サマーは完璧な人生を歩んでいた。金持ちの完璧な夫との完璧な結婚を手に入れたのだ。しかしそれは、彼の仮面が剥がれ、DVを平気で行うような怪物が現れるまでのことだった。逃げ出すため必死であった彼女だが、その中で危険なヴァイパーズ・モーターサイクル・クラブの元リーダー、悪名高きコルト・ハドソンに興味を持たれる。果たして彼女は悪魔に救われるのか、それとも…
理想の男性に出会ったとする。イケメンで成功者。2人は高級レストランで贅沢をし、心を奪われるようなセックスをする。もちろん、あなたは恋に落ち、結婚を急いだ。そして彼に殴られた―その瞬間、あなたは気づいた。理想の相手はずっと前から仮面を被っていたんだってことを。
やがてあなたは、永遠の幸せよりその場限りの幸せのほうが大切だってことに気づく。時に、城は牢獄になることもあるし、輝く鎧を着た騎士が馬ではなくバイクにだって乗ることもあるってことを。
乗る準備はできてる?
サマー
誓い、指輪、高価な贈り物、それが結婚の始まりだ。永遠に愛し合うことを誓い、約束を封印する指輪。そして私の場合、この約束や誓いが破られるたびに高価な贈り物が次々と送られるようになった。
デザイナーズ・ヒールや極上のジュエリーから贅沢なバカンスまで。それらすべてが、贈り物で傷も癒されると私に思い込ませてくれた。
昨夜までは。
良いことも悪いことも含めて彼を愛すると誓った。
悪い時だって永遠に続くわけではない、少なくともそう自分に言い聞かせていた。だからこそ「健やかなる時も病める時も」と結婚の誓いで言うのかもしれない。でも昨夜、夫が被っていた仮面が完全に剥がれ落ち、ここから出なきゃいけないことがはっきりした。私はもうこれ以上ここにいることはできなかった。
夫を愛していたけれど、一緒に暮らす未来はもうなかった。
クローゼットに駆け込むと、私は飛び上がり、スーツケースの紐をつかんで引き下ろし、床の中央で開けた。
引き出しをひとつ開け、パスポートを取り出し、別の引き出しから札束を取り出した。それらを放り込んだ。次に、宝石類の引き出しをスーツケースの中に空けた。
昨年の今頃は新婚旅行に向かっていて、この人がいない人生なんて考えられなかった。
最初は時々暴言を吐いたり、ちょっと突き飛ばしたりする程度だったのが......このような事態に発展したのだ。
夫は私を殴った。顔面を殴った。夫は初めて、取り返しのつかない一線を越えてしまった。
アルコールのせいだとわかっていた。エリオット自体ではなく、その依存症こそが怪物だったのだ。
エリオットはそれと闘っていた。
私が恋に落ちた男に戻ることを信じてきた。私が愛したあの人に。きっと良くなると。エリオットは悪魔を相手にしていて、悪そのものではなかったはずだから。
もう自問自答しなければならないところまで来た。まだここにいる理由はあるのか。最初に実際に殴ってきた後、もうこれ以上はないと思った。
できることはすべてやった。私に残された唯一の選択肢は、去ることだった。
だから、涙を流しながらも、半分は傷心から、半分は捕まるのではないかという恐怖から、私は荷造りをした。
スーツケースのファスナーを閉め、クローゼットから引きずり出して廊下を通り抜け、急いで階段を降りた。
鍵。鍵。鍵。一体どこに鍵を置いたっけ?
何でちゃんとフックに戻して置かなかったのよ!
我が家のガレージは迷路のように車が入り組んでいて、私が唯一自力で出せた車の鍵をこんなときに失くしてしまったのだ。
やっと、スケッチブックの上に置いてあるのを見つけた。
バッグを持って車庫に向かい、車の鍵を開けた。
しかしその時、砂利が弾ける音と、車が玄関のドライブウェイに入る音がした。
私は凍りつき、スーツケースは半分トランクに入ったまま立ちすくんだ。
しまった。
エリオットが戻ってきたのだ。
なんでもう家にいるの? もっと時間があると思っていたのに!
車庫のドアが開き、私の車の数メートル前先にエリオットの洗練されたスポーツカーが現れた。神経が途切れそうなくらいの緊張で、膝がガクガク震えるほどの恐怖に包まれた。
ああ。出たくても出られない。
エリオットはエンジンを切った。
私は息を飲んで、エリオットが車から降りてくるのを見守った。彼の視線が空きっぱなしのトランクとスーツケースから私に移るのを感じた。
この大邸宅という名の牢獄には、私と彼しかいない。私の悲鳴は誰にも聞こえないし、泣き叫ぶ声も聞こえない。今夜の私の行動がもたらす結果など、誰も知る余地もない。
「おい、どういうことだ、サマー?」
「出て行くのよ、エリオット。昨日の夜で......」言葉が途切れた。「もう無理よ」
本当に単純なことだった。殴られたら去る。突き飛ばされ、叫ばれ、私は分かってるはずだった。でも、私はエリオットを信じたかった。今は?
昨夜のようなことはもう二度とごめんだ。
「サマー、頼むからやめてくれ。この数ヶ月、大変だったのはわかってる。ごめん、悪気はなかったんだ。何でもするよ。今すぐアル中の支援グループに連絡するから」エリオットは携帯電話まで取り出した。
胃がねじれるような感覚がした。
それが大きな一歩だとわかっていた。世間に知れ渡れば、なおさらだ。
「俺が酒を飲むとどうなるか、分かってるだろ? 一周年記念を祝ってグラスを手渡したのは君だっただろう?」エリオットの言葉は正直だった。心の底では私を殴るつもりはなく、酒のせいだとわかっていた、いや、少なくともそう信じたいと思っていた。エリオットも正しかった。 私はシャンパングラスをエリオットに渡したのだ。
エリオットは私に懇願していた。ここにとどまる条件は、たった一つしかなかった。
「助けを受けるつもりなら、ここにいてもいいわよ」
「わかった 」エリオットはすぐに同意した。「ハネムーンのこと覚えている? 最初の夜、サマーはサングリアを飲みながら、バンドに合わせて歌っていたよね、音程は外れてたけど。星空の下、ビーチで愛し合った。細かいことまで覚えているよ。それは俺の人生で最高の夜だった。2人の人生が始まった夜だったんだ」
エリオットの声は滑らかで、自信に満ちていた。攻撃的な感じはまるでなかった。彼の表情は......完全に冷静だった。「それと、サマーに何不自由ない生活を約束したのも覚えているだろう? あの頃に戻ろう。俺たちはとても幸せだったじゃないか。あの頃に戻るためなら何だってするさ」
エリオットはさりげなく私に一歩近づいた。
感動に押しつぶされそうになり、涙がこみ上げてくるのを止められなかった。
涙が2人の距離を縮め、気づけばエリオットがそっと私の手を握っていた。
私は反射的に身をすくめ、その反応を見て彼の顔に恥じらいが浮かび上がるのがはっきりと見えた。
エリオットは私の手首に優しいキスをした。
「さあ、愛しい人よ」エリオットはトランクから私のバッグを取り出した。「中に入ろう」
そして、そんな感じに…何ヵ月もの間、私を怒鳴り、突き飛ばし、ついには昨夜私を殴った男の元に、私は戻っていった。
エリオットは私の夫だったから。
まだ彼を愛していたから。
エリオットがこれからどうなるのか、まだ知らなかったから......。
お知らせ
Galatea Japan Facebook、Instagram、Twitter、TikTokではお得な割引やプロモーション、最新情報を配信中です。今すぐフォローしよう!