
Trapping Quincy 運命に逆らうクインシーと王子の出会い 7巻
Author
Nicole Riddley
Reads
🔥14.6M
Chapters
3
この巻は「Trapping Quincy 運命に逆らうクインシーと王子の出会い 6巻」からの続きです。
ジェシカ・ラビットとテディベア
クインシー・セント・マーティン
私たちの真正面にやって来た彼女は、お尻を突き出し、ドレスのスリットがヒップの先までくるように上手に脚を開くという、練習したかのようなポーズで立ち止まった。
こんなドレスを来てたら、下着はつけられないだろう。この女性は自分の性的魅力に絶対的な自信を持っているようだ。彼女の目はカスピアンの上を彷徨った後、私に注がれた。
彼女は私の容姿を注意深く観察し、私を重要でないと判断したのか、またカスピアンへと視線を戻す。
アーチャー卿は席を立ち、彼女の隣に並んだ。
「殿下、私の連れのヘレン・アリストファネスをご紹介させてください」と彼は言う。「ヘレン、こちらはカスピアン王子です」
「お目にかかったことがあります」と彼女が猫なで声で話し始める。「殿下、またお会いできて光栄ですわ」彼女はカナリアを飲み込んだ猫のような笑みを浮かべる。
カスピアンは椅子に寝転がるように座っている。背もたれのクッションにゆったりと頭を預けている。微動だにしない。そこに誰かがいるかどうかも一切認知していないかのようだ。表情からは何も伝わってこない。彼の指先は私の上腕をゆったりとなぞり、もう片方の手は私の太ももを独り占めしている。
「膝の上にいらっしゃるのが、殿下のエラスタイ(運命の人)であられるクインシー・セント・マーティンさまです」と、アーチャー卿、いやギデオンが、少し楽しげな声で続ける。
ヘレンの眉が驚きで上がる。「まぁ」そう言うと、彼女の口がへの字に曲がる。
彼女がまばたきをする。私はそうやって彼女がなんとか落ち着こうとしているのがわかった。彼女は、私がカスピアンのエラスタイ(運命の人)であることに驚きと落胆を感じているのだろう。
アーチャー卿が自己紹介を続けるので、私はもう一度彼女をじっくりと見てから、他の人たちに目を向けた。
みんな一応に自分の考えや感情を隠すのが上手だ。ジェネシスだけは一瞬不服そうな表情を見せてから、それをかわいらしい無垢な表情で隠していたけど。
私はペニーの視線を受け、視線を交わした。
お互いに新たに現れたこの女性を警戒しているのか、それとも本能が近づきすぎてはいけないと警告しているのかはわからない。もしかしたら、彼女の態度がそうさせているのかもしれない。
「今日飛行機で帰るなら、そろそろ荷造りをして動き出さないとね」とダリウスが言う。「飛行機は1時間で準備できるし、車も手配してある」
「アーチャー卿、お連れの方とご一緒に来られますか?」とラザルスが尋ねる。
「はい、よろしければ。カリフォルニアで用事があるので」と彼が答えると、私の下でカスピアンの体が硬直するのを感じた。
最悪だ! ジェシカ・ラビットと一緒に飛行機に乗らないといけないらしい! ギデオン・アーチャーは好きだけど、彼の相棒は全くもって好みじゃない。
カスピアンは二人とも追い出したいと思ってるんじゃないかな。
カスピアンはまるで羽毛なのかと思うほど軽々と私を持ち上げて、椅子から立ち上がった。彼はとても背が高く、私は高々と持ち上げられているように感じる。私が「降ろして」と言わなければ、彼は私を部屋まで運んでくれるだろう。私を床に降ろしてくれた後も、彼の手は私の腰から離れない。
私たちがエレベーターのそばに立っていると、ペニーが身を乗り出してきて、こうささやいた。「あの女性って焦げ茶色の髪をしたジェシカ・ラビットみたいじゃなかった?そう思わなかった?」
まさにその通り! 彼女は私の思ってることをよくわかってる!
