Trapping Quincy 運命に逆らうクインシーと王子の出会い 10 巻 - 表紙

Trapping Quincy 運命に逆らうクインシーと王子の出会い 10 巻

Nicole Riddley

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Chapter
15
Age Rating
18+

Summary

この巻は「Trapping Quincy 運命に逆らうクインシーと王子の出会い 9巻」からの続きです。

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バネハロ宮殿

クインシー・セント・マーティン

驚くほど豊かな男性の香り、柔らかな掛け布団、そして私の体を覆う温かい筋肉質の体は天国を感じさせる。だから鳴り止まないアラームの音はとても煩わしい。

私はうめき声で、静かにするように命令する。今のところ効果はない。頑固なアラームだ。

私は片方の腕を伸ばしてサイドテーブルにある携帯を取り、アラームを止めようとした。ダメだ……。私の腕では短すぎて届かない。

カスピアンはうめき声を上げながら、私をがっしりと抱き寄せる。

なんでこんなに早くアラームが鳴るの? まだ暗い。太陽はまだ昇っていない。バカなアラームだ。なんてバカな目覚ましなの……。

あれ! アラーム……。大変だ! 空港。ロシア。そうか! 飛行機が待ってるんだ。

「カスピアン!」 私は再び腕を彼の体の下から引き抜き、彼の肩をつかむ。「カスピアンってば!」揺さぶってみる。「起きて! 起きなきゃ大変!」

「うーん、シー。まだ寝てていいよ」カスピアンが呟いて、私の首筋に顔を埋める。

私の番いは朝型ではない。昨夜目覚ましをかけたのも彼だ。きっと彼を起こすのは私の役目なんだろう。

「カスピアン、起きて!」私は彼の体重を押しのけようとした。岩を動かすようなものだ。「カスピアン!」

彼はうめき声を上げながら、私の股間に膝を押し込み、私の乳房を包んでいる彼の手をこね始める。彼の唇が私の首筋に沿ってキスを始める。

「クインシー 」と彼は私の肌に息を吹きかけ、彼の口が私の首にからみつく。

とても気持ちいい。うーん、とてもいい。

呼吸が乱れる。「カ、カスピアン……」私は息をのむ。

「何の音だ?」彼は不機嫌そうに顔を上げた。寝起きの髪はぐしゃぐしゃで、強い眉がにらみを利かせている。

あ、そうだ。飛行機だ。ロシアだ。「アラームよ」と私は親切に教えてあげた。

筋肉で盛り上がった伸びて、携帯の画面をタップする。筋肉がおいしそうに伸縮している。「どこまでいってたっけ?」彼は首を横に傾け、また私に迫ってくる。

彼の唇が私の唇に届く前に、私は両手を彼の胸に当てた。「カスピアン、起きなきゃだめでしょ」と私は彼に言う。「今日、ロシアに行くんでしょ」

彼は苦しそうなうめき声をあげる前に、一拍おいて立ち止まり、私の胸に頭をのせた。

「俺は王子だ。俺の好きなことをしていいはずだ。俺はここにいたいんだ」と不機嫌そうにつぶやく。

それから1秒も経たないうちに、彼の思考が別の方に向かったのがわかった。「女神さま、なんてキレイなんだ。クラバシア(美しい)」彼はそう呟くと、指が私の胸郭を探り始める。

「肌も柔らかくて、いい匂いがする」彼の濡れた絹のような舌が私の乳房の下を撫でる。「君はとてもいい味がする」 ああ、神様、この男……。

「カスピアン、ダメ。行かなきゃ」と私は抗議した。でも昨日そうしていたように、一日中彼と二人でベッドにいる方を私も選びたい。部屋の外に行ったのは食事のときだけだった。

「早く終わるようにするから」彼は顔を上げ、眉を寄せて希望に満ちた表情で私を見た。彼の髪は伸びてきている。数本の金色の髪が片方の目にかかっている。その目にいたずらな輝きがなければ、天使だと言われても信じてしまうだろう。

