
森を駆け抜け、起こったことをすべて忘れようとした。
ならず者たちは一歩たりとも動かなかった。俺がそこに着く頃には、彼らはいなくなっていた。一体何を企んでいたんだろう?
クロノスの声をシャットアウトしようとした。昨晩泣いているオーロラを部屋に残して以来、彼は黙ろうとしなかった。
今夜はパトロールに出ることにした。オーロラのことを考えないようにするためだ。でも、美しいグレーの瞳が、悲しみに満ちた表情で俺を見つめているのが忘れられなかった。
その瞬間、甘い香りが鼻孔に入った。
どこにいてもこの匂いを嗅ぎ分けられるだろう。彼女の匂いだ。
オーロラが近くにいる。でもこんな夜中に、一体何をしていたんだろう? 無防備に走り回るのは危険だ。
怒りが燃え上がった。
こんな森の中、国境の近くで、一人で何をしていたんだ?
俺は彼女の匂いを辿って、国境近くまで疾走した。国境に近づくほど匂いも強くなり、不安に駆られた。
空き地にたどり着いた。湖のすぐそばには、雪のように白い毛並みと、アメジストのように輝く瞳の美しい狼が座っていた。
誰だろう? 美しい狼だが、このような変身姿を見たのは初めてだった。
通常、狼の真の姿は人間の特徴に似ている。毛は人間の髪の色に似るし、目は人間の目と同じ色合いになる。
しかし、この狼はまったく違っていた。
白い毛に紫色の目...…。
どういうことだろう?
前に何かで読んだことがあるが、何で読んだのか思い出せなかった。
ただただ、あまりの美しさに圧倒されていた。
オーロラの声が頭の中で鳴り響いた。この狼はオーロラだったのか?
町を出て行くつもりだったのか?
間違いなくオーロラだった。なぜ彼女の狼はこんな姿に?
でも、今はそんなことを考えている余裕はなかった。
彼女が村を出ようと考えているのだ。
俺たち2人にとって、特に俺にとっては最善の選択肢であるはずなのだが......。
彼女がこの町を出たがっていることで、無性に怒りが込み上げた。
俺は無意識のうちに一歩踏み出し、存在を彼女に知らせようと、小枝を踏んで折った。
彼女は警戒して立ち上がり、敵が姿を現すのを待った。
他に選択肢はなかった。隠れていた場所から前進して、彼女に向かってうなり声を上げた。俺のほうが強いことを示したかった。
今すぐ彼女をマークしたかった。
彼女から聞こえたのは「まずい」という声だけだった。クロノスも唸っていた。
狼が近づいてくるのを見ながら、私は警戒して立っていた。彼はうなり声を上げたが、それだけで私は恐怖で身をかがめた。彼のオーラは威厳を放っていた。
その時、風が運んできた匂いで、この狼が誰だかわかった。
アルファ・ウルフギャング...…
私は鼻が地面につくまで頭を下げた。
マインドリンクだ。父や他の人たちが話しているのを聞いたことがある。私は頭を上げて彼を見た。
結局のところ、私はパートナーも得られないうえに、この村には家族も残っていなかった。両親は亡くなり、私は一人娘だった。
モンタナは私を育て、かわいがってくれたが、私は亡き夫の娘でしかなかった。私が自分の身を守れるようになるまで、私の面倒を見るしかなかったのだ。
でも今、私は法的に成人した。村を出ても自力で生きていける。
~この一族を抜けるには、アルファの許可証が必要なのは知っているな? それがなければ、ならず者としてマークされる」彼の青い目は私の目を深く見つめ、続けた。
私は呆然と立ち尽くしていた。
俺は一体何を言っているんだ? オーロラには村を出ようと思えば出られる権利がある。それに、その方が都合がいい。拒絶したパートナーを、今後見ることも思い出すこともなくなるのだ。
オーロラといると、いつも頭が働かなくなる。
俺は振り向きざまに、アルファに口答えした彼女の頭を噛み千切ろうとした......。しかし、彼女の姿を見て止めた。
彼女の白い毛並みは月明かりに輝き、アメジスト色に輝く瞳は対抗心に満ちていた。彼女は堂々としていた。
俺たちは向かい合った。沈黙が流れていた。
以前は彼女を正式に拒絶しようとして、邪魔が入った。
今がそのチャンスだった。こんな馬鹿馬鹿しいことを終わりにするチャンスだ。
クロノスの言うことを聞きたい自分もいた。だができなかった。一族の強さを維持しなければ。ならず者たちはまだ国境にいる。弱いルナを迎えて言える余裕はなかった。
オーロラの瞳を見つめながら、彼女の心を永遠に打ち砕く覚悟を決めた。