
オーロラに俺とタルーラのことを目撃されてから数日が経った。彼女は以前にも増してよそよそしくなった。
俺はカラさんと話し、彼とオーロラが今後同じ部屋に居合わせないことを条件に、副料理長を追い出さないことにした。
オーロラは何も言わなかった。毎朝コーヒーを出し、ベッドメイキングをして、洗濯物を持ってできるだけ早く出て行った。
そして朝食と洗い終わった洗濯物を持って戻ってくる。このときももちろん、俺の部屋で過ごす時間は最小限だ。
11時になると、彼女は再びコーヒーを持ってやってきて、机の上に置いた。
正午になると、タルーラと私の昼食のため、彼女とカラさんがテーブルをセッティングし、カラさんはすぐに彼女を帰す。
そして午後はずっと自分の部屋で過ごしているようで、夕食まで彼女に会うことはなかった。
俺は彼女を横目で見ずにはいられなかった。彼女は随分やつれているように見えた。目の下にはクマがあるし、痩せたみたいだ。ちゃんと食べているのだろうか。
「メイドさん。何これ?」タルーラがオーロラに声をかけ、俺も我に返った。
「すみません、ヴィルヘルムさん。シェフの日替わりメニュー、鴨のローストとじゃがいものチーズソース焼きです」オーロラが答えた。
「正気? 私は乳糖不耐症なの。チーズは食べられないわ。すぐにこれを下げて」
オーロラは慌ててテーブルに駆け寄り、皿を下げた。俺は不快な顔でタルーラを見た。
「何よ、食べたら顔が腫れちゃう」
「オーロラは俺のメイドだ。俺からの命令にのみ応じる」俺が唸ると、オーロラはタルーラにサラダを出していた。
「ごめんね、もう二度としないから」とタルーラは甘ったるい声で言った。
昼食を食べ終え、部屋に向かう途中、マックスとリーマスの声が頭の中で鳴り響いた。
体中の毛が逆立った。
急いでドアを出て、森の中を走った。スーツがズタズタになるのも気にせず、狼に変身した。
南の国境に着くと、何人かの戦士が地面に倒れており、マックスとリーマスはならず者と戦っていた。
俺は1匹に突撃し、首を2つに折ってから、もう1匹に突進し、背中に噛み付いて動けなくした。
~そんなことが可能なのか? 嗅覚の鋭敏なシーカーをすり抜けるなんて......そんなこと、できるわけ......」
その時、ある香りに襲われた。
リーマス——すでに人間の姿になっていた——のところまでダッシュした。彼の目線の先には負傷者がいた。
「このシーカーはひどい怪我をしている。ヒーラーがここでできることは少ないかもしれない」
苦しそうに喘ぐその人物が誰か分かった瞬間、俺はその場に凍りついた。
モンタナ・クレイトン、オーロラの継母だった。
リーマスがズボンとシャツを用意してくれたので、俺はすぐに人間の姿に戻った。
「長くは持たないかもしれません。ここでは器具が足りなくて……病院に運必要がありますが、間に合わないかもしれません」とヒーラーは言った。
時間がなかった。俺は彼女を抱き上げると、森を抜けて病院まで急いだ。
「アルファ...…」クレイトン夫人は荒い息でつぶやいた。
「力を温存してください。もうすぐ病院ですから」
「私のローリーを頼みましたよ…...」とだけ言うと、彼女は目を閉じ、腕の中でぐったりと倒れた。
「クレイトンさん。アルファのオフィスに召喚されています」と警備員から声をかけられた。
私は裏庭に座って本を読んでいた。
「わかりました」私は本を閉じ、屋敷に戻った。彼と再び対峙すると思うと妙に緊張した。長い時間2人きりにならないように、できることはすべてしてきた。
もしかしたら寝る前にコーヒーを飲みたかっただけかもしれない——こんな時間だし、可能性は低いと思うけれど。
私は2階のオフィスまで歩き、ドアをノックした。ドアを開けると、マックスが暗い表情で立っていた。
「どうぞ」と彼は言った。険しい声だった。
私は中に入った。ガンマ・ボーマンがウルフギャングの机の前に立っていた。
「座ってくれ、クレイトンさん」ウルフギャングの向かいの椅子を案内された。ウルフギャングは机の後ろに座り、こちらに背を向けて窓の外を見ていた。
強い鉄の匂いが鼻をついた。
「クレイトンさん」ウルフギャングはこちらを振り向くことなく話し始めた。
「あの、私、何か悪いことをしましたか?」何度も何度も嫌がらせをしてきた男に素直に尋ねてしまった自分に、少し嫌気がさした。
彼はさして気にしていないようだった。
「いいえ、君は何も悪いことはしていない」ガンマ・ボーマンが眼鏡を拭く。
「村の南部付近が突破された。ならず者たちに攻撃されたんだ」ウルフギャングがようやく私の方を向いた。
その時、彼のシャツに乾いた血が付着しているのが見えた。さっき感じた鉄の匂いはこれか。でも彼の血ではないようだった。
「パトロール隊がその区域を守っていたが、多くの死傷者が出た」彼は無表情だった。「申し訳ない。君の継母、モンタナ・ペレット・クレイトンが亡くなった」
彼の言葉を理解するのに時間がかかった。私は口を覆い、息をのんだ。
「そんな...…」と口にするので精一杯だった。涙はすでに顔を流れ落ちていた。
「ローリー、すまない...…」マックスは私の肩に手を置いた。
「そんなはずない! 何でモンタナが南側に? 彼女はいつも西側にいたじゃない!」私は叫び、マックスの手を振り払った。
「俺は今日、パトロール隊の援護に入るよう命じた」とウルフギャングが言った。
私はショックを隠し切れなかった。「何で? どうして!?」叫んだ。感覚を失ったみたいだった。
「クレイトンさん、それはあなたが立ち入ることではない。俺がここのボスだ」威厳のある声だった。私を見下ろすためか、椅子から立ち上がった。
私は何も答えなかった。ただ自分の足元に視線を落とした。私の体は抑えきれないほど震えていた。
モンタナは私が家族と呼べる最後の人だった。彼女がいなくなって、私はまたひとりぼっちになってしまった。
「できることはすべてやったんだ。アルファ・ウルフギャングが急いで病院に連れて行ったが、出血がひどくて......」マックスは言った。「本当に申し訳ない」
私は顔を上げ、アルファを睨みつけた。「本当に申し訳ない。さよならも言えなかった」
私は力尽き、地面に崩れ落ちた。
「私はいつだってさよならを言えない」