私が返事をする前に、エレベーターのドアがひとつ開いた。ジョナ、ジョーデン、ダリウス、ペニーが私たちの後に続く。
ドアが閉まる直前、ヘレンが入ってきた。
次のエレベーターカーを待ちながら、アーチャー卿がラザルスとコンスタンティンと話しているのが見える。セリーナとジェネシスは二人の番いと一緒にいる。
ホテルには実質私たち以外の客はいない。私たちと数人の従業員以外、誰も宿泊していないんだ。それで各階を二人ずつシェアしている。ジョーデンとジョナは泊まっている2階で降りた。
ヘレンは何も言わない。彼女はただ隅に立って、エレベーターが上の階に上がっていくのを見ている。ペニーは隣に立ち、目を細めて彼女を観察している。
ペニーは裏表のない性格をしている。だから彼女が自分に好意を持っているかどうかを気に病む必要はない。
私はこの女性を無視しようとしていた。彼女といると胸が騒ぐ。私の新しく目覚めた感覚、つまり私のライカンが出てきて、彼女の瞳をかきむしりたがっている。
ペニーは3階でダリウスと別れる前に、もう一度私を見た。私は彼女が何か考えていて、それを言うのを我慢しているのがわかる。
ヘレンは4階で降りる。外に出る直前、彼女はカスピアンに向かって言った。「また後でお目にかかりますわ、殿下」彼女の声は熱気を帯びていて、とても思わせぶりだ。
ドアが閉まる直前、私は低いうなり声を上げていた。これには我ながら驚いた。
7階にあるスイートルームのドアに入るやいなや、私は彼を追い詰めた。
「あの女と寝たの?」
「どの女だ?」
私は目を細めて彼を見つめた。私をごまかそうなんて100年早い。「ジェシカ・ラビット!」私は呻く。
「だれ?」
「あ゙ー、もう!ギデオンの連れ、ヘレン・なんちゃら?彼女と寝たことあるの?」
「あー、ギデオンって呼んでるんだぁ。いつから?」 突然、カスピアンが私を見下ろす。「言っただろ、彼は君に興味があるって。みんなのためにも、彼に近づきすぎたらだめだ」
「話しをそらさないで」私は筋肉隆々な広い胸を押す。彼はびくともしない。「ヘレン・なんちゃらとあなたのことを話してるの」
私はもう一度、今度はもっと強く彼を押した。身長が30センチ近く低いのに、威嚇しているように見せるのは難しい。でも私はものすごく機嫌が悪い
「あなたは、あの女と、寝たことが、あるの?」彼が黙ったままなので、私はもう一度問い詰めた。
彼は数歩後ずさり、完璧な髪を指でぐちゃぐちゃにする。とても動揺しているようで、次の言葉が出てこない。
「ああ」聞き取ることが不可能なくらいの声でカスピアンが答える。
そんなことはすでに十分にわかっていたが、彼が実際にそれを認めるのを聞いて、私の心は痛みで締め付けられた。私のライカンは出てきて、周りのすべてを粉々に引き裂きたがっている。
「でも、それはとても昔のことで、何の意味もなかったんだ」
「どのくらいの昔のことなの?」なぜ私はこんな質問をしてるんだろう?私はマゾに違いない。最悪のタイプだ。
「君に会うずっと前だ」私が彼をにらみつけると、彼はすかさず「6、7年前かな」と付け加えた。
「よかった?」ううっ。もうやめたほうがいい。この胸の奥で燃え上がっている嫉妬を消し去らないとダメだ。
彼は苦しそうにうめく。「もう覚えていない。それくらい記憶にないんだって。もうこの話はやめにしない?」彼は数歩動いて、私の真正面に立つ。金色の髪が乱れている。「ねぇ、クインシー。俺はバカだった。恥ずかしいことをずいぶんたくさんしてきた。できることなら全部やり直したいけど、できないんだ。ごめん。だから過去の話はやめて、未来に集中しない?約束するよ、俺は君以外誰も欲しくないんだ」
私は腰に手を当て、彼を睨みつけた。何百年も生きてきた彼が、しかもこんな性格をしていて、こんな容姿をしている彼が、修道僧のような生活を送ってきたと期待する方が馬鹿げている。それに、これは私たちが出会う前のことだ。彼が変えられることじゃないから、私が対処するしかない。それでも傷つく。
突然、私は元カレのトレイと、トレイが番いを見つけた後に付き合ったベンとリアムという二人の人間のことを思い出した。
