オーロラ
何時間かかっただろう。クラウスはようやく満足して去っていった。
狼である彼の体力は人間よりも高かった。
「お前が本当にあのアルファのルナなのか、結果が楽しみだな」彼はそう言って笑いながら地下牢を出て行った。
彼が床に置いていったマットレスの上で丸くなって泣いた。
誰も私を迎えに来なかった。ウルフギャングは私を救おうとはしなかった。
私は、月の女神によってウルフギャングと引き合わされた不幸なメイドに過ぎないのだから。
そんなことないわ、オーロラ。クロノスは私を愛している。そしてウルフギャングはあなたを愛してるわ。レアの声がかすかに響いた。
レア? どこにいたの?
ごめんなさい。弱っていたの。トリカブトで毒を盛られたみたい。オーロラこそ大丈夫?
彼女の声に弱さを感じた。彼女はまだ完全に回復していなかった。
でも、いつ毒を盛られたんだろう?
よくなってきてるよ。私は答えた。
ウルフギャングの狼と連絡を取ろうとしているけど、なかなか取れなくて。すごく強いトリカブトだったみたい。
レアの姿が見えた。彼女はぐったりしていて、疲れきっていた。毛皮は薄汚れ、輝きを失っていた。
レア、連絡を取ろうとしなくてもいいよ。ウルフギャングは私から離れられてラッキーって思ってるはず。また涙がこぼれそうになった。
「ううん、クロノスと同じように心配してくれてるわ。私には分かる」レアが言った。
彼女は私を安心させようと近づいた。
そんなわけない!思わずかっとなった。~これまでもこれからも私のことなんて気にかけない。レア、自分で自分を助けないと。逃げなきゃ。~
ウルフギャング
目を開けると、ベッドに横たわっていた。
「なんで……?」
と呟いた瞬間、すべてがよみがえった。恐ろしい記憶、パートナーの縁を通じて見たものすべてが。
パートナーが経験した痛みを思い出し、苦しさに頭を抱えた。
「オーロラ...…」俺は呻いた。
ドアが開き、ガンマが入ってきた。
「やっと起きたか」リーマスが言った。
「どれくらい意識を失ってた?」
「3時間くらいかな」
「何だと?」ベッドから飛び起きたが、吐き気がしてバランスを崩した。リーマスは間一髪で俺をつかまえ、ベッドに連れ戻した。
「落ち着けよ。すでに部隊を出動させていて、ベータ・マックスが率いてる」
「マックスが一緒に行ったのか?」
「ああ、こんなことの後だし見知った顔がいるといいってことでね」
俺は再び立ち上がろうとした。「俺も行くべきだ。俺のパートナーだぞ」
だがリーマスは引き留めた。
「そんな状態じゃないだろ。救助の邪魔になるだけだ。どんな拷問だったか分からないが、お前の苦しみようからするにかなり酷かったんだろう」
「オーロラが俺を必要としてるんだ、邪魔するな!」命じたが、リーマスは動かなかった。
「マックスと他の部隊が無事に連れ戻すよ。あと、彼女の医療報告書を送ってもらった。トリカブトで毒を盛られてたみたいだ」
彼は手に持っていたファイルを俺に渡した。
「トリカブト? でもどうやって」
「分からない。ベータ・マックスが地下室で高熱を出して意識不明の彼女を発見して病院に連れて行った。鞭打ちの傷はまだ治っていなかった」
「彼女を告発したのは誰だ?」すでに答えを知りながら尋ねた。
「タルーラ・ヴィルヘルムだ」
書類を丸めて投げた。オーロラは俺のせいでこんな目に遭ったのだ。
「すべて俺のせいだ。出会った瞬間に彼女を受け入れていれば、こんなことにはならなかった。安全に、俺と一緒にいたはずだ」
「こんなことを言うのも何だけど、彼女がパートナーだと分かったとき、受け入れる気がなかったならなぜ拒絶しなかった?」
それは俺が恐れていた質問だった。
「ただ...…できなかった。拒絶しようとしても、彼女を見るたび、彼女の匂いをかぐたび......」俺は頭を振った。「できなかった」
リーマスは少し黙ったあと、口を開いた。「マックスと部隊が彼女を救えることを祈ろう」
もちろんそれを祈るしかないが、彼女は精神的に立ち直れるのだろうか?
俺は月の女神に、彼女が立ち直るチャンスをくれ、と祈った。
彼女のパートナーとしてそばにいて、俺が与えた苦痛から立ち直るまで精一杯サポートするつもりだ。
オーロラ
私は汚く湿ったマットレスの上に座り、逃げる方法を考えていた。
今日も1日、一族の誰の姿も見えなかった。
他に選択肢はなかった。逃げなきゃ。
ただここに座って、クラウスの野郎がまた触りにくるのを待ってるだけなんて耐えられない。
武器さえあれば。
ならず者が食事を持って入ってきて、私の目の前めがけて床に投げた。
「どうぞ、ルナ。マスター・クラウスに苦労させられたんだから、体力を補充しないとな」
彼は鼻で笑った。「食べておいたほうがいい。彼はすぐにまた訪ねてくる」
そして、彼は再び私を閉じ込めた。
床に投げつけられたトレーに目をやると、今日の食事はマッシュポテトとステーキだった。
肉をつかみ、骨の周りから肉の塊を熱心にもぎ取る。
しばらくしてドアが再び開き、クラウスが現れた。クラウスはあの嫌な笑みを浮かべていた。
私は両手を後ろに組んで地下牢の隅に立っていた。
「そろそろあの一族のことも待ってられないぞ。交渉の使者すら送ってこない。あのアルファ、お前のことなんてどうでもいいみたいだな」
彼は片側に首をかしげた。手には短剣を持っていた。私は返事を返さなかった。
「でも心配するな。お前のことは気に入ったから殺すつもりはない」彼は私に近づいた。
「部下たちはお前のその甘い体を欲しがるだろうな。何しろ未交尾のならず者だ。たまには解放しないとな」
彼は私の顎をつかんで顔を近づけ、鼻を近づけてきた。
「どうだ? 俺たち専用のオモチャになりたいか?」彼は欲望に満ちた目で私を見ていた。いやらしい息が顔にかかる。
彼は短剣で私の頬をなぞった。銀で肌が焼けるのを感じた。
「もう一度あなたに触られるくらいなら、燃える溶岩の穴に投げ込まれたほうがましよ」と私は唸った。
私は背中に隠していたステーキの骨を取り、彼の喉に突き刺した。
彼の血管から血が飛び散り、私の手と顔にかかった。