ルーカスとエミリーと一緒にダブルデートに行くことにしたザビエルとアンジェラ。真実を知ってからすっかりアンジェラを好きになったザビエルは、アンジェラが他の男になびかないか、狙われないか等常に不安に襲われていた。そんなザビエルを愛おしいとまで感じたアンジェラは、思わず結婚式以来のキスをザビエルにする―
対象年齢:18歳以上
アンジェラ
「今夜もマーヴに行く?」エミリーが足を椅子に引っ掛けながら聞いてきた。私たちはこの町で唯一のクラブへ飲みに行く予定だった。婚約を祝って、女だけで。
ザビエルが私をクラブから引きずり出す、いつかのぼんやりとした記憶が浮かんできて、私は鼻をしかめた。「やめとこうかな。ザビエル、嫌がりそうだし」
「君の旦那、パーティー好きで有名じゃないのか?」ダニーが肩越しに叫びmジャイアンツが得点してガッツポーズをした。ダニーとルーカスは私たちの後ろでテレビを再びつけ、選手たちに向かって叫んでいた。
「ザビエルはここで男たちと一緒にフットボールを見ていてもいいわよ」とエミリーが提案した。
私は彼女がテーブルにこぼれた塩で小さなハートを描くのを見て言った。「分からない」
リビングのチェックの硬いソファは、ザビエルの怒りの引き金になってしまうのではないかと思った。
もしザビエルと私の家族との間で何か問題が起きたら、私はどうすればいい? どちらの味方につくべき?
前までの私なら、迷わず家族を選んだだろう。でも、最近のザビエルとの関係は本当にいい感じで、些細ないざこざで関係を終わらせてしまうのは、もったいないと思ってしまう。
エミリーは息をついた。「それなら、直接聞いてみたら? ザビエル!」
すぐに「胸焼けがする」と「フェラーリが傷ついた」の間くらいの表情で、ザビエルがキッチンから出てきた。後ろには新しいビールを手にした得意げな父がついてきた。
やばい。
父と二人で話をさせるべきじゃなかったんだ。もし父がザビエルに契約について知っていることを告げたら? 私が離婚を望んでいることを伝えたら? ザビエルが私を傷つけたことを問い詰めたら?
「どうした?」ザビエルはエミリーではなく私に尋ねた。
エミリーは気にしていないようだ。「アンジェラと私、今夜は楽しむつもりなの。あなたも一緒に行く? それともここで男たちと一緒に試合を見る?」
ザビエルの表情は一瞬暗くなったが、すぐに政治家のような明るい笑顔が顔に貼りついた。「出かけるのか、いいね。それじゃあ、みんなで行かない?」
ダニーが手を挙げた。「俺は家で父さんといるよ」
「それならダブルデートはどう?」ザビエルは私、ルーカス、エミリーを見回しながら提案した。
「本当に?」私は思わずそう口にしたが、エミリーは手を叩いてこう言った。「最高!」
ザビエルはポケットから車のキーを取り出した。「女性は準備をして待ってて、俺は車から荷物を取ってくるよ」
ザビエル
「あんたは本当に娘を愛しているのか?」
良い質問だった。普通は結婚する前に、父親なら誰でも聞くことだろう。当時あのじいさんは病院にいたとはいえ、アンジェラの兄弟に確認させることもできたはずだ。
なのに、あの人は娘を俺が結婚してから、大胆にも今になって、俺が妻を愛しているかどうかを聞いてきた。
ルイ・ヴィトンの旅行用バッグを手に、俺はトランクを強めに閉めた。
そして、今、アンジェラが出かけたがっていた。クラブなんて場所に。
俺はまったくもって出かけたくなんかなかった。それも、こんなクソ田舎のど真ん中のクラブになんて。だけど、それ以上に俺が今いたくない唯一の場所が、この家の中だった。
しかし、俺はすでにここで10分間ももたもたしていたし、アンジェラを一人で出かけさせるわけにはいかなかった。俺の目の届く範囲から離すわけにはいかない。もし離したら、他の男が……。
息を吐き出すと、まるで太いコヒバ・ベヒケを吸っているかのように冷たい空気の中で大きな蒸気の塊が浮かび上がる。