誘惑に負けたい。そう思ったけど、私は後悔のため息をつきながら言った。「ダメ。飛行機の時間があるでしょ」

「いや、大丈夫。飛行機は俺が飛べって言うときに飛ぶから」と彼が答える。

カスピアンの顔には、欲しいものを手に入れることに慣れている男の傲慢さが表れている。彼は時々、甘やかされて育った子どものような振る舞いをする。彼はまた私に手を伸ばし、私は体を隠すためにシーツを持って彼から逃げた。彼はシーツの端をつかみ、私は手を放した。

「それでも、他の人を待たせるべきではありません、閣下」と私は彼に言う。

彼は私の体を見回し、「ベッドに戻れ、クインシー」と命じた。

私はただ首を横に振った。また彼に触られたら、ノーとは言えない。

彼は不機嫌そうにため息をつく。「ほら、俺は王子なのに、いつも好きなことができないんだ」彼はブツブツ言いながら起き上がった。私は今朝の彼の駄々っ子ぶりに目を丸くした。

彼は一糸まとわぬ姿で、恥ずかしげもなくバスルームへと歩いていく。波打つ筋肉とキメの整った肌で美しく彫刻された彼の見事な体は、見ているだけで夢のようだ。

彼がロシアに帰りたくないと思っているのは知っている。彼が私のことを心配しているのも知っている。

時折、彼が背負っている荷の重さを、まるでそれが私自身のものであるかのようにはっきりと感じることがある。どんなに彼がその感情から私を守ろうとしても。

私も心配している。未知なるものは諸刃の剣だ。それは私を興奮させると同時に不安に陥れる。

セレステの次の行動も心配だ。それは私のお腹の底に大きな岩があるみたいに、気持ちを重くさせる。彼と一緒にいるときだけ、その重苦しさから解放される。

カスピアンの言うとおりだ。私たちはお互いにとっての究極の気晴らしなのだ。

カスピアンがシャワーを浴びている。少しすると開いたバスルームのドアから湯気が立ち込める。

シャワーの流れる音も、未だに不機嫌そうな彼の声をかき消すことはできない。

私はベッドに横たわり、彼の朝の機嫌の悪さを笑わないように努力した。まあ、今日の彼は特別不機嫌だ。「背中を洗ってあげようか?」と私はからかう。

彼の答えは、裸のまま、水をしたたらせながら、バスルームから大股で出てくることだった。彼はベッドから私を抱き上げると、温かいシャワーの中に私を連れ込んだ。

***

私たちの荷物やバッグは、すでに荷物の妖精たちが階下に運んでいる……っていうのは冗談だけど、私たちがシャワーから出るころには、全部部屋から運び出されていた。

あとちょっとで私の支度が調うっていうときに、彼がウォークインクローゼットから出てきた。

鏡の中で目が合うと、彼はズボンのポケットに手を入れてドア枠に寄りかかり、私が髪を三つ編みにするのを見ていた。彼は鋭く、完璧で、堂々としている。顎の髭はきれいに剃られ、金色の髪は艶やかで、後ろにながされている。

白いシャツの上にネイビーブルーのVネックケーブルニットセーターを羽織り、ブルーのシルクのネクタイを締め、ダークグレーのズボンに光沢のある黒のレザーブーツを履いている。

「どんな髪形でも、君は美しく見えるよ」と彼は言う。

彼の暖かく硬い体が私の背中に押しつけられ、彼は私の髪の束に長く優雅な指を沿わせ、髪を脇に寄せてロープのように手に巻きつけた。

「でも、俺は髪を下ろしている方が好きだ」彼は私の首筋にキスをしながら、鏡の中の私と目を合わせる。「野性的で、俺の指に巻き付いている」

「うん、知ってる」彼の頬にキスをしながら、私はささやく。アフターシェーブのような香りと、かすかに匂う高価なコロンの香り、そして彼独特の、私がいつも求めてしまう、やみつきになるような匂いがする。

「行きましょう」また誘惑に負けてしまう前に。

キッチンに着いたのは午前5時15分、外はまだ暗い。でも階下の明かりはすべてついていた。アイランドキッチンには新鮮なフルーツとシリアルが並んでいる。御影石のカウンターの端には、大きなコーヒーのカラフェと紅茶のポット、砂糖、クリーム、ミルクもある。

みんなすでに朝食のテーブルについていて、お茶やコーヒーを飲んでいる。でも誰も何も食べていない。ジョナとジョーデンもいる。いとこ二人がこんなにスマートな格好をしているのを見るのは初めてだ。二人とも結構イケてるのは認めざるを得ない。