ベンとリアムとはイチャつく以上の関係にはならなかったけど、私にとって彼らは単なる遊び相手ではなかった。本当に彼らのことが好きだって思っていた。ベンはトレイを克服するための、リアムはベンを克服するための、私のリバウンドだった。
私の経験なんて、カスピアンとは比べものにならないだろうけど、私たちがまだここにいる間に、彼があの人たちのことを知るのはまずいと思う。
特にヘレン・ラビットに対して激しい感情を抱いているときには。彼にトレイや他の2人を追いかけてほしくない。私はクローゼットの中からダッフルバッグをいくつか取り出し始めた。私のものじゃない。私のものにしては、あまりに素敵で、あまりに高価なバッグだ。
私のボロボロのバッグはどこにいったんだろう? あの古びてボロボロのバッグが必要だ。
「何を考えてるんだ? 何かしゃべってくれないか」窓から飛び降りて逃げ出したりしないかと心配するかのように、カスピアンは私の後をついて回る。
今は、ベッドであの女と絡み合ってるカスピアンのことを考えたくない。うぅぅ。
「ここではっきとさせておきましょう。以前の異性関係とか、性体験とか、そういうことをお互いに話す必要はないわよね?」
私はバッグのひとつをベッドに置く。
「ええと……、そうだね 」と彼は言う。
「じゃぁ、元カレの話とかも一切なしね」私はバッグのジッパーを開け、中に物を入れ始める。「よし、良かった」
「ちょっと待って! 元カレってどういうこと?」
私はバスルームに行き、今朝使ったシャンプーとコンディショナーとシャワージェルを集める。この匂いが好きだ。バニラと虹とユニコーンの匂いがする。
私は汚い言葉を吐きたくなった。あまりにもあらゆる言葉に汚い言葉をつけたくなっていたから。私の罰金箱では収まりきらないほどのお金を入れないといけなくなるだろう。
振り返ると、カスピアンが私のすぐ後ろにいて、出口をふさいでいた。「クインシー、元カレって?」
私は彼の腕をかいくぐり、再びベッドのそばに立った。「その話はしない。覚えてる?」私は腕の中のものを全部、開いているバッグの中に放り込みながら、彼にそのことを思い出させる。
こういうバッグもいいけど、やっぱり私はある古いバッグを使いたい。
「どこに行くんだ?」ドアノブを掴もうと私の手が伸びると、彼は慌ててそう尋ねる。
「急いでやることがあるの」私はドアを引っ張って開けた。
「どんなことだ?」彼はドアを閉める。
カスピアンは今、私のすぐ近くに立っている。私は彼の体の熱を私のすぐ横に感じている。彼の香りが私の鼻を侵し、はっきりと考えることが難しくなってくる。
「どんなことって……、いとこのジョーデンにちょっと話があるの」もう一度ドアを開けようとする。でもカスピアンがしっかりと押さえていて、力を入れても動かない。
「何の話?」彼は両手でドアを押さえ、私を閉じ込めた。「俺から逃げようとしているの? それとも元カレの話?」
彼の鮮やかな緑色の瞳に何かが光る。
ああ、神さま! なんで今さら私の元カレの話をしているの? 私はまだカスピアンとヘレンという女のことで傷ついているし、ムカついているのに。
しかも、あの女は『私の』王子様ともう一度やりたいって思ってるし……!
もうこんなこと考えたり話したりしたくない。そうじゃないと、後で後悔するようなことをしたり言ったりしちゃうかもしれないから。
自分が理不尽で愚かなことは分かっているけれど、今はこの気持ちを抑えられない。
彼が前にいろんな子と寝ていたことは知ってたけど、これまではそれもそんなに気にならなかった。
今、私は二人が一緒にいるところを想像するのを止められない。私は突然、捕らえられた野獣のように、何か、あるいは誰かを傷つけたくてしょうがない。
こんなに腹が立って、不合理でコントロールできない自分が嫌だ。
「私が何をジョーデンと話しても、あなたには関係ないでしょ!」私は突然彼にキレた。
「もちろん俺に関係ある。君は俺のものだ! 君がすることは何でも俺に関係あることだ」
「私があなたのものだって言うの、やめて! 私はあなたのものじゃない! あなたの所有物じゃないわ。私は私自身のものなの!」 私は怒鳴っている。
カスピアンは私を見つめるだけだけど、その目の輝きは私が今言ったことに否定している。ううっ!
