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Cover image for Trapping Quincy 運命に逆らうクインシーと王子の出会い 8巻

Trapping Quincy 運命に逆らうクインシーと王子の出会い 8巻

女王からのメッセージ

クインシー・セント・マーティン

「ここで何をしてる?」カスピアンが唸る。

さっきまでの欲望と飢えに満ちた表情は怒りに変わり、目は暗く冷たく、顔は威嚇的だ。彼の体は今、攻撃の姿勢をとっている。

女性は身を縮める。

「お、お母様の使いなの」と、ほとんど聞き取れないように囁く。

大きな唸り声とともに、彼はサイドテーブルを持ち上げ、部屋の反対に投げ飛ばす。テーブルは粉々に砕け散り、壁にへこみができた。

女性はますます怯えている。階段を駆け上がる足音が聞こえた。すぐに、皆がホールに飛び込んできて、私の後ろに立った。

女性の大きな青い目は、まだこぼれていない涙で輝き、唇は震えている。

「あ、あなたが電話会議に出なかったから、彼女が私をここに送ったの」彼女の視線は皆を見渡した後、私を見つめる。

彼女の顔には痛みと怒りが浮かんでいる。彼女がまだ怯えているのは明らかだけど、彼女の口は私を見つめながら、決意の線を描いている。

「ソフィア王妃はあなたにメッセージを残したわ。数日後私たちがロシアに戻る前に、私にマーキングをしなさいって。さもなければ……」

彼女は最後までメッセージを伝えることができなかった。テーブルランプが彼女の頭のすぐそばの壁で砕け散った。彼女は悲鳴を上げてドアの後ろに隠れる。

「俺は絶対におまえにマーキングをしない」カスピアンは怒鳴った後、彼女に向かって、攻撃的に、そして意図的に歩き出した。

「彼女を殺すつもりよ」とペニーが興奮した様子でささやく。

ああ、自分が勘違いしてるのかと思った。

「カスピアン!」とラザルスが私のすぐ後ろから警告する。

カスピアンは怒りに満ちた視線をラザルスに向けた。暗く野蛮な瞳だ。その目はすぐに私に注がれた。私たちの視線はしばらく重なっていた。

怒りと苛立ちが彼の体のあらゆる部分に表れている。無言のまま、彼は開いたバルコニーのドアに飛び移り、外に飛び出していった。

***

私はその女性がレディ・セレステだと知らされた。彼女はカスピアンの母親である王妃によって送られてきた。

カスピアンが出て行った後、セレステ嬢はわざわざ家の反対側の二階にある客間に移された。

驚いたことに、彼女は何の抗議もせず、おとなしく部屋に向かった。王子の怒りの爆発がよほど怖かったのだろう。どうやら彼女は今日の正午頃に到着したようで、彼女の服はすでにカスピアンのクローゼットに掛けられていた。

メイドの一人がハンガーから服を外し、もう一人が靴や化粧道具、洗面道具を集めて彼女の鞄に詰めている。

この女性は身軽な旅をしないらしい。大きなバッグが15個もある。

寝室では、セレナがカスピアンの寝具を剥ぎ取っている。

「何千ドルもする寝具が無駄になったわ」ジェネシスはセリーナがシルクのようなペリウィンクルブルーの生地を大きなゴミ袋に詰めるのを見ながら言った。

「捨てないとダメなんですか?」ジョーデンが聞く。

ペニーとジェネシスの笑い声が聞こえる。「ダメだね! シーツを洗っても臭いは落ちないから」とペニーが答える。「臭いが残り続けるのよ、私たちにはね」

「このフロア全体が王子のものなの。彼はあまりここに人を呼ばないわ。もし王子が戻ってきたときに、ベッドにセレステ嬢の匂いが残っていたら、きっとこのフロアを完全に破壊するでしょうね」とジェネシスが付け加えた。

「彼はこの場所を彼のエラスタイ(運命の人)のために取っておいたのよ」セリーナが私を見ながら説明する。「私たちが行くところどこでも、カスピアンはいつも彼のお姫様のために特別な場所を備えていたわ。私たち以外、彼のスイートルームに入ることは許されなかったのよ」

