
太陽はすでに空高く昇っているが、私はまだ起きる気がしない。
片方の大きな手が私の胸を独占するように包み、もう片方の手は私のお腹の上、トップスの下に広げられている。男性的な長い脚が私の脚に絡みつき、大きな筋肉質の体が私の背中に当たって風を遮っている。強く、守ってくれる。
波の音とカモメの鳴き声が私を眠りの淵へと誘う。
私は彼の温もりの中に深く潜り込み、太陽が入らないように目を覆う。
お腹の上に置かれた手が下に滑り落ちるのを感じると、私は大きく息を吸い込んだ。
「起きてたの?」私の声はハスキーで責めるようだ。
硬いものが私の腰のあたりをつつくのを感じると、私はもだえあがる。服の上からでも、私は彼を感じる。
「起きてるよ、一つ以上の意味でね」彼の唇が私の顎の曲線に触れる前に、私は彼が呟くのを聞いた。
「君が体をくねらせたり、こすりつけてたりしてくるのに、眠っていられるわけがないだろ?」
彼の手がレースのブラジャー越しに私をこねる。彼の口は、私を味わうように私の首筋にキスし、かじり、舐める。
私はため息をつき、彼の才能ある口が私の首筋にもっと近づくように頭を後ろに傾ける。彼の口は私の肩と首のつなぎ目にとまり、吸い付く。
彼の歯と犬歯が私の肌に押しつけられるのを感じる。私の心臓は胸の中で狂ったように鼓動している。彼は私にマーキングをするつもりだ。覚悟はできている。
野蛮なうなり声が彼の胸に響きわたった。すると瞬きする間もなく彼は消え、彼の温かい体、さまよう手、熟練した口を私から奪い去り、冷たくなった私を置き去りにした。
彼の突然の行動に、私はラウンジチェアから転げ落ちて、砂の上に顔をつけそうになった。
私がふらふらしながら体をひねると、カスピアンは私の後ろに立っていた。私は混乱していた。彼の目は暗く野蛮だ。でも体は巻かれたバネのようにかがみ込んでいる。
「海で泳いでくるよ。一緒にどう?」今、マラソンを走り終わったかのような息遣いをしている。犬歯がまだよく見える。
「えっ?」私は顔にかかった髪をなでつけ、考えようとした。何が起きたの?
「俺と泳ぎに行かないか?」彼はゆっくりと質問を繰り返す。
何これ? 何が起こったの? 本当に? 私は飛び起きる。「えっ、今? 今泳ぐの?」私は彼に尋ねる。私の頭は混乱している。
「いや、来年だ」と彼はとぼける。
急に腹が立ってきた。カスピアンは私とイチャつくのよりも、その後ひょっとしたらマーキングができるかもしれない機会があるのも途中でやめて、泳ぎに行こうとしてる……。誰がそんなことをする?
「お利口ぶり野郎!」私は顔をしかめ、彼の腕を叩いた。
「そっちの方がお利口ぶり野郎だよ」彼は腕をさすりながら冗談交じりに言った。
私は今、とても混乱している。
「俺のすべてをじっくり眺めるチャンスをあげてるのに」彼は自分の体を見せびらかす。彼の憎たらしい性格が戻ってきてる。
「いやよ、そんな体見たくないわ、この生意気野郎!」
もし、この世に頭を思いっきり殴りつけたくなるような人がいるとするなら、しかも、一度だけじゃなく、何度も繰り返し殴りたくなるような人がいるとするなら、今私はその人の顔を目の前で見ていると思う。
「あぁ、なんてステキな愛称で俺のことを呼んでくれるんだ! まだ朝の7時前だっているのに。どれだけ俺のことが好きなんだい?」
ニヤけた顔が止まない。バカみたいにセクシーな笑みで、ムカついているにも関わらず、微笑み返したくなってしまう。
「君も俺のお尻に夢中なんだね。無理もないよね。ものすごくいいケツしてるんだから」
彼は自分のお尻を見るために体をくねらせる。「最高のケツだ」
「もう! うるさい! もう黙れ!」私はわめき声をあげる。今さっき、私のことをふっておいて、どうしてあんな冗談が言えるの? だって、あれ、拒絶だったでしょ?
