アラスカのイリアムナに住むブラッドムーン族の少女・オーロラはもうすぐパートナーを迎える年齢の18歳となるが、特に気になる人もいなかった。そんな中、群れのトップであるアルファの誕生日パーティーのために屋敷の掃除と準備を手伝いに行く。そこでたまたま誕生日を迎えたオーロラは仲間からささやかなバースデーをお祝いされるが、そのときに自分の中の狼が目覚め近くにパートナーがいるのを感じ取る―。
対象年齢:18歳以上
オーロラ
交わり...
刻印...
大切な人...
真実の愛...
狼の社会で育った私は、村でよくこういった言葉を耳にした。誰もが口にする言葉だった。月の女神が運命の恋へと導いてくれる瞬間を、人々は夢見ていた。
そしてもうすぐ18歳になる私の心にも、そんな思いがよぎった。
―別にパートナーを探すわけでもないのに―
洗濯物を干し終えた私は、目を細めて太陽を見上げた。アラスカのイリアムナに住んでいる私には珍しい光景だった。しかし、どんな理由であれ、そこは私の属するブラッドムーン族が住むことに決めた場所なのだ。
「オーロラ! 洗濯は終わった? 夕食の支度ができたわよ」家の中から継母のモンタナが叫んだ。
「今行く!」家に足を踏み入れると、継母モンタナの醜悪な嘲笑が私を迎えた。
「どうしてこんなに時間がかかったの? お腹がペコペコよ!」
「先に食べててよかったのに」と私は言いながら、テーブルに座って食べ始めた。
でも料理はとても美味しくて、それ以上文句を言うのはやめた。
「それで、ローリー(オーロラの愛称)...明日には成人するんでしょう?」
私は顔を上げた。「え? ああ……うん」と私はつぶやき、食事を再開した。
はあ、また始まる……。
「外に出ずに、どうやってパートナーを見つけるつもりなの?」と彼女は尋ねた。
「どうせ見つかるとは思えないし」と私は言った。「ならず者や人間のハンターが大勢いる以上、私たちの仲間は一人も残らないかもしれない……」
そしてそれは事実だった。
戦士たちは私たちを守ろうと尽力してくれていたものの、私たちの数は日に日に減っていった。最後に父に会ったときのことを思い出し、胸が苦しく締め付けられた。
父は私たちを守って死んだのだ。
「ローリー、食卓で暗い話は禁止よ」モンタナがポツリと言った。「そろそろ悲しい記憶から抜け出さなくちゃね。そうそう、あなたの代わりに仕事に応募したの」
私は顔を上げた。
「何ですって?」
「アルファ(一族のリーダー)の家でお手伝いをするのよ。アルファの誕生日祝いのために人手が必要でね」
私は驚いて口を開いた。
「何をするって?」
「絶好のチャンスじゃない!」モンタナは勢いよく続けた。「パートナーと出会えるかもしれないし、ここでの生活費の足しにもなる。お父さんの年金だっていつまでもあるわけじゃないのよ」
信じられなかった。私はイライラして、自分の部屋へ足早に向かった。これ以上彼女の近くにいるのは耐えられなかった。
彼女は悪い人ではなかった。父が死んだ後、彼女は私を育ててくれたも同然だった。
でも自分が決めたことを正しい選択だと時々思い込む彼女の癖には、辟易させられた。
私は吐き出したくなり、携帯電話を取った。
私は携帯電話を置いて、ベッドで伸びをした。
パートナーを見つけることがそんなに重要かしら?
もしその人が変な人だったら?
そもそも私を好きになってくれる人がいるの? 私もその人を好きになれる?
眠りにつくまで、次から次へと疑問が頭をよぎった。
***
なかなかベッドから出て着替える気になれなかったが、結局アルファの家に向かった。
早く終わらせよう。
邸宅に近づくと、その大きさに苛立ちを禁じ得なかった。この広さのうち、本当に必要なのは一体どれぐらいなのだろう?
衛兵による簡単なセキュリティーチェックの後、私は大広間をぶらぶらと歩きながら、昔のことを思い出していた。
以前、父が生きていた頃、一度だけアルファの家に行ったことがある。
そのとき父は私に、集会所のすぐ外にある椅子に座っているよう言った。
「そこにいろ、ローリー。長くはかからないから」父は私の頭を撫でると、人狼でいっぱいの部屋に入っていった。
私がそこに座っていると、巨大な男が私の方に向かって歩いてきた。
漆黒の長い髪、オニキスのような黒い目、顔にはひどい傷跡があった。
その横に、同じ漆黒の髪を束ね、鮮やかな青い目をした子供がいた。その巨大な男と口論している。
「でも、僕だって将来はアルファになるんだ、父さん! 僕も一緒に会議に出るべきだよ!」
それは一族のアルファとその息子だった。
「息子よ、おまえはまだこういう会合に参加する準備ができていないんだよ」アルファは表情なく、単調な声で答えた。
彼らがこちらに近づいてきたので、私はすぐに立ち上がり、敬意を表して頭を下げた。
父も他の村人たちも、アルファと顔を合わせるときはいつもそうしていた。
目の前に立っているにもかかわらず、彼らは私の存在に気づかないまま談笑を続けた。
「あいつらは母さんを殺した! あいつらが殺したんだ! あいつらに償わせろ!」子供は父親に向かって叫んだ。
子供は震えていて、目からは涙がこぼれ落ちそうだった。
父親は無表情で突っ立っていたが、ようやく口を開いた。
「息子よ、時が来れば集会に参加できる。それまでは防衛のレッスンを続けなさい」そう言いながらドアノブに手をかけた。
「お前の母親の仇は私が討つ」と、アルファは感情のなさそうな声で言い残し、ドアの向こうに消えた。