***

「ほんとにもう紅茶のお代わりはいらないの?」セリーナが尋ねる。

「うん。ありがとう、セリーナ」。私は空になったカップをテーブルに置く。

私たちはメインフロアの大きな部屋に座っている。天井が高く開放的で、白を基調に赤、青、緑、黄色など大胆な色彩が散りばめられている。ひとつの部屋からもうひとつの部屋への流れが美しい。

装飾はすっきりとしたモダンなラインで構成されているのに、豊かで豪華でもある。温かみがあり、居心地がいい。

奥の壁には床から天井まである大きなガラス窓がある。私が座っているところからも、美しくライトアップされた二層のプールが見える。

一番上のプールの水は、滝のように二番目のプールに流れ落ちる。背景には薄暗いビーチが見える。

この部屋には数人しか残っていない。セリーナ、ラザルス、ジェネシス、コンスタンティン、そして私。ペニーとダリウスとジョーデンはもう部屋に戻った。

ジョナは少し前に家に帰った。出る前に、一緒に帰りたいかと聞かれたけど、私はここに残るって言った。

私はカスピアンから逃げないと約束した。約束は守る。私たちが一緒になるためには、話し合っていろいろとはっきりさせる必要がある。彼は今どこにいるのだろう。

「メイドがベッドに新しいシーツを敷いてくれたわ。休みたければ、どうぞ」とセリーナが言う。

「ここはもうあなたの家よ。好きにしていいわよ、Q」とジェネシスが告げる。

彼女は今夜何度かジョーデンが私のことをQって呼ぶのを聞いて、そう呼ぶようになった。

「ううん、ちょっとビーチを散歩してくるわ。ちょっと一人になりたい気分だし……。今夜はいろいろなことがあったから……、いろいろな意味で」

「そうだね。問題ないよ。ほとんどプライベートビーチだから安全だ。南へ行き過ぎなければ、近所の人以外は誰にも会わないと思う。もうちょっと先に行くと桟橋が見えるよ。反対側は岩場になってる」とコンスタンティンが答えた。

裏庭は明るい。石段を下りてビーチに向かうと、セレーナが奏でるヴァイオリンの柔らかで心に染み入るような音色が私を追いかけてくる。

月が明るく、白い砂浜がどこまでも続いているのが見える。強い風が海の匂いを運んでくる。

幼い頃、私はいつもナナと海辺で暮らすことを夢見ていた。ナナが今ここにいてくれたらいいのに。ナナにカスピアンや彼の友人たちに会ってほしかった。みんな好きだ。

まだ知り合ってそれほど経ってはいないけど、なぜかとても親しく感じている。

数キロ歩いて、桟橋まであと少しというところまで来たけど、引き返すことにした。たぶん元のビーチに着く頃には、真夜中を過ぎてしまうだろう。

家はさっきほど明るくないけど、メインフロアのいくつかの照明はまだ灯っている。

バイオリンの音はもうしない。海岸に打ち寄せる波だけが私に寄り添う。

夜の空気は少しだけ冷たくなってきたけど、まだ家の中に戻る気にはなれない。

ビーチにはラウンジチェアがいくつかあるので、その一つに横になった。海の音を聞きながら眠るのが夢だった。足音が近づくのが聞こえて、私は頭を上げた。背の高い人物が石の道を歩いている。黒い髪が銀色の月光に照らされて輝いている。

コンスタンティンが私に方に歩いてきた。

「どうぞ」そう言って彼は私にコットンウールの毛布をかけてくれた。「寒くなってきたからね」

「ありがとう」私は毛布をあごまで引き上げて彼に言った。

彼は私の隣の椅子に腰を下ろし、静かに海を見つめる。彼は何か考えているような表情をしている。私たちはしばらくの間、風と海の音を楽しみながら沈黙を守っていた。

そして、彼はため息をついた。「カスピアンは大きなプレッシャーにさらされているんだ」コンスタンティンはそう言って切り出した。「でも、あいつは一生懸命君を手放さないように努力してる」

私は彼をちらりと見た。

「僕のいとこは……、うん、僕のいとこはいろんなところがある。甘やかされてて、自分の思い通りになることに慣れてて、自分を喜ばせるために人がひざまずくことにも慣れてる。せっかちで、頑固で、失礼で、ちょっと子どもっぽいところもある。そうだ、お願いすることには慣れてない。欲しいものは何でも、ただ手に入れて来たからね」

