
Yes, Mr. Knight 彼に覚醒された本当の私 2巻
トラブルはあったもののライアンとの初デートを終え、すっかり彼に夢中になっているジェイミー。友達のカルメンと年の瀬の町でショッピングに行き、会社のクリスマスパーティーで着る服を色々探す。結局カルメンが貸してくれたドレスで行くことにするが、少し大胆なそのドレスに落ち着かない。メイソンの父であるハリーはパーティーを楽しんでおり、ジェイミーにプレゼントまで用意してくれていた。そのプレゼントが置かれている部屋に行くと、パーティーに出ていないメイソンがいた。クリスマスは祝わないと言う彼と話をしていたが、気づいたらヤドリギの下に立っていた2人。―ヤドリギの下で出会った男女はキスをしても良い―クリスマスは祝わないのに、そんな言い伝えは知っていたメイソンは、そっとジェイミーにキスをしてくる。ジェイミーは嫌なはずなのに受け入れ、彼とのキスに夢中になってしまう―
実家での会話
ジェイミー
木曜日は決まって実家で家族と夕食をとる。
母は大の料理好きで、私たち家族全員は彼女が食卓に並べるものすべてをむさぼるように食べる。
夕食に来ると、いつも帰るころにはジーンズがはちきれそうになる。
その日、私はいつもより早く仕事を切り上げた。まずは実家で手早く食事を済ませ、深夜にカルメンと買い物に行く予定だった。
カルメンに強制参加させられるクリスマス・パーティーのために服が必要だったのだ。
私は両親の目を盗んで実家の廊下でライアンと通話した。
私のせいなのにライアンは自分がデートを台無しにしたのではと心配そうにしていた。
「もう大丈夫なの?」そう言う私にライアンは笑いながら返事した。
「元気だよ、ジェイミー。次に会うときにはピンピンしてるさ。」
やっぱりライアンは魅力的だ。私はニヤニヤしながら壁に寄りかかった。「それで?」私はさらに訊ねた。
「君のことを考えてたんだ」
半日デートしただけで、彼は私のことを考えている。そうと来れば初デートは成功だ。それに、彼は私のことをもっと知りたそうだ。
「わたしもよ。」
「明日、少し時間があるんだ。良かったら夜どうかな?」
私はため息をついた。「明日は仕事先のクリスマスパーティーがあるの。でも土曜なら。」
「土曜日でもいいよ。店が決まったら教えるよ。」
すると、キッチンのドアが開いた。母が顔を出して微笑んだ。「ごはんよ。」
「もう行かなきゃ、ライアン。また土曜日。」
「じゃあね、ジェイミー。」
私は両親と一緒にテーブルに座った。母は大皿料理を用意してくれた。「今日もすごいわね。お母さん。」
「今日も朝から精が出てたからなあ。冷蔵庫にはチーズケーキもあるぞ。」父がそう言う。
「最高。」私はテーブルの向こうの母を見た。「ちなみに何チーズケーキ?」
「イチゴよ。」
ストロベリーチーズケーキという単語だけでライアンが頭をよぎる。
彼は私の人生に必要な人だ。
私はテーブルのお誕生日席に座る父をちらりと見た。「お父さん、仕事はどうなの?」
「ああ、おかげさまで順調だよ。最近は退職後のことも色々考えててな。退職したらずっと話してた世界一周旅行に母さんを連れていくよ。」
母は父に微笑みかけると、「あと2、3年ね。楽しみにしてるわパパ。」と嬉しそうに言った。
私の両親は学校で知り合った。父はサッカー選手だった。
その後母は兄のジェイクを妊娠し、二人は駆け落ちした。
プロ転向への夢を断たれた父は家族を養うため、自分の父親と同じ法律家の道を進んだ。そしてなんやかんやあって父の今の夢は世界一周というわけだ。
すると、玄関のドアが開いた。
「ただいま!」廊下を通ってキッチンへ向かってきた兄が叫んだ。
ジェイクも父と同じ弁護士だ。事務所から真っ直ぐやって来たのか彼はスーツを着ていた。
「もうみんなで食べ始めてたの?」
「あなたの分もちゃんと取り分けてあるわよ。今持ってくるから座りなさい。」
母はすぐにキッチンからジェイクの分の食事を持ってきた。
