
パリの危険な恋 ―目覚めた狼は止まらない― 2巻
Author
Annie Whipple
Reads
🔥73.2M
Chapters
5
ホテルの一室で目を覚ましたベルは、自分の安否を心配しているであろう母のことを思い、飛行機で運命的に出会った男性グレイソンからの逃亡を考えていた。窓から外に出て非常階段から逃げようとしたとき、グレイソンではない男に捕まえられる。カイルというその男は、なぜかベルのことをルナと呼んでくる―。
第7章
ベル
グレイソンより先に目を覚ましたが、どうしたらいいのかまったくわからなかった。彼の息遣いが私の首の後ろに触れるのを感じた。それはゆっくりとしていて、規則的だった。突然母のことを思い出し、昨夜私がアパートを訪れなかったことを心配しているのではないかと思った。
もしかしたら警察に電話して、私を探しに来てくれるかもしれない。
でも、私がいないことに気づいていない可能性もあるし、単に私が怒って来なかったと思い込んでいる可能性も大いにある。私がやりそうなことだ。だから、母が私を探すなんてことはないと思う方が賢明だ。
結局私は一人ぼっちだ。ここから出る方法を見つけなければならない。でもどうやって?
もう一度逃げようとすることもできたが、今朝経験した痛みの記憶が頭をよぎった。もう二度とあんな思いはしたくない。
だから、いくつか選択肢があった。完全にあきらめることもできた。つまり、ただそこで横になって、グレイソンが目を覚まし、彼の言葉を待つことも選択肢にあった。
ーなんで、これが良い選択肢だと思えるのかしら?ー
それか、グレイソンが目を覚ますのを待って、彼が部屋を出るのを願いつつ寝ているふりをすることもできる。そうすれば、脱出の方法を探すことができるはずだ。
彼を信頼しきっているように振舞って、そして意表をついて、ランプか何かで気絶させて逃げ出すこともできるだろう。
彼にひどく嫌な態度をとり、彼が私にうんざりして、私を追い出してくれるのを期待することもできる。ーきっとうまくいく。ー
母が私が来ないことを本当に気にして、警察を呼んでくれるかもしれない
ーあんまり期待できないけど、あり得ないことではない。ー
ふと、今日はクリスマス・イブだと気づいた。私は家族と一緒にパリでクリスマスを祝い、父が亡くなって以来の人生を楽しんでいるはずだった。
父さん。本当に恋しい。
もし去年が父と過ごす最後のクリスマスだと知っていたら、それを当たり前のことだとは思わなかったのに。私たちはいつも最高のクリスマスを一緒に過ごしてきた。
私はどちらの家の祖父母とも連絡を取っていなかったので、私と父はいつも二人きりだった。クリスマス映画を観たり、食べ切れなくなるまで食べたりした。プレゼントを交換し、クリスマスキャロルを歌い、ツリーを飾り…私たちは二人で楽しんで過ごしていた。
一年で一番好きな日だった。何の心配もなく、父と二人きりで過ごすクリスマス。
涙があふれてくるのを感じ、鼻をすすって涙を止めようとした。
今は自分を哀れんでいる場合ではなかった。このホテルのスイートルームから抜け出す方法を考えなければならなかった。クリスマスに母に会うことなどもうどうでもよく、ただ家に帰りたかった。
ー生きて帰らないと。ー
そう、父は死んだ。信じられないほど衝撃的で、毎日彼が恋しくて寂しかった。でも、父が死んだからといって、私が死んだわけじゃない。
私は生きている。
そして、生きることに何の迷いもなかった。自分以外の誰かの面倒を見る必要もいなくなった。
大学にも行けた。友達もできた。
踊りに出かけたり、バーでお酒を飲んだり、男の子と知り合ったり、誤った決断をしたり、新しいアパートに猫を飼って、高給取りになることもできるはずだった。私を止めるものは何もなかった。
ううん、正確にいうと、ただ一つだけ私を止めるものがあった。そして、その人は私の首筋に息を吹きかけ、私をその腕に抱きしめ、信じられないほど魅力的だった。
その人は、私を誘拐したうえに自分のものだと言い張る、私の後ろにいる大きな男だ。
ー神様、私、一体どうしちゃったの?ー
昨夜のことを思い出した。彼に何をされても、ただただ受け入れていた。彼の腕に身を預け、投げやりになっていた。
私は人生の大半をあきらめ、無力感と孤独感に苛(さいな)まれ、人生に翻弄(ほんろう)されてきた。ーでも、もうこれで終わり。ー私は自分の人生を生きる。
何にも、誰にも、邪魔させない。
グレイソンが後ろで動くのを感じた。ー待って、彼が起きそうだわ、ー
私はすぐに目を閉じ、眠っているふりをした。彼が去ってくれることを願って、窓から飛び降りて逃げるか何かしようと思った。
何としても生きなければ。




