
His Lost Queen 失われた女王 5巻
Author
Annie Whipple
Reads
🔥42.1M
Chapters
5
この巻は「His Lost Queen 失われた女王 4巻」からの続きです。
第16章
ベル
天井の明るい光に目をぱちぱちさせたあと、一気に目を開けた。昨夜の出来事の記憶が、突進する貨物列車のように私の意識の前に押し寄せてきた。
気絶したせいで混乱し、眠気が襲ってきて、自分がどこにいるのか、どうやってそこにたどり着いたのか、まったく覚えていなかった。そして、疲労が眠りに戻らせようとする一方で、パニックが悪癖のように支配し、目を大きく開かせた。
アデリーは私を殺そうとした。
グレイソンは私が死んでも気にしなかった。
リアムはヴァンパイアだった。
手を喉元に動かし、アデリーの手が巻きついていた場所に触れた。
そこにある柔らかいあざ(傍点:あざ)に触れたとき、私はうめき、喉が恐怖の涙で締め付けられた。
体中に走る痛みを押し留めながら、なんとか上体を起こした。闘争本能か逃走本能が「さっさと逃げろ」と言っていた。
周囲を見回して、初めてリアムのアパートにいること、以前私が寝泊まりしていた部屋に戻っていることに気づいた。私はほんの少しだけ安堵した。私はこの場所を知っていたから。ここならすぐに逃げられる。
「くそっ」 ドアの外からリアムの声がした。「彼女が目を覚ましたようだ」
体が悲鳴を上げているにもかかわらず、私はベッドを飛び出し、武器になりそうなものを探した。
一番近くにあったランプに手を伸ばしたが、掴む寸前で止められた。
「おい、おい、おい」 リアムは突然私の隣にいて、私の肩をそっとベッドに押し戻した。
私は彼を見上げて、目をパチクリさせた。どうやってこんなに早くここに来たのだろう? 一瞬の動きだった。リビングルームで話しているリアムの声が聞こえたばかりだったのに。
「落ち着いてくれよ」と、彼は続けた。「まだ完治していないんだから。無理しちゃダメだよ」
まるで熱い鉄にでも触ったときみたいに、彼の手から自分の身を引いた。アデリーの血にまみれた彼の幻影が私の意識を襲った。
ヴァンパイアだ、ヴァンパイアだ、ヴァンパイアだ。
リアムはきれいで、顔の血も消えていて、いつもの彼に戻っていた。
だからといって、彼に対する恐怖が薄れたわけではなかった。
私が身じろぎすると、リアムは優しいまなざしになり、ゆっくりと手を離した。
ライラも横にいて、心配そうに私を見下ろした。「まだ目を覚まさないはずだったのにね。昨夜のあの出来事のあとだから何時間も眠っていると思っていたのよ」
彼女は私を慰めるつもりなのだろう、優しい微笑みを浮かべてみせた。「でも、あなたってすごい戦士だったみたいね、そうでしょ?」
ライラが何を言っているのかほとんど理解できず、リアムをちらちら見るのを止められなかった。一度信じた男に裏切られた気分だった。彼は私に嘘をついていた。
でも、私は何を期待していたの? 私の大切な人はみんな、ある時点で私に背を向けた。彼らは皆、私に不利になるような秘密を持っていた。
「そんな目で僕を見ないで、ベル」と、リアムは苦痛に満ちた口調で懇願した。「僕は絶対に君を傷つけたりしないから」
「あなたはアデリーを傷つけた」と、私はつぶやいた。私の声はかすれ、砂利のようにザラザラしていたが、自分の身に起こったことを考えれば、それほど悪くはなかった。「あなたは彼女を殺した。同じことを私にしないって思えるわけがないでしょ」
「僕は君を救ったんだよ。あの人狼は君を殺そうとしたんだ、ベル。黙って見過ごすわけにはいかなかった。行動を起こすしかなかったんだよ」
つまり彼はアデリーが人狼だと知っていた。
そして彼はヴァンパイアだった。
私の人生はどうなってしまったんだろう。
何世紀も続いている人狼とヴァンパイアの戦争について、グレイソンから聞いたことを思い出した。ヴァンパイアは恐ろしく、裏切り者で、自分のことしか考えない生き物だと。
それがリアムであるはずがない。
不意に目が涙で溢れた。「あなたは……」と、リアムにたずねた。
そこでリアムが遮った。「僕はヴァンパイアだ」 そう言って、心配そうに下唇を噛んでいるライラを見た。
彼女は一度うなずいた。「私たちふたりともよ。エバーグリーンにはヴァンパイアがたくさんいるの。
それだけ聞けば十分だった。
私はベッドから飛び起きて、ドアに向かって駆け出そうとした。しかし、そんなことは無理だと最初に気づくべきだった。
リアムは私をつかみ、再びベッドに押し戻した。私は疲れ果てて痛む手足をバタバタさせて歯を食いしばった。
