ライカン王族の相談役であるギデオンは、自分の運命の人(エラスタイ)を探すことを諦めかけており、とりあえずの彼女・ヘレンと共に過ごしていた。一方人間と人狼のハーフ少女・レイラは、両親がレイラの番いだと疑わないコフィにどうしても惹かれないでいた。
そんな中、ギデオンの家に仕事で訪れることになり、そこで官能的な匂いを感じ取り自分を抑えきれなくなる。
対象年齢:18歳以上
ギデオン・アーチャー
「アーチャー卿!」自分の名前が聞こえて振り返った。
アリスター・ペンブロークが赤ら顔でこちらに歩いてきた。どうやら少し酔っているようだ。
「ここで会うなんて奇遇ですね」彼は、とても親し気な口調で言った。嫌な奴であることは分かっている。
アリスターは社交界を賑わす大富豪で、王室に近づくために執念を燃やして俺と友人になろうとしている。皇太子がカリフォルニアに滞在していることを知ったら、きっと失望するだろう。
彼は俺と握手をしながら、まるで昔からの仲間のように軽く背中を叩いてきた。俺はアリスターのような男が大嫌いだ。
彼は俺の同伴者に向かって言った。「ヘレン・アリストファネスさん、お会いできて光栄です」
アリスターがヘレンと肌を重ねたことを知っているだけにますます不愉快だ。それも俺とヘレンがまだ仲の良かった頃に、一度だけでなく何度も。
「ペンブロークさん」ヘレンは官能的な微笑みを浮かべ、手を差し出した。彼は彼女の体に目をやり、その手に唇に近づけた。
「それで、伝説のアーチャー卿は、今夜ここに何をしに来られたんですか?」彼は、彼女の手を長く握りしめながら尋ねた。「まさか人間の集まりであなたに会うとはね」彼はようやく彼女の手を離した。
私はポケットに手を突っ込み、パーティーを見回した。答えは少しじらしてやろう。シャンパン、生演奏、千ドルのスーツに身を包んだ男たち、デザイナーズドレスに身を包んだ女たち。会場は人間でごった返している。
ここには俺の他にもう2人のライカンがいることに気付いた。おそらくアリスターの友人で、護衛として連れて来たんだろう。
俺はやっと返答してやる。「私が来た目的は、他の皆さんと同じく、チャリティーを支援するためですよ」
「そうですよね」アリスターは少しがっかりしたように言った。
「やっと見つけたわ!」一人の女性がアリスターの隣に寄ってきた。「アリスター、紹介してくれる?」彼女は私の目をじっと見つめる。
「アーチャー卿、私の美しい同伴者を紹介します。ミス・フアナ・ベガです。フアナ、こちらはアーチャー卿と、彼の素敵な同伴者、ヘレン・アリストファネスさんだよ」
「素敵なパートナーよ」と、ヘレンは訂正した。ヘレンは俺の腕に指をからめる。
「あなたがアーチャー卿なんですか!?」とフアナが息をのんだ。彼女の瞳が輝き、アリスターを見る。「アーチャー卿と知り合いだなんて、聞いていなかったわ」
「お目にかかれて光栄です、ミス・ベガ」私は彼女と握手する。
フアナは驚いた表情を浮かべながら「こちらこそ」と言った。
ヘレンの手が俺の上腕二頭筋にしっかりと絡みつく。俺は彼女を振り払いたくなる衝動を抑える。近いうちにヘレンと話し合わなければ...