さっき彼は私に夢中になって、私にマーキングするんじゃないかと思った。今、彼は何事もなかったかのように、ここでくだらない冗談を言っている。「その顔を殴ってやりたいわ!」
彼は私の手首を掴み、私が家に戻ろうとするのを止める。
「モヤ・プリンセサ(俺のお姫様)」 私を見つめる彼の目には、いたずらっぽい微笑みもいたずらっぽい輝きもない。
「今、俺はコントロールを失いかけてた。俺のライカンがどれだけ君を永遠に俺のものにしたいと思っているか、君は想像もつかないだろう」カスピアンが説明してくれる。
彼は私の後ろに立ち、私の肩に手を置く。「見て」と彼は私の耳元でささやく。私たちは今、家の方を向いて立っている。
私たちが立っているところから、家の高いところが見える。窓やバルコニーから外を見れば、私たちがここにいることがわかるだろう。
「俺が君を俺のものにするとき、そこに観客はいらない。君は俺のものだ。君の体には誰にも触れてほしくない部分があるんだ。それがたとえ視線であってもね」
彼は私の頭のてっぺんにキスをしてから、私を自分のほうに向かせる。
カスピアンは私と目が合うように身をかがめた。彼の瞳の緑色はとても鮮やかで、明るい。ほとんどエレクトリックグリーンだ。私は息をのむ。
「愛してる」と彼が言う。
「私も愛してる」
「顔が赤いよ」
「そんなことない!」私は赤面している。なぜか急に恥ずかしくなった。「朝食を食べに戻るわ。ここからでもいい匂いがするから」
実際にいい匂いがする。でも赤面している私から彼の注意をそらすためにそう言ったのが本当のところだ。
「朝食の魅力に負けたなんて信じられない」彼は残念そうに首を振る。
彼は靴と靴下を脱ぐためにラウンジチェアに座り直す。「そうだ、今日はデートに行こう。10時までに準備しておいて」
私は目を丸くした。もちろん、彼は私をデートに誘うんじゃなくて、デートを言いつけるような人だ。
「俺の誘いはまだ有効なんだけど……、一緒に泳ぐ?それともサーフィンでもしに行く?」
水は冷たそうだ。「いいや、結構です!」と私は言った。
彼は頭の後ろからシャツをつかみ、引っ張って脱ぐと、その見事な彫刻のような体を露わにする。彼がシャツを脱ぐ姿はとてもセクシーだ。
彼が動くと、筋肉が束になってたわむ。濃い金色の体毛がおへそから弧を描き、丈の低いジーンズの下に消えていく。
彼の手はジーンズのボタンを外そうとしている。
「本当に俺の体、見たくないの?」
彼の声から、彼がにやにやしているのがわかる。「結構です!」
「わかったよ」。彼はジーンズを脱ぐ。なんてきれいな脚……、そして引き締まったセクシーなお尻……。
「いいんだよ、見ても。俺は君のものなんだから」
タイトなボクサーパンツ越しに彼の膨らんだ男根の輪郭が見える。私は下唇に舌を走らせながら、「遠慮しとく」と彼に言った。
彼は唸った。「モヤ・プリンセサ(俺のお姫様)」 彼の声はハスキーで、胸の奥からうなるように響く。「俺を見るその目は……」
そして彼は消えた。顔を上げると、ちょうど彼が力強い姿で、打ち寄せる波に向かって飛び込んでいくところだった。その人間離れしたあのスピードが、彼がいかにコントロールを失いかけていたかを物語っている。まただ。私の大きくニヤけてるのを隠せない。ああ、彼は長くはもたないだろう。すぐに私をマーキングしないと気が済まないと思う。
