
「ドム、これは公式な見解だ――おまえは正気を失っている」俺は首を横に振って言った。
ドムが運命の伴侶を見つけてからまだ1週間しか経っていないのに、彼の結婚式が数日後に迫っている。
彼のベストマンとして、また司式者として、俺は混沌の嵐にのみ込まれている。
「アレックス、だからな、ここのどこかにあるんだ」ドムは服の山をかき分けながら言う。
俺はドムが天井のファンに向かって放り投げたボクサーショーツを間一髪でかわした。
「ヘレナは君がどんな蝶ネクタイで式に出ようが気にしないさ、ドム。君が何も身につけていなくても気にしないんじゃないかな」
ドムはしばらく探すのをやめて、その提案について思案する。「ふむ、裸の結婚式。考えたことなかったけど、君がそう言うんなら……」
「いや、絶対にダメだ。おまえのアルファとして、それは禁じる」俺は笑って言う。「君のおかしさには付き合いきれないよ」
ドムは立ち上がり、ドレッサーにもたれかかって、俺に考え込むような視線を送る。「それじゃあ、君はどうなんだ? 最近の君の行動は少しおかしいぞ」
「どういう意味だ?」ドムが何を言いたいのかわかっていたが、俺は尋ねた。
「ローラのことだよ。彼女はまだここにいる」ドムは腕を組んで言う。「どうなってるんだ?」
「俺は……ただ彼女と一緒にいるのが楽しいんだ。それだけだ。彼女は遠くからここまで来たんだから、そんなにすぐに帰る理由はない」俺はどこか言い訳するように言う。「彼女を知ったら、きっと好きになると思うよ」
「そのチャンスはあまりないだろ?」ドムはいら立ったように言う。「彼女が君にあまりに深く爪を立ててるから、俺は君と週末お見合い以来、ほとんど会ってない」
「彼女にはほかに誰もいないんだ! 俺は彼女が歓迎されていると感じられるようにしてあげたいだけだ!」
なぜ急に熱くなったのかわからないが、自分でも腹が立ってきたと感じる。
「アレックス、君がローラに夢中なのは、オリヴィアを失った喪失感を乗り越えられていないからだってのは、誰が見ても明らかだぞ」ドムは声を荒らげて言う。「君は俺の親友だ! 君が過ちを犯すのを見たくないんだ!」
「君が俺の親友なら、もうやめろ」俺は唸った。「この話は終わりだ」
確かにローラは少しオリヴィアを思い出させる。だから何だ?
俺が彼女を魅力的だと思う理由はそれだけじゃない。
違う。
「いいさ、それならほかの話をしよう」ドムは挑戦的な口調で言う。「アリエルの話をしよう」
彼女の名前が矢のように俺を射抜く。ローラが群れにやってきて以来、アリエルとはあまり会っていないが、それでも毎日彼女のことを考えている。
俺の頭と心はいつも対立していて、アリエルとローラへの想いに葛藤している。
2人とも俺の中にさまざまな感情を呼び起こすが、すべてが頭の中でひどく混じり合って、何が何だかわからない。
ローラは俺を酔わせるような香りを放って俺の感覚を麻痺させ、まともに考えることができなくなる。
両親は彼女をとても気に入っている。母にはもうプロポーズするよう迫られている。それは普通じゃない。そうだろ?
ローラと一緒にいると、オリヴィアと一緒にいるような気がするが、同じではない。
同じになるわけがない。
過去はなく……ただ影があるだけ。
今はひどく混乱している。アリエルが恋しいが、会ってももっと混乱するだけだ。自分で解決する必要がある。
ドムは俺の隣に座って、自分の肩で俺の肩を軽く押し、降参の印を示した。
「なあ、君と喧嘩はしたくないんだ。君がどんな決断を下したとしても、俺はいつも君の親友で、君のベータだ」
「ただ、君が何を望んでいるのかを考えてほしい。君の両親ではなく。ほかの誰でもなく。君が」
俺は何を望んでいるのか?
