The Millennium Wolves ミレニアム・ウルフ アルファの野望5 - 表紙

The Millennium Wolves ミレニアム・ウルフ アルファの野望5

Sapir Englard

0
Views
2.3k
Chapter
15
Age Rating
18+

Summary

この巻は「The Millennium Wolves ミレニアム・ウルフ アルファの野望 4巻」からの続きです。

さらに表示

挑戦の先にあるもの

パートナーと一緒に走ることほど、相手と心を通わせるのに適したものはなく、いわば夫婦になるために必要不可欠なステップだった。人間としてだけでなく、狼としても相性が合うかどうか確認する機会である。

たいていの場合、カップルが将来を見据えてさらに深い関係に踏み切る前に、お互いの気持ちが100%一致していることを確かめたいときに行われる。

正直なところ、シエナに出会うまでは、自分が誰かと走る関係になるなんて想像すらしていなかった。

多くのカップルはそこまでたどり着かない。あるいは、走っている最中に思ったほど相性が良くないことに気付いたりするものだ。

しかし今回は違う。

今回ばかりは、シエナが自分の生涯のパートナーであることを知っていたので、俺の狼としての部分も彼女をすでに受け入れていた。しかし、シエナはまだそれが分からずにいたため、狼としての彼女がどう受け止めるかは未知数だった。

そして、これがそれを確かめる唯一の方法だったのだ。

裏庭に2人で立っていると、自宅の薄暗い外灯が暗闇の中でシエナのシルエットを照らした。ガチガチに腕組みをしている様子から、彼女がどれだけ緊張しているかが伝わってきた。

「準備はいいか?」俺の隣で、ためらいと恐怖が顔からひしひしと伝わってくる美しい彼女にそう尋ねた。

彼女は処女だったので、パートナーと走った経験は恐らくないだろう。そのことが嬉しくもあり、同時に自意識過剰にもさせた。もしも彼女の狼としての本能が拒絶したら...。

しかし、それは杞憂でしかない。シエナに信頼してもらいたければ、まずは自分自身を信頼しなければ。

彼女の手をとって、森の奥まで連れて行き、木々の間を歩きながら、これから起こることに備えた。

「待って!」森が深くなるにつれ、彼女は突然そう叫んだ。「まずは、ちょっとだけ歩かない?」

とても不安そうな彼女を見ると、少し微笑みながら「もちろんさ」としか俺は言えなかった。

俺たちは会話もせずに森の中を歩き、小川の流れに沿ってさらに森の奥へと進んでいく。

彼女の不安が徐々に消えていくのを感じ、森の真ん中にある池に差し掛かったとき、俺たちはパッと立ち止まった。

月明かりが池の水面を照らし、木々の上には満天の星空が広がっていたのだ。

この特別な体験に相応しいその光景は、まるで、ここから俺たちの挑戦が始まることを示唆しているようだった。

俺はためらうことなくシャツを脱いだが、シエナに目を向けると、彼女は自分のシャツをギュッと握りしめていた。その姿に、思わず笑みがこぼれた。

彼女は顔を赤らめる。「後ろ向いて...。見られたくないもの」

俺は思わず吹き出してしまった。「どうして?どっちにしろ君の裸を見ることになるのに。恥ずかしがることないさ」

彼女はまだ何か気になるようだ。「私が、他の雌狼とは違うことはあなたも知ってるじゃない」ジーンズのファスナーをいじりながら、彼女はそう言った。

「それは俺だって知ってるさ」彼女が望むように、俺は心を込めてそう答えた。

シエナには心から身を委ねてほしかったため、彼女とは対照的に、俺はできるだけ落ち着いて、そして彼女を安心させることを心がけた。

「心配しないで、君はとても美しいよ」

彼女はまた赤面したが、ようやく振り返り、ゆっくりとズボンを足首まで下ろした。

彼女が1つ1つ身につけているものを脱ぐたびに、心臓の鼓動は激しくなる。その美しいお尻は、まるで俺の手に合わせて型どられたかのような完璧なくびれだったが、今は何とかこらえる必要がある。

だがそれだけでなく、彼女の燃えるような赤い髪が、月明かりに照らされ、その妖艶な背中できらきらと輝いているではないか...。

くそっ、今は我慢だ...。

しかし、俺がどんなに興奮していたとしても、この瞬間は体の繋がりのためではなく、心の繋がりのためだ。俺たちがいかに相性が良いのかを確かめる時間だ。

お互い見つめ合うと、まるで自分たちがひとつになったかのように感じた。まるで今まで起きた全てのことが、この瞬間のためにあったかのように。

そして、彼女が自分の運命のパートナーであることをもう1度実感したような気分だった。

「レディーファーストといこうか」俺はそっと彼女に促した。人間として目で、彼女の姿が変わる様子を、そして彼女の狼としての姿を見たかったのだ。

彼女は一歩前に踏み出し、月明かりがその美しい姿を包み込むと、姿を変えた。気がつくと目の前には、赤茶色の毛に覆われた狼が姿を現し、全身は月の光に照らされて炎のように輝いていた。