私はわずかに微笑む。

「だから、ここに来てくれてありがとう。簡単なことじゃなかったはずだからね」彼の唇が少しいたずらっぽくほころぶ。彼は首を横に振り、こう言った。「僕にもわからないよ。本当に彼がそれだけの価値があるのかどうか」

これには私も思わず大きく笑ってしまった。

それから、彼の顔はまた真剣になる。「カスピアンはどんな女性にも関心を持ったことがなかった。あいつが信頼し、愛し、自分の人生の内側に入れる人はほんの一握りしかいないんだ。でも、その数少ない人たちに対しては、どこまでも保護的で誠実なんだよ」コンスタンティンは背筋を伸ばす。「気にしていないように見えるかもしれないが、あいつは肩に多くの荷を背負い、いつも心配している。あいつには誰かが必要なんだ。口に出す以上に、あいつは君を必要としているだよ」

コンスタンティンのハンサムな顔は物思いにふけっている。私は何を言えばいいのかわからず、ただ彼が話を続けるのを待った。

「君といるときのあいつは、辛抱強くなろう、より良い男になろうって努力している。だから、まだあいつは君にマーキングをしていない。君はあいつをおかしくさせてる。あんなカスピアンを見たことがないよ」彼の口元には、またほのかな笑みが浮かんでいる。「でも、君はあいつにとっていい人だと思う」

彼は立ち上がり、立ち去る前に振り返った。「クインシー、君はカスピアンにふさわしい。あいつが君を見つけたことがうれしいよ。ようこそ、僕らの家族へ」

***

私はゆっくりとまばたきをする。月はまだ明るく、紫がかった暗い空には星が瞬いている。打ちつける波の音と風の音がリズミカルに聞こえる。

どうやらこの浜辺で眠ってしまったみたいだ。

温かい手が私の髪を後ろに押しやり、冷たい頬をなでる。

「クインシー……」

私は顔を上げ、彼の顔に焦点が合うまで何度か瞬きを繰り返した。彼の視線は決意に満ちていた。彼の髪は乱れ、肌は紅潮している。

顔の半分は無精ひげで覆われている。私は手を上げ、彼の頬に触れる。空気は冷たい。でも彼の肌は熱く燃えている。

「走ってたの?」と私はささやく。私の声は風に流され、波の音に飲み込まれていくが、彼には聞こえている。

「ああ」

「少しはマシになった?」

「少しは、ね。まだ周りのものを壊せるけどね」彼はぶっきらぼうに答え、私のラウンジチェアの横の砂辺に座った。彼は私の手を握り、こう言った。「君を傷つけてごめん」

「あなたは私を傷つけてないわ」私はそう答えて、彼の膝の横の砂の上に足を置き、彼の方を向いて座り直した。

「でも、俺は君にマーキングをつけようとしてた。君がまだそうして欲しくなかったのにね。今も俺はそうしたい」と彼は認め、頭を垂れた。

「私もあなたにマーキングして欲しい」私は認めた。「でもそれって、あまりにも大きな一歩だから……」彼が驚きで顔を上げ、私を期待に満ちた表情で見つめるのを見て、慌ててそう付け加えた。

「いくつかのことをはっきりさせたいの」と私は言う。「そうする前に、自分が何に足を踏み入れようとしているのかをちゃんと知っておきたいの」

淡い月明かりの中でも、彼の目が輝いているのがわかる。彼は私の手を唇に近づけると、まるで崇拝するように手の甲にキスをした。

「君の望むままに、モヤ・プリンセサ(俺のお姫様)。何でも聞いて。ちゃんと正直に答えるから」

「まず、あの女、レディ・セレステが何なのかを知りたい」

彼の手が私の手を強く握り締める。顎に力が入って歯ぎしりしているのがわかる。

「俺の両親は数十年前から、番い見つけてマーキングし、王として即位しろって俺に圧力をかけてるんだ。母親、ソフィア王妃は、俺が物心ついたときからずっと、親友の娘であるレディ・セレステを俺の番いにしようとしてきた」

「えっ」

「だから、前からずっとなんだ。ソフィア王妃と王室顧問は俺に彼女との交尾を迫り続け、俺は逃げ続けて世界を旅してる。いつの日か俺のエラスタイ(運命の人)を見つけるためにね」カスピアンは私を見ながら説明する。

