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Cover image for The Lycan's Queen 孤独な王の運命の相手は傷心したての私でした1

The Lycan's Queen 孤独な王の運命の相手は傷心したての私でした1

第1章

番(つが)いをなくしたライカン(人間からオオカミに変身する獣人である人狼のトップ)ほど恐ろしい生き物はいないと言われている。

ライカンは番いをなくすと自分自身もなくしてしまうからだ。

その魂は絶望の井戸に溺れ、水面には怪物が泳いで戻ってくる。

行く手を阻む者は誰でも殺す怪物だ。

都市を破壊し、帝国を転覆させる。

軍隊が食い止めようとするが、ライカンの恐怖は千頭の人狼の力をも上回る。

軍隊や千頭の人狼では、ライカンにはとうていかなわない。なぜなら、彼らには彼の痛みが理解できないから。

どうして彼らにライカンの痛みがわかるというのか?

人狼は番いをなくしても、別の相手と番うことができる。

だがライカンには一人しかいない……。

たった一人の番い。

永遠の幸福を手に入れるチャンスは一度だけ。

だから番いを失うと、自分が受けたのと同じ苦しみを相手に与えるまで、彼は休むことがない。

(番いをなくしたライカンほど恐ろしい生き物はいないと言われている)

だが、語られていないことがある。それは、ライカンが彼女を見つけたら……。

(ああ、女神さま、ライカンが彼女を見つけたら……)

ひと目見た瞬間に、ライカンの世界は一新される。

そこに彼女が立っている。彼の世界の中心に。

彼の太陽。

彼の月。

彼の正解。

彼の誤り。

彼が、その人のために生きもすれば、その人のために死にもする人。

これ以上の情熱はない。

これほど強い絆もない。

これほどすべてを燃やし尽くすエクスタシーはない。

なぜ私にそんなことがわかるかって?

なぜなら、あらゆる困難を乗り越えて、ライカンが私を見つけたからよ。私を。

そして私は彼の女王になった。

***

「彼が私に激しくキスをしてきて、その瞬間、私たちは大丈夫だと思った」

たった今読み終えた本をパタンと閉じて、私はため息をついた。

ふだんの私は、こんなロマンチックな物語に夢中になるタイプではない。

でも最近は、こんな現実ばなれした小説ばかり読んで、自分が主人公の女性になったつもりでいる。

じゃあ、相手の男性は誰、って思うわよね?

4年前に私のハートを奪った男、ハンター・ホールよ。

「アーリヤ、食料品を買いに行くけど、一緒に来ない?」まぎれもない母の声が階下から大声で呼びかけてきた。

「ううん、行かない」と私は答えた。

アーリヤ・ベディ。それが私の名前。私は19歳で、名前だけではわからないかもしれないけれど、私はインド人で、そう、人狼だ。

今は両親のシドとタラと暮らしている。二人は27年前に番い、結婚した。兄のサイは24歳で、その番いのゾヤも24歳だ。

私たちの群れはブラック・ムーンと呼ばれている。私はこのコミュニティが好き。

みんな顔見知りだし、ここで育って本当によかったと思っている。今、私は群医になるための勉強を続けている。それがずっと私のやりたかったことなのよね。

群医になりたいと言うと、よくからかわれたのを覚えている。もちろん、私の肌の色とステレオタイプ的な見方が原因だった。

私はインド人だし、私たちは皆、どうやら医者か弁護士か会計士になっているらしいから、誰もが私にぴったりの職業だと思っていた。以前はそれをうるさく感じたけれど、今はそれを素直に受け止めている。

でも、ここのところ勉強に集中できなくて……。私の頭の中では常に勉強がハンター・ホールとせめぎ合っている。

彼は私たちの群れのベータだ。群れのアルファであるカーター・ウォードと彼は、4年前に修行で遠くへやられていたけれど、その二人が帰ってくることになったのだ。それも今日。

二人が旅立つ前日のことを今でも覚えている。ハンターが私のところへ来て、あのゴージャスな青い瞳で、待っていてほしいと言ったのだ。当時、私はまだ15歳だったが、彼を待つのは自分でもわかっていた。

要するに、私はハンターにすっかりまいってたってこと。彼は私のファーストキスの相手だった。彼の唇が私の唇に触れた瞬間の感触を今でも覚えている。

たいていのオオカミは18歳で番いを見つける。だが、私が18歳になったときハンターはそばにいなかったので、私は番いを見つけることができなかった。だから私は彼が戻ってくるのをワクワクしながら待っていた。そう、私もようやく、あの電流のほとばしりを感じることができる。あのつながりを。