何かを殴りたい衝動がおさまると、俺は玄関の階段を上がり、施錠されていないドアから中に入った。
くそっ。
俺のバッグが指から滑り落ち、ぼろぼろのシャグカーペットにドスンと落ちた。
アンジェラが階段の下に立っていて、俺が今までに見た中で最もタイトで、最も短い赤いドレスを着て、かがんでヒールの紐を結んでいた。
ドアが俺の後ろで閉まり、アンジェラは立ち上がった。
「どう?見た目は?」彼女は一回転し、猫のような目を瞬いて俺に向けた。
ゆっくりと、俺はその身体に目を走らせた。
犯されたくなければ。さっさと着替えろ。
その言葉が口から出る寸前だったが、飲み込んだ。。視界の隅にケンを見つけたからだ。
代わりに俺はアンジェラに歩み寄りき、その腰に手を置いた。「美しいよ」
たまらずに、俺はその引き締まった身体を自分に引き寄せた。彼女は小さく声を漏らし、俺のムスコが痛くなった。
俺は正しかった。
今夜はひどい夜になるだろう。
***
20分後、俺たちはマーヴに着いた。
外観は刑務所のような、コンクリートのスラブで作られた低くてずんぐりした建物で、前でIDをチェックしている「警備員」は太りすぎだった。
中もあまり良くなく、一つの部屋が尿と古ビールの臭いで満ちていて、中央にはストロボライトがあった。
到着したときの俺の計画は、べたべたのビニールのブースを占拠し、アンジェラを膝に乗せて水で薄めたウィスキーを一杯飲み、その場所から一刻も早く逃げ出すことだった。
しかし、エミリーは俺たちが入った瞬間にアンジェラを俺の腕から引き離し、通りすがりのウェイターにテキーラを頼んだ。
「あの子たちはどこへ?」大音量のテクノ音楽が鳴り響く中、俺はルーカスに向かって大声で話しかけた。
ルーカスは肩をすくめて、俺の横を通りすぎ、バーの方向に歩いた。「踊りにいったんじゃない」
他に選択肢がないので、俺は20代のにきび顔とシングルマザーの溜まり場に飛び込んだ。
アンジェラを見つけなければ。今すぐに。
ダンスフロアに足を踏み入れると、黒い巻き毛の女が俺にべたべたとくっつき、尻を俺の股間に押し付けて揺れ始めた。反射的に俺は女の腰をつかみ、すぐに押しのけた。
その女は俺の手をつかみ、俺の方に向き直り、俺の首に腕を回した。
短いまつげが安っぽいマスカラで固まっているのが見えるほど、近くに顔があった。
「セクシーボーイ、どうしたの? 踊らないの?」女は甘えた声で言った。
「あんたとはな」
俺はそこから離れ、ジャージを着た男子学生の軍団に突っ込んだ。奴らは何かの勝利の歌を唱えていて、そのグループの中心で二人の仲良しがビールを飲んでいた。
そこを抜けると、ようやく、一瞬ブロンドのヘアーが視界に入った。
あいつはそこにいた、エミリーと一緒に踊りながら、まさにそのストロボライトの下でクルクル回っていた。
「アンジェラ」と俺は息をかけ、ウエストを抱きしめた。
アンジェラは俺の抱擁に抵抗し、キャッキャと笑った。「ザビエル!」
俺はアンジェラを回して俺の方に向かせると、彼女の頬が赤くなり、目がガラスのようになった。
アンジェラは俺の肩に手を置き、長い脚の一本を俺の外側に上げた。「私と一緒に踊って」
俺はアンジェラの太ももに手を回し、聞き返した。「ショットを何杯飲んだんだ?」
アンジェラは人差し指であごをたたいて答えた。「2杯? 4杯? 10杯?」
「10?!」
「3杯よ!」エミリーが俺たちのそばで叫んだ。彼女は手を上げて、ビールを手にして現れたルーカスに寄りかかった。
アンジェラはエミリーを指さした。「それ! 彼女が正解よ。3杯だったわ。」
膝を曲げて、俺はアンジェラのもう片方の脚をつかみ、お姫様抱っこをした。「水を飲みにいくぞ」
「自分で歩ける!」俺がアンジェラを抱えてバーに向かうと暴れ始めた。歩きながら、アンジェラ女の靴が何かの頭をぶつけた。
「わかってるよ、マイエンジェル。俺がこうしたいだけ」
「嬉しいわ。最近のあなたって、とっっても優しい。ねえ?」
「アンジェラはいつだって優しいよ」