「この……、この絆のようなものにはもううんざりなの。とっても……、とっても息苦しい! ここから出させて……。あなたの側から離れたいの!」
カスピアンは私の言葉に固まった。彼の顔に痛みの色がにじむ。そんなつもりじゃなかった。本当に。そう言う意味じゃないんだってカスピアンに言いたかった。でもその時、傷ついた表情が消えた。彼の瞳が金色のまつげの下で輝いている。彼は冷たく、よそよそしく見える。私の言葉は私の舌の上で凍った。
ね、だから今すぐここから出て行かなきゃって言ったの。物理的に彼を傷つけることはできないかもしれないけど、言葉は同じようにひどく誰かを傷つける。
もう一度私がドアを開けると、彼は私を止めなかった。
カスピアンの部屋を出て、彼から離れて、非常口の階段に向かって廊下を歩くのが、なんでこんなにつらいんだろう? 私は階段で数階上にある屋上に向かう。ホテルの片側には、松の木が手つかずのまま生い茂っている。私はビルの縁に立った。
ほんの数秒ほど、私は森の中に逃げ込もうかって真剣に考えた。野生のベリーを食べ、夕食にウサギを狩って生きていくことを想像した。でも、それは単なる空想に過ぎない。逃げ出したいとは思わない。冷たい風が髪を顔に吹きつけ、私は震える。
凍えるような寒さだが、新鮮な空気を吸うと少し気分が良くなる。私は大きく深呼吸をした後、エレベーターを探しに建物の中に戻った。
ジョーデンに会わなきゃ。
ジョーデンはジョナと一緒にカリフォルニアに行くと決めたんだ。母親とジョエルと離れるのは悲しいだろうけど、新しい場所を見るのは楽しみなんだと思う。彼がループ・ノワール・パックから抜けることを決めてくれてよかった。
私が決められるなら、二人のいとこは望むと望まざるとにかかわらず、私につきまとわれることになるだろう。私は二人をきっと困らせる。私はエレベーターで2階に降りる。どの部屋にジョーデンがいるかわからなかったから、いくつかのドアをノックした。5番目のドアが開いて、ジョーデンが出てきた。
ジョーデンは私を見て驚いていた。「やあ、Q。準備はできたの?」
「ううん、まだ」
「大丈夫?」彼はドアを大きく開け、私をじっと見た。
「うん、大丈夫じゃないわけないでしょ」私は急にかゆくなった頭をかきむしりたい衝動と闘った。まったく、役立たずな嘘をつけない頭皮め。
「ねえ、J、私がいつも持ち歩いていた古いバッグを覚えている?パックハウスに持ち帰ったんだけど、今どこにあるか知らない?」
ジョーデンはニヤリと笑った。「まだあんな古いバッグに執着してるの?」
「うるさい!オリバーを返してほしいだけなの」ループ・ノワール・パックの男たちに連れ去られる前に、私はオリバーをバッグに詰め込んだ。
ジョーデンは目を丸くするだけだ。「そろそろ彼とさよならするべきじゃない?」
私は引きつった顔でジョーデンを見た。私のテディベアとさよならする? どうして彼はそんなことを言うの? テディベアを大事にするには確かに年を取りすぎているのはわかっているけど。
オリバーは古くて、ネズミみたいなぬいぐるみだけど、私が群れの家で毎日いじめられていたとき、私の側にいた唯一の友達だった。
オリバーは聞き上手で、絶対に秘密を漏らさない完璧な番人だ。ありとあらゆるものが変化していく中で、オリバーは私の人生で唯一不変の存在だった。何よりもオリバーは、私が決して取り戻すことのできないシンプルで純粋な時間、ナナとの生活の象徴なんだ。
「絶対に嫌! オリバーがいない人生なんて考えられない」と私はジョーデンに言う。
カリフォルニアに置いてくるべきだった。レイラなら、彼が安全でいられるようにしてくれただろう。
「わかった、わかった、冗談だよ。うーん、半分本気だったけど……」とジョーデンが言う。
「クインシー、君はきっと僕を愛さずにはいられなくなるよ。君の臭いバッグとその中身はまとめて全部僕の手元にある。マドックスの部屋で見つけて、持ってきたんだ。返して欲しいって思うだろうと思ってさ」
「マジで? ほんとにほんと! J、愛してる!」私は彼を強く抱きしめた。
私を殺したいほど憎んでいる家族がいるかもしれないけど、そうでない家族は最高よ!