「一緒に座りましょう」アリスターは正面のVIP席を指す。
「残念ながら、長居できないんです」と私は彼に言った。
「そう言わずもう少しいてくださいよ。すぐにダンスフロアの準備も整いますし」
アリスターは緊張しているのだろう。もうすぐ王室の方々に紹介してもらえるチャンスがくると期待しているのだ。
「そうしたいのですが、仕事があるので」と私は答えた。
「パーティー、楽しそうね」とヘレンが言う。彼女は、俺が嫌いな表情を浮かべている。おそらく、アリスターにとっては興奮する表情なんだろうが。
「レストランの予約を取ってあるだろ?」とヘレンに言い、会話を終えて、席を立った。
***
レストランで料理を待つ間、ヘレンが口を尖らせている。5年近く前に彼女と付き合うようになった。当時、彼女はとても楽しい女性だった。しかし、俺はその頃からはっきりと「もし俺が運命の人であるエラスタイを見つけたなら、関係を終える」と伝えてあった。彼女を嫌いだったわけではない。
この5年間、俺たちは特別に仲が良かった訳でもない。ヘレンは度々何カ月も遠くへ行ってしまうことがあった。ある時は、1年近くも!彼女は両親が住むミコノス島で過ごすのが好きだと言う。私はそれを疑ってはいるが、どこへ行くのかは尋ねないし、彼女も俺の行動に口を出さない。そんな関係で上手く続いていた。
今、彼女はとてもイラついている。彼女がいつから楽しい人でなくなったのか正確に思い出せないが、ずいぶん前のことだ。
最近、ヘレンが皇太子殿下にまとわりついているのを目撃したことが、最後の一撃だった。俺は自分の仕事に真摯に向き合っている。仕事のじゃまをすることだけは許せない。皇太子殿下が既にパートナーと幸せな関係を築いているのに、そこに入り込もうとするなんて。
俺は自分のエラスタイを見つけるのを諦めかけている。だが、奥底では信頼できて、純粋に好きだと思える相手を見つけいという希望も捨てきれずにいる。ライカンにとって、エラスタイはただの恋人ではなく、本能的に求める相手だ。精神的にも、感情的にも、肉体的にも調和する相手。一目惚れとは限らないかもしれないが、会えば心の奥底で引かれ、深い愛情を育む相手だと気づくはずだ。それは絆であり、執着でもあり、人生そのもののはずなんだ。
ヘレンが私の考えを遮る。「皇太子は仲間を連れてロシアに戻るそうよ。私たちも招待されるはずだわ」
「でも、我々は行かないと思うよ」と俺は答える。
彼女はまた口を尖らせる。「あなたって仕事中毒ね」
ワインを一口飲みながら、考えていたことに戻ろうとするけれど、再び彼女に遮られる。
「それはまあいいわ。ところで皇太子がクインシーを振るつもりだって聞いたの。クインシーは女王にふさわしいほど美しくないって。あなたはどう思う?」
その考えは笑止千万だ。ヘレンはクインシー・セント・マーティンが魅力的であることを知っている。実際、彼女は俺が『番(つが)い』として検討するほど魅力的な唯一の女性だった。残念ながら、彼女は皇太子のエラスタイであり、将来の女王だ。
「退屈だわ」とヘレンは愚痴をこぼす。「せっかくロスにいるんだから、出かけたいわ」
「分かった」と俺は言う。「食べ終わったら、車で行っていいよ。先に俺を家まで送ってくれ」 アリスターのところに向かうに違いない。彼女と別れてホッとした。しばらく、一人で過ごしたい。もう戻ってくるなと彼女に言うことも考えた。しかし、大騒ぎになる可能性がある。ヘレンは振られるのを受け入れられないタイプだ。だからこそ、彼女の気持ちを乱さない方法を見つけなければならない。
まずは高価なプレゼントを贈って気持ちをなだめておく方がいいかもしれない。彼女は高価なプレゼントが大好きだから。
***
自宅は、500平方メートルに天井が5メートルの広々としたペントハウスで、太平洋の素晴らしい景色が広がっている。俺は1つの場所に長く住むタイプじゃないから、ここは単なる仮住まいだ。
ちなみに、俺の正式な肩書きは「ライカンの王と人狼の使者」だ。だが、王は冗談交じりに俺を「伝言屋」と呼ぶ。
俺は「王が最も信頼するメッセージ・デリバリー・ボーイ」を自称している。
時には交渉役として、時には単に命令を受けるだけで世界中を飛び回ってる。
ジャケットを脱いでローボールに酒を注ぐ。ノートパソコンを取り出すと、ポケットの中で携帯がバイブする。
有人のルイからだ。
「ギデオン!」と彼が言う。「どこにいるんだ?」
「ロサンゼルスだ」と俺は答える。ルイは、ちょっと酔ってるようだ。「お前はどこにいるんだい?」
「イビサだよ、でも仕事はもう終わった」
懐中時計をチェックする。もうすぐ真夜中だ。イビサは朝の9時だ。
「パーティーが終わらないようだな」
ルイは苦笑いして「ちょっとは人生を楽しむのもありだよ。試してみたら?」