「やめるんだ」と、リアムが命じた。「怪我をするぞ。まだ完治していないんだから」
彼の手を押しのけようともがいた。悔しくて叫びたかった。私を拘束するために超自然的な力を使う人々に心底うんざりしていた。
数秒間の格闘を続けたあと、私は不承不承降参して横になった。私はリアムをにらみつけ、涙が頬を伝うのを感じた。恥ずかしさで顔が赤くなった。ふたりの前で泣いている自分が嫌だった。
「次は何?」 腹立たしげに涙を拭きながら説明を求めた。「私、クレイジーなヴァンパイアのカルト教団に足を踏み入れたってこと?」
リアムは顔をしかめた。「一族という呼び方の方がいい。カルトじゃない」
一族のほうがまともに聞こえると言わんばかりだ。
ライラが私の手に触れた。私は彼女を見上げて、その手から逃げた。
「恐れることは何もないの」とライラ。「人狼と暮らしたことがあるんでしょ?」
驚いてあごが外れそうだった。「どうしてそれを……」
「あなたがエバーグリーンに着いた直後から、みんな、あなたが人狼の群れから来たことを知っていたの。あなたからオオカミの匂いがしたから。
「それに、あなたの首には巨大なオオカミとの番いの印があるでしょ」と、ライラが続けた。「気づいていないとでも思ったの?」
どう返事すればいいのかわからなかった。自分の印にそっと触れた。ここが熱を持つと私は顔をしかめていた。こんな印、擦って落とせたらいいのに。そしたら、私も、他の人も、こんなものを二度と見なくて済むのだから。
ライラはため息をついた。「一度に理解するのが大変だってわかっているわ。でもこれだけは信じて。人狼を扱えるのならあなたなら、ヴァンパイアも扱えるって」
リアムが不満そうに「少なくとも僕たちは、機嫌が悪いとモンスターに変身するなんてことはない。恐怖や危険とは無縁だから」
それで私の気が晴れるとでも思ったのだろうか? 彼らが何を言っても、この混乱した状況が良くなることはない。
自分を憎む人狼の群れから逃れて、朝食に私を食べたがっているヴァンパイアの一族に直行したのだ。踏んだり蹴ったりってこと。
「人狼は人を殺さない」と、私は言い返した。
リアムが冷たく笑った。「さあ、それはどうかな」
私たちはしばらくの間、見つめ合った。無言の挑戦。最初に目をそらしたのは私だった。その瞬間は彼を憎んでいたけれど、彼の言うとおりだと心のどこかで思っていた。
リアムは間違いなく、私が直面した最大のモンスターではなかった。
「ごめんなさいね、ベル」と、ライラが言った。「最初に言ってあげたかった。本当はそうしたかったの。本当よ」
「なぜそうしなかったの?」 私は小声で聞いた。
「父さんが許してくれなかった。僕たちが人狼のパートナーと付き合うのを嫌がったんだ。特に君みたいに大きな印がある人とは」と、リアムが答えた。
「あなたのパートナーは危険なんでしょ?」と、ライラが質問した。「印が大きければ大きいほど、人狼の力も強くなるって本当?」
私は身を強張らせてうなずいた。「最高に優しい人間ではなかったわ」 これは今世紀一番の控えめな表現だった。「だからエバーグリーンで働けなかったの? お父さんがそう仕向けたの?」
「そうだよ」と、言うリアムは怒りを滲ませていた。「最低なんだよ、あの人は」
落ち着いて息をしようと思っても、1分ごとに胸の締めつけが強くなっていた。
「じゃあ、お父さんが町のリーダーだって言ったのは……つまり、ヴァンパイア一族のリーダーってこと?」
リアムがベッドの橋に腰掛けて私の横にきた。「そうなんだ」とゆっくり言って続けた。「僕たちの父親は世界で一番強いヴァンパイアのひとりかもしれないし、そうでないかもしれない」
「最強じゃないなんてあり得ない。最強なら納得行くもの」 つまり、私は世界最強のヴァンパイアの息子と一緒に住むために、世界最強の人狼の元を逃げ出したってことだ。
「ちょっと待って。私が人狼と番いになったから、あなたのお父さんに憎まれたわけでしょ? それで仕事が貰えなかったってことよね?」
リアムとライラは一瞬ためらったが、ふたりともうなずいた。
その皮肉な状況に思わず笑いがこみ上げてきた。「なんて完璧なシチュエーションなのかしら?」と言って、私は笑った。
「あなたは問題にならないってパパを説得したんだけど、パパはそれが誰であれ、あなたのパートナーにこの町に来てほしくなかったのよ」と、ライラが説明した。
私は聞いた「もし彼がここに来たら彼に何かする? 彼を……傷つける?」
「僕たちは誰も殺さないよ」と、ベットの端に座っているリアムが入ってきた。「人の命を奪ったのは昨日が初めてだよ」