カスピアンが紳士であろうと奮闘するのを私が楽しんで見ているのは、悪いことだろうか? 待つことは美徳なのかな?私は鼻歌を歌いながら家へと戻った。
家の裏手にある開け放たれたガラス製の入り口から中に入ると、セレステが朝食をとっていた。白いVネックのジャンプスーツを着ている。
明るい茶色の髪を団子にして、巻き毛が数本、顔と首の周りに落ちている。彼女は私の姿を見て目を細めた。
一晩中ビーチで過ごして、さっき起きたばかりだ。今朝の彼女のようにゴージャスに見えるわけがない。
でも、愛する人の腕の中で朝を過ごしたから、気分は最高。笑顔が止まらない。
私がテーブルにつくと、彼女は鼻にしわを寄せる。カスピアンの腕の中で一夜を過ごしたような匂いがするのは分かっている。
エプロン姿の母親のような女性が、私の目の前で静かにマグカップにコーヒーを注ぐ。彼女の匂いから、人狼だとわかる。私がお礼を言うと、彼女は微笑んでから、コンチネンタルブレックファストを乗せたガラス張りのトレイを持って戻ってきた。おいしそうなパンとペストリーだ。
テーブルの上にはバターとジャム、マーマレード、コンポートの瓶が置かれている。しばらくして、彼女は私にオレンジジュースを持って来てくれた。これ、かなり好きだ。うーん、カスピアンほどじゃないけど、それに近い。
セレステが私のことを陰湿な目で見ていることは知っていた。私は彼女を無視することに決め、まだ温かいクロワッサンを手に取り、いくつかに分け、それにバターを塗りながら、ゆっくりと時間をかけて食べた。
しばらくしてから、彼女はため息をつき、私の方に身を乗り出して言った。「わかってると思うけど、彼はあなたをもてあそんでいるだけよ」と。
私はクロワッサンの切れ端をコーヒーに浸して口に入れた。うーん、おいしい!彼女が不快そうに鼻に皺を寄せたとき、私は顔を上げ、無邪気に微笑んだ。
「あなたは一時的なエンターテイメントね」と彼女は言う。そして彼女は私の返事を待つために腰を下ろした。
私はもう一切れ選び、同じことをする。ああ、これは天国だ!
私はクッキーやパン、ペストリーをコーヒーに浸すプロだ。その習慣はナナから受け継いだ。ナナはそれをフランス人の祖先のせいにしていた。
しばらくすると、セレステは無反応の私と、クロワッサンをコーヒーに沈めることに苛立ちを覚えたようだ。彼女は大きく息を吐いたり、眉をひそめたりしながらも、叫んだりしないように懸命に努力している。
実に愉快だ。とうとう、彼女は身を乗り出して静かにこう言った。
「彼はすぐにあなたに飽きて、私のところに戻ってくるわ。彼はいつもそうよ。それに、彼はソフィア王妃が番いとして認めるのは私しかいないことを知っているわ。私は彼の婚約者なの。何十年もの間、彼の番いになるよう育てられてきたのよ」
私はバターナイフを握りしめた。今の言葉で、私の胸にナイフが刺さったような気がした。正直に言うと、私はバターナイフで彼女を刺したいと思っている。
私が気になるのは、カスピアンが私に飽きるという彼女の発言ではなく、私のことをソフィア王妃が受け入れないということと、セレステがカスピアンの婚約者だというところだ。明け方の彼の質問を思い出す。もし彼が私を番いにしたらどうなるのだろう? カスピアンは本当にすべてを失うのだろうか? それが母親の最後通牒なのだろうか?