姿を変える前に、俺は彼女の美しい雌狼としての姿を目に焼き付けた。

そして彼女の隣に、大きな雄狼が現れた。彼女の反応を見る限り、第一印象は悪くないみたいだ。

それどころか、彼女は俺を真っ直ぐな眼差しで見つめ、その瞬間、俺が抱いていた不安は一瞬にして消え去った。

シエナが俺のパートナーであることを知らなかったとしても、彼女の狼としての心は、俺がシエナにとってどういう存在であるのかをより深く理解していたことは間違いない。

俺はシエナと反対の方にある森に鼻先を向けた。今こそ、彼女が走り出すときなのだ。俺から逃げることがこのゲームの本質であり、そうすることで、パートナーの支配力や強さを図ることができるというわけだ。

シエナは走り、俺が追いかけるのが定めだ。

彼女が俺のものになり、俺が彼女のものになるそのときまで、絶対に諦めない。

そして、シエナは森に飛び込んだ。正々堂々と勝負したかったので、俺は5つ数えてから彼女の後を追った。

彼女は匂いを隠したが、俺にそれは通用しない。彼女の見つけ方を知っていたし、シエナの匂いは、あの子が思っている以上に俺の記憶に刻み込まれている。

俺は泥の中に残る前足の跡と、空中に微かに漂う彼女の匂いをたどり、彼女が近くにいると感じると、短く鋭い遠吠えをして、彼女に俺の存在を知らせた。

追跡は何時間も続いた。シエナにハンデは必要なかったみたいだ。頭の良い彼女は、臨機応変に対応した。往生際の悪い子だ。

彼女は森の中をジグザグに走り、彼女が残したかすかな匂いの痕跡を見失うことはなかったものの、正直なところ、何度か彼女を逃がしそうになった。

しかし結局、俺は彼女に追いつき、美しい雌狼が岩山を登っているのを見つけたとき、俺は一目散に飛びかかった。

『お前はもう俺のものだ』

シエナは、俺の顎が彼女の毛に触れる寸前でかわした。彼女をあと少しのところで取り逃がしたことで、俺の野獣としての本能にさらに火がついた。

彼女の毛が木の葉や泥でボサボサになっているのを見て、言いしれぬ満足感を覚えた。汚れてしまったシエナもまた官能的だ。

そしてついに、彼女は逃げ場を失い、俺たちは互いにチャンスを伺うように円を描いたが、お互い譲らずに唸り声を浴びせ合った。

『お遊びはもう終わりだ。降参しろ』

でも本当は、彼女と一晩中こうしていたかった。そして、俺をここまで本気にさせた彼女に驚きを隠せなかった。こんなにアドレナリンを感じたのは久しぶりだ。

すると、どこかで小枝がパキッ折れる音が静寂を切り裂き、シエナは一瞬その音に気を取られた。『今だ!』

俺はシエナに向かって突進し、彼女の肋骨にぶつかった。2人して体勢を崩したことで、丘を転げ落ち、岩や茂みを突き破りながら山の麓(ふもと)まで落下した。

俺は彼女よりも先に立ち上がり、その隙に挟み撃ちにした。彼女は叫び声を上げながら体をのけぞり、逃げようとしたが、俺は屈しなかった。

ついにこの挑戦は幕を閉じた。彼女は善戦したどころか、素晴らしい勇姿を見せてくれた。

俺は勝利の雄たけびを上げ、彼女の肩に歯を食い込ませた。この印は人間の姿に戻っても消えやしない。

これがこのゲームに終止符を打つものであり、人間の自分と同じように狼の自分とも繋ぎ合わせるためだった。

これで正真正銘、誰も彼女に触れることはできなくなった。彼女は俺の匂いをまとっただけでなく、俺の印をタトゥーのように体に刻み込んだのだ。俺が彼女の運命のパートナーである限り、それが消えることはない。

無論、そんなことは絶対にない。彼女は永遠に俺のものであり、俺が命を懸けて守り抜くからだ。

俺たちは元の人間の姿に戻ったが、俺はシエナを離さなかった。俺はじっとシエナを見つめ、彼女が俺の体に包まれていることの満足感、安心感、そして彼女が見つめ返してくれている喜びを味わった。

強く、密接なその繋がりは、俺が望んでいたことの全てだった。

しかし、いつまでもこうしてはいられないので、パッと立ち上がると、彼女も立ち上がらせて、近くの水場に連れて行った。

俺が噛み付いて出血してしまった部分を優しく洗い流してあげたとき、そのことに罪悪感を感じつつも、シエナと繋がることができた満足感がまさってしまった。

今回の印は精神的なつながりを意味していた。シエナの体だけでなく、彼女の魂までも俺の一部となったのだ。

彼女が俺を見つめる目も、俺に触れる手の感触も変わった。以前は不安しかなかったのに、俺を受け入れ、信頼し、憧れを抱くようになっていた。

恋人同士の印よりも深く、生涯のパートナーとして、俺が彼女に再び印をつけた今、彼女は俺がもっと多くのことを望んでいると知っていた。

彼女は俺を信頼し始め、俺を今までとは違った見方で見るようになった。

そしてついに...。

俺が彼女に抱いたように、シエナも俺に恋心を抱いてくれるかもしれない。

次のチャプターへ
App Store での評価は5点満点中X4.4点です。
82.5K Ratings
Galatea logo

体験型作品含む全作品読み放題

Galatea FacebookGalatea InstagramGalatea TikTok