彼の目は真剣そのものだ。私はまぶたを下げ、繋いだ手を見つめた。

「一度もしたいと思ったことはないの?」

「彼女に触れたり、興味を持ったりしたことがあるかと聞かれれば、答えはノーだ。幼い頃、彼女はいつも泣き虫で、迷子の子犬のように俺たちの後をついて回る迷惑な子だった。ちょっとでも甘い顔をすると、骨の髄までしゃぶり取られる」

私はそう言う人を知っている。

「俺が彼女と結婚するって母親が宣言した後、俺は彼女に我慢できなくなった。今はもう匂いを嗅ぐことさえ我慢できない」

「彼女は今ここにいるわ。どうするつもりなの?」

彼は鋭く息を吸う。「わからない」と彼は不機嫌そうに答える。「君が行方不明だとわかった日に、国王、王妃、王室顧問と電話会議をすることになっていたんだ。その前に街を飛び出しちゃってね」

彼は微笑む。でもその笑顔は彼の目には届かなかった。

「予定されていた電話会議に応じずにここを離れたら、しっぺ返しがあるだろうとは思っていたけど、まさか母親が彼女をここに送り込んで、最後通牒を突きつけてくるとは思わなかったよ」

「ごめんなさい」と私は言って、つないだ手を見つめる。

「こっち見て」彼は私のあごを持ち上げ、私が彼の目を見返すようにした。「どれも君のせいじゃない」

カスピアンは電話会議に出ずに、私を助けに来てくれた。だから私はまだ罪悪感を感じている。もちろん私が誘拐してって頼んだわけでもないんだけど。

「モヤ・プリンセサ(俺のお姫様)、他に聞きたいことはある?」

「ヘレンや他の女性たちはどうなの?」

「彼女たちがどうした?彼女たちは過去の人だと言っただろ」

「でも、ヘレンと二人きりだったんでしょ?」

「彼女と二人きりだったことはないよ。ホテルの外でみんなと一緒に君を待っていたんだ。彼女は何度か俺と話をしようとしたけど、俺はずっと無視してた。飛行機では、俺が機長と話しているときに彼女がコックピットに入ってきたから、俺が出てったよ」

私は安堵のため息をついた。

「彼女は巧みな話術で社交界を上り詰めようとする女だ。アーチャー卿がなんであんな女を連れ合いにしたのか正直言って理解できない」

私も同じことを考えていた。

「どうしたら君以外には誰もいらないんだってわかってもらえる? クインシー、俺は何世紀もずっと君を待ってたんだ。君は俺にとって、たった一度の幸せのチャンスだ。どうしてそのチャンスを台無しにできると思う? なんで君を見つけたのに、どうでもいい女と付き合って時間を無駄にすることができる? 俺の望みはもう伝えたし、駆け引きをするつもりもないんだ」

私は心の中で微笑む。

「俺は君だけが欲しい。君は俺にとってこれ以上ない存在なんだ。でも君もそう思ってるかわからない……」彼はまた怒った顔をする。

「まだギデオンとオリバーのことを心配しているの?」と私は彼に尋ねる。

彼は答えない。彼は私の手を離し、顔をそむけた。胸が高鳴り、眉が下がる。彼の唇はきつい線を描いている。

私はカスピアンの正面に移動して、彼と一緒に砂の上に座る。私が彼の視界に入ると、彼は顔を反対側に向ける。私は笑うのを堪える。私の王子さまは傷ついているけど、あまりにも愛らしい。

「カスピアン」私は彼の顔を両手で包み、こちらを向かせようとした。でも彼が頑なに振り向こうとしないので、私はため息をついた。彼はとても頑固だ!

私は体を起こして膝の上に座る。今度はほぼ同じ目の高さだ。

私は彼の首に腕を回し、彼が私を押しのけないと、彼の眉間にキスをした。冷たい唇に彼の肌が温かく感じられる。

「君が他の男性と一緒にいると思うと、暴れたくなる。すべてを破壊したい。他の男たちを殺したい。君を傷つけたい。肉体的にじゃなくて、俺が傷ついてるみたいに精神的に傷つけたい。でも君が傷つくと思うと、俺は耐えられない。君を傷つけるって思うと自分がもっと傷つくんだ」

彼がどれだけ傷ついているか分かる。

「君を独り占めしたいんだ。だってここでは……」カスピアンは自分の頭を叩き、それから自分の胸を叩いた。「君は俺のものだ。俺のなんだ! 君は永遠に俺のものだ。俺だけのものだ。それが君の望むことじゃないのが苦しいんだ」

