
The Lycan's Queen 孤独な王の運命の相手は傷心したての私でした9
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L. S. Patel
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第39章
シーズン 2
ダミアン・グレイは兄のアドニスとは正反対の男だ。王家の血筋に縛られるつもりはまったくなかった。だが、アーリア王妃からの招集とあれば、彼に選択の余地はない。
ダミアンが予想もしていなかったのはエロディとの出会いだった。彼の真の伴侶であり、生涯のつがいである存在。しかし彼女はすでに伴侶がいると信じ込まされていた...。二人は偽りに打ち勝つことができるのか、それとも愛のない生活を強いられるのだろうか?
ダミアン
「ダミアン?」聞き慣れた呼び声が、考え込んでいた俺の意識を現実に引き戻した。
「んー」俺は返事をして、顔を上げた。
「大丈夫?」確かめるように訊かれた。
俺は微笑んだ。「もちろん。どうして?」
「そんな顔しているから。そういう顔、あなたのお兄さんもするもの」アーリヤが指摘した。
アーリヤ・グレイ、それが彼女の今の名前で、王妃とも呼ばれている。兄さんの最愛の伴侶、俺の新しい義理の姉。でも、義姉なんて呼び方はダサい。彼女は俺の姉さんだ。
「どうしてそんなに観察力が鋭いんだ?」俺はため息をついた。
アーリヤは肩をすくめて、隣に座った。「お兄さんと一緒に暮らすと、そうなるのよ。いろんなことを自分の心の中だけに秘めてる人だったから」
「だろうね。当然だよ」俺はつぶやいた。
アーリヤはただ笑った。「なにをそんなに悩んでいるのか、話してくれる?」
「ここにいたくないんだ。イギリスでの生活が恋しい」俺は認めた。
アーリヤが相手だと、ついつい本当の気持ちを話してしまう。
「で、なにがあなたを止めてるの? 本当に帰りたいのなら、アドニスは決して止めないわ」アーリヤが言った。
「それはわかってる。でも...なにかがそうするなって言ってるんだ。兄さんに対する義務なのか、それとも他のなにかが理由なのかわからない」 俺はいら立ってうめいた。
「家族愛が恋しかったんじゃない? 自分では認めなくても。または、伴侶が近くにいるのかも...」言い終えてアーリヤは冗談だよというようにウインクした。
俺は鼻で笑った。「笑える」
アーリヤは首を振り、立ち上がった。「もう行かないと。でもダミアン、忘れないで。あなたは一人じゃないからね」
俺はにっこりと微笑んだ。「わかってるよ。アーリヤ、ありがとう」
彼女が考えに耽る俺を一人残して去っていくのを見送った。本人は気づいていないかもしれないが、彼女には独特のオーラがある。パワフルなやつだ。
彼女は間違いなく侮れない力を持っていて、彼女が兄さんに出しゃばらせないところが、俺はとても気に入っていた。
とうとう幸せそうなアドニスを目にすることができたのは素晴らしいことだ。
彼が幸せなのは本当に嬉しい。でも、俺の中には嫉妬している部分もある。
兄さんも妹もそれぞれの伴侶と幸せそうにしているのに、俺はそうじゃない。またしても、俺は兄妹の中の変わり者のように感じた。
ここに戻ってきてからまだ4カ月しか経っていないのに、俺の人生はがらりと変わってしまった。
その原因となったあの電話のことは今でも覚えている...。
4ヶ月前
その日は、職場で過ごす普通の一日だった。
刑事という仕事には利点があった。ひとつはライカンの感覚が使えることで、これは大きな助けになった。もうひとつは、自由が増えたことだ。
この仕事では、必要とされ、評価されていると感じられた。
俺は自席で、この仕事につきものの地味な作業をこなしていた。
ペーパーワークだ。
退屈だったけど、やらないわけにはいかない。
あと少しで終わるという時に、同僚の一人が入ってきて俺の名前を呼んだ。
「グレイ刑事、電話だ」
「だれだ?」俺は困惑して尋ねた。主だった人たちはみんな、携帯電話の番号を知っているはずだった。
「お兄さんの知り合いらしい」そう言って、 同僚は俺を見た。
アドニスの知り合い…?
ライリーだろうか?
