーリヤはアドニスに対する自分の反応と感じたことのない欲望に困惑し、アドニスはライカンという地位の責任に悩む。2人の関係が深まるにつれ、お互いの秘密が明らかになり、彼らの幸せが脅かされていく。果たしてアーリヤは女王としての運命を受け入れるのか?
第6章
つまり、よりにもよって、私は王と番いになる運命だったということだ。
その問題の王は、10年も前から番いを探していた。なんで? 私は番いなんて欲しくなかったし、番いを必要ともしていない。
私は一人で幸せ。でも、どういうわけか、頭の片隅で小さな声が、私は絶対100%幸せにはなれないと告げていた。
私は息を殺して、彼に見つかりませんようにと祈った。信心深いわけではなかったのに、気がつくと祈っていた。
私の願いは、彼に見つからないことだけ。そうすれば、この舞踏会から抜け出せる。あそこに戻るリスクは絶対に冒せない。
ホテルに戻って、両親には気分が悪くなったので帰ったと言おう。そう、それが完璧だ。
突然、茂みの陰から体が持ち上げられて、私の思考回路は停止した。
喉につかえていたものを飲み込むと、私は国王と向き合って立っていた。彼のはしばみ色の瞳が私の瞳を突き刺す。
心臓が早鐘を打っていた。すると、王が身をかがめて私の耳元でこう囁いてきた。「君を見つけた今、君を手放すつもりはない。一生」
ああ、も~うっ!
この番いとの絆が強いことは否定できない。思っていたよりもずっと強い。
王が私の顔にかかる髪を払ったとき、張りつめていたものが弾けた。
「君ほど美しい女性は見たことがない」王が耳元で囁く。
全身を火花が駆け抜け、私は息を呑んだ。どうして彼の言葉にこんなに反応するのだろう?これは普通のことじゃない。とはいえ、この状況では、普通のことなんて何もないのだけど。
王は、また私が逃げ出すのを恐れているかのように、私の背中にその両手を回していた。
「すみません……すみませんが、手を放していただけませんか?」私はやっとの思いで言った。
王は眉を吊り上げて、「君が逃げないって、私はどうやって確かめられるのかな? 追いかけっこは好きだが、また君を捕まえなくちゃならないのはごめんなのでね」と言った。
彼の目に浮かぶ欲望に私は震えた。王はそれほどゴージャスな人でもない、と自分に言い聞かせようとしたけど、私の体は反対のことを告げていた。
私は、もう一度王に捕まりたいと思っている自分に気づいた。きっと頭が混乱してるんだわ。結論はそれしかなかった。
「さあ、私の妃になる美しい女性の名前を教えてもらえないかな?」
「陛下のその褒め言葉は、すべての女性に効くのですか?」私は生意気にもそう答えた。
「それはどうだろう。これを私が試した女性は君が初めてだからね」と王はにやりと笑いながら答えた。
危険な目だった。私は無理やり、その目から顔をそむけなければならなかった。王は空いているほうの手で私の顔を掴み、ふたたび自分のほうを向かせた。
彼がじっと見つめてくる。その目は、「名を名乗れ」と言っているようで、私はため息をついた。
「アーリヤ。アーリヤ・ベディです」私は観念して自分の名前を告げた。
「アーリヤ」と王がゆっくりと発音する。
んもう~っ、なんで、そんなふうに私の名前を発音しなくちゃならないの。私の体がすぐに反応しちゃうじゃない。王の発音の仕方は、とてもセクシーに聞こえた。
ダメよ、アーリヤ。そんなこと考えちゃダメ。私は自分を叱った。
「美しい名前だ。私の名前はもう知ってるね、愛しい人?」
私はちゃんと声が出るとは思えなかったので、ただうなずいた。「愛しい人」という呼び名には驚いた。何もかもあっという間の出来事だった。
どうしたらいいのかわからない。ただ、私にできることは何もない、と何かが告げていた。だって、私には庶民のライカンの番いは言わずもがな、庶民の人狼の番いもいなかったんだから。
なのに、ライカンの王だって。彼はみんなの中で最強なのよ。何をしようと、どこへ逃げようと、きっと彼は私を捕まえる。
こうして論理的に考えていくと、恐ろしい事実に行き着いた。それは、もうライカンの王からは逃げられない、私は永遠にここにいるんだ、ということだ。
足音が聞こえて振り向いた瞬間に、王が私の手を離してくれた。
家族や友人たちが皆、宮殿から出てくるのが見えた。大好きな人たちの見慣れた顔を見てほっとした。ルークもソフィアもほっとした様子だった。理由は聞かなくてもわかっている。
私は何歩か歩いてみんなに近づきかけたのだけれど、全員が私に頭を下げたので、驚いて飛び退いた。何なの? 愛する人たちに頭を下げてほしくなんかない。私は王族ではない。
カーターが私にウインクして見せたので、私は天を仰ぎ見た。カーターは絶対これを面白がっている。でも、そんなことを考えている暇はなかった。
王が私の手を掴んできて、電流が走った。突然の触れ合いに、私は息を呑んだ。
王は、私が家族に言葉をかける間も与えてくれず、家族の前を通り過ぎてさっさと宮殿に私を連れて戻してしまった。振り返ると、家族や友人がみんな後ろに続いている。
王は私をまっすぐ玉座へ連れていった。
心臓がバクバクしている。彼はいったい何をする気なの? 王冠を戴く用意なんてなかったけど? ああ、私は彼のことをほとんど知らない!