「でも、じゃあどうやって……」と、一瞬言葉を飲みんでから続けた。 「あなたはどんなふうに……」
「僕たちの食生活のことなら」と、リアムが説明した。「血を飲むよ。その点は映画で描かれている通りだね」
「人間の血?」 私は静かにたずねた。
彼はゆっくりとうなずいた。「うん、人間の血だ」
「でも人間を殺すことはないの」と、今度はライラが割り込んだ。「血を吸われたことすら覚えていないもの。
「2、3日は少しフラフラするから、風邪とか、ひどい二日酔いって思うみたい。でもそれ以外のダメージはないの。
「今のヴァンパイアは進化していて、血の提供者に牙から毒素を注射できるんだ。すべてのヴァンパイアってわけじゃないけど、私たちはそうするの」
ここで過ごしたすべての夜が脳裏をよぎった。血に飢えたヴァンパイアと同じ屋根の下で暮らしていたなんて。
リアムが私に触れた記憶はないけど……。私が知らないうちにリアムが私の血を飲んでいたということはあり得るのだろうか?
「君には誰も触っていない」 私の考えを読んだかのようにリアムが突然言った。「僕たちを含め、この町では誰ひとり君の血を吸っていない。僕が目を光らていたからね」
「それ、嘘じゃないの」と、ライラ。「あなたを餌にしようとしたヴァンパイアを2、3人殺しかけたくらいだもの」
彼女の言い方に思わず苦笑した。
突然、すべてが理解できた。「だから、仕事場まで送り迎えするとか、ひとりで歩いている間に殺されるのが嫌だとかと言ってたのって……」
「僕は文字通り、君が殺されないように見張っていたってこと」と、リアムは言い訳とは思えないほど真剣な口調で説明した。
「君がエバーグリーンにいる間は、みんなに君を餌にするなと言えるし、父さんの地位を知っているから、みんな僕の言うことを聞かざるを得ないのさ。
「でも君がウッドハーストに引っ越して、あのくだらないダイナーで働き始めた瞬間、僕は君を保護する権限を失った。
「あそこなら誰もが自由に徘徊できたし、君を好きなようにできた。僕にはそれを止める術がなかったんだ。
「僕がパーティーに君を招待しなかったのは、君を危ない目にあわせるやつがいそうだったからだよ。どうしたわけか、君の血は本当に魅力的なんだ。
「君は人狼の番いってことが一番の理由だと思う。ヴァンパイアは人狼を殺したり傷つけたりするようにできているからね。
「だから、みんなに君には近づくなと警告しても、君をひとりきりで長く放っておく危険は冒したくなかった"」 体の両側で彼は拳を握りしめていた。
「でも君はいつも誰の助けも借りずに自立すると言い張った。誰かに殺されたいと思っているみたいに聞こえたよ」
ライラが割り込んできた。「リアムの守り方は異様なの」と、リアムをちらっと見て続けた。「どうしてか、私にはさっぱりわからない。誰にも理解できないの。理あなたがこの町に来てからというもの、リアムが考えるのも話すのも、あなたのことばかり。
「あなたがひとりになると彼はすごく怒るのよ」
その事実に居心地の悪さを感じて、私は体を動かした。「本当なの?」と、リアムにたずねた。
リアムは巻き毛の髪をイライラしながらかきあげた。「どう説明していいかわからないんだけど、恋愛的なことじゃないから誤解しないでね」と、私を見ながら不満げに言った。
「白状するよ。公園のベンチにひとりで座っている君を初めて見たときはそうだったかも。ほら、君ってさ」と、リアムは私の体を指さした。
私は赤面した。
「でも、君の首の印を見てパートナーがいるのを知って、この人は立ち入り禁止だと思った。僕が一番避けたかったのは、君に触ったと誤解した怒れる人狼のモンスターが僕を殺そうとすることだった。
「だから、君との恋愛関係を望んで僕がこんなことをしたと誤解してほしくないんだ。そういうことじゃないから」
彼の視線が私の首の印に注がれたのを見逃さなかった。
「君にパートナーがいると知ったとき、君を放っておくべきだった。でも、傷だらけの顔と涙で濡れた頬を見たらつい……。
「君と会ったあの日、僕の中でスイッチが入った。僕の本能が支配したんだ。あのあとから君を放っておけなくなった。君を守る必要があったし、常に無事を確認しなきゃいけなくなった」
少しの間彼を観察しながら、彼が今話しているクレージーな話を理解しようとしたが、無理だった。納得できることがひとつもなかった。
彼の奇妙な行動や、私の生活をコントロールしようとする気持ちは理解できた。でも、どうしてリアムは私を守る必要性を感じたの? どうして私を気にするの?