「優しすぎるわ」彼女は真剣に同意した。
アンジェラをバーカウンターの椅子に座らせ、俺はバーテンダーを呼んだ。背が高く、細身で、赤毛の髭がほんの少し生えている男がやってきた。俺よりも少し年下なだけだろうが、アイアン・メイデンのTシャツなんて着て、人生経験はなさそうな奴だ。
「何にします?」
「1937年のグレンフィディックはある?」
バーテンダーからは反応がなく、ノーということだと理解した。
「一番強いものと、水を一杯」
俺が振り向くと、また別のバーテンダーがアンジェラにジャックコークを手渡しているのが見えた。
「おい、何やってる?」俺は吠えた。
「おい、おい」ヒゲのくそ野郎は手を上げて言った。「落ち着いて」
アンジェラが俺の腕をつかんだ。「やめて、ボブに乱暴しないで」
「こいつがどれだけ飲んだか知らないのか?」俺は男がアンジェラの前に置いたグラスを奪って問い詰めた。
そのボブという名のバーテンダーは手のひらを上下に振った。「大丈夫そうに見えるけど」
頭で考える前に、俺はジャックコークの中身を、それもグラスごと、このバーテンダーの胸に投げつけた。
ヒゲの男のひたすら罵ってくる声が聞こえたが、俺はアンジェラを肩に抱えた。
アンジェラは小さな拳をつくってで俺の背中を叩いた。「降ろして!」
「帰る」と俺は意を決して学生集団の方に向かって歩いた。俺が通り過ぎるときに親指を立てられた。女を肩に乗せているからなのか、バーテンダーをびしょ濡れにしたからなのかは分からない。どうでもいい。ただそのクソみたいなクラブから早く出られれば。
「ザビエル!」俺たちが通りに飛び出したとき、アンジェラが舌足らずに叫んだ。「降ろして!」
俺はそうした。彼女を俺から滑り落とし、彼女がヒールでふらつくのを支えたら、そこから一歩離れた。それからもう一歩。俺は髪を手でかき上げた。
「一体どうしたの?」アンジェラは手を腰に当てた。前回酔っぱらっていた時もすだったが、こいつは酒が入ると気が荒くなるのか。
俺が殺気立ってる今、それは危険なことだった。
「お前が教えてくれ」と俺は低い声で言った。
アンジェラは俺に近づいて言った。「ボブとは幼稚園からの仲なの。良い奴よ」
「ああ、本当に仲がよさそうだったな! 君らに今夜一部屋とってやるべきだった?」
「どうしてあなたはいつもこうなの?」
「何が?」
アンジェラは手を投げだして言った。「これよ!私たちがどこかに出かけるたびに、所有欲の強い犬みたいなところ。他の男が私に挨拶するたび。男が私を見ただけで」
俺は突然水を浴びせられた気持ちになった。「アンジェラ、俺……ごめん」
「ええ?」アンジェラの眉が上がった。
俺は静かに笑ってアンジェラに一歩に近づいた。「そうだよな」
アンジェラを抱きしめ、俺はやり直した。「ごめん、アンジェラ。俺はたまに、野蛮なことをしてしまう……、元カノは俺の親友を選んで俺を捨てた———あんな思い二度としたくない。他の男が君に触れるなんて、考えただけで気が狂いそうになる」
「私はここにいるわ、ザビエル。どこにも行かない」アンジェラは囁き、そして、その唇が俺の唇に触れた。
俺は凍りついた、まるで初めてキスされたティーンエイジャーのように、頭がパニックになった。
何だこれ?
キスくらいしたことがある。それも、何百人もの女からされてきた。
しかし、これは他の女とはまったく違った。
アンジェラだ。
「キス」という言葉を口にするだけで、顔を赤らめたり口ごもったりするようなアンジェラが、まさか自分から俺にキスをするなんて。
しかし、確かにされた。
アンジェラに、キスされた。
俺はなんとか唇を動かし、彼女の金髪に指を絡ませ、その瞬間に没頭した。
俺たちはこれまでにキスしたことがなかった、それは本当に残念なことだった、だって、それは俺が今までに経験したどのキスとも違っていたからだ。
唇が離れ、息を切らしながらお互いの目を見つめたとき、俺はこれが最後のキスにならないことを願っていた。