「どういたしまして、Q。今、持ってきてあげるよ」
「ううん、あなたが持ってて」オリバーを他の誰にも見られたくない。
今のところ、ジョーデン、ジョナ、レイラだけが私のネズミっぽいテディベアを知っている。他の誰かに知られたら恥ずかしい。
「オリバーに会いたがってたって伝えておいて。もう行かなきゃいけないけど、私の代わりにキスして抱きしめておいてくれる?」
「それは嫌だよ、Q」とジョーデンは嫌そうに首を振る。
そうか、私以外の誰も、あの汚れていて、みすぼらしくて、ちょっと匂う古いテディベアを抱きしめたいとは思わないんだ。うん、いつか洗ってあげよう。部屋に戻ると、カスピアンはもういなかった。私のものも、彼のものも、部屋からすべてなくなっていた。
残っているのは、ベッドの上に横たわる濃いグレーのコートだけだった。今朝私が着ていたものよりも分厚い。
ビルの屋上でちょっと一息ついたおかげで気持ちが落ち着いて、今は部屋を出る前の自分の反応をすごく後悔している。
そう、私は嫉妬していた。あんな気持ちにさせられたのは初めてだ。嫉妬は痛い。心が焼かれる。暴力的でコントロールできない気分になる。私はコートを持って部屋を出て、一人でエレベーターに乗った。エレベーターは4階で止まり、ギデオン・アーチャーが乗り込んできた。
私を見て、ギデオンの目が輝いた。「またお会いしましたね、姫様」彼は私に小さくお辞儀をした。
筋肉質な体にぴったりと張り付いた白いヘンリー、ブルーウォッシュのジーンズ、ブロンズのバックルがついた黒い革のベルト、黒い革のジャケット、黒い革のブーツというカジュアルな服装だ。ジーンズの前ポケットからは懐中時計が覗いている。ブロンズの太いチェーンでベルトループに留められている。
どうやって懐中時計をワルっぽく見せるのだろう?
「クインシー」と私は彼に言う。「クインシーと呼んでください」
彼は唇を尖らせて微笑む。「クインシー」彼は舌の上でそれを味わうかのようにゆっくりと発音する。
ライカンの男たち。もし私がある不愉快で、腹立たしく、生意気で、ゴージャスな王子に夢中になっていなかったら、この人によだれを垂らしていたんじゃないかと思う。私たちは無言のままメインフロアまで降りた。ホテルのロビーには誰もいなかったので、私はさっき私たちが座っていたソファに向かった。
ギデオンは私についてきて、私が選んだソファの隣のソファに座る。
彼は足首のところで足を組み、膝の上で指を絡めて、静かに私を見つめる。私は深くソファーに腰掛けて、何も言わずに彼に視線を返す。突然、彼は笑いながら首を振った。「なぜあなたが王妃になる運命なのか、私にはよくわかります」
私は首を横に傾げて考えた。その理由がまったくわからない。
「私の優位をあなたに示そうとしたのに、あなたはまばたきさえしなかった」
彼の言う通り、私は何も感じなかった。アルファ・マドックスやベータ・セント・マーチンが私を服従させようとしたときのように。
「他のライカンだったらそのほとんどが今のでうずくまっていたでしょう。クインシー・セント・マーティン、あなたはとても力強い。あなたのライカンはまだ完全に現れていませんが、私はすでにあなたの力の強さを感じることができます。あなたが完全なライカンになったとき、どのように強力になるのか想像さえできません」
まだよくわからない。今は自分がそんなに強いとは感じられない。どちらかというと、何が起こってるのかさっぱりわかっていない。私はまだカスピアンへの感情をどうするのかで精一杯だ。
嫉妬のせいで、自分を上手くコントロールできない。どうやってその感情に向き合えばいいのかもわからない。だから私はギデオンにこう言った。「カスピアンはあなたが私に関心をもっていると思ってるみたいですよ」
ギデオンは驚かなかった。「ええ、王子はとても聡明な方です。こういったことに王子が気づかないなどとは想像もしていませんでした」と言う。「そうです、私はあなたに惹かれています」