私は素早くデニッシュを選び、コーヒーに浸した。何も気にならない。何も私を悩ませていない。
セレステが私の行動に不穏な顔をする。「ところで、あなたはいったい何者なの?」
私は聞こえないふりをして食べ続けた。すると、また彼女の独り言が聞こえてきた。
「人狼でも人間でもない、ライカンは人狼とも人間とも付き合えない」
彼女はしばらく黙って考えていた。彼女が黙っているほうがいい。彼女は深呼吸をして、眉をひそめた。「今、あなたは彼の匂いしかしないわ」
この女は本当にいつ話をやめるかわからない。まあ、少なくとも私は、彼女が私を困らせているのと同じくらい、彼女を困らせている。
「彼の魅力、ルックス、肩書き。あなたのせいじゃないわ。拒むことができないのは当然よね。私はあなたを責めないわ。まぁ、あなたにはチャンスはなかったけど、彼はもうあなたをものにしたし、もうあなたとは終わってるわ」
あれ、彼女はまだ私に話しているのかな? 彼女は首を左右に振っている。その目は私への憐れみに満ちていた。
「彼の友達も同じよ。彼らはあまりいい人じゃないし、高慢で、部外者には残酷だわ。あの人たちに追い出される前に出て行ったほうがいいわよ。僅かでも残された尊厳はなんとしてでも守るべきだわ。そうね、私の運転手に頼んで、あなたが来たところにまで送り届けてあげるわ」
彼女が王室のボディーガードと一緒にここに来たことは知っている。だからラザルスの警備をかいくぐって侵入したんだ。
「ご親切にありがとうございます」私はうなずきながら、さらに食べ物を口に詰めた。「でも、私はここに住んでいるの」
私の答えに、彼女は大きく息を吸い込んだ。彼女は目を見開き、鼻の穴を広げる。
彼女は言葉に詰まっているようだったので、私はもう一度甘い微笑みを浮かべてから、温かいペストリーをかじった。彼女はさらに何か言おうと口を開いたけど、セリーナとラザルスが入ってくるのを見て、すぐに口を閉じた。
「おはよう」とセリーナが元気よく言う。
ラザルスは私を見てうなずいた。「安らかな夜を過ごせたかい?」彼の声はまじめに聞こえるが、目は私をからかっている。
「とても」と私は答え、にやにやするのを隠すためにオレンジジュースを口に近づけた。
給仕の女性がまた料理を持って戻ってきた。コーヒーの入ったカラフェとマグカップもテーブルに置く。彼女の頭には後光がさし、背中には美しい翼が生えているのが私には見える。この女性と結婚してもいい。
「今までどこにいたの?」畏敬の念をこめて彼女を見つめながら、思わず口にしてしまった。
開け放たれたガラスの入り口からジョーデンが入ってきた。彼は私を見るなり微笑んだ。
「おはよう、みんな」と彼は言い、私の隣に座った。彼はセリーナから陽気な挨拶を受け、ラザルスからは友好的なうなずきをもらった。
「やあ、Q」。彼は私の肩を叩いた。「どうしたの?」
「彼女は給仕の女性に恋をしたみたいだ」ラザルスが真面目な顔をして言った。
ジョーデンは顔をしかめて、私に変な顔を向け、セレナは笑った。
「どこから来たの?」私はジョーデンに尋ねる。
「プールハウスだよ」彼は答えた。
「プールハウスはプライバシーが守られるからよいと思ったのよ」とセリーナが私に説明する。そして彼女はジョーデンに向かってこう尋ねた。「居心地はどう?」
「最高です! とても気に入りました!」ジョーデンはえくぼが浮かぶ満面の笑みを見せた。そのえくぼを見るのは久しぶりだ。
今、彼を見ていると、ループ・ノワール・パックでの彼がどれほど不幸だったかがわかる。今の彼の目には活力が漲っている。白いシャツにボードショーツ姿の彼はリラックスしているようだ。白いシャツの上のボタンがいくつか外れて、筋肉のついた胸が少し見えている。
ジョーデンはラザルスやダリウスほど筋肉質ではない。カスピアンやコンスタンティンよりも小柄だけど、魅了するには十分な筋肉をもっている。
長い髪のカールもサーファーのようだ。彼に必要なのはサーフボードと日焼けだけかな。きっと似合うと思う。
「カスピアン王子はどこ?」彼が聞いた。
「泳いでる……、かサーフィンしてる」と私はちらっとセレステに目をやりながら答えた。彼女は今のところおとなしく、好奇心旺盛に私たちを観察している。
「早く海で泳ぎたいな」彼が言う
ジョーデンとカスピアンが最初からとても仲良しでよかった。カスピアンは初対面の人にはとても無愛想で失礼な態度をとることがあるからだ。
でも、ジョーデンを嫌いな人なんている? 彼は本当にいい人だ。彼の番いになる女性は、本当にラッキーだと思う。その後それほど経たずに、ペニーとダリウス、そしてジェネシスとコンスタンティンの順番でみんなが食事をしにやって来た。
明らかに朝が苦手なジェネシスに、給仕の女性が手早くコーヒーを注ぐ。ペニーはテーブルのセレステを見るなり眉をひそめる。
給仕の女性がコーヒーを注ぐやいなや、彼女は不機嫌そうに牛のマグカップを両手に抱えて座った。
カスピアンのクローゼットは巨大だ! ジョナの家くらいある。すべてがきちんと整理されていて、色分けまでされている。一歩足を踏み入れるとすぐに明かりがつく。
すべての棚、引き出しが光る。そして靴だ。神さま、彼の靴!一人の男性に一体何足の靴が必要なの?