それは難しい質問で、今の俺には答えられない……。
週末お見合いのせいで憂鬱になり、それと闘うのは大変だった。ベッドで10ガロンのアイスクリームを食べずに済んでいるのは、私の戦士試験のおかげであり、そのことを女神に感謝する。
今週はずっとトレーニングをしていて、アレックスと彼の新しい「友人」から気をそらすのに大いに役立っている。
アレックスのことでウジウジ悩んでも、戦士になるのにプラスにならないから、今日は全力を尽くして、男子たちのことは頭の片隅に追いやろう。
正式な群れの戦士になることが、私の長年の夢だった。
今日、ついに自分がふさわしいことを証明するチャンスがやってくるのだと思うと、緊張する。
スティーヴは「準備はできている」と言ってくれているし、彼の判断を信用しているけれど、まだ自信が持てなかった。
私が腹を立てると変なことが起こるのを考えたら、怒って自制心を失わないことを願うばかりだ。
朝からずっと、私の中で狼が低い声で唸り続けているが、私は冷静さを保ち、へまをせずにこの試験に合格しようと心に決めた。
テントの中で座って闘技場への出番を待っていると、スマホが振動音を鳴らし始め、安心感が押し寄せてきた。パパからだ。
スマホを下ろして深呼吸をしたとき、またラッパが鳴った。
いよいよだ。
私の力を証明するときが来た。
私は剣を握り、鎧の最終調整をする。
テントのフラップをかき分けて、群れのメンバー数百人に囲まれた土の闘技場に入った。みんな新入りが勝つのか負けるのか見たがっている。
アレックスを探したけど、彼の姿がどこにもなくてがっかりした。
ダメ、彼のことは考えないって言ったでしょ。
これは私と私の夢だ。
闘技場に一番近い席にドムとヘレナの姿を見つけた。2人は私が登場すると、大声を上げて応援してくれる。ドムは興奮気味に手を振った。
「アリ、すごいぞ! もうすぐ正式な戦士だ」ドムが叫んだ。
「ドムってば、朝からずっとそればっかり言ってるの」ヘレナは笑いながら言う。「彼はあなたの一番のチアリーダーよ」
「スカート穿いてポンポン振ってないのがちょっと残念」私は彼をからかって言った。
「おっと、それがお望みなら、そうするよ」ドムが真顔で答えた。
「それはダメ、できたばかりの伴侶を傷つけないようにしよう」私は即答する。
「結婚式には来てくれるんだろ?」彼はヘレナに腕を回し、ヘレナは彼に寄りかかった。
「何があっても参加する」私は微笑みながら言った。
「第1ラウンドは2分後に始まります!」アナウンサーの声が闘技場中に響き渡る。
「やっちまえ、アリ!」ドムが大声を出し、私は軽い駆け足で中央に向かった。
試験の第1ラウンドは剣術対戦、第2ラウンドは徒手格闘だ。
スティーヴの訓練のおかげで、剣の腕には自信がある。
対戦相手が闘技場に入ってきたが、私の2倍の体格がある。ゴングが鳴り、試合が正式に始まった。
私は剣を抜いて突進した。巨漢野郎は足を踏ん張っている。
私は右へ行くと見せかけて左へ回り込み、彼が何が起こっているのか気づく前に背後を取った。
私はスライディングの要領で土の上を滑り、彼の膝の裏に思い切り蹴りを入れた。彼は地面に倒れる。
私は上から何度も、休むことなく彼に剣を振り下ろし、剣戟の音が響く。
彼は立ち上がろうとするものの、私の剣の攻撃を受けて、思惑通りその場から動けない。
彼は一瞬だけ武器を下ろして立ち上がろうとした。それが私の狙いだ。
私は剣を力いっぱい振り下ろして彼の手から剣をはじき飛ばし、剣を彼の喉元に突きつけた。
観客から歓声が湧き起こる。審判員が互いに協議しているのが見えるが、ドムが叫んで拳を突き上げている様子から、私がこのラウンドを見事にパスしたことがわかる。
しかし、休む時間はない。観客が落ち着きを取り戻す前に、2人目の対戦相手が闘技場に入ってきた。
「第2ラウンド、開始!」
私が重い鎧を脱ぎ捨てると、スパーリング用のウェアに身を包んだ、細身だが引き締まった体つきの男が近づいてきた。
格闘には自信がないが、この男はそんなに……。
彼の動きを見極める間もなく、この忍者のような男にお腹をストレートで殴られ、私は身をよじった。
彼はまた私に突進してきたが、私はとっさに宙返りで回避し、弾んで体勢を立て直した。
パンチの連打をブロックしたが、1発が私の顎をとらえた。
後ろによろめいたとき、観客がハッと息をのむのが聞こえた。戦士の試験はかなり残酷なものだ。なんといっても、狼人間は回復が早いから。しかし、だからといってこの痛みが減るわけでもはない。
私は突進したが、動きが少しぎこちなく、相手は難なく私をかわして、私をまた地面に殴り倒した。
まるで遊ばれているみたいだ。
私が土と血を吐きながら顔を上げると、誰かが闘技場の端から身を乗り出して私の名前を叫んでいた。
(アレックス……)
彼はひどく動揺していて、闘技場に飛び込んできて、この男と戦い始めるんじゃないかと感じるくらいだった。
「アリエル! そいつをやっつけろ!」アレックスが叫ぶ。
私は力が湧き上がってくるのを感じ、立ち上がって対戦相手と向かい合う。彼は勝ったと言わんばかりの笑みを浮かべた。
全エネルギーを集中させると、数秒のうちに怪我が癒えていくのを感じた。疲労もだ。マラソンだって走れそう。
アレックスに目をやると、何が起こっているのかよくわかっている彼は微笑んだ。
私は相手に向かって突進した。彼は私の迸るようなエネルギーにたじろぐ。私は右腕を彼の首を引っ掛けると、彼の背中に飛び乗り、両脚を彼の胴体に巻きつけた。
2人とも地面に倒れたが、私は何も感じない。ただ彼を絞め上げ続ける。
彼はもがこうとするが、すべてのエネルギーを使い果たした。
彼は地面を叩いて、降参の合図を出した。
闘技場全体が拍手喝采に包まれたが、私は視線を1人に注いだまま、勝利を手にして立ち、肩で息をしながら額の汗を拭った。
アレックスと私は切望の眼差しを交わし合う。周りの騒音は何も聞こえなくなる。
私とアレックスの間に何が起こるかはわからないが、今、1つだけ確かなことがある。
試験は終わった。
私は勝った。
私は戦士だ。