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Cover image for ギデオン 人狼のハーフですがライカンと運命の恋人です 3巻

ギデオン 人狼のハーフですがライカンと運命の恋人です 3巻

恋人

レイラ

音の発した場所に視線を注ぐが、木々の向こうは暗闇で何も見えない。足を速める。

両親からは、オオカミ男を前にして逃げ出すことが、彼らの狩猟本能を喚起させてしまうと忠告されていた。しかし、私の鼻先に立ちこめるそのニオイは、何とも不気味なものだった。

濡れた犬や、臭い足のようなニオイ・・・そんなニオイが漂っている。別に、その存在が私を食べたいのか、それとも友達になりたいのかを突き止めるためにここにいるわけではない。

心臓がドキドキする。ニオイはますます濃くなり、私は震える足を無理にでも速める。

林床で小枝が折れ、重い足音が聞こえる。すでに、存在を隠すつもりはないことは明らかだ。

背後のアスファルトに響く足音に、胃が浮く感じがする。振り返ると、足元から力が抜けそうになった。

妄想であればいいのだけど、残念ながらそれは現実だ。

まるで獲物を追いかけるかのように四つん這いで進む巨体を、数フィート先のランプが十分に照らし出している。

私を見つめる、光る2つの眼。

その鋭利な歯と犬歯が、私に向かって露わになっている。

なんてこと! オオカミ男だ! 私に何をしようとしているの?

その存在はますます速く動き始め、私は全速力で逃げ出す。

お願い、神様、助けて!

無理に足を前に進めていると、遠くからヘッドライトの光が見えてきた。肺は灼けるように燃え、呼吸が苦しい。目に涙が滲むが、一瞬で拭い去る。

背後からはドンドンと速まる足音が聞こえ、迫ってくる。

車が来ても、助けが間に合う訳がないことは頭の片隅で理解しているが、心の一部はまだ希望を捨てれず、私は走り続ける。

首の後ろに、その熱くて腐臭のする息遣いを感じ、耳の中で恐ろしい唸り声が鳴り響く。つまづいて、冷たくて硬いアスファルトの上に大の字に倒れ込む。

叫び声を上げ、獣の方に振り向く。

終わりだ。こんな風に人生が幕を閉じるなんて、まったく予想外だった。

あれ? どこに行ったの?

ニオイはまだ漂っているものの、後ろにはただの暗闇が広がり、何もない道が続いている。

耳に届くのは、どきどきと高鳴る心臓の音と、自分の呼吸音だけだ。

どこに行ったのだろう? どこへ消えたの? また戻ってくるの?体が震え始める。

急ブレーキ音を立てて車が止まり、一瞬、眩しいヘッドライトに目がくらむ。ドアが開閉する音を漠然と感じる。

「レイラ?」 聞き覚えのある声が遠くから聞こえてきた。「レイラ? どうしたんだ? 誰がこんなことをした? ケガはしてないか?」

暖かい腕が私を包み込む。優しい手が私の顔に触れる。その心地よい香りが私を包み込んでいるが、体はまだ震え続ける。

「ギデオン?」

「レイラ・・・」 彼はさらに私を引き寄せるが、匂いを嗅ぎ、彼の鼻孔が広がった。そして、彼が顔を上げた瞬間、彼の胸の奥から深く凶暴な唸り声が轟き渡る。

やだ、やだ、やだ・・・彼は私を置き去りにするつもりなのね?