聞き覚えのある着信音が鳴り始めて、私を空想から引きはがした。

寝返りを打って、充電中だった携帯電話を取ると、画面に表示された名前を見て、私はにっこり笑い、すぐに電話に出た。

「ソフィア・バトラー、久しぶりじゃない」私はからかって言った。

「アーリヤ・ベディ、嫌味は言わないで。私が忙しかったの知ってるでしょ?」親友のソフィアはぶつくさと言った。

「本当に忙しかったの? それともルークがあなたを離してくれないとか?」私はなおも軽口を続けた。

ソフィアが笑う。「あんたって、嫌ね。私が忙しかったの知ってるくせに。それはそうと、ライカンの舞踏会がすぐじゃない? 楽しみよね?」

ああ、ライカンの舞踏会ね。すべてのパックが宮殿を見学し、王に会えるようにする王国の習慣だ。私はそれが嫌いだった。

今の王になる前、前王は五百年もの間パックを統治して、ようやく息子に王座を譲った。

ライカンは20歳で老化が止まり、何百年も生き続ける。

先代の王は番いとともに旅に出たと言われているが、それ以来、誰も二人の消息を聞いていない。

こうして新王が権力を握ることになった。

アドニス・ディミトリ・グレイ。

みんなは彼をディミトリと呼んでいて、ごく親しい人だけがアドニスと呼ぶことを許されているらしい。

私は新王に会うのが楽しみではなかった。

どうやら彼は異例中の異例のようだった。彼は番いもないまま王位を継いだ。そんなことは前代未聞だった。彼より前のライカンの王たちは皆、王になる前に番いを見つけていた。

噂に聞いた話では、彼は憤怒に駆られることがよくあり、お付きの者が押しとどめなければならないらしい。

また、写真も嫌いなようで、私の知るかぎり、彼の写真は3枚しかなかった。1枚は彼が生まれたときの写真で、もう1枚は彼の兄弟が生まれたとき、そして最後の1枚は彼が王位を継いだときのものだ。

彼が王位を継いだとき、私はまだ子どもだった。あれから10年が経っている。

王の実際の年齢は誰も知らないし、彼もおそらく誰にも言っていないのだと思う。

私たちの群れがライカンの舞踏会に呼ばれるのはこれが二回目だが私が実際に行くのは初めてだった。

初めて舞踏会に呼ばれたとき、私はひどいインフルエンザにかかっていて、家族だけが舞踏会に行った。そのあいだは、カナダに住んでいる祖父母が飛んできて私の面倒を見てくれていた。

それに私は昔からダンスが嫌い。学校のダンスも、結婚披露宴も。着飾るのは大好きなのに、なぜだろう。

一度も行ったことがないのに、ライカンの舞踏会に行きたくないのは、ライカンが怖かったからだと思う。

親友のソフィアも、こうしてライカンの彼氏、ルークと出会った。

前に話したソフィアが、そう、彼女だ。ソフィアは4年前の舞踏会でルークと出会い、それ以来彼女は大きく変わった。ライカンと番いになった誰もがそうであるように、彼女も徐々にライカンになりつつある。

誤解しないでほしいんだけど、彼女が電話してきて私にそう告白してくれたとき、吐き気をもよおしはしたけれど、私は心から喜んだ。ただ、心のどこかでは、親友を失うこともわかっていた。