クローゼットの片側には、すでに自分の服や私のサイズの新しい服が数着、きれいに整理されてしまわれている。私の古いコンバースの隣には数足の靴がある。
これもペニー、ジェネシス、セリーナの三人のおかげかな?彼女たちに感謝しなければならないと思う。彼女たちは明日、買い物に付き合ってくれると言ってくれた。
シャワーを浴びた後、私はクローゼットを探検した。カスピアンが私をどこへ連れて行こうとしているのか見当もつかない。
午前9時50分、私は新しいブルーウォッシュのデザイナージーンズと、ぴったりとした白いVネックのトップス、そして黒のコンバースを身につけていた。
これほどジーンズが私に似合ったことも、似合うと感じたこともなかった。
デートに着ていくにはカジュアルすぎるかなと思いながら、髪をブラッシングする。行き先を聞くべきだった。
私は彼の姿を見たり、聞いたりする前に、彼の存在を感じる。
「完璧だよ、モヤ・プリンセサ(俺のお姫様)」とカスピアンが言う。
鏡の中で目が合う。ちょっと不気味だけど、私たちの目の色が似ているのはとても魅力的でもある。
彼は私の髪を持ち上げてから首筋に唇をつける。決して私から目を離さない。
私たちはほとんど同じ服を着ている。ブルーウォッシュのジーンズに白いTシャツ、黒いバイカーブーツに黒いレザージャケット。
「君に足りないのはこれだけだ」と彼は言い、黒いレザージャケットを私の肩にかける。「僕たちはお似合いだ」
驚いたことに、私たちは本当にお似合いだと思う。私はいつも、彼は私にはかっこよすぎると思っていた。人の中に現れた神みたいな感じだ。でも今、鏡に映った私たちを見ると、まるで一緒にいるのがふさわしいように見える。そんなこと考えられる?