レディ・セレステは、明るい裏庭とプールを一望できる大きな窓に向かって、ウィングバックチェアに座っている。ピンクのデザイナーズドレスに身を包み、髪はいつものように美しくセットされている。

彼女はリラックスしているように見えた。でも私は彼女の美しく手入れされた指がバーキンのバッグのストラップに絶え間なく触っているのに気づいた。

セリーナとペニーは静かに「おはよう」と挨拶し、男性陣は挨拶の代わりにただ頷いていた。ジェネシスはまだ半分眠っているようだ。彼女はマグカップに向かって意味不明のことをつぶやいている。耳を澄ますと、脅しのような何かが聞こえてくる。

「まだ二杯目だよ」まるでそれですべてが説明できるかのように、コンスタンティンが言っていた。

カスピアンは私たちのマグカップにコーヒーを注いでくれた。彼は私のコーヒーに角砂糖2つとクリームを加え、マグカップを朝食のテーブルまで持ってきてくれた。

車道には3台のSUVと1台のリムジンが待っている。

どうやらリムジンはレディ・セレステのためのもので、王宮から付いてきた運転手兼ボディーガードが一緒にいる。

運転手が最初のSUVのドアを開けてくれた。カスピアンと私はジェネシスとコンスタンティンと同乗する。いつものごとく、ライカンたちは適切なスピードで運転することができない。私たちは高速道路を爆走した。

車は飛行機が待っている駐機場に直行する。

階段の下で機長と副操縦士が迎えてくれる。乗務員は他のライカンたちと顔なじみのようだ。

乗務員は全員人狼だと思う。ドアのそばに立っていた二人の客室乗務員がアンナとユリヤと名乗る。二人がカスピアンに軽薄な笑みを浮かべると、彼は固まっていた。カスピアンが彼女たちに言葉もかけず、笑みも見せずに、私を機内に案内すると、二人は困惑した様子だった。

ペニーは鼻で笑い、彼の横を通り過ぎるとき、「過去の行いが帰ってきたみたいね、モテ男くん」と彼女がつぶやくのが聞こえた。

私はカスピアンを睨んだ。でも彼はそれ視線を避けた。握っている彼の手を離そうとしたけど、彼はさらに強く握りしめる。彼とのこの戦いに勝利することができないのはわかっているので、抵抗もせず、彼に一番前の豪華な革張りの座席に私を案内させた。

彼が遊び人で、女の子とじゃれついていたのは知っている。でもヘレン・ジェシカ・ラビット・なんちゃら以外に過去の女と対面する機会があるとは思ってなかった。ロシアに着いたら、たくさんそういう女性を見ることになるのかな。まあ、彼らが自分の立場をわきまえている限りは大丈夫だろう。

まぁ、どれだけ私が誰かの髪の毛を引っこ抜かずにいられるか……、うん、なかなか楽しくなりそうだ! 楽しいわけはないけどね。

この飛行機は、私が前回、以前の群れがいる場所から戻ってくるときに乗った飛行機よりもはるかに豪華な作りをしている。内装は贅沢な装飾で溢れていて、しかもそのすべてが上品だ。クリーム色の革張りの座席が8席用意されていて、その前に折りたたみ式のテーブルがある。

ソファの向こうには2つのベッドルーム、洗面所、バスルームがある。さすがにプロだと言うべきか、2人のCAは的確に仕事をこなし、フレンドリーだった。離陸の1時間後には朝食を出してくれたし、いちゃつこうともしない。

だから、私たちは大丈夫だと思う。朝食のとき、彼女たちへのわだかまりは解けた。

一方、カスピアンとはまだケンカ中だ。

妥当であろうとなかろうと、私は傷ついている。それにこれはロシアに着いてから対処しないといけないだろうことの罰も含んでいる。私が彼を無視すればするほど、彼は私から離れようとしない。

ある人は彼のこの行動を可愛いって思うかもしれない。でも私はうっとうしいだけだと思う。今だって、目の前の食べ物の名前を説明しながら、私に無理矢理朝食を食べさせようとしてる。

