メイソンの父・ハリーに頼まれて所有しているビーチハウスをチェックしに行くことになったメイソンとジェイミー。ライアンからのメッセージを勝手に削除したことに腹を立てているジェイミーは、車内でも一言も話さずにいた。ビーチハウスに着くとメイソンの母であるペネロペの写真があり、彼女のことを聞こうとすると相変わらず口を閉ざすメイソン。何があったのか、どうしてまだ心を開いてくれないのかと考えながらも、買い出しに一緒にスーパーへ行き、不器用ながらも愛情表現をしようとするメイソンにようやく笑顔を見せるジェイミーだが…
対象年齢:18歳以上
ジェイミー
肌に軽く触れる指と、耳元でささやく声を感じた。
「ジェイミー。ジェイミー。」
素晴らしい夢の終わりは心地良いものだった。
まだメイソンに激怒していたにもかかわらず、もちろん夢の中の彼は裸だった。
そしてビーチハウスに向かう車に乗り込んだ瞬間、彼は私がそんな夢を見たことを分かっているようだった。
セバスチャンがハンドルを握り、メイソンと私はいつものように後部座席にいた。
しかし私たちは何も話さなかった。一言も口をきかなかった。
目をぱちぱちと開き、私は座席に背筋を伸ばして座った。
そして睡眠不足なのか、あくびが出た。
この週末はしっかり寝たかったのに。
ハリーは当然ながら、私がメイソンに同行することに大喜びだった。
それで良かった、私はもうクタクタだった。
メイソン・ナイトとのセックスで私は疲れ果てていた。この数週間でセックスした回数はもう覚えていない。
しかも彼は時間をかけてするのが好きだから。
水際に見事な家が建っているのが見えた。
この1月の天候では、さすがにあのビーチを利用することはできないだろう。
メイソンはこちらに身を乗り出すと私のシートベルトを外した。
「着いたぞ。ずっと寝てたな。疲れていたんだろう。それか、黙っているのに飽きたか。」
「長い一日だったもの。車の中で何時間も座っていても、いい気分にはならないわ。」
私はまた窓の外に目をやってますます彼を苛立たせてみた。
彼は欲しいものを手に入れることに慣れているし、勝ち逃げも上等だ。
「中に入ろう。今日は機嫌が悪そうだから、一杯飲むといい。」
メイソンはドアを開け、外に出た。セバスチャンが私の方のドアを開けてくれた。
コートの襟を立てると、私はメイソンの後について家の前へと回った。
波が岩に激しくぶつかり、上空の雲は灰色でどんよりとしていた。
嵐の夜になりそうだった。
私はメイソンについて家の中に入った。「ライトオン!」メイソンがそう言うと部屋の電気がついた。
金持ち特有のハイテクノロジーだ。
まず目についたのは、壁に飾られたメイソンの母親、ペネロペの写真だった。彼の自宅で見た彼女の顔を思い出した。
とても美しい女性だった。
「こんな感じだ。どう?」
彼はスーツの上着を脱ぐと、ライトグレーの長いコーナーソファに放り投げた。
「キッチンは少し手直しが必要だけど、料理するには十分よ。」
私は彼の方に顔を向けた。
「食べ物がないわ。何か作るの?ミスター・ナイト。」
私は腹ペコだった。ご飯はちゃんと食べていたけど、とてもお腹が空いていた。
彼は肩をすくめた。
「何かオーダーするか? 確かこの辺にいい店が何件かあったはずだ。」
口に入れるものすべてにも気を配る男だ。
もちろん外食でも注文には気を使う。
ポテトチップスを食べながらビールを飲んでいるようでは、彼のような体は作れない。
私は開放的なリビングスペースを通り抜け、ソファの脇のサイドテーブルに置かれた額入りの写真を手に取った。ペネロペが小さいメイソンを抱えている写真だ。
「ここで撮ったの?」
「そうだよ。」
ズボンのポケットに手を突っ込んだまま、メイソンは私のほうに歩いてきた。
「ずいぶん昔の写真ね。」
彼は私の手から写真を離し、テーブルに戻した。さっきと同じように、見るのも苦痛なように、彼は写真を伏せて置いた。
「まだ怒ってるの?」
「怒らないわけないでしょ。自分が何したのか分かってる?」