私は彼の腕、肩・・・手の届くところならどこでも掴む。

「置いていかないで。置いていかないで」 私は彼の広くて強い肩に顔を埋める。

「息を吸い込んで、レイラ。息を吸って、レイラ」

「寒い」と私は呟く。歯がガチガチと音を立てている。私はとても疲れていて、気を失いそうだ。

***

彼の腕が私を包み込んでいる。彼の手が優しく私の背中を上下に撫でている。

私は彼の腕にしっかりと抱きついて、体を彼に寄せる。彼の匂いを深く吸い込む。

彼は私に安堵の感覚をもたらしてくれる。

私たちは今、私の部屋にいる。帰りの車のことはほとんど覚えていない。

私の頭はぼんやりしており、機械的に動いていたが、彼が私を抱きかかえ、中に運び入れ、傷を清潔にし、包帯を巻いてくれたことは覚えている。

ジーンズの膝の部分が破れ、膝から血が流れている。両方の手の平にも血が滲んでいる。きっと、転倒を防ぐために手を使ったのだろう。

彼は私が汚れた血まみれの服を着替えるのを手伝ってくれた。その後、クインシーの古びたベッドを私のベッドに引き寄せ、2人で快適に横になれるようにした。

時折、彼は私の首元に顔を寄せたり、髪に顔を埋めたりして、自分を落ち着かせるかのように深呼吸する。

私を抱きしめる彼の腕は、まるで彼自身が私が安全であることを確認しているかのように、きゅっと締め付ける。

私を安心させる一方で、自分自身を安心させようとしているのがわかる。まだイライラが残っているみたいだ。

家はとても静かだ。もうすぐ深夜だろう。アイザックとラナは今夜、群れの縄張りに戻っているはずだ。

「何が起こったのか教えてくれるかい?」彼は沈黙を破り、静かに尋ねた。

「オオカミ男が私を追ってきたの。理由はわからない。臭かったわ」声が震えています。

「ああ、オオカミ男か。悪い奴だ」彼は答える。「でも、どうして夜中にあんな人里離れた場所にいたんだ?」

今、コフィとの交配式のことを話したら、どんな反応が返ってくるか分からない。

長い夜だった。彼の行動から判断すると、彼の中のライカンはまだ激しく荒れ狂っていて、解放を求めて戦っているようだ。

両親に対しては、腹も立つし、傷ついたけれど、ギデオンには彼らを傷つけたり殺したりしてほしくない。

だから、話を変えて彼に尋ねる。「どうやって私を見つけたの? あそこで何をしていたの?」

「今日の夕方5時から、君に送ったメッセージに既読が付かず、返信も来ないから、心配になったんだよ」と彼は説明する。「電話もかけたけど、出なかったから、探しに出たんだ」

私は今夜5時に家族のために料理をしていた。こんな日になるとは思ってもみなかった。

「ごめんなさい、充電が切れていたの」私は彼に言う。「でも、どうしてどこを探せばいいかわかったの?」

「君は両親のところに行くって言ってたし、昨日両親がネッチ・テクラ集落の出身だって言ったじゃないか」

「覚えていてくれたのね」と私は言う。昨日さらっとそのことを言ったけど、彼が注意を払っていたとは知らなかった。

「レイラ、君が言ったことはすべて覚えているよ。とても大切な人だからね。君のすべてを知りたいんだ」

彼は私の顎の下に指を添え、私の顔を持ち上げた。彼の黄金色の目は鋭そうでもあり、優しそうでもある。「それで、あそこで1人で何をしていたか話してくれるかい?」

私はため息をついて答える。「今夜、家族と大喧嘩したの。そこにいたくなかったので、家に帰ることにしたのよ」

彼は瞬きをする。1度。2度。「歩いて家に帰るつもりだったのか?」

「そうよ」と私は軽く答え、嘘をついているのに彼の美しい瞳を見つめる勇気は持てず、彼の胸に顔をうずめた。

彼は私が嘘をついていると知っているはずだけど、少なくとも今夜はこの問題を追求しないことにしてくれたみたいだ。

長い間黙っていたけど、最終的に彼が言う。「いつか・・・すぐにでも、本当に何が起こったのか教えてくれる?」

私は頷く。すぐにでも伝えなければならない。長い間隠すことができることではない。ただ、今夜は話したくないだけだ。「今夜はここに泊まってもらえる?」

「君が許してくれるなら、毎晩一緒にいるよ、俺のレイラ」

***

ラップトップの電源を入れ、起動を待つ。今、私は他の10人と一緒に教室にいる。勉強のために、グループで、先学期からずっとこの小さな教室を予約し続けてきた。

それがとてもうまくいっているので、今学期も同じように続けることになった。

待ちながら、昨夜と今朝の出来事を思い返す。ギデオンは一晩泊まっていった。彼の腕の中で目を覚ました瞬間、とても心地よい気持ちに包まれた。

今朝、キャンパスまで車で送ってくれる前に、一緒に朝食をとった。

もう彼に会いたい。彼と過ごす時間が増えるほど、彼から離れるのが難しくなっていく。

携帯電話をちらりと見る。彼からの最後のメッセージに返信してからほぼ2時間が経っている。彼は今日も会議に出るって言ってた。

周りを見回すと、デレクが友達のショーンと話しているのが見えて、再びラップトップに視線を戻す。

謝るつもりでいたけれど、デレクは私を避けていて、同じ部屋にいる時でも、私が存在しないようにふるまっている。

正直なところ、元の関係に戻れるかどうかは分からない。

「あなたがレイラ・エマニュエル?」私と同じくらいの年齢の女性が私に尋ねてきた。彼女とは同じクラスになったことはないけれど、たまに見かけた記憶がある。

「ええ、レイラ・エマニュエルよ」と私は答える。デレクは私をちらりと見た後、すぐに目をそらす。

「外にあなたに会いたがっている人がいるわ」と彼女が言う。

「わかった、行ってみるわ」と私は彼女に続いて立ち上がる。

ギデオンかしら? いや、彼なら最初に私に電話してくれるだろう。家族かしら?

廊下に出ると、彼女は手を横に振って、立ち去った。

5メートルほど先に、タイトなブルーのラップシルクドレスに身を包んだ美しい曲線美のブルネットが立っている。

彼女の視線が、私を頭からつま先までじっくりと評価している。

彼女が私に向かって近づく前に、その目が一瞬、不快そうに細くなる。

彼女の腰は官能的に揺れている。ドレスの低いネックラインから胸があふれんばかりだ。彼女からは自信と官能が滲み出ている。

「あなたがレイラ・エマニュエル?」 彼女の声にはセクシーでハスキーなトーンが漂っている。

私は頷く。「そうよ。あなたは?」

「私はヘレン・アリストファネス。ギデオン・アーチャーの恋人よ」

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