でも、彼女だったら俺の妹だと告げるはずだ。だれなのか見当もつかなかったが、同僚に向かってうなずいた。
彼は指を3本立て、3番の回線であることを示した。
深呼吸をして3を押し、電話を耳に当てた。
「グレイ刑事ですが、どちら様ですか?」俺は尋ねた。
「ええと…、ダミアン・グレイさんですか?」女性の声が質問を返してきた。
「そうです。どちら様でしょう?」俺はますます困惑した。
安堵のため息が聞こえた。
「ああ、よかった。番号を間違えたかと思った! それってすごい恥ずかしいもの。待って、ごめんなさい。私の名前はアーリヤ、あなたのお兄さんの伴侶です」彼女が答えた。
なんてこった、兄さんに伴侶が?
やっとかよ。俺は王家の状況については把握していなかったが、兄のことは常に把握していた。それだけはやめられなかった。
「兄さんの伴侶?」俺はまだ困惑していた。
アーリヤはぎこちなく笑った。「そう、私よ。アドニスは私があなたに電話していることを知らないけど、彼は今、あなたのサポートを必要としているの」
「電話でこんなことをお願いするのは申し訳ないけれど、どうか戻ってきて。少なくとも数週間だけでも」
動揺した。アーリヤの心配そうな声が、俺の心に訴えかけてきた。彼女がアドニスのことをとても気にかけているのは明らかだった。
俺はため息をついた。「それはどうかな…」
「お願い! 今の彼にはあなたが必要なの。あなたのお兄さんをさらし首にしてやろうとしている嫌な人たちがいるのよ」アーリヤは憤慨しているようだった。
俺はうなり声を上げた。評議会のクソ野郎どもはいつだって卑劣だった。
「わかった。行くよ」俺は受け入れた。
アーリヤはため息をついた。「ありがとう! 早く会いたいわ!」
俺は軽く微笑んだ「アドニスが伴侶を見つけたのなら、もっと早くに会いに行くべきだった」
別れを告げ、電話を切ると、俺は痛む頭をマッサージした。
まだ午前11時だというのに、もう頭痛がする。
俺は同じく書類仕事をしている上司のオフィスに向かった。
ここでなに年も働いているが、一度も休みをとったことがなかった。仕事が忙しかったのもあるが、最近は心の空虚感が大きくなっていたので、気晴らしが必要だった。
だから、俺が休暇を申請すると上司は驚いたし、いつ戻るかわからないと言ったときはさらにショックを受けていた。
家族の緊急事態だと説明すると、必要なだけ休みをくれた。
その日の残りの勤務時間も休みにして、車で自宅に戻った。ロンドンに住み着いてもうなに年にもなるので、故郷のことは忘れかけていた。
しかし、王宮というのは忘れようとしても忘れられないような場所だった。時間を無駄にすることなくすぐに航空券の予約をして、荷造りをした。
こんなに長い時間が経った後で帰郷するというのは、とても奇妙な感じがした。
アドニス、俺のロールモデルである兄さんが俺を必要としている。そう言われたら、俺はすぐに駆けつける。
アーリヤはとても動揺しているようで、俺は胸が締めつけられた。
彼女はもう俺の家族ということになるし、「家族が一番大事」だと固く信じている。
電話をもらってからわずか5時間後、俺は空港で飛行機に搭乗するのを待っていた。まわりを見回してみると、だれも俺のことなど気に留めていないことに気づいた。
まさに俺の望みどおりだ。
でも、故郷に戻れば、だれもが俺に気づくだろう。みんなが俺がどこにいたのか知りたがるだろう。それが嫌だった。
王族にはプライバシーがないのが嫌だった。それはライリーと俺の意見が一致することのひとつだ。
彼女が伴侶と王城を出て行ったとき、俺とアドニスの両方に、それが彼女の望みなんだとはっきり示した。
ライリーは普通の生活を切望していて、アドニスにはそれがわかっていた。だから、彼はつらくても、彼女を止めることはなかった。俺が城を去ると決めたときも、決して止めなかった。
アドニスは俺たちが幸せでないことを知っていたから、俺たちを解放し、それぞれの人生を歩ませてくれた。でも、今度は城に戻るんだ。
兄さんのために。
7時間のフライトはあっという間だった。飛行機を降りると、俺はため息を吐いて、荷物を取りに向かった。