私は呆れてため息をついた。
「私の携帯を勝手に見た上に、ライアンのメールを消したじゃない。」
そう言うと、メイソンは大きく息を吐き、キッチンへ向かい食器棚からラム酒を取り出し、グラスに注いだ。
私はその場に立ち尽くし、ただメイソンを見つめていた。
「嫉妬しているんだ、ジェイミー。今まで嫉妬したことはなかったけど、他の男がきみに近づいたことに嫉妬したんだ。これで十分か?」
思った通りだ。
「もう彼に興味はない。わかりきってることでしょ。」
私はキッチンにいるメイソンに近づき、彼のグラスを取り上げた。
そんなに飲む必要はないもの。
彼はカウンターに手をつき、下を向いて考え込んだ。
「君が好きだよ、ジェイミー。」彼は頭を上げた。「でも、私はめちゃくちゃで、自分が何をしているのかわからないんだ。」
メイソンは私が好き。
でも私はメイソンを愛している。
でも、彼は自分が何をしているのかわからない。
「めちゃくちゃ ってどういう意味? ここには何が入っているの?」彼の頭を指さした。「それが心を閉ざしてしまう理由? 何でも話してよ。」
お願いメイソン。何を考えているのか教えて。
「いや…言えないんだ。」
彼は背を向け、短い髪をこすった。
私に言えないとは、彼は何をしたのだろう。
だがこれはきっと母親の死と関係がある。
「メイソン、私はただ...。」
彼は再び私に向き直った。
「ジェイミー。無理強いしないでくれ。お願いだ。話したくないことなんだ。君とは特に。」
なぜ私には話してくれないのだろう。
他に誰に打ち明けるというのだ。
運転手のセバスチャンが週末分の荷物を持って家に入ってきて、リビングルームに置いた。
メイソンは私の横を通り過ぎ、彼の方へ歩いていった。
数秒後、ドアが開き、メイソンが私のところに戻ってきた。
「テイクアウトでもとるか?」
彼はさっきの会話など遠い昔のことのように振る舞っていた。彼はメニューを探し引き出しを開け始めた。
「近くの店を探しに行くわ。」私はバッグを手にした。「朝食に必要なものを買いに行くわ。」
彼は厳しい顔をした。「歩いて行くのか?」
メイソンは心配そうにこちらを見つめた。
「ええ、歩いて行くわ。ちょっと運動がてら新鮮な空気を吸いに。」
「夜に一人で歩くのは危ない。」
彼はため息をついた。
「一人で行くんじゃない。送迎車を呼ぶから。」
今、メイソンは私の意見を受け入れ、私に主導権を与えてくれた。これは彼なりの誠意のつもりなのかもしれない。
***
私はメイソンと一緒にショッピングカートを押しながら通路を歩き、手当たり次第に商品を取っては放り込んでいた。
スーパーマーケットで食料品を買う彼の姿は信じられないほどに浮いていた。
今までにこんな経験をしたことはあるのだろうか?
私は冷蔵庫のドアを開け、牛乳パックを取り出すと、カゴに入れた。
「買い物したことあるの?」
「あちこちで。でもシェフがいるから、買い物する必要性はないかな。」彼はインスタントコーヒーの缶を手に取り、眺めた。「これはおいしいのか?」
この男はインスタント・・・いや、スーパーで売っているものとはまるっきり縁がなさそうだ。
ペントハウスでは巨大な高級コーヒーマシンから飲んでるくらいだし。
仮に彼がインスタントコーヒーを飲んでいるとしたら、それはおそらく外国から輸送された高級なものになるだろう。
私は頭を振った。「あんまり好きじゃないと思うわ。」私はいつもの棚を探した。「これだ。」
私はそれをカートに放り込み、買い物を続けた。
スーツ姿のメイソンは、とても目立っていた。
バターとジュースを求めて冷蔵コーナーを見て歩く彼の姿に、私の目は釘付けになった。
彼はいったい何を隠しているのだろう?
ハリーが言った、ペネロペの死に対する罪悪感と関係があるのだろうか?
突然メイソンが私の肩に腕を回し、甘く愛情を込めてぎゅっとその力を強めた。
彼にしてはとても意外だった。
「少しは機嫌直った?」
私は彼に微笑みかけた。「そうね、大丈夫よ。」