「カスピアン」私は彼を強く抱きしめて、彼の頬にキスをする。

「それが私の望みよ。私が欲しいのはあなただけ」深呼吸をして続ける。「ギデオンは……」

彼の手が警告のように私の腰をつかむ。

「……ギデオンはあなたに忠実よ。友人として付き合うにはいい人だと思う。彼はあなたのライバルじゃないわ。誰もあなたのライバルにはなれない。オリバーは……、約束するわ。あなたが心配する必要は何もない。オリバーに関しては全く、完全に、何一つ心配することはないわ」

彼は目を細めて私を見るために手を引く。「でも、『オリバーがいない人生なんて考えられない』って言ってなかった?」

「ストーカーしてたの! そして盗み聞きもしてた。私のナナは、盗み聞きする人は、自分について……、あれ、他人についてだったっけ……、まぁ、どっちでもいいわ……、いいことは何も聞かないって言ってた。そんな感じよ」

彼が私に向ける視線は、彼が感心していないことを物語っている。これ以上オリバーの話を先延ばしにするわけにはいかない。

私は唾を飲み込む。「あなたにオリバーを紹介した方がいいみたいね。でも、約束してほしいことがあるの」

「守れない約束はしない。だから、君の大事なオリバーに関しては、何も約束しない」カスピアンが唸る。

「もう、いい加減にしてよ。オリバーはあなたのライバルじゃない。お願いだから、彼に会っても笑ったりからかったりしないって約束して。それから、オリバーのことは他の人には言わないでね」

じっと見つめていたら、私の頭の中が見られるんじゃないかと思っているみたいに、カスピアンが私を見ている。彼が必死に考えているのがわかる。「おねがい、約束して。絶対に笑ったりからかったりしないって」

今、彼は笑っていいのか怒っていいのかわからないような顔をしている。

最後に、彼はため息をついてうなずいた。

「わかった、約束するよ」と彼は言う。

私の腰を掴んでいた彼の手に力が入り、私を彼に引き寄せる。

「でも、もし彼がライバルだってわかったら、俺が彼をぶちのめすよ」と彼は私の耳元でささやく。

彼の声は今度は戯れに、からかうように聞こえ、私は彼の腕の中に溶けていく。

「君は俺のものだ。俺の姫」

彼の唇が私の唇と重なる。甘く優しく……。キスを深めようとした瞬間、彼は手を引いて私を持ち上げ、ラウンジチェアに横たわらせた。

椅子は私たち二人がやっと座れるくらいの大きさしかなかったけど、彼はそこに横たわり、私の背中に彼の胸を寄せて私を引き寄せた。

彼は私たち二人に毛布をかけてくれたが、私はもう寒さを感じなかった。彼の体が風を遮り、彼の体温が私を温めてくれる。

私たちはそうして静かに横になって、風や波の音、そして互いの呼吸に耳を傾ける。

彼の胸が私の背中に当たって上下するのを感じながら、彼の力強い体が私の体に当たっているスリルを楽しむ。彼がこうして私を抱きしめてくれるとき、世界のすべてが正しく感じられる。

「クインシー?」

「うーん?」

「もし俺が王冠を失ったら……、 明日俺がすべてを失っても、君は俺を欲しい? 俺と一緒にいてくれる?」

彼の声には、私の胸を締め付ける何かがある。私は彼の方に体を向ける。彼は私が椅子から落ちないように腰を掴んだ。

「カスピアン。王冠とかどうでもいい。私が欲しいのはあなただけなの」

私は彼の下唇を指でなぞる。

「服さえあれば何とかなるわ。マネージャーにはあなたのこと、ちゃんと言っておくから、二人でカフェで働こう。カップ麺で生き延びて、こんな浜辺で寝るんだ」

私は彼の唇が笑顔に伸びるのを感じた。彼の笑い声が聞こえる。「俺たち対世界っていう感じかな」

「うん、私たち対世界。永遠に」私は同意する。

「私を愛しているって言って」

私は鋭く息を吸い込む。心臓の鼓動が一瞬止まる。

カスピアンは私の額に自分の額を押しつけ、もう一度問いかける。「愛してるって言ってくれ、姫」

私は深呼吸をして、「愛してる」とささやく。

「俺も愛してるよ」

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