私の人生は彼のものではない。それに、まじめな話、私が一番望んでいないことは、独占欲が強くて過保護な超自然的クリーチャーが、私と魔法の絆で結ばれていると主張してつながろうとすることだった。
「私の世話をしてくれたことに感謝すべきよね。ありがとう。でも、もう世話しなくていいよ。この町を出ていくね。もうここにはいられないもの」
「なんですって?」と、ライラが悲鳴を上げた。「出ていく? どうして?」
不満げに鼻から息を吐いて私は答えた。「ここ数か月、ヴァンパイア一族のすぐ隣に住んでいたことを知らなかった理由以外にある? 自分のせいで誰かが傷つくなんて許せないの」
「アデリーが私を見つけられたのなら、他の人たちも見つけられるはずよ。手遅れになる前にここから出ていかないと」
「これって君の首にその印をつけたやつと関係しているよね?」 リアムはグレイソンの印をにらみつけた。「つまり、君のパートナー」
首の印がその話を聞いているかのように熱を持った。私は一度うなずいた。
リアムの胸からシューという音が漏れた。私は目を見張った。グレイソンと一緒に暮らしていた頃、その音を聞いたことがあったのだ。
私たちが初めて別々に寝た夜、グレイソンがセックスを拒んだ私をベッドから追い出した直後にその音を出した。
その後、カイルに私たちの関係を話したことで私を殴ったときと、私が最後に彼を拒否したとき、他の誰かと交尾する直前にも同じ音を出した。
リアムの手が私の肩に触れ、私は我に返った。
「君が逃げている相手はその男でしょ?」とリアム。「全部わかったんだからお互い正直になろうよ。君を傷つけたのは彼なの?」
突然、喉の乾きを感じた。私は答えたくなかった。グレイソンのことも、彼が私にしたひどいことも話したくなかった。
ライラは枕元の水の入ったコップを私に渡した。喉の痛みを和らげる冷たい水の感触をありがたく思いながら、私はそれを一気飲みした。
コップを置くと、怪我の痛みがさっきほどひどくないことに気づいた。
頭痛もすっかり消えていた。グレイソンが私の頭の中に無理やり入り込もうとした痛みも、アデリーが何度も壁に叩きつけてできた傷の痛みも。
手を伸ばして後頭部を触ってみた。そこにあったのは軽いあざと乾いた血だけだった。
首も同じだった。手の形をしたあざが付いていたが、その痛みは十分に耐えられるレベルだった。
相当ひどい目にあったことは間違いない。
昨夜、アデリーの手が私の気道を押しつぶした感覚をはっきりと覚えていた。あそこで死ぬか、運が良くても病院行きになっていたはずだ。
後頭部の傷が内出血や脳障害を起こしても不思議ではなかった。
アデリーが私を壁に叩きつけたとき、頭蓋骨の中で脳がガタガタと動くのを感じた。
今頃はもう死んでいたはずだ。あんなひどいことが起きたら、そうなるのが普通だろう。
昨夜あんなに殴られたのに、ほとんど痛みも感じず、ここに座っているなんて……。
私はリアムとライラに目を戻し、唖然とした表情で質問をしたいような視線を投げかけた。ふたりは互いの顔を見ながら、どちらも答えを言いたくなさそうにした。
再び少しの間ためらったのち、ライラが先に口を開いた。「あなたにアメリア・モーターの血をあげたの。彼女に血には治癒効果があるのよ。あなたが今生きているのはそのおかげよ」
私は彼女を見つめた。「ちょっと待って、もう一度説明してくれる? 誰の、なにをくれたって?」
ライラは不安そうに体を動かした。「アメリア・モーターの血よ。彼女は王家のヒーラーで、ヴァンパイアの王ザガン・モーターの娘。彼女の血は数滴で死に瀕した人を癒せるの。
「ありがたいことに、彼女はそれを小分けにして世界中の一族に配布しているの。こういうときのために、私たちも少し隠し持っていたのよ。父がモーター家と親戚だからある特権よ」