「さあ、口を開けてごらん。絶対気に入ると思うから」彼はそう言って、フォークに目一杯のせたシャルロッカっていうリンゴのケーキのようなものを私の口に運ぶ。

すでに彼は、バター、サワークリーム、ジャム、キャビア、セモリナ粥を使って作られているパンケーキとクレープの中間のような「ブリニ」と、朝食の定番とも言える、目玉焼き、ソーセージ、ヨーグルト、新鮮な果物を私に食べさせた。

料理はおいしかったし、私はもうお腹いっぱいなんだけど、それを口にすることができない。だってこれはすべて、私に何かを言わせようとする彼の作戦の一部だから。これがまさに私たちの戦争。彼はとても頭が固く、狡猾で不愉快だ。

私は彼の喉にパンチを食らわしたい。彼を愛していなければ、きっとそうしてただろう。

「カスピアン、ちょっといいか?」とコンスタンティンが顎を奥に傾ける。

「すぐに戻るよ、モヤ・プリンセサ」

カスピアンは私の頬にキスをすると、ラザロ、ダリウス、ジョナが話をしている飛行機の後方へと向かうコンスタンティンの後について行った。

私は立ち上がり、ソファーに座っているセリーナ、ジェネシス、ペニーと合流する。

「お嬢様はどうしたの?」と私は彼らに尋ねた。もちろん正面の席でジョーデンの横に座っているセレステのことだ。彼女は顔色が悪く、とても無口だ。ジョーデンが静かに話しかけている。

「飛行機が怖いのよ」とジェネシスがささやく。

え? あの威勢がよくて、生意気で、うるさいライカンが空を飛ぶのを怖がっている?

私の表情から驚きを察知したのか、ペニーがにっこり笑ってうなずき、こう付け加えた。「だから彼女はあんまり旅行をしないの」

「60年代にひどい飛行機事故に遭ったらしくて、未だに精神的に立ち直れてないっていう話よ」とセリーナが説明してくれた。

「ねぇ、このフライトをもっと楽しくする方法があるわよ」とペニーが興奮気味に言う。

「ペニー、やめて!」ジェネシスが警告する。

ジェネシスが大人っぽく振る舞おうとしているのは知っている。今月の彼女の新しい決意だ。毎月、彼女の決意は失敗に終わる。先月は、食べる量を減らすことだった。ペニーの話では、それはあまりうまくいかなかったらしい。簡潔に結論だけ言えば、空腹なライカンは一緒にいて楽しいライカンではない。

だから、今回は特に頑張っている。私にはすでにほころびが見えてるけど……。

彼女の目がペニーとセレステの間を飛び交い、好奇心といたずらへの憧れの表情になるのがわかる。

セリーナは笑わないように必死だ。彼女はジェネシスの肩を叩いて励ます。

「頑張ってると思うよ、ジェン」私はそう言って彼女をサポートする。ペニーがあのおかしな頭で何を計画しているのか知りたくてたまらないけど……。

「あーあ、つまらない人たち」とペニーは顔をしかめて文句を言う。

マリーシュカ、まさか飛行機を墜落させるつもりじゃないだろうね?」男性陣が私たちに合流すると、ダリウスが尋ねる。

「飛行機を落とす? プッ。なんで私がそんなことする?」天使のような笑顔で彼を見上げる。

「君がビーニーの計画してる世界崩壊の実行犯にさせられる前に、席に戻ろう」そう言って、カスピアンが私の手を取り、私を連れ出そうとした。

ペニーはムッとしている。「カスピアン、私が……、なんて言ったの? 悪巧みをしているのはあなたの方でしょ! この悪の黒幕め!」彼女は私たちの背中に向かって叫んだ。

「ビーニー、俺は愛の人で、争う人じゃないよ。俺は甘い、甘い、ステキな愛を育むだけで、戦争は生み出さない」ウィンクして、私を奥の寝室のひとつに連れ込みながら、カスピアンがそう答えた。