顔を少し上げると、少年がドアを見つめていた。彼の目は流しきれなかった涙で充血し、両手を固く握りしめていた。
彼はやっと私に気づいたのだ。彼はすぐに腕で涙を拭い、こちらを向いて私を睨みつけた。
「いつからそこにいた? 誰が入れてくれたんだ?」私を睨んだまま、彼は尋ねた。
「えっと......パパがアルファと長老たちとの重要な会議に呼ばれたんです…」私はすぐに答え、もう一度頭を下げた。
「お前の父親って誰? 名前は?」まだ納得していないようだった。
「ロドリック・クレイトンです」両手をさわりながら答えた。
「クレイトン? お前の父親はガンマ(一族の3番手)なのか?」今度は答えが気になる様子だった。
当時、父が一族の中で重要な役割を担っていることは知っていたが、それがどれほど重要なのかは理解していなかった。
「うーん……はい?」私は答えた。
「それって答え? 質問?」と彼は嘲るように言った。
「ええと……答えです。父はガンマです」
彼は一瞬私を見た後、首を振り、どうでもいいと言わんばかりに手をひらひらさせた。
「何をしていたか知らないけど、続けなよ」そう言って、彼は踵を返して去っていった。
「そこのあなた!」誰かに怒鳴られたような声が聞こえ、我に返った。
50代後半のしかめっ面の女性が全速力で歩いてきたのだ。
「ガラ(パーティーのこと)のお手伝いさん?」と聞かれ、
「はい、そうです。オーロラ・クレイトンです」と私は頭を下げて言った。
肩を軽く叩かれた気がして顔を上げると、その女性が口に手を当てていた。
「ローリー?」
「はい」と答えたときにはまだ、彼女の態度が変わったことに気づかなかった。
次の瞬間、いきなり彼女に強く抱きしめられ、驚いた。
「ローリー!最後に会ったときは、まだ小さかったのに。こんなに大きくなって!」彼女は私を離し、頭のてっぺんからつま先まで私を見つめた。
「パートナーはもう見つかったの?」
「いえ、まだです。18歳になるのは数日後で……。あの、私たちどこかで?」
「あぁ、ごめんなさい。私はカラ。アルファの家の家政婦長で、村の助産婦よ。あなたのお父さんが一族のガンマだったころを知っているわ。お母さんもね」
彼女の顔は悲しげになった。「実はあの日、私もそこにいたの......」彼女は言葉をつまらせた。「お母さんを救えなくて、本当にごめんなさい」
母は私を産んで死んだ。カラの傷ついた姿を見て、私は感謝の気持ちでいっぱいになった。本当に助けようとしたんだとわかった。
「大丈夫ですよ、カラさん」私は彼女の肩に手を置き、笑顔で言った。「お会いできて光栄です」
カラは微笑み返し、私の肩に手を置いた。「来てくれて嬉しいわ、ローリー。今日は頼りにしてるわよ」
私は一日中、アルファの誕生日パーティーのために屋敷の掃除と準備を手伝った。カラの話によれば、私たちの一族と近隣の一族を合わせて600人以上の招待客が来るそうだから、やることはたくさんあった。
「どれだけのパーティーが必要なのよ」汚れた水の入った重いバケツを引きずりながら、私は心の中でつぶやいた。角を曲がるのに苦労していたそのときだ。うわっ!
誰かにぶつかり、汚れた水がモップで拭いたばかりの大理石の床にこぼれた。
「ちょ…信じられねえ」と、高圧的な低い声が響いた。
私はその口調に顔をしかめた。まるで全部私が悪いみたいだ。私はこの男に文句を言おうとしたが、その男の顔を見るやいなや、用意していた言葉たちは吹き飛んだ。
一族のリーダー、アルファ・ウルフギャングだ。
「し、失礼します」私は小さな声で言った。心臓がバクバクしていた。
子供の頃、私に質問してきた少年を思い出した。彼はすっかり大人になっていた。
彼は相変わらず、まとまりのない黒髪を束ね、鮮やかな青い目をしていたが、今や私よりはるかに背が高く、その広い肩幅で私はほとんど影みたいになっていた。彼の骨格には力強さが感じられ、顎は鋭く、口はきゅっと結ばれていた。
彼の服は汚れた水で濡れており、視線には苛立ちがにじんでいた。
やばい。
「初めて見る顔だけど」と彼は言った。「新しいメイドか?」
私のこと覚えてないみたい。
私はうなずいた。「ガラの準備に来ました」
「ガラ?」アルファ・ウルフギャングは顔をしかめた。
「あなたの誕生日パーティーですよ」
「ああそうだったな」ウルフギャングはため息をつき、鼻をさわった。
彼はこの盛大なお祝いをあまり喜んでいないように見えた。そもそも、彼はそれを望んでいたのだろうか?
「じゃあ、これを片付けろ」と彼は汚い水たまりを指差しながら命じた。
私はうなずき、片付けに向かったが、濡れた床で滑ってしまった。咄嗟に叫んだが、力強い腕に包まれ、転ばずに済んだ。
ウルフギャングはしかめっ面で私を見下ろした。「どこまで役立たずなんだ、メイド?」
私は何も言えなかった。彼に強く抱きしめられ、服の上から筋肉の硬さを感じた。
全身が燃えているようだった。
「あ、ありがとうございます」何とかお礼を言った瞬間、彼は手を放し、私は床に落とされた。汚れた水が私の全身に飛び散った。
「ちょっと!」と私が文句を言うと、
彼はにやりと笑った。自分の心臓がドキドキしていることに気づきたくなかった。
「これでおあいこだ」自分の汚れた服を指差しながら言うと、彼は立ち去った。私は信じられない気持ちで、その方向を唖然と見つめていた。
嫌なやつ!
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