「唯一の特権だけどね」と、リアムが不平を言った。
今聞いたことが信じられなかった。「ヴァンパイア王女の血を注射したの?」
リアムは首を振った。「輸血じゃない。飲ませたんだ」
私はゆっくりと動き、手足の動きをテストしてみた。すべて完全に正常だ。「だから大丈夫なの? だからこんなに早く治ったの?」
このとき気づいた違いは治癒だけではなかった。ここ数か月で一番気分が良いのだ。
「まだ完治はしていないの。喉のあたりにひどいあざが残っているし、頭の傷もふさがるにはもう少し時間がかかるわ」と、ライラが教えてくれた。
イライラしながら私は髪をかき上げた。今言われたことを理解するのに少し時間が必要だった。目をぎゅっと閉じた。短時間の間にあまりにもたくさんの情報が入ってきたのだ。
「大丈夫かい?」 リアムは穏やかな口調でたずねた。「頭の具合はどう?」
目を開いて、傷に触れてみた。「大丈夫。というか、大丈夫なんてものじゃないわ。最後にこんなにはっきり考えられたのがいつか、覚えていないもの」
リアムはまだ心配そうだった。「ここ数か月ずっと悩んでいた偏頭痛がようやく治ったの?」
私はため息をついた。「あれは片頭痛じゃなかったの」と、リアムに素っ気なく告げた。「元パートナーが私を監視するために意識に侵入しようとしていたのよ。
「昨夜アデリーに殺されかけたとき、彼が意識に入ってきたの。また彼をブロックしたとはいえ、意識を失っている間に彼がどんな情報を得たのかはわからない。
「私の居場所を知っているかもしれないし、ここにやってくるかもしれない」
昨夜、意識を失っている間に、無意識のうちに彼を自分の心の中に入れてしまったことを思うと、恥ずかしさが喉元までこみ上げてくるのを感じた。
彼が私を殺すよう命じた張本人だとわかっていたにもかかわらず、もうすぐ死ぬと思った最後の瞬間に、彼が与えてくれた心地良さにしがみついたのだ。
恥ずかしさで心拍数が上がり、手のひらが汗ばんだ。グレイソンがどう思ったのか、想像するしか術はなかった。
「でも、彼はあなたに印をつけたでしょ?」 ライラは混乱して言った。
「人狼やその運命の相手について詳しくは知らないけれど、オオカミが運命に相手に印をつけたら、そのふたりは一生結ばれると思っていたわ。ベルは彼に迎えに来てほしいと思わないの? 彼が恋しくないの?」
「彼は他の女と寝たの」と説明した。
「彼が恋しいとか、恋しくないとかは問題じゃない。彼とは一緒にいられない。私を拒絶したのよ。そして他の女と交尾した。私は必要じゃないのよ」
長い沈黙があった。みんな、次の言葉が見つからなかった。
「気の毒すぎるよ、ベル。僕にはそれがどんな気持ちなのか想像もつかない」と、リアムが言った。
そしてためらいがちに続けた。「でも、それが本当なら、何も心配することはないよ。君と番いでいたくないなら、彼は君を追いかけてこないから」
私は彼を見上げた。グレイソンの話をすればするほど、また涙が溜まってきて、今にもこぼれ落ちそうだった。
リアムの言うとおりだった。私はいったい何を恐れていたんだろう? グレイソンは私を迎えに来ない。彼は私を嫌っていた。アデリーに殺されそうになっても平気だった。
私は目の縁を拭きながらうなずいた。「うん、あなたの言うとおりかも」
「それに、ここ以上に安全な場所はないよ」と、リアムは続けた。「たとえ彼がここにやってきたとしても、この町には君を支えるヴァンパイアがたくさんいるから」
ライラは私の手を握った。「じゃあ、ここに残る?」
私は小さく微笑んだ。「考えておくわ。というか、これ以上最悪のことなんてないでしょ?」
