案の定、俺に視線があつまりはじめるのに時間はかからなかった。俺の一挙手一投足をみんながみつめていた。
俺が戻ったという噂はすぐに広まるだろう。それが嫌だった。
アーリヤにはいつ戻るつもりなのか話していなかった。敢えてそうした。
衛兵に出迎えられるのが一番嫌だった。だから、代わりにタクシーを捕まえた。
タクシーの運転手はずっとルームミラーを見ていて、俺はため息をついた。
「なにか問題でも?」俺は尋ねた。
「すみません。見覚えのある顔なので」運転手は謝った。
「運転してください」俺はまた、ため息をついた。
ありがたいことに、彼は言うとおりにしてくれた。王宮で降ろしてくれとは頼まず、少し離れた場所で降ろしてもらった。
正直なところ、まだ道を覚えていることに少しショックを受けた。忘れたくても忘れられないみたいだ。
結局、故郷は故郷ということか。
タクシーが止まると、運転手にお金を払い、王宮に向かって歩いていった。王宮が見えてきたとき、自分でも気づかないうちに止めていた息を吐き出した。
一人の衛兵が俺を目にして、口をぽかんと開けた。
「殿下、お帰りなさいませ」衛兵はすぐに門を開け、俺を中へと導いた。
すぐに、ほかの衛兵や使用人たちが駆け寄ってきて、挨拶をし、なにか欲しいものはないかと尋ねた。
「殿下、ついにお戻りになられたんですね」年配の使用人の一人が微笑んだ。
俺は本当に言いたいことは我慢して、ただうなずいた。
王族のクソ称号め。
俺はそれが嫌いだった。
「ダミアン?」妹の聞き慣れた声がした。
「ライリー?」俺は彼女の方へと歩いていった。
「ここでなにしてるの?」ライリーが訊いてきた。
「おまえと同じ理由だと思う」俺は彼女の腕の中の小さい男の子をじっと見つめた。
「ダミアン、あなたの甥のウィリアムよ」そう言って、ライリーが俺にその小さな男の子を手渡すと、その子は嬉しそうな声を上げた。
「子供がいるのか? それをだれにも言わなかったのか?」信じられない思いで尋ねた。
ライリーはただ肩をすくめた。「私は自分の人生を生きていたんだもの。それに、もし妊娠していることをこのバカげた家族に話したら、どうなっていたかわかるでしょう?」
俺は小さなウィリアムを見下ろした。彼は王宮に魅了されている様子だった。
無理もない。王宮は前より荘厳さが増していた。
「アーリヤに呼ばれたのか?」俺は話題を変えた。
「ええ、アドニスには兄妹のサポートが必要だと言われたの」ライリーはため息をついた。
「で、おまえが同意したのか?」俺は仰天した。
「そんなに驚かないでよ、ダミアン。私だって、あなたに同じことを訊きたいわ」ライリーがむっとしたように言った。
「彼女の声に真実を感じたから帰って来たんだ。それに、アドニスは今でも俺の兄さんだし」俺は答えた。
「私は心の奥でずっと気になっていたから戻ってきたの。アーリヤのことかもしれないし、アドニスが私たちを必要としているという事実かもしれないけど」ライリーは認めた。
俺はウィリアムを彼女に返して言った。「挨拶も済んだことだし、主役を訪問しよう」
ライリーはうなずき、俺たちはアドニスのところへ向かった。彼の執務室は父さんが使っていた部屋と同じだったから、見つけるのは難しくなかった。それに、彼のにおいは信じられないほど強力だった。
兄さんは俺たちが部屋に入る前に、俺たちのにおいを感じ取っていたから、俺の部屋に入った途端、俺は彼のヘーゼル色の瞳にみつめられた。
彼の瞳には、驚き、喜び、悲しみが揺らめいていた。すぐに俺の視線は、俺をここに呼び寄せた人物に釘付けになった。
彼女がアドニスの伴侶であることは明らかだった。彼女の存在感は強烈だった。
アーリヤには支配力が自然に備わっていた。俺のライカンは、アドニスが力強い伴侶を得たことを喜んでいた。
俺は兄の心を奪った女性を賞賛せずにはいられなかった。彼女は息をのむほど美しかった。それは否定しようもなかった。彼女は自分の伴侶に目をやり、微笑んだ。
彼女の笑顔ときたら
部屋全体が明るくなるような、光り輝く笑顔だった。
アドニスは信じられないという顔で私を見ていた。
もう後戻りはできない。
俺はここにいて、どんな形であれ兄さんを助けるつもりだった...。