「あなたがその通りの人なら、さしずめ私は猿のおじさんね」と彼女は答える。

「あれ、違ったっけ」とカスピアンが言う。

彼女の反論を聞くことができなかった。カスピアンが寝室のドアをしっかりと閉めたから。

寝室もとても豪華に装飾されていた。前方のキャビンと同じ、クリーム色、白、黒の豪華な装飾が施されている。明かりは落とされ、窓は閉められている。

彼は服を脱いで、ボクサーパンツだけになって私をベッドに引きずり込むと、両腕をしっかりと私に巻きつけた。私はすぐに眠りに落ちた。

数時間後に目を覚ますと、私はもう彼に腹を立てていなかった。

***

ロシアのブヌコボ空港に着いたとき、外は暗く、ドアを開けると雪が舞っていた。

ここのセキュリティは厳しい。飛行機を降りると、ダリウスを思い起こさせる真面目そうな大男たちに囲まれた。リムジンがすでに待機している氷の滑走路に足を踏み入れると、カスピアンが私の手を握っている。

私たちを乗せる車はすでに決まっているようだ。私たちは、コンスタンティン、ジェネシス、セレステと広々としたリムジンを共有する。

車に乗り込むと、カスピアンが私を抱えて、膝の上に座らせた。彼は私の頬に顔をくっつけ、一瞬でも手を離すと私を失うかのように、両腕を強く抱きしめる。

私は彼のジャケットの前をつかみ、彼の首と肩の間に頭を乗せ、車窓からぼんやりと通り過ぎるロシアを眺めた。

彼の匂いを吸い込み、彼の親指が私の上腕に円を描いているのを感じる。

しばらくして、彼が私の腕に何かを書いていることに気づいた。

I L-O-V-E U(愛してるよ)と彼は書いている。

I L-O-V-E U 2(私も愛してる)と私は彼の胸をなぞる。

T-H-I-S C-A-R R-I-D-E S-U-C-K-S(最悪なドライブ)、と彼は書く。

私は苦笑しながら、I S-U-C-K U(なめてあげる)と書き返す。

彼は突然頭を上げ、眉を寄せて邪悪な笑みを浮かべて私を見た。「約束する?」

「たぶん」と私はおどけたようにささやく。

「良し!」彼は言う。

レディ・セレステの燃えるような視線を感じるが、この時点では、彼女のことなどどうでもよかった。王子のハートは私のものなのだから。

***

バネハロ宮殿は、控えめに言っても感動的な場所だった。遠くに見えた瞬間、息をのんだ。山の上の広大な土地にあり、周囲は雪に覆われた白い森に囲まれている。

厳重な警備が敷かれた正門までの道を行くために、私たちはいくつかの人狼の群れのテリトリーを車で通り抜ける。正門から宮殿の巨大な正面玄関までは、さらに森林地帯や広大な野原を抜けていく。

建物自体も立派だ。何世紀もの間、氷、太陽、雨といった自然の要素に耐えながら、ここに鎮座していたに違いない。櫓や大きな窓があり、傾斜のついた屋根には不気味な石造りのガーゴイルが飾れている。

アーチ型の屋根の入り口を支える巨大な柱があり、正面の階段には見張り役のライカンのブロンズ像が立っている。巨大な凍った池の前には、氷に覆われたライカンの顔をした女性の像の噴水がある。

ここだ。私はカスピアンの世界にやって来た。まるで別の世界のようだ。

衛兵が私たちのためにドアを開けてくれた。宮殿に入るとすぐに、私はカスピアンの雰囲気が変わったのを感じた。彼のやんちゃで遊び好きな精神は、今、堅苦しく警戒心に溢れた態度になっている。

私たちを出迎えたのは、堅苦しい黒いスーツを着た厳粛で威厳のある男性だった。細身で背が高く、カスピアンとほとんど変わらない。

黒髪を横分けにし、かつてフランスの俳優ジャン・デュジャルダンがつけていたような鉛筆のように細い口ひげを生やしている。表情からは何も読み取ることができない。

「おかえりなさいませ、殿下」と彼が小さくお辞儀をする。

「フランソワ」と私の番いが言って、私たちの厚手のジャケットを手渡した。「クインシー、これは俺の執事のフランソワだ。フランソワ、こちらは俺の番いのクインシー・ロマノフだ。

フランソワは敬意を持ってお辞儀をする。「殿下、アレクサンドロス国王とソフィア王妃が、まもなく始まる夕食の席でカスピアンさまをお待ちです」

カスピアンの手が私の手を強く握る。冷たく重いものが私の胃に沈む。私はまだ準備ができていない。

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