結局、彼女は今ライカンになって、とても重要な役割と責任があった。彼女の番いのルーク・マーティンは戦士の長だったので、ソフィアは常に忙しかった。

彼女は企画して取り仕切るのがとても好きだったので、重要なイベントの企画運営を任された。そしてライカンの舞踏会は、ソフィアが企画するなかで最も重要なものだった。

「ちょっと」ソフィアがせっついてきて、私を渦巻く思考から引き戻した。「ワクワクしないの?」

「ああ、そうね。楽しみ、楽しみ。楽しみよ」私は皮肉っぽく答えた。

「まあ、いいことは、私に会えるってこと」ソフィアが励ますように言ってくれる。

「それはそうね。わたしたち、もう一年も会っていないものね。あなたが甥っ子に会いにこっちに帰ってきたとき以来だものね」私はため息をついた。

「私も会いたいわ。もっと頻繁に帰ってこられたらいいんだけど」ソフィアもため息をついた。

「だって、忙しいんだからしょうがないじゃない。テクノロジーに感謝ね。会わなくたって、いつでも話ができるんだから」と私は言った。

「そうね。ああ、アーリヤ! 早く会いたいわ! 明日発つんでしょ?」

「うん、明日。朝早くにね」そう言って私はため息をついた。「少しは気分を盛り上げていきなさいよ」と、ソフィアは文句を言った。

「わかった、ごめん。努力するわ」私は笑った。

「もう行かなくちゃ。お呼びがかかっちゃった。明日が待ちきれないわ」とソフィアは言った。

「じゃあ、明日」と言って私は電話を切った。

それからまもなく、母がゾヤと一緒にバッグを持って私の部屋に入ってきた。バッグの中身はわかっている。私の舞踏会のドレスだ。

「アーリヤ、荷造りしなさい。明日は早くに発つんだから」母がそう言いながら、やれやれというように私に首を振ってみせる。

不満たらしく唸ってから、ゾヤが笑って言った。「私が荷造りを手伝うわ」

母はうなずいて部屋を出ていった。ゾヤは私をベッドから引きずり出し、荷造りを手伝ってくれた。荷造りは、ハンターのことを考える気晴らしになった。

それが終わると、私はゾヤに尋ねた。「ねえ、ハンターとカーターがいつ帰ってくるか、何か聞いてない?」

「どうして? 待ちきれないってこと?」ゾヤがくすくす笑う。

「ううん、いつかなあと思って。それだけ」私は目玉をぐるりと上に向けた。

ハンターが私にキスをして、私が彼を愛していることを知っているのは、群れの中でゾヤだけだった。他のみんなは、私が彼に熱を上げているだけだと思っている。

両親には知られたくないし、とりわけ兄さんには知られたくない。そんなことを聞いたら、きっと兄さんは嫌な顔をするだろう。でもゾヤは信頼できる。

「もうすぐ着くんじゃないかしら。落ち着かないの?」ゾヤが訊いた。

「ちょっとね。彼に会うのが待ちきれなくて」と私は認めた。

ゾヤと私はベッドに座り、しばらくおしゃべりをした。ゾヤには何でも話せるのは心地よかった。なんといっても、彼女は私の姉さんなのだ。

自分の妹と妻が、とてもいい関係を築いているのを見て嬉しい、とサイは言っていた。ゾヤがとてもクールで、私はラッキーだった! ソフィアが去ってから、私は孤独だったけれど、ゾヤがいつもそばにいてくれた。

それからまもなく、私の人狼の聴覚が、小道を走ってくる車の音を捉えた。私は飛び上がり、緊張のあまり、心臓の鼓動が速くなった。

やっとだ。4年ぶりにハンターに会える。

ゾヤが私の手を取り、私たちは一緒に階段を下りた。大丈夫かしら? 私は手で髪を整えた。ゾヤは私を見てうなずき、おかしそうな表情を浮かべている。

(深呼吸して、アーリヤ。あなたなら大丈夫。大丈夫だから)

ラッキーなことに、私たちの家は、アルファとベータが家族と一緒に暮らす群れの家の近くにあった。

サイが下で私たちを待っていて、ゾヤの手を取った。「アルファとベータに会いに行こう」

車が停まっているところまでの短い距離を歩くあいだ、ゾヤはずっと私の手を握ってくれていた。私の心臓は早鐘を打っていた。私はただただハンターに会いたかった。

私たちが車まで歩いていくあいだ、私の中のオオカミは落ち着きがなかった。

(これは、私がずっと探していたサインなの? 私の番いがここにいるってこと?)

私の夢が叶いつつあった。きっと、ハンターが車から降りて、私たちが番いであることがわかるのだろう。車のドアが開く音がして、その音に私の頭がピクリとした。

まず、私たちの群れのアルファ、カーター・ウォードが降りてきた。彼はまったく変わっていなかった。そう、さらに逞しくなったこと以外は。

彼の緑色の目は幸せそうで、いたずらっぽく輝いていた。

(昔と変わらないカーターだ)

彼はさっとブロンドの髪をかき上げてから、両親と弟をハグをした。彼が皆に挨拶するのを私が見ていると、彼が私の前に来て足を止めた。

未来のアルファが私と友だちになりたいと思ってくれて、私はラッキーだった。学校に通っていた頃、カーターはいつも私のそばにいてくれた。彼には感謝してもしきれない。

私は彼を、ソフィアと並んで、親友の一人だと思っていた。

こちらまで笑顔になりそうな笑みが彼の顔に広がり、気がつくと私も笑顔になっていた。次に気がついたときは、カーターは私を抱き上げ、くるくると回していて、大人たちのあいだから笑い声が上がった。

「アーリヤ! おお、どれほど会いたかったことか! ずいぶん変わったね。もしかして、お年頃とか?」カーターがからかった。

私は目玉をぐるりと上に向けて、彼に抱きついた。「会えてよかったわ、カーター。まったく変わってないね。心配しないで、遅咲きの人だっているんだから」私が冗談めかして言うと、カーターの両親から笑いが起こった。

カーターは笑い、もう一度私を抱きしめてくれた。「本当に会いたかったよ、スマイリー」

「私もよ」と言って、カーターが私のニックネームを使ったことに、にやりとした。彼は私のニックネームを忘れていなかった。

車のドアが開く音がして、カーターの肩越しにちらっと見ると、見覚えのある体が車から降りてきた。彼はこちらに背中を向けていたので、私が後ろにいることに気づいていない。

私は、彼の青い瞳に私への愛と敬意が満ちあふれているのを見たかった。

カーターが道を空けて、私の隣に立った。私としては、おかしな感じがした。

彼は間違いなく、みんなに挨拶を続けるべきだったはず。

もしかしたら、彼はハンターと私がお互いに番いと認め合う瞬間を見たかったのかもしれない。

(そうだわ、きっとそうに違いない)

私のなかでオオカミがそわそわと歩き続け、ハンターが本当に私の伴侶だという私の思考を煽った。

私は彼の明るい茶色の髪が風になびくのを見ていた。彼はまだ私に背を向けていた。

(お願い、振り向いて)

彼は何を待っているのだろう?

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