遅まきながら、サヴァナはもう頂点にいないんだということに気づいた。バルコニーに到着して見ると、彼女は民衆とともに下のほうにいた。彼女はまったく幸せそうではなかった。
「忠実な臣民たちよ。今日は記念すべき日である。本日、私は番いとなる女王を見つけた。これ以上の幸せはない」王が高らかに宣言し、私をそばへ引き寄せた。
その発表に続いて大きな拍手が起こった。目で両親の姿を探すと、二人は嬉し涙を流しているた。カーターが歓声を上げ、ディヤがそれをたしなめていた。思わず笑いが漏れる。
さっきまで、どことなくピリピリしていたライカンたちにちらりと目をやると、今は様子がすっかり変わっていた。みんな、ずっと幸せそうで、肩の荷が下りたようだった。
すべてが間違っているような気がしたけど、一方で正しいような気もした。私は何がそんなに引っかかっているの?
ぐるりと見回すと、ニヤの姿がどこにもない。ニヤはどこ? 気にかかって私は人混みを探し続けた。やっぱりいない。
「どうかしたのか?」王が私の耳元で囁いた。
王に向かって顔を上げた私を見て、王は私の心配を読み取ったのだろう。彼は群衆を振り返り、笑顔を向けてから、私をよそへ連れていった。
そういえば、私は彼を何と呼べばいいのかわからないことに気づいた。彼が微笑みながら話しかけてくる。「君だけが私をアドニスと呼んでいい。君だけにその権利がある」
ふたたび空気が重苦しくなり、私は息を呑んだ。彼の髪に手を通して、その甘美な唇を味わいたい。そんなことを考えている自分がいた。
「おいで、私のとても大切な人たちに君を紹介させてほしい」そう言ってアドニスが私の手を取る。
私たちはみんながおしゃべりに興じている階下へと向かった。
「おい、おい、おい! いったい今日はどうなってるんだ?」と、聞き慣れない声が私の思考を遮った。
アドニスが私を、みんなの中に連れていったことすら気づいていなかった。二人の男性が満面の笑みで私たちを迎える。
そのうちの一人が前に進み出て微笑んだ。髪は黒にも見えるダークブラウン。そして、ダークブラウンのその瞳が幸せそうに輝いていた。
「僕はエヴァン・クラーク。このバカがようやく君に出会えて、こんなに嬉しいことはないよ」そう言ってエヴァンは握手をしてきた。
私が礼儀正しく微笑むと、アドニスが首を振っていた。「こいつらは私の親友だ。エヴァンはもう自己紹介を済ませたな。それから、そっちがゲイブ・デイビス」
「はじめまして」と、ゲイブも私に握手をしてきた。そのブロンドの髪は男性にしては長めだったが、彼によく似合っていた。
一人の女性が前に進み出てきた。肩まである赤毛で、青い目が際立っていた。ゴージャスな女性だった。
「私はレクシー・ロビンソン、ゲイブの番いです。あなたって、とってもゴージャスね」そう言ってレクシーはにっこり笑う。
「ありがとう。あなたのお洋服ステキ」
「あのさ、僕たち三人は、本当に長い付き合いなんだ。僕は、なんでこの二人と付き合ってきたんだろう、ってときどき思うよ」エヴァンは大げさにため息をついてみせた。
アドニスが天を仰ぎ、ゲイブがエヴァンを睨みつける。
「逆だ、バカ。ゲイブも私もお前によく我慢してきたもんだ。お前のおかげで、私たちは何度厄介な目に遭ってきたことか」そう言ってアドニスが首を振る。
「そのとおり。エヴァン、お前はクズだ。お前の番いがかわいそうだよ」ゲイブも頭を振った。
アドニスを見ると、アドニスは顔いっぱいに笑みを浮かべていた。出会ったばかりだというのに、彼の笑顔を見ると、なぜかとても幸せな気持ちになる。
きっとこの番いの絆が、私をおかしな気持ちにさせているのね。
「私だって、この二人がこれほど長いあいだ、あなたに我慢してきたことが信じられない。ゲイブと私はまだ番いになって7年しか経っていないけど、あなたがどんなに厄介な人かっていうのは、もう十分知ってるわ」とレクシーが頭を振りながら言う。
エヴァンが芝居がかって息を呑む。「何なんだ、これは? エヴァン吊るし上げの時間ですよ~、か? 女王様の前で恥をかかせやがって」
女王と聞いて私は硬直した。女王になんてなりたくない。責任が重すぎる。それに、あんな失恋をしたあとで、どうやって一人の人に気持ちを傾けられるの?
