Cover image for Yes, Mr. Knight 彼に覚醒された本当の私 1巻

Yes, Mr. Knight 彼に覚醒された本当の私 1巻

好戦者

ジェイミー

オフィスの近くにあるコーヒーショップで軽く昼食を済ませ、カルメンと私はKnight&Sonのオフィスに向かっていた。
日頃から私たちは週に2回は会って女子会ランチをすることにしていた。
「彼に会うのは楽しみ?」カルメンは顔を覆うスカーフ越しに、くぐもった声で訊いた。
「うん、でもちょっと緊張もしてる。私がデートなんて久々でしょ。」
ー思えば最後にデートをしたのはいつだろう。身体の相性だとかそんなことはおいて、正統派の初デートができればそれで十分だ。ー
「ライアンは素敵な人よ。きっとお似合いだと思うわ」
気付けばもうオフィスの前だった。
「ありのままのあなたでいれば、彼もあなたを気に入ってくれるわ。」
自然と笑みがこぼれる。
「そうね。」
その時、カルメンの表情が変わったのに気づいた。彼女はぽかんと口を開け、目を大きく見開いていた。
「カルメン、どうしたの?」
彼女は私の体の向きを後ろに向き直させた。
視線の先にいたのはメイソン・ナイトだった。完璧に仕立てられたアルマーニのスーツの上に高そうなウールのコートを襟を立てて羽織っていた。
ーそのスタイルの良さときたら否定のしようがない。ー
カルメンは、まるで肉に飢えた獣のように彼を見つめた。
「私もあの人に頼まれたら断れる自信がないわ。」
「あのねぇ、はっきりいわせてもらうけどあんな男のどこがいいの?」
本当に理解できない。
体のパーツどこをとっても私にはピンともこない。
メイソンは会社の正面に着くなり、すぐに私たちに気づいた。彼はドアの取っ手を握り、ドアを開けた。
「ジェイミー、寒いだろう。早く中に入ったほうがいい。病欠は有給扱いにならないぞ。」
多分メイソンのことだから本気だ。私はカルメンの方を見た。「後で家でね。」
カルメンはウィンクでさり気なく返した。
私が何か言うまもなくカルメンは去った。
私はメイソンより先にビルに入り、エレベーターに向かった。彼は私のすぐ後ろにいた。扉が開き、私たちは中に入った。
ー二人きり。またこのパターンか。ー
彼は前と同じでいい香りを漂わせて私の横に立っていた。
「一緒にいた女の子は誰だ?」
「カルメンです。私の親友なんです。」
嫌な予感がして私はメイソンの方を向いた。
「あの子にちょっかい出そうなんて考えないでください。あの子は身体の関係とかそんな単純なものは求めていませんから。」
私が言っていることは噓かもしれない。でも私の脳裏には一度では満たされず、さらに求めてしまう彼女の姿があった。彼女はずっとそうだったのだ。
「落ち着け、ジェイミー。茶髪は好みじゃない。」メイソンは困惑気味にそう答えた。
私は怒りっぽく腕組みをして前を向いた。
ー茶髪はタイプじゃない…か。ー
「何かついてるぞ。」彼は右手を伸ばした。「外で付いた雪かしら。」あまりの距離感の近さに身がたじろいだ。
近くで見る彼はどことなく疲れているようだった。
昼休みもセックスに明け暮れていたのだろう。
すると、彼は親指と人差し指で私の髪をいじり始めた。
「茶髪だ。」
今更気付いたの?
扉が開いても彼は微動だにせず、私の髪を指で挟んだままだった。変な気分になる。った。
「おお、2人ともここにいたのか。」息子に劣らず立派なスーツに身を包んだハリーがひょっこりと現れた。「もしかしてお取込み中だったかな?」
私は真っ赤になった。「いえ、大丈夫です。ハリーさん。仕事があるので私は失礼しますね。」
私とメイソンがエレベーターを降りると、ハリーは息子に視線を移した。
「メイソン、2時に会議室だ。お客様をお待たせするなよ。」
「今向かおうとしてたとこだ。」メイソンは声をこわばらせて返事した。「ジェイミー、ヘンダーソンさんに確認して、今夜の夕食は事前の打ち合わせ通りでいいか確認しておいてくれ。」
「はい、電話で確認しておきます。」
私は自分の荷物を机の上に置き、回転椅子に腰掛けた。
あと数時間でライアンが迎えに来てくれる。緊張してきた。

メイソン

私はオフィスのドアのそばに立ち、彼女を見ていた。
デスクにかがみ込み、ファイルを片付けている。
スカートをはいた彼女のお尻がよく見えた。
さっきまで履いていたスカートとは違う。
仕事中に着替えたに違いない。でもなぜだ?
驚くようなことじゃない。女とはそういうものだ。
茶髪の女に興味はないし、持ったこともない。しかし、私は今、彼女に誘惑されている。私をミスターナイトと呼んだあの時、極めつけは、シャツから覗く彼女のブラジャーを見た時からだ。
いつか絶対にあの女を手に入れる。
すんなりとはいかないだろう。だがそう思うと余計に燃えてくるものだ。
そのときオフィスのドア口からブレントの声がした。
「壮観だな。」
ブレントは取引先の社員で、うちのオフィスによく顔を出す常連だ。
「ああ、壮観だ。」私はそう返す。
ブレントとは価値観が合うし同じものに熱中している。金、権力、女だ
「今度はあの女か。」腕組みをしてブレントが訊ねる。
「彼女は僕が嫌いみたいだけどね。だからこそ攻略し甲斐があるってもんだ。ああいうおとなしそうな女がベッドじゃ一番いい反応をするんだ。」
ジェイミー・ハリス。面白そうな女だ。
「ああ、確かに落しがいがありそうだな。」
そう言うとブレントはジェイミーの方を指さした。そこにはジェイミーのお見合い相手が花束を片手に立つ姿があった。
「狩りは君の本領だろ。せいぜい楽しめよ。メイソン。」

ジェイミー

実物のライアンはもっとハンサムだった。
顔ひげはかなり濃く、穏やかで青い眼をしている。
優しそうな男の目いや、本当に彼がそうであることは明らかだった。
彼が本当に目の前にいると思うとさらに緊張が増した。テンパってうっかり変なことを口走らないように気を付けなければ。
「君を迎えにここまで上がって来ちゃったけどまずかったかな?ビルのロビーに君がいなかったからもしかしたらまだオフィスにいるのかと思って。」
薄く口紅をまとった私の唇は大丈夫と言わんばかりに口角を上げ笑みを浮かべた。
「ええ、大丈夫よ。ちょっと遅れてたんだけど、もう出れるわ。」
私は荷物をまとめ、ライアンとエレベーターに向かって歩いた。
「それで、ライアン。夕食はどこに行くの?」
彼はボタンを押しながら答えた。「ブラッドフォードさ。」
それを聞くなり血の気が引くような気分になった。
ブラッドフォード、ミスター・ナイトの晩餐会が開かれる場所だ。
Continue to the next chapter of Yes, Mr. Knight 彼に覚醒された本当の私 1巻