オーロラ
翌朝、ウルフギャングと長老たちは一族全員を集めて会議を開いた。
「一族の皆様にお知らせです。ウルフギャング・フォルティア・ガリアルディがついにパートナーをお決めになりました」長老がマイクで案内した。
一族全員、熱心に耳を傾けている。
「ブラッド・ムーン族の未来のルナ、タルーラ・ヴィルヘルムをご紹介します」
感性と拍手に包まれ、タルーラがステージに上がり、ウルフギャングの横に立った。彼女は彼の手を握り、目を大きく見開いた。
私は観客の後方からその様子を見ていた。その場にいたくはなかったが、強制参加の会合だった。
その様子を見ているうちに、刻一刻と心が壊れていくのを感じた。
これが私の運命だった。私のパートナーが他の誰かと人生を歩むのを見守ること。
ウルフギャングの方を見ると一瞬目が合ったが、すぐにこちらから逸らした。
誰かが私の肩に触れたので振り返ると、マックスがガンマ・ボーマンのそばに立っていた。
アスペンも一緒だった。みんな暗い表情をしていた。
「大丈夫かい、ローリー?」とマックスが尋ねた。私は小さく微笑み、うなずいた。
「交配の儀式は、アルファがリーダーのところから帰ってくる3週間後に行われます」長老が告げた。「新しい夫婦に盛大な拍手を!」
皆が歓声を上げた。
「ローリーはまだ残ってなきゃだめなの?」アスペンがリーマスに尋ねた。
彼はステージを見上げたあと私に視線を移した。小さく微笑んで首を振った。「オーロラ、部屋に戻っていいよ」
私は頭を下げて礼を言い、走り去った。これ以上そこにいるのは耐えられなかった。
ウルフギャング
俺は一族の前に立ち、長老たちがタルーラとの婚約を発表するのを聞いていた。
迷惑なことに、彼女は俺にしがみついてきた。オーロラの傷ついた瞳を見て、罪悪感を感じずにはいられなかった。腫れぼったく見えた。
俺が部屋を出た後、一晩中泣いていたのだろうか?
どうして抗えなかったのだろうか。彼女を傷つけたくなかった。
彼女にマーキングするつもりなどなかった。
マックスとリーマスが彼女に近づいた。マックスが彼女の肩に手を置くのを見て、喉から低いうなり声が漏れ出るのを抑えられなかった。
マックスが何か言うと、オーロラは彼を見つめ、微笑んでうなずいた。
俺は歯をくいしばった。
「どうかしたの、ベイビー?」タルーラが尋ねた。
「いや」食いしばった歯をとおして声を出す。
「新しい夫婦に盛大な拍手を!」アルド長老が言うと、再び歓声と拍手が沸き起こり、俺はオーロラから一瞬目を離した。
振り返ると、オーロラはリーマスに頭を下げ、走り去っていった。
彼女の後を追いかけたかったが、タルーラとの婚約を祝福する人々が近づいてきた。
お前ってまじでバカだな。クロノスが不平を言った。
「ウルフギャング、やっとだな! いつになったら娘に求婚してくれるのかと思っていたよ」とブルームーン族のアルファ、コルト・ヴィルヘルムが言った。
彼は俺の背中を叩いた。「いつサミットに出発するんだ?」
「明日です。サミットの前に、別の用事がありまして」
リーマスが、オーロラの母親がサミットが開催される村からほんの数キロ離れた村の出身であることを突き止めたのだ。
そこに行けば、彼女について何かわかるかもしれない。パートナーが月の女神の子孫であるというガンマの説を否定する必要があった。
「いつも仕事を優先だな。頼むから娘だけは仕事より優先してやってくれよ」アルファ・ヴィルヘルムはもう一度俺の背中を叩きながら言った。
「やだパパ、ウルフギャングがそんなことするわけないじゃない」タルーラはもう一度腕を掴んできた。
「うーん」ほぼ耳を傾けないままつぶやいた。
人ごみを見回し、栗色の髪とグレーの目を探したが、彼女の姿はなかった。
「ここにはいないよ、アルファ」リーマスが横に立って言った。
「誰がいないの?」タルーラの声に、俺はリーマスをにらみつけた。
「クレイトンさんだ。アルファ・ウォルフギャングがきょろきょろしていたもんで、彼女を探しているのかと。専属メイドだからね」リーマスは淡々と答えた。
いつものように眼鏡を拭く彼の目からは、楽しんでいることを感じ取れた。
ベータもガンマも、俺がオーロラに恋をしていて、だからそばに引き留めているのだと思っていた。
もし彼女がパートナーだと知れば、彼女の話をするのをやめないだろう。
「彼女はここにいるべきでは? 全員参加の会合なのよ、罰が必要じゃないかしら?」タルーラは腰に手を当てて言った。
「少し疲れているみたいだったんで帰らせました。罰は必要ないでしょう」リーマスは眉をひそめて言った。
「あなたが許可したならいいわ」タルーラはイライラした様子で言ったあと、背を向けて祝福に来た群衆の方を向いた。
「彼女はどこに行ったんだ?」リーマスに尋ねた。
「部屋に行かせた。しばらく1人になりたかったみたいだ」
俺は機を見計らって気づかれないように大広間を出て、4階まで階段を4段飛ばしで上った。
そのまま彼女の寝室に向かい、ノックした。中からシャカシャカという音が聞こえた。1人なのか?
もう一度ノックするとドアが開き、マックスが現れた。一瞬、オーロラと2人きりでここにいたのかと思い、怒りがこみ上げてきた。
だがすぐにアスペンがオーロラと一緒にベッドに座っているのを見つけた。
「よお。ここで何してるんだ?」マックスは何気なく尋ねた。
「ここで何してるって? 俺の家だろ」
「それはそうだけど、タルーラとの婚約祝いでまだ下にいると思ってたからさ」彼はドアにもたれかかった。
「クレイトンさんにちょっと話がある」彼女の目を見ながら言った。彼女は明らかにこわばった。
「もちろん。どうぞ」とマックスは脇に寄った。
「2人きりでだ」と俺は付け加えた。
気まずい沈黙が訪れたが、やがてアスペンが咳払いをして立ち上がった。
「リーマスが何をしてるか見てくる。マックス、探すのを手伝ってくれる?」
彼女はマックスの腕を掴み、部屋の外に引きずり出してドアを閉めた。
オーロラがベッドから出て手はナイトガウンの裾を弄り、目線は床に落としたままだ。
「オーロ——」
「ご婚約おめでとうございます。末長くお幸せに」と彼女は頭を下げた。
一瞬驚いたが、「ありがとう」と言った。
再び沈黙が訪れた。俺は彼女から目を離さなかった。
今日は珍しく晴れていたにもかかわらず、彼女はタートルネックのセーターを着ていた。ほぼ確実に俺にマーキングされた跡を隠すためだろう。
「何かご入用で?」沈黙を破ったのは彼女だった。
その時、ドアのノック音が聞こえた。ドアが開き、タルーラが入ってきた。
「ああ、ここにいたのね。探してたのよ」
タルーラは俺を見た。「あなたの名前はオーロラよね? 今夜の婚約パーティの準備を手伝ってほしいってカラさんが言ってたわ」
彼女はまた俺の腕にしがみついた。
「はい、すぐに行きます」オーロラはお辞儀をした。
部屋を出る前に、もう一度「ご婚約おめでとうございます」と言い残した。
ちくしょう。