「俺は仕事を楽しんでるんだ」
「ああ、いつもと同じ返答だね。ロスは楽しそうだね。遊びに行くよ」
「いや、あと2、3日でリスボンへ行く予定なんだ。そこで会うか?」
「いいね。着いたら教えてくれ。ここから近いから」と言ってルイは電話を切った。
レイラ
鏡の中の自分の姿を見て嫌気がさす。
醜いとか、そういう訳ではない。実際はその逆で、流れるようなピンクのドレスと美しいメイクアップが美しい。
私は醜い猫のセーターを着て、縮れ毛のお団子ヘアにしたかったのだが、母はそれを許さなかった。今夜こそ、私の『番い』が決まるかもしれないからだ。
バスルームのドアがノックされて、義姉カルメンの声が聞こえる。
「レイラ、みんな来たからテーブルに移動するわよ」
私は手を洗い、これから耐えなければならない夜のために心の準備をする。
ドアに向かうと、いつものように胃の底の緊張感が強まるけど、私は顔に笑みを貼り付けてドアノブを回す。
ドアを開けると、私の新しい見合い相手として選ばれた母の友達の息子、コフィが立っていた。私は顔が崩れそうになるのをこらえた。
「今夜はきれいよ、レイラ」とカルメンが言う「そう思わない、コフィ?」
コフィは「彼女はいつもキレイだよ」と、にっこり笑って答え、視線は私の胸元に向かっていった。
私はうめき声を抑えた。ああ、神様、どうか私を助けて。
彼は気持ち悪いけど、母と祖母は彼が私の番いに違いないと思っている。
母が人間だから、私はハーフの人狼。私が生まれたときは、普通の人狼のように番いを見つけられるのか誰にもわからなかった。22年経っても、その気配が全くないから、もう番いが現れることはない思う。
母が何を言おうと、私は一生一人ぼっちなんだって諦めてる。
頼んでもいないのに、コフィは私の背中に手を回し、カルメンの後を追ってレストランを横切った。彼の手が私のお尻に向かって滑り落ちるのを感じる。
予想通りの行動に、笑顔を崩さず、彼の手をグッと掴んで、腰のあたりまで引き上げる。
ちょうどそのとき、私たちは母と祖母が待つテーブルに着いた。祖母が私の席を取り、私をコフィの隣に座らせようとしている。
「おばあちゃんの席はそっちよ」私は祖母をそっと押して、いつもの椅子に座らせようとする。
でも、祖母は全然動こうとしない。「あら、腰が痛くてもう立ち上がれないわ。新しい腰が必要ね」
87歳の祖母は、10年前に祖父が亡くなってから、私たちと一緒に暮らしている。
祖母はずる賢い人で、身体は健康そのものなんだけど、自分の思い通りにするために恥ずかしげもなく、あらゆる病気を装ってる。
私はため息をついてコフィの隣に座る。コフィはすぐにテーブルの下で私の太ももに手を置く。私が『殺すわよ』という顔をすると、彼は手を離す。
残りの家族も座る。父、妹のマヤと彼女の新しい番いのアブラハム、そして兄のカレブ。
皆が席に着くとすぐに、「レイラ、フランクから連絡はあった?」と祖母が聞いてくる。
あきれた表情をしないように自分に言い聞かせる。祖母は私の恋愛をコントロールすることに飽き足らず、友人の会社の求人に応募するよう私に強要している。
祖母は私を実家に戻ってこさせようとしている。家族の誰もが、私がなぜ大学進学のために都会へ引っ越し、裕福な人狼の家でメイドとしてアルバイトをしながら自分の生活費を払うことにこだわるのか、理解していない。
番いを見つけることを諦めた後、私はひどい状態に陥った。自分自身の人生をコントロールしなければ、苦しみに負けてしまう危険性があった。だから、私は引っ越すことに決めたのだ。
でもうまくいかなかった。決して合うことのない番いのことを考え、人狼である自分の半分を引きちぎってしまいたいと願う。
考えすぎなんだと思う。番いなんて本当は大したことないはず。
ウェイトレスが注文を聞きにきたので、いつも頼むステーキを注文しようとしたその前に、コフィが「葉物野菜サラダ」を注文してしまった。
なんてやつ! ママは彼のどこがいいんだろう?
「ところで、」コフィが明るい緑の目で私を近すぎる距離から見つめながら言う。「来週のデートは何がしたい?」
「来週にデートの予定は入ってないわ」私はコフィの方を見ないで答える。でも、全然伝わってないみたい。
「本当?じゃあ、デートはパスして俺の家に来るかい?」
もう無理! 股間を思い切り蹴り上げてやる!
そう決めた瞬間に私の携帯がブブッと震えた。命拾いしたわね。上司から連絡がきた。
私はうめき声を押し殺した。本当に嫌になる。私は常に誰かのシフトを代わってあげているのに。自分の寝室で過ごす時間より、他の人の寝室を掃除する時間の方が長いんだから。
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