「そういえばライアンとのデートはどうだった、ジェイミー?。」
「お母さんはどうだったか知ってるでしょ。」
母はあの晩、私と電話したので当然アレルギーの件も把握済みだ。
「電話越しで聞かせてもらっただけよ。それに他のみんなも気になってるのよ。」
彼女はテーブルに戻って、いそいそとみんなの皿に料理をよそった。やっぱり母は容赦ない。
「ディナーでブラッドフォードに行ったわ。お互い好印象だったと思うしライアンはすごく優しかった。土曜日にまた出かける約束をしたわ。」
「男にとっちゃセックスにたどり着くのも一苦労だな。」ジェイクは笑った。
私は彼をにらみつけた。「黙ってジェイク。男がみんながみんなあんたみたいなゲスだと思わないで。」
「男なんて皆そんなもんだよ。」と、反省する様子もなくジェイクは笑い続けていた。
こいつは毎度毎度本当に鼻につく。昔からよくケンカはしたが、年をとるにつれ私を侮辱したり、それで口論になるようになった。
「少なくとも私には交際相手がいるから。あんたも人のことばっか言ってないで相手を見つけたら?」
「笑わせんな。聞いたんだぞ。つい先週末ぼっちで映画館に行ってたくせに。たかだか一回デートしたくらいで講釈たれんな。」
「お母さん!」私は母のほうへ向き直る。先週末私がおひとり様で映画に行ったのは母しか知らないはずだ。
「ごめん!一緒に付き添ってあげられなくてかわいそうだったからジェイクには話しちゃった。」そういう母は申し訳なさそうに顔を歪めた。
「いいのよ。」私はため息をついて さっさと夕食の残りを食べ終えようと皿に目を落とした。
「お母さんから聞いたんだけど、その彼氏ナッツアレルギーで顔がパンパンに膨れ上がったんだって?」
ーまた始まったー
カルメンと私は閉店前の店を回った。
私は年の瀬が大好きだ。飾り物、食べ物、匂い。
クリスマスだって大好きだ。
「そんなのよくあることよ。上の兄弟なんてちょっと早く生まれたからって自分が偉いと思うものなのよ。」
「本当にムカつくんだからね。いつもいつも人を怒らせるようなことを言ってさ。」
カルメンは笑った。「人を怒らせるのが好きなのね。彼はそれがデフォルトなのよ。」
「ならアップデートしたほうがいいわ。結婚して身を固めたいならなおさらよ。もう30になるのよ。」
彼女は私のパンチラインに馬鹿笑いすると、私と腕を絡ませ、パーティーグッズの店に私を連れて行った。
「ネットで見つけてずっと気になってたの。」
「コスプレ?絶対無理!赤い服を着て終わりじゃだめなの?」私は首を横に振った。
「みんな仮装するんでしょ。あなたは新入社員なんだから。そういうのは新入りの仕事よ。」
それ以上議論することもなく、彼女は私を店に連れ込むと商品を見回した。
ここまでくると、"いやです、はいそうですか"とはいかないだろう。
彼女はコスチュームを一着手に取ると、試着するように言った。
私は店の奥にある試着室に行くと、カーテンを閉めた。
コスチュームはドレスと帽子でどちらも赤いベルベットの生地に白い毛皮の縁取りがされていた。
試着室から出ると、カルメンが賞賛の声を上げた。
クリスマスにコスプレをするのは普通のことだが、どうも私は落ち着かなかった。
「これよ、これ。」カルメンは手を叩いて喜んだ。
「うーん、どうかなあ。」そう言って私は鏡が置いてある窓の方へと歩いて行った。
鏡に映る自分を見て、意外と衣装が似合っていることに驚いた。
ふと突然降ってきた雪に目を奪われ、窓の外に目をやった。
そのとき、彼が店の前を通り過ぎるのが見えた。
メイソンだ。なんて偶然だ。
彼はちらりとこちらを見たかと思えば、私の姿に気付きこちらを二度見した。お互いつい啞然としてしまう。
高価なボタンダウンのコートの襟は立っていて彼の首と顔を覆っていた。
しかし次の瞬間、もうそこに彼の姿はなかった。
「なんかあった?」カルメンがこちらへやって来る。
「ううん。何でもないわ。」私は肩をすくめてみせた。




