
Hated By My Mate 私の大事な人は私が嫌い 2巻
オーロラが感じ取ったパートナーは、なんとアルファ・ウルフギャングだった。同じく匂いを感じ取って近づいてきたアルファ・ウルフギャングとパートナーであることを感じ合っていたところにブルームーン族のアルファとその娘・タルーラが遮る。目下のオーロラを嘲笑する2人に、オーロラは自分とアルファ・ウルフギャングがパートナーであることを伝えようとするが、アルファ・ウルフギャングは2人に「俺のメイドだ」と紹介し、オーロラは深く傷つく。パートナーと気づいているはずの彼の本心は何なのか。
第4章
オーロラ
「近づいて挨拶すればいいの?」動揺のあまり小声で呟く。
アルファ・ウルフギャングが人ごみをかき分けてこちらに歩いてきていた。熱心な女の子たちが彼の注意を引こうと必死で、彼はまだ私に気づいていないようだった。
私は歩を進めようとしたが、靴の中が急に鉛を入れられたように重くなった。
私は深呼吸をし、片足を無理やり前に出した。ドキドキしすぎて心臓が変になりそうだった。
興奮でぞくぞくしながら彼に近寄った。——目が合った。
私たち以外の人は消え去ったかのような感覚に陥った。そこにいるのは私たち二人だけだった。心臓の激しい鼓動はおさまり、深く安定したリズムに落ち着いた。私の体は温かいもので満たされた。数歩進んで、お互いの目の前に立った。もう触れられるほどの距離にいた。
彼の視線が私に火をつけた。胸から始まり、体の芯まで燃え広がった。
「こんにちは」柔らかい声で挨拶した。
「お前だったのか」彼は目を細めて言った。私の中に疑念が生まれた。嬉しそうな声には聞こえなかったからだ。
誰かがアルファの肩に手を置き、そこで会話は止まった。
「ウルフギャング!ここにいたのか!」大柄なその男は酒で頬を赤らめながら微笑んだ。その男がこちらを向いた瞬間、誰か分かった。ブルームーン族のアルファだ。「ちょうどいい。酒を注いでくれ、メイド」
彼は空になったグラスを私に手渡すと、すぐに私を拒絶した。私もすぐに彼から距離をとった。
「ウルフギャング、娘から聞いたぞ。娘を無視してくれたそうだな。ブラッドムーン族はよくもてなしてくれると聞いていたんだがな。失望させないでくれ」
タルーラも一歩前に出た。ドレス姿はあまりにも美しかった。彼女がウルフギャングに魅惑的な笑みを浮かべるのを見て、私は嫌悪感でいっぱいになった。
心の中でレアが文句を言っているのが聞こえたが、彼女を引き留めた。
アルファ・ウルフギャングはタルーラに微笑みかけたが、愛想笑いに見えた。
「無視なんてできるはずないでしょう」そう言うと、ウルフギャングは少し頭を下げ、タルーラに手を差し出した。
「あ、あの」彼らの気を引こうと、私は声を出した。
「まだいたのか?」ブルームーン族のアルファは嘲笑した。「ウルフギャング、一体どんな人間を雇っているんだ?」
「実は、お手伝いでここに来たわけじゃないんです」
「じゃあ、そのメイド服は制服ではなくてご趣味ということ?」 タルーラに聞かれ、恥ずかしくて顔が熱くなった。
私はウルフギャングを見たが、彼の表情や目からは感情を読み取れなかった。
「ウルフギャング、この子を知ってるの?」タルーラは彼の胸に手を置いて尋ねた。
私は怒りを隠せなかった。レアの怒りに突き動かされているのを感じた。タルーラは私に微笑みかけていたが、その笑みを一瞬で奪い去る言葉を私は知っていた。
「私は実は彼の...…」
「メイドだ」ウルフギャングが私の言葉を遮った。彼は私をすごい形相で睨みつけていた。怒りが混乱に変わった。「彼女は俺のメイドだ。彼女が仕事をする限り、だが」
「ずっとそこに立っているつもりなのか、それともアルファの飲み物を取ってくるのか?」ウルフギャング訊いた。
私の返事を待つ人などいなかった。まるで私が追い払う価値すらない生き物だと言わんばかりに、彼らは背を向けパーティーに戻った。
私は完全にショックを受けたままだった。
涙がこぼれそうになる。みんなが私を見ている気がした。一部始終を見られた。
恥ずかしかった。私は逆方向へ全速力で走った。
ホールから離れたかった。
ささやき声から逃げたかった。
羞恥心を忘れたかった。
私は玄関を出て、門に続く開けた庭に出るまで走り続けた。
さらに家まで走り続けた。仕事のことも、制服を着たままであることもどうでもよかった。
「オーロラ? あなたなの?」リビングからモンタナが呼ぶ声がした。
私は階段をダッシュで駆け上がり、寝室に入ってドアをバタンと閉めると、ベッドに身を投げ出し、枕を抱きしめて思い切り泣いた。
ほどなくして部屋のドアが開き、モンタナが入ってきた。
「パーティーはもっと長いと思ってたけど。何があったの?」
私は何も答えなかった。私はただ泣き続けた。
「オーロラ、どうしたの?」モンタナの声には心配が滲んでいたが、
「一人にして」と枕を顔に押し当てながら言った。
彼女はいつものように私の頼みを聞かなかった。ベッドが沈んだのを感じ、彼女が隣に座ったのだと分かった。彼女の冷たい手が私の頭を撫でていた。
「誕生日なんだから泣かないで。元気になるものをあげる」
彼女がベッドから降りたのを感じた。好奇心に負けて枕元から顔を出すと、彼女は古い封筒を差し出した。
「あなたが18歳になったら、これを渡すようにとお父様から託されたのよ」
封筒を開けると、手書きの手紙が出てきた。父の筆跡に見覚えがあった。
モンタナも気を遣ってくれたのだろう、すぐに部屋を出て行った。
また滝のように涙があふれたが、今度は幸せの涙だった。
父さんの言う通りだった。動揺して泣いても仕方がない。
私たちがパートナーだと知って、アルファ・ウルフギャングも私と同じくらいショックだったに違いない。
きっとそのうち、彼も受け入れてくれるだろう。
私はただ待つだけだ。
ウルフギャング
ショックで涙をためた少女の純真なグレーの瞳が脳裏に浮かんだ。急に恥ずかしくなった。
あんな言い方をするべきじゃなかったかもしれない。
俺はすぐに考え直した。
「どうでもよくねえ!」カッとなって大声で叫んだ。拳を机に叩きつけ、マホガニー材にひびが入った。「同盟がなければ戦士が減る。戦士が減れば、ならず者が国境を突破する。それが何を意味するかわかるか?」
俺の狼は答えなかった。
「全員死ぬんだよ、クロノス。一人残らずな」
俺はため息をついた。クロノスは引き下がる気はなさそうだ。そして俺自身、正直なところパートナーが欲しかった。彼女を見た瞬間、抱きしめて俺のものにしたいと思った。彼女は美しかった。
だが、俺に見合う女性である必要があった。俺個人のためではなく、一族のためだ。
オーロラ
叩くような奇妙な音で目を覚ました。
うーん、と言いながら携帯電話を確認した。画面が明るすぎて眩しい。まだ朝の4時だった。何の音?
レアだ。
「何言って——」その瞬間、眠気は吹き飛んだ。
アルファ・ウルフギャングが屋根の上にいて、窓の外に立っていたのだ……。しかも、中に入りたそうにしながら。