「もういい。恥ずかしいのはお前だ。行って、みんなを幸せにしてこい。私は伴侶の家族に会いに行く」アドニスの顔に真剣な表情が戻った。
エヴァンとゲイブはうなずき、王の命令に従ってその場を去っていった。アドニスがそっと私の手を取る。またもや電流が走って、息が止まりそうになる。これって、これからもずっとそうなるんだろうか?
どうして彼にわかったのかわからないのだけれど、アドニスはまっすぐ私の両親のところへ向かった。母は私を見るなり、大きく腕を広げて私を抱きしめてくれた。ママのハグには、物事をよくする力がある。
「どうして泣いてるの?」私は母の顔から涙を拭いながら尋ねた。
「どうしてって、私はとっても幸せだからよ! 私の娘が番いを見つけたのよ。娘のことを、こんなにも大切にしてくれる人をね。母親がほかに何を望むっていうの?」そう言って母は鼻をすすった。
母がにこにこしながらアドニスに向かって言う。「私があなた様に望むのは、娘をよろしくお願いします、ということだけ。娘を女王らしく扱ってやってください」
アドニスがうなずいて答える。「ご心配なく。私といれば、娘さんはずっと幸せですよ」
「なんとなんと、うちのお姫様は、もうお姫様じゃなくて女王様だよ。信じられないよ!」と父がウインクしてみせた。
「パパったら」私は呆れかえって目玉を天井に向けた。
父は笑って私を抱きしめ、こう言った。「アーリヤ、母さんも私も、お前が立派な女性になってくれて誇りに思っている。これからは人生の新しいステージだ。楽しみなさい」
これはさよならの言葉なんだとわかって、私は泣きたくなった。私は、両親から離れてここにいたくなかった。家に帰って、居心地のいい自分の部屋に戻りたかった。
「寂しくなるよ」次にサイが私を抱きしめてきた。
「ほんと? 私をからかえなくなるのが寂しいだけなんじゃない?」私は両眉を上げてみせた。
サイは笑った。「わかってるじゃん。お前をからかって、怒らせられなくなるのが寂しいよ」
ゾヤがぐいと私を引き寄せて言う。「だから言ったでしょ? 女王のようだって。アーリヤ、あなたは素晴らしい女性よ。絶対にそれを忘れないで」
「こんなの不公平だ。帰ってきたばかりだっていうのに、スマイリー、俺を置いていくなんて」後ろからカーターの声がした。
「あなたには今、あなたのことを見てくれる番いがいるでしょ」私は笑って言った。
カーターがため息をつき、私を引き寄せて抱きしめてくれた。泣かないようにするのが大変だった。
こんな夜になるなんて、思ってもみなかった。まさか舞踏会で番いを見つけ、愛する人たちに別れを告げることになるとは夢にも思わなかった。
「大丈夫。彼のことは任せておいて」と、ディヤがにっこり笑う。
「わかってる。カーターもきっとあなたを大切にするはずよ」そう言って私はカーターを睨みつけた。
彼が降参というように両手を上げる。「はい、陛下」
「ちょっと、本気?」私は首を振った。
「俺は間違ったことは言ってないよ。君は女王になるし、素晴らしい女王になるんだ」カーターは私の額にキスをした。
何もかも不思議な感じがした。群れのみんなが私のまわりに集まってきて、祝福してくれる。
突然、私の目はハンターの姿を捉えた。彼はまったく笑っておらず、番いの彼女も誰か別の人と話している。
今日はここまでずっと、ハンターは私が存在しないかのように振る舞っていた。だが今、私を見つめる彼の視線に私の鼓動は早まり、息ができなくなりかけた。
今、私に番い、それもあろうことか、なんと国王の番いができたことは誰もが知っている。そんな中、ハンターの目には、間違いなくキラリと光るものがあった。
完全なる嫉妬のまなざしだ。
(ああ、女神さま)
そのとき私は、自分が大変な状況に陥っていることに気づいた。