私の希望的観測に過ぎないのかもしれない。彼は今でも人間離れしたゴージャスさを保っているのだから。
「どこに行くの?」
「じきにわかるよ」彼はウインクして答えた。彼は私の手を握り、私たちは二人で階下に向かった。
「楽しんできなよ!」ガレージに入る前に、コンスタンティンが叫ぶのが聞こえた。
「私たちがやらないようなことはしちゃダメよ!」番いのジェネシスがそう付け加えた。
「お絵かきには行かないわね。絶対に」ペニーがつぶやくのを聞いて、ダリウス、ラザルス、セレナは笑い出した。
「あー、ジェネシス! な、なんなの……? 私が何をしたって言うの?」 ペニーが叫ぶのが聞こえる。
カスピアンはにやりと笑ったけど、何も言わず、私をガレージの片側に並んだオートバイの列に連れて行った。
「待って、あれに乗るの?」私はバイクを指差しながら尋ねた。
「そうだよ」彼は眉をひそめて言った。「問題でも?」
「問題ない! 全然問題ないよ」私は、まるで興奮しきったの子どものように飛び跳ねていた。「行こう!」。
彼は笑いながら、クロームオリーブグリーンのハーレーに向かって私を案内した。
「ハーレー・ダビッドソン・ロードキング・スペシャル」と彼は言い、ハンドルバーを撫で、革張りのシートに愛おしそうに触れた。「1747ccエンジン、4バルブ。最速のバイクじゃないけど……」
「ちょっといい?」と私は遮った。「このバイクと愛し合うつもりなの? それとも私を乗せるつもりなの?」
「君がバイクに嫉妬するなんて信じられないよ」三時間後、ランチを食べに立ち寄ったとき、彼は言った。ヘルメットを脱ぐと、彼はいたずらっぽく笑っていた。
「バイクにモニークなんて名前をつけるなんて信じられない」と私は返した。
別にモニークに嫉妬しているわけではない。ただ、モニークがどんなに素晴らしいか、彼が話し始めたら止まらないんだ。うーん、今、私はテディベアのオリバーのことを考えている。
ここまでとても楽しかった。しばらくバイクでクルージングしていた。サンタモニカ・ピアにも立ち寄った。そこで食事にしたかったんだけど、カスピアンが別のプランがあるって言うから、今ここにいる。
店の上の看板には「ジョンズ・ピザ」と書いてある。
「待って! ここ、あの丘の上に連れて行ってくれたときにピザを買ってきてくれたところじゃない?」と私は彼の手を握りながら言う。
「そう、そのピザ屋だよ」と彼は答え、私の手の甲にキスをしてから、私をドアに案内した。
とても小さなレストランで、席は多くない。ピザの香りが口いっぱいに広がる。
「こんにちは! またお会いできてうれしいです」とカウンターの後ろにいた女の子がカスピアンに大きく微笑んだ。
彼女は私と同年代だと思う。カスピアンを見る彼女の目は輝いている。彼女はまだ私に気づいていないようだ。
「ああ、注文を取りに来たんだ」とカスピアンは答え、私を彼の側に引き寄せた。
私に気づくと、彼女の満面の笑みが消えた。「ああ、はい。すぐにお持ちしますね」
彼女は奥へと消えていった。それから1分もしないうちに、彼女はカスピアンが丘に出かけたときに持ってきたのと同じようなバッグを持って戻ってきた。
カスピアンが会計をしている間、彼女の目は私とカスピアンの間を行ったり来たりしている。「妹さんですか?」
彼女の質問に、カスピアンはクレジットカードの機械から顔を上げた。彼はしばらくぼんやりと彼女を見つめていたが、ゆっくりといたずらっぽい笑みを浮かべた。
「あ、あぁ、そうだよ。そう、彼女は俺の妹なんだ」彼はそう言って腕を軽く私の肩にかけた。
「ええ、私の兄です」私は彼の胸に手を置き、つま先立ちになって彼を見上げる。
彼は私の方を向いて、私の唇を迎えに来る。私の頭を傾けてキスをする彼に、私は身を任せる。彼は飢えたように私の唇をむさぼった。私は彼の猛攻撃に口を開き、彼の舌と私の舌を合わせる。
私たちが体を離した時には、ふたりとも息が荒くなっていて、互いにニヤニヤしていた。
私たちは同時に、大きな衝撃を受けた目と大きく開いた口で私たちを見つめている少女を見た。
「私は兄のことが大好きなの。わかるでしょ」カスピアンの胸に頭を置き、彼の腰に腕を回しながら私は彼女にそう説明した。
かわいそうに。
ピザ屋のドアが閉まると、私たちは大笑いした。
「君は小悪魔だ」彼は食べ物を荷かごに収納すると、ニヤリと笑った。
「あなたもでしょ。そんなに小さくないけど」と私は彼に言う。「楽しかったんでしょ。認めなさい」
「ああ、そうだよ。わかってるくせに」
「お兄ちゃん、どこに行くの?」ヘルメットを頭に被り直しながら、私は彼に尋ねた。
「丘を登って森の中だよ」とカスピアンは答えて、私の